イベストのみのはずが何をしているのか……
部屋にひとり、日記帳を読む少女がいた。
正確には日記帳ではなく、伝言メモのように扱われているメモ帳だが。
『ヘキサルト、君の普段着についてなのだが、スカートの丈が短すぎると以前から思っていた。少し長めにしてみたがどうだろうか』
『ハグルマへ。長すぎない、コレ? 走るときに引っ掛かっちゃうよ』
『そもそも走らなければいいのではないか。君は落ち着きがなさすぎる。この時代は走って逃げる機会が多かった昔とは違うのだから』
『ち、遅刻とかしちゃったらカプナートに悪いし……! 前から時々思ってたけど、ハグルマってなんだか────』
少女は本を閉じ、考えをまとめるために外へと出た。
行きたい場所は特になく、ただなんとなく、外に出た。
有り体に言えば、散歩だ。だが彼女は散歩を楽しめる心境ではなかった。
日も沈みかけた頃、たどり着いた場所は小さな公園。
まるで誘われるようにブランコへと座り込む。
ひとりブランコを揺らす少女を見かねて、コートを着こんだ男が声をかけた。
「ヘキサルト嬢、何を……、いや、ハグルマか。何をしているんだ」
「……、ハードエッグ。ずっとつけていたのか」
「たまたま見かけただけだ」
「そうか……」
「……、何かあったのか? 家に帰りづらくなって途方にくれた中年親父のようになっているが」
「中年……、私はそんなに若くない」
「体は若いだろう」
ハードエッグと会話している最中も、ハグルマはキィキィとブランコを揺らす。うつむきながら。
自身の母ともいえる創造主があからさまに落ち込んでいる。その事実はハードエッグにとって見過ごせない。
「何があったのか、話してくれないか。本業はカウンセリングではないが、職業柄、話を聞くのは慣れている」
ブランコは揺れ続ける。
中年親父ならぬ中年少女を乗せながら。
やがて、静かにハグルマは話した。
「ヘキサルトに指摘されたんだ……」
「ヘキサルト嬢に何を?」
「ハグルマってなんだか、おばあちゃんみたいだよね。と」
「……。まあ、生まれ年から考えればお婆ちゃんだな」
お婆ちゃんどころではない。
そう思いはしたが、ハードエッグの肩にいるミスターはそんな野暮なツッコミをしなかった。
「しかしヘキサルト嬢が突然そんなことを言うとは考えにくい。何か理由があるんじゃないか」
「私が年寄りなのは事実だ」
「それはそうだが」
「……」
「……、実年齢から考えればとても若々しいが」
「……慰めはやめてくれ」
慰めを求めていた目だったが。
そう思いはしたが、ミスターはそんな野暮なツッコミをしなかった。
「何度か彼女と意見がぶつかることがあった」
「そうなのか? ヘキサルト嬢は誰かと衝突することを避けている印象があったが……、いったいどんな?」
ヘキサルトの異常ともいえる献身性のことだろうか、とハードエッグは予測するが、そこからハグルマがお婆ちゃんに繋がるものか。
心配するハグルマの老婆心をお婆ちゃんのようだ、と言ったのではないか、とまで予測しながら言葉を待った。
「一番新しいのは、スカートの長さについてだな」
「スカートの長さ」
予測と大きく外れた。
思わずハードエッグはおうむ返ししてしまった。
「彼女の普段着のスカートが短い気がしてな。長くしてみたのだが、これでは走りづらいと……、それで、私が昔とは違うのだから走る必要性は少ないはずだと……」
「なるほどな。老害ムーヴをしてしまったわけか」
「ろうがい……?」
ハグルマは記憶の中から、ろうがいという単語を探しだす。昔にはなかった単語だ。そのためヘキサルトと共用した記憶からも探した。
老害とは。
自分が老いたのに気づかず、まわりの若手の活躍を妨げて生ずる害悪。
自分の昔の環境を引き合いに出し、説教染みた話をして若者の気概を削いでいく。
「わ、私が、建国神であった私が……」
「もう建国神ではないだろう。過去の栄光に縋るのも老害と同じだ」
「親に優しくしろとショーンから教わらなかったのか」
ゆで卵も大事かもしれないが、他にも色々と教えてやってほしかった。
「お婆ちゃん」
「やめろ」
「まあ、ふざけるのはよしておこう。老害ムーヴが原因なら日頃の発言に気をつければいい」
「そうか……。説教染みた話や時代の異なりを話に出さないようにすれば若くなれるのだな」
「若くなるわけではないがな」
年齢は変わらないが、年寄り臭さは消えるはず。
問題解決の兆しが見えてハードエッグは内心安堵する。
「ヘキサルト嬢と直接顔を合わせれるわけではないのだろう?」
「そうだ。筆談でやり取りをしている」
「なら文字を書く前に考えることができるな」
「ああ。さっそく書いてこようと思う」
ハグルマはブランコから降りた。その顔は明るく……はないが、落ち込んでいた余韻は一切ない。
「良ければ教えてほしい。何と書くつもりだ?」
「なんでもない世間話でも書くつもりだ」
「それはいい」
「カプナートと籍をいれるのはいつなのかとかな」
「……ん?」
「式をあげてやるならば異国の形式をとるのならば、和の国のものが気になると伝えようかと考えている。すでにそれとなく伝えているがな。彼女の机の上に異国の結婚風景集を置いてみた」
「待て」
「どうした?」
「……行き過ぎたお節介は鬱陶しがられるぞ」
「お節介? なんのことだ」
若者の恋愛を本人は応援しているつもりでも、当の若者にとっては嫌なものに感じられることもある。
ハグルマがかつて経験した時代観から結婚は早くするべきだと思っての行動かもしれない。そんなつもりのないただのお節介かもしれない。
なんにしろ、
「そういうのも老害だからな」
「……今の時代はなんでも老害扱いしていないか? 余剰パーツに力を注ぎ、本質を老害扱いしているような」
「流れるような老害ムーヴ」
この日から、ハグルマの日は、メモ帳に書く内容はハードエッグの監修となった。
メインストーリーでハグルマさんがまた出るかもなので、そのときになったら書き直すか、注釈でもいれます。
ハードエッグがお迎えできないよぅ……