植物の国。鉢植えの町の外れにある一軒家で、ティグは鏡を見ながら悩んでいた。
鏡に向かってウインクしたり、流し目をしてみたりしながらうんうんと唸っていた。
「何さっきから変なことしてんだよ」
ティグの奇行にとうとうエイシーが突っ込む。
「変なことなんてしてないし! 悩んでるだけだし!」
「すげえどうでもよさそうな悩みっぽいし、無視していいか」
言外に何に悩んでいるのか聞いてほしい、と言われた気がしたが、げんなりとしながら先手をうつ。
「こんなに愛らしい僕の悩みだよ!? どうでもよくなんてないんだから!」
「へいへい」
ティグの抗議を適当に聞き流す。
おざなりな態度だが、エイシーからしてみれば、人の家にやって来て鏡に夢中になる相手には充分すぎる対応だと思っている。
それにティグの悩みなんてたいていは、お肌の調子がとかそんなものに決まっている。
「それで、何に悩んでんだよ。お肌がーとかだったら聞かねえぞ」
面倒くさいが、プンプン、といった抗議の仕方がむすっとなる前にしょうがないから聞くことにした。
「僕の今後に関わることなんだよ……」
「今後?」
スキンケアがーといった話でないことに少し意外性を感じた。
今後とはいったいなんのことか。頻繁にこうしてエイシーの家に来るのをやめてしまうとかだろうか。そうだとしたら、少し寂しさを感じてしまう。いたらいたできゃーきゃー煩いが、特別な相手なのだ。
だがティグにも家庭の事情があるだろう。そう思うとあまり口出しできないなとエイシーはやや諦観気味に考えた。
「僕さ、可愛いでしょ」
「今日の晩飯何にすっかな」
「ちゃんと聞いてよ! 僕シチューがいい!」
「へいへい、聞いてほしいならちゃんと話せよ」
いつもの可愛いアピールだったので、今日の献立を考える。ちゃっかり行うリクエストを聞きつつ悩みとやらを促す。
「昔は僕と兄さんって顔つきとか、結構似てたんだけどさ」
「お前、兄弟いたんだな」
「……まあね。僕の家族構成は今はいいの! とにかく昔は似てたんだよ!」
「お、おう」
エイシーは返事をしながらティグの兄を想像する。ティグに似た顔つきという情報から、なんとなく喧しいイメージになってしまった。
「昔はってことは、今は全然違うのか?」
「今は……、どっちかっていうとかっこいい系になってたんだ」
「へえ。なんか想像しづらいな」
「かっこいい系でも渋い系になってたんだ」
「ますます想像しづらいな、それ」
ティグに似た顔つきだったのに、渋い系。
イメージしにくいが、それが何の悩みになるのだろうか。少し考えたがわからない。とにかく続きを促すことにした。
「それが何の悩みになんだよ?」
「僕と兄さんは似てたんだよ、顔つきは。そして今、あいつは渋かっこいい系……。つまり、僕も成長したら渋くなっちゃうんじゃないかなって……」
「別にいいじゃねえか」
「全然よくない! 渋いと可愛いは両立がむずかしいんだから!」
「まあ、お前は渋くなれなさそうだよな」
「どういう意味!? 僕だって渋くなれるから!」
「渋くなりたいのか、なりたくないのかどっちなんだよ……」
エイシーはげんなりと突っ込んだ。
ティグに何を言っても喚かれる気しかしてこないからだ。現に喚かれているし。
そんな心境を知ってか知らずかティグは、今度はコロコロ笑いながら尋ねてきた。
「エイシーは可愛い僕とかっこいい僕、どっちがいい?」
「そういうこと聞いてこないティグで」
「いじわる!」
文句の言い方も可愛い子ぶるその姿に、やはり渋くなるのは無理だろうと、エイシーは心の中で思うに留めた。
「渋い、ねえ。渋い系なんてマトリクスくらいしか思いつかねえや」
「僕だってそのうちあんな感じの渋さを出しちゃうよ」
「無理だな」
「まあ、渋かっこよくて可愛いってなっちゃうからね」
「両立は難しいんじゃなかったのかよ……」
会話の方向がブレブレである。ティグと話すとブレブレか、ブレなくてもティグがお肌の話に持っていこうとするか、といった極端な流れになりがちなので慣れてはいるが。
「渋かっこいいがあるなら、渋可愛いだってなれるもん」
「もん、とか言って渋くなれるとは思えねえ……」
「可愛いでしょ?」
「へいへい。かわいいかわいい」
「テキトーに褒めないで!」
「テキトー以外に褒めようがねえよ!」
こんな様子で渋さを出せると言うティグに呆れながら、エイシーはため息をつく。ティグはそんなこと気にせず、そして何か思い付いたのか、ニヤニヤしだした。
その姿にエイシーは嫌な予感しか感じなかった。
「……、なんだよ気持ち悪ぃ」
「気持ち悪くないし! むしろ気持ち良いし!」
「わけわかんねえ」
「それよりも、考えてみたらあれだね」
「……、なんだよ」
ニヤニヤ、ニマニマしている姿がどことなくウザい。
「僕って、可愛くてかっこいいがすでに備わってるもんね」
「どっから出てくんだよ、その自信は」
「だってエイシーが言ってくれたんだもーん。お前は可愛くて、かっこいいって」
「そんなこと言った覚えなんて、な……」
ない、と言おうとしたエイシーの脳裏に、あの原初の森での出来事がよぎった。
言ってしまっていた。
確かに言ってしまっていた。
気づいてしまったエイシーはどんどんと赤面してしまう。それに比例するように、ティグのニヤニヤはより深くなっていく。
あまりの羞恥に耐えられなくなったエイシーは。
「お前今日は飯抜き!!」
「いじわる!!」
家主の力を振りかざすことにした。