異世界に行ったら案内人いなかったので、仕方がなくぼっち日記書き始めました。   作:玄武 水滉

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河野芳樹のジレンマ

 

 

 

 

 

 

 という事で火龍誕生祭2日目(自分の中で)

 

 朝起きて顔を洗い、宿の食堂で親父さん達と合流した。てっきり近場の人かと思ったら親父さん達も旅行客的な感じらしい。

 異世界のいたって普通な朝食を済ませ、とりあえずこれからどうしようかと迷っていると、またまたギフトゲームの観戦に誘われた。

 願ってもない誘いに喜びつつ、どうやってノーネームとコンタクトを取ろうか迷っていた。だって、急に行っても「は?何こいつ?」とか言われたらメンタル砕ける自信あるし。心に相当な傷を負う。

 ファンを装って近づくのはなんか違うし……うーん、困った。

 でもまぁどっかで話しかけるタイミングあるだろ。祭りが終わるまではこの街にいるつもりだしな。

 

 それじゃあ今日も応援といきますか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 河野芳樹は必死に黒ウサギと書かれた団扇を振りながらギフトゲームを見ていた。

 目の前で河野では到底不可能なゲームを繰り広げるノーネームの少女と、カボチャのお化けとツインテ娘のコンビ。彼女らのしのぎを削る勝負に、会場のテンションは最高潮に達していた。

 それは河野も同じで、彼自身スポーツ観戦を良くしていたが、このギフトゲームは正にその様な感じだった。ただ一つ河野が思ったのは、カボチャとツインテ娘の方が旗印に対して重く責任を感じている……そんな感じがした。誇りと言ったらいいのだろうか。ノーネームの少女は勝負に勝ちたいと。カボチャとツインテ娘はコミュニティを背負ってと、それぞれが理由を抱えて戦っている。そこが決め手になると河野はドヤ顔で隣のオヤジに語った。

 

 日記を書いている暇なんてない。それほど河野は興奮していた。それ程にこの異世界は面白い。現実世界では得られなかった刺激を目にして、自分もあの様に動けたらどんなに良かったかと独り言ちた。

 河野のギフトは決して戦闘向きではない。それどころか弱者を逃がすための最高峰のギフトとさえ言える。

『死を無かったことにするギフト』既に河野自身もこのギフトに何回も救われて来たが、もし仮にあの少女の様なギフトだったらどうだっただろうか。あれだけ戦う事が出来れば、もしかしたら救えたかもしれない。今となっては後の祭りだが。

 河野はそんな自分しか救えないギフトが嫌だった。どうせだったら全ての死を無かったことに出来ればいいのに。おばあちゃんを連れて祭りに来れたかもしれないのに。

 

 気が少しずつ沈んでいく中、気がついたらギフトゲームは終わっていた。余計な事を考えていた自分を叱りつつ、河野は結果に目を向け、ノーネームの敗北というその事実に目を丸くした。

 先程までは勝っていた、いや、優勢であった筈なのに。隣のオヤジに話を聞くと、どうやらあのカボチャのお化けが本気を出したらしい。確かに先程よりも動きが生き物らしい。人形ごっこの様な不気味な感じは抜けていた。

 ゲームが終わり、観客達が興奮の冷めぬ間に帰ろうとしていた時。それは降って来た。

 

 

 

 ーーそれは、災厄の証。

 

 ーー幾つものコミュニティを陥れた災厄。

 

 ーーそれは、それらは箱庭の人々にとって絶望そのものであり。

 

 ーー箱庭の人々にこう呼ばれていた。

 

 

「魔王が……魔王が現れたぞォォォォォォォォ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー魔王と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 河野は真っ黒に染まった契約書類を手にして首を傾げた。はて、自分が見た契約書類はこんな色だっただろうか。コミュニティによって色が違うのかと思ったが、突然叫んだオヤジによって、これが魔王の契約書類なのだと理解した。

