アニメ記念でもあったり。だけど一部やっぱりアプリ版準拠設定。
動物の国に住む、鳥族の憧れの街パルティシオ。
フォルナは歌のレッスンのため、ディーヴァの屋敷に赴いていた。
セレナの歌声も戻り、もう代役ではなくなったが、新人歌姫としてフォルナは活躍しだした身。レッスンは大事である。
彼女の講師であるルピエはディーヴァの講師でもある。そのため、今でもディーヴァの屋敷へと足を運ぶのだ。
レッスンだけでなく、セレナの友人としてという気持ちやルピエに会うためといった気持ちも含まれているが。
「いつ来ても広いお屋敷なよ~」
パルティシオ歌劇場と隣接し、街や歌劇場への抜け道がいくつもあるディーヴァの屋敷。
何度も足を運んだが未だにフォルナには慣れない豪華さだ。
何気なくキョロキョロしながらフォルナは進む。そしてふと、中庭に見たことのある姿が目に入った。
「あれは……」
黄色い奇妙なひよこのような雨合羽。
傍から見れば不審者としか思えない珍妙な姿が中庭にいた。
「セレナさん……? またなんで不審者ルックで……」
それはまごうことなきセレナ渾身の変装姿だった。
今でも時折、羽を伸ばすために街へ行く際はあの不審者ルックを扱っているが、これから街へ遊びに行くのだろうか。そんなことを思いながら見ていたが、中庭でしゃがみ込んでいるだけだ。移動する様子もない。
いくら外目がないとはいえ、ディーヴァの屋敷の中庭で、じっとしゃがみ込んでいる不審者姿なのはどうなのだろうか。
歌のレッスンまでまだ時間がある。早く着いてもルピエのことだ。早く会いたいという乙女心を察することなく、時間まで寛いでてよとか言いながらマイペースに自分のことをやりそうだ。
それならセレナに声をかけよう。
そう考えたフォルナは不審者姿のセレナのもとへ向かった。
「セレナさん、何してるなよ?」
「あら、フォルナさん。ごきげんよう」
後ろから声を掛ければ普段通りの調子で挨拶された。
セレナのしゃがみ込んでいた位置を覗き込んでみると、綺麗な花壇が並べられていた。
「お花を見ていたなよ? 綺麗な花なよ~」
それにしても前まではこんな花壇はなかった気がする。
庭師の人が作ったのだろうかとフォルナは考えた。
一方でセレナは花壇について何も言わなかった。ただどこか気まずげに視線を逸らし、扇子で口元を隠していた。
「セレナさん、どうしたなよ?」
「な、なんでもありませんわ」
嘘だ。絶対に何かある。
フォルナはセレナとの交流を経て、彼女の見栄っ張りなところはそれなりに熟知している。
見栄っ張りで臆病な彼女の心労を少しでも取り除いてあげたいとフォルナは思った。
「セレナさん、また何か抱えたりしてるんじゃないなよ? 大丈夫なよ?」
「あなたが心配するようなことはなくてよ」
「でも……」
ツンと澄ました返事を返されて、フォルナは何も言えなくなってしまう。
ただただセレナをじっと見ている形になってしまい、そこで気づいた。
セレナの白手袋が土で汚れていることに。
「ひょっとして、セレナさんが花壇を作ったなよ?」
「なっ……」
フォルナは思ったことをつい言ってしまった。
図星だったのだろう。セレナは驚きの声をあげてしまう。
パルティシオでは美しさを損なうような仕事はあまり好まれない。戦うことであったり、力仕事であったり。ましてやディーヴァが土いじりをすることは考えられないことだった。
もっとも、今は表面上変化はないが少しずつ幻の歌姫と呼ばれた、正体がバレバレの歌姫のおかげで改善されつつあるらしいが。
とにもかくにも、今はセレナの花壇である。
「……ディーヴァらしからぬことだとは存じておりますわ。秘密にしておいてくれないかしら」
「もちろん」
「知られたのがあなたで良かったですわ。噂好きのカナリアたちに知られようものなら、わたくしは……」
「このお屋敷でなら知られることはないと思うなよ」
訛った。
フォルナは無自覚である。セレナは訛ったことを理解しているので特に触れはしない。
「でもどうして急に花壇を?」
「以前、アンテルに告白される前に、花壇を作ったりしてましたの。彼は虫が好きで、それならと一緒に花壇を作ったりしましたわ」
「へぇぇ!」
アンテルとの馴れ初めだろうか。フォルナは目を輝かせる。
まさかのコイバナに期待で胸を膨らませた。
「彼がパルティシオからいなくなってからは花壇作りはやめてましたの。ディーヴァらしくあろうとするために」
「なよ……」
「どうして花壇を、でしたわよね。今回、花壇を作ったのはただの気まぐれですわ」
「そうなか~、それなら次作るときはあたしも呼んでほしいなよ!」
「はい?」
「あたしもよくととに手伝わされて土いじりをしてたなよ! あたしも一緒に花壇を作ってみたいなよ!」
コイバナではなかったがフォルナは意気込みながら話す。
じゃっかん意気込みすぎてセレナが戸惑っていたが、フォルナが引くことはなかった。
「そ、そこまで言うのでしたら、次は呼びますわね」
「ありがとうなよ~!」
口元を隠しながらセレナは足早に去って行った。
その様子を見たフォルナは満足げである。
花壇と共に残されたフォルナはひとり呟いた。
「セレナさんは本当に、見栄っ張りなあね……」
気まぐれで作ったにしては丁寧な作りの花壇。花はどれも折れず、真っ直ぐ空を目指して生えている。短時間で作ったのだろうが、それでも大事に作ったのだろう。
「アンテル様の前だけなら、見栄を張らずに花壇を一緒に作れたんなよね……」
パルティシオの美への意識の変化はまだ少ない。今はまだ、セレナは見栄を張り続けなくてはと考えている。
だから花壇を作っていたことを隠そうとしていたのだろう。
だけど、次に作るときは一緒に作ると言ってくれた。
これはアンテルだけでなく、フォルナ相手にも見栄を張らなくていいと、信頼してくれた証だろうか。
そんなことをフォルナは思う。
「いつか、街でもセレナさんが素直になれる日がくるといいなあね」
花壇に向かって話しかける。返事は当然ない。ただの独り言なのだから。
「お花に向かって話しかける歌姫。うん、そういう不思議な路線もありかもしれないね」
「ぴゃあ!? ル、ルピエさん!」
「もうすぐレッスンの時間だってのになかなか来ないからね。探しに来たんだよ」
「い、今の聞いてたなよ?」
独り言のつもりの言葉を聞かれたことに、フォルナはひたすら恥ずかしく思えた。
せめて言葉の内容までは聞こえていないことを願いながら尋ねる。恥ずかしいことを言ったわけではないが。たとえ聞こえていたとしても、聞こえなかったことにしてほしいと願いながら。
「うん、君の声は通りがいいからね! それにぼくってこれでもイケてるプロデューサー兼君の恋人でもあるんだし、恋人の声を聞き漏らすなんてしないさ。安心したかい?」
ルピエは渾身のウィンクを放ちながら言いきった。
たまには恋人らしいアピールを考えての言葉でもあった。
その日、フォルナは羞恥のあまりレッスンを休んだ。