俺の勤務している会社の上司は至って普通の社員だと思っていた。
つい、3時間前まで。
「昨日よぉ。僕、彼女とデートしたんだ」
いつもの昼の休憩時間だった。俺と上司の貝田(かいた)は、ビルの2階にある会社の下、つまり、1階の喫茶店で休憩していた。
貝田は、彼女がいない俺に自慢げに話し始めた。まあ、実際、彼女はいてそれに貝田が気づいていないだけなのだが。
「高級レストランで食事してさ~」
貝田は話を続けるが、俺は正直興味は無い。
「ふと、彼女の右手を見たら、見たことのない指輪がはまっててさ」
「はあ」
俺は適当にあいづちをうつ。
「『Fより』って彫られてたんだぜ? 彼女、まだ元カレの指輪をはめてたんだよ」
「Fより?」
俺がその言葉に反応したのには、理由がある。
俺が彼女にプレゼントした指輪に彫った文字が「Fより」だった。自分の下の名前の頭文字をとって彫ったのだ。
これは偶然なのだろうか?
俺は、会社が閉まった後に貝田を尾行することにした。
そしてこれである。
俺の目の前のベンチで、俺の彼女と貝田が一緒にいるじゃねえか。
許せない。貝田も、彼女も。
その後、2人は別れた。それを機に、俺も自宅へ引き上げることにした。
今度、彼女に会ったらとっちめてやる。
「起きて!」
俺はその声を聞いて、目を覚ました。
頭がぼやけて、目の焦点があわない。
目の焦点が合ってくると、声の主がはっきりと確認できた。
羽の生えた小さい女の子が、俺の上を浮遊してた。何か、ステッキのようなものを持っている。
「何だ!?」
俺はもちろん目を疑う。
「お前は一体・・・」
「私は、殺人妖精(ヘルパー)クリオネ! あなたに呼ばれて、やってきました!」
その浮遊妖精は言う。
「殺人ヘルパー? 呼んだ覚えは無いが」
「あなた、私の頭に訴えかけてきたじゃないですか。『彼女と上司に死を!』って」
「そんなこと・・・。」
「あなたは彼女と上司の死を望んでいる。つまり、あなたは2人を殺したいはず」
「・・・だから何だというんだ」
「私が、あなたの殺人の手助けをするんです」
「現場はこの彼女のアパートがいいです」
クリオネは言う。
俺とクリオネは、彼女の木造アパートの前に来ていた。
彼女はどうやら外出しているらしい。
「現場には、あなたの指紋を沢山残すべきです」
「それじゃあ、疑われてしまうだろう」
「いえ、あなたは普段からあの彼女の部屋に入っています。指紋があって当然なんです」
「なるほど」
「凶器は鈍器か何かでいいでしょう」
「たとえば?」
「そうですね。レンガとかが丁度いいと思います」
「ふむ」
「上司がこのアパートに現れたときがチャンスです」
クリオネは表情を変えずに言った。
俺は息を殺して、垣根に身を潜める。
アパートのほうへ歩いていくあの人物。まさに上司の貝田だった。
貝田は階段を上がり、彼女の部屋のインターホンを押した。
しばらくすると、彼女が出てきた。
笑顔だ。
俺の中に怒りと憎しみが込み上げてきた。右手に握る、レンガに汗が垂れる。
貝田が部屋の中へ消えると、
「さあ、チャンスです」
クリオネが言う。
俺は垣根を飛び出すと、物音をたてないように彼女の部屋の前までやってきた。
ドアのノブをひねる。
鍵が開いている。
俺はドアを思いっきり開いた。
向こうに、驚いてこちらを見る貝田と彼女の姿があった。
「阿久津君・・・」
かすれた声で、貝田がじゃべった。
俺は、貝田のほうへ走っていくと、レンガを頭に投げつけた。
鈍い音がする。そして流血。
貝田の体は、その場に崩れ落ちた。
彼女は怯えている。
「死ぬ覚悟はできてるんだろうな?」
俺は悪意を込めて、彼女に言い放つ。
「ふう君、悪かったわ! 謝る! だからそんなこと・・・」
「問答無用」
俺はレンガを拾い上げて、彼女の頭を殴った。
先ほど、同様、鈍い音がする。骨の砕ける音もした気がする。
それと同時に、血が噴き出る。
彼女の体は、壁にすがりながら、崩れていった。
これで、終わりだ。
そのとき、玄関に人が。
「警察だ! そこを動くな!!」
「これで、訊問は終わりだ。何か聞きたいことはあるか?」
俺に向かって、刑事は聞いた。
「どうして、警官が現場に来たんですか」
俺が一番疑問に思っているやつだ。
「女の声で通報があったんだ。人が死んでいるってな」
やはり。
俺は罠にはまったのだ。
クリオネの仕掛けた、罠に。
俺はそれが悔しくて仕方がない。そう、悔しくて仕方がないのだ。
世界一の運動音痴、MOGIぴーです。
初めての短編で正直、書くのむずいなあ。
とりあえずいろんなジャンルの短編を投稿していきたいと思います。
以上。