 と、次の瞬間競技場内が怒号と悲鳴に染まった。なんとかして競技場から出ようとする者。その場に蹲って泣く者もいた。

 これが魔王……河野はその事実に思わず体を震わせた。決して武者震いなどではない。河野はあの魔王に真っ向から拳を向ける程の強者ではない。ただの恐怖であった。

 一体何をするのか。契約書類を読んだだけでは分からず、河野は一刻も早く競技場から出る事にした。

 

「くそッ……何だよこれ!?」

 

 河野は決して頭が良い方ではない。ハーメルンの笛吹きの話は見た事はあるが、そもそも読んでいた話に別な伝承があったなど知るはずもない。もしかしたら魔王のゲームで自分の出る場があるんじゃないかと思ったが、それは河野の勘違いだった。

 河野芳樹は最初から最後まで主人公では無かった。

 それでも、そんな自分にも何か出来るのではないかと思い、人々が集まる所に情報収集を兼ねて向かう事にした。

 

 

 阿鼻叫喚。その一言に尽きる。

 河野は叫び声の上がる人混みを掻き分け、鎧を身に纏った龍の様な兵士に声を掛けた。

 

「なぁ、このゲームは誰がクリアするんだ?」

 

「……今、上層部がそれについての会議をしている。避難なら向こうに行け」

 

 どうやら一般人の話など聞いてくれない様だ。というよりかはこの兵士も余裕がない表情をしている。

 河野は現状を打破する方法が見つからない事に苛立ちを感じつつ、このパニックを収めないと思った。

 となれば先ずは子供をあやす所からだ。泣いている子供を寝かせれば、親にも寝る余裕が出来る。

 

「って俺は何してんだよ……」

 

 時間は暫く経ち、皆が寝静まった頃に河野は日記を書きながらそう呟いた。

 今頃上層部、そしてここにはいなかったノーネームのあの少女はゲームを打破する方法について議論しているのだろう。そういえば黒ウサギの姿も見えないと河野。

 それに比べて河野は子供をあやし、皆のパニックを抑えようと必死だった。

 格好良さで比べれば、正に雲泥の差だ。ゲームをクリアすべく、魔王を倒すべく動く人。それを指を咥えて待ってる事しか出来ない人。悔しさで顔が歪んだ。

 

「何がギフトだクソッタレ……」

 

 きっと魔王と戦うのはとても危ない事だ。生半可な覚悟ではいかない筈だ。それでも河野は、そちらの方が良かった。目に見える成果が欲しかった。

 他人の死すら覆せないこのギフトに価値は無い。そう思いつつも、河野は日記を書き進めている。なんせ死ぬかもしれないんだから。

 

「ああ、情けねぇな……俺」

 

 ギフトの所為?それは責任転嫁だ。

 河野の所為?死にたくないのは当たり前だ。

 そのジレンマが河野を苦しめる。死にたくない自分と、ギフトで活躍したい自分との板挟み。河野の手からシャーペンが落ちた。

 寝ようと河野は思った。これ以上起きていても辛い事を考えるだけだ。出来ないことを考えるぐらいなら、出来ることに最善を尽くせ。それが河野に残された道なのだから。

 

 見ているだけが正しいのか。

 

 動くのが正しいのか。

 

 無謀だと思っても、死ぬかもしれないとしても動くのか

 

 

 

 

 

「もう目の前で誰かが死ぬのは嫌なんだよ…………!!!!」

 

 

 

 

 

 ゲームクリアが先か。

 

 

 

 

 全滅するのが先か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況は良くない方向へと転がって行く。








感想でご指摘がありました。この場を用いてもう一度感謝を述べさせていただきます。本当にありがとうございました。
お気づきかも知れませんが、タイトルが◯日目となっている所以外は、基本的に三人称視点でお送りさせていただきます。
話が暗いと思う人もいるかも知れませんが、もう少しだけお待ち下さい。

絶対に河野芳樹を主人公にしますので。

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