異世界に行ったら案内人いなかったので、仕方がなくぼっち日記書き始めました。   作:玄武 水滉

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黒死病と希望(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 それは唐突に起きた。

 

「何だこれ……!?」

 

「あ、あのっ!治るんでしょうかうちの子は!?」

 

 駆けつけた河野が見たのは、自分の子であろう幼子を抱える母親の姿だった。

 河野は寝ぼけている自身の頬を引っ叩くと、子供の様子を見ようとして……手が止まった。

 僅か、ほんの僅かではあるが、腕に湿疹が出ている。いや、湿疹にしては黒い。瘡蓋の様に黒いそれは、河野ですら知っている有名な病気に酷似していた。

 

「ペストか……これ?」

 

 ペスト

 高い致死性を持つ病気。患うと皮膚が黒くなる事から黒死病と呼ばれている。河野のいた世界では14世紀に大流行し、世界の人口を大きく減らした事でも有名だ。

 河野がそれをペストと言ったのは、あくまでも予測の範疇だ。ただ肌が数日の間に黒くなる症状を見て思いつくのがそれぐらいだったから。皮膚ガンにしては多量だし、何よりもこの街はそこまで陽射しが強い訳でもない。

 ペストは現代では抗生物質を投与する事により治療する事が可能だ。だが、ここはそんな科学的なものは存在しない。ましてや抗生物質なんて聞いたことのある人の方が少ないだろう。

 

「うぅ……苦しいよ……」

 

 ペストは伝染病だ。誰かが病気に掛かれば、次にかかるのはその周辺にいる人だ。この幼子の母親も、そして河野も例外ではない。

 本来ペストというのは齧歯類に見られる病気だ。そしてペストに掛かってる個体の血をノミが吸い、そのノミが人間の血を吸う事で人間へと感染る。

 生憎この避難所の清潔さは良いとは言えない。寧ろ悪い方だ。

 河野は苦しむ子供を必死にあやす母親の姿を見て、悔しそうに顔を歪ませた。自分にはこの姿を傍観している事しか出来ない。子供の病気を治す事も。母親に子供を隔離する様に言う事も出来ない。

 

「それで……」

 

「とりあえず安静にして寝かせておいた方が良い。それに熱も結構出てる」

 

「わ、分かりました」

 

 河野がこうして皆の様子を見ているのは、この避難所にリーダー的存在の人物がいない事。そして兵士達もずっといる訳ではないから頼る事が出来ないという理由があった。

 誰もが不安を抱えている中でそのポジションの人物がいないのはまずいと思い、河野が名乗り出た。

 大人達もいる中での立候補だった為か、河野に不満を漏らすものもいたが、それと同時に彼らの目は避難所で起きた事に対しての責任を負いたくないと思っている様でもあった。

 その中でも一部の龍人の様な人々は手伝うと言ってくれ、今は河野と彼らとでローテーションを組んで24時間起きている。

 立ち去ろうとした河野の人差し指を幼子が握っていた。

 

「ねぇ、治るの……?」

 

 苦しそうな表情で言う幼子の頭を撫でながら河野は言う。

 

「あぁ、お兄ちゃんが治してみせるから待ってろよ」

 

 大きな罪悪感が河野の心を握り潰そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ河野、あれはなんだ?」

 

「ドラクか……」

 

 外の空気を吸いに出た河野後ろから話しかけて来たのは、黒ウサギの団扇を一緒に作ったオヤジ、ドラクだ。

 彼も避難所を纏める役に名乗り出てくれた一人だった。

 ドラクは切り揃えられていない髭をさすりながら河野の横に立った。恐らく先程の河野と幼子のやり取りを見ていたのだろう。少し表情が硬い。

 

「あれは一言で言えば病気だ。それも致死性のある」

 

「そんなもんがどうして今?」

 

「…………ゲームの可能性が高いと思う」

 

「まぁこのタイミングだし、河野がそう思うのも無理はねぇな」

 

 ドラクの手には二つのコップが握られていた。その片方を河野に渡し、一気飲みをするドラク。

 感謝を述べつつ、コップの中の水を飲んでいく河野。水が喉を潤す感覚に心地良さを感じながら思考に耽っていた。

 と、そこへ祭りを運営していたコミュニティ“サラマンドラ“の兵士がやってきた。

 

「この避難所に肌が黒くなる様な病気を発症した者はいるか?」

 

 河野はその兵士の一言に思わず驚いた。

 この異世界にペストを知っている者がいたと言う事だ。ただ、この兵士達は『肌が黒くなる様な病気』と言っている。つまり、その病気を知っている物が彼らの上司かその側にいると言う事。

 

「それでどうするつもりで?」

 

「大本陣に隔離所を作った。そこに寝かせようと思うのだが」

 

「なるほど分かりました。少しお待ち下さい」

 

 河野はドラクの肩を掴み、若干早足で避難所へと戻った。

 

「何だよ河野、急にどうした」

 

 足を止めたドラクが話しかけてきた。

 河野は迷う様な表情を見せた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「ドラク、あの子をあいつらに連れて行ってもらった方がいいと思うか?」

 

 ドラクは少し思案する素振りを見せた後、連れて行ってもらった方が良いと言った。

 一方の河野はそれには反対した。河野は、あの子が連れて行かれる事で避難所内がパニックなる可能性をドラクに告げた。それも感染病となれば尚更だ。

 

「それでも俺は連れていってもらうべきだと思う。それにパニックとかになったら収めるのが俺らの仕事だろ?」

 

「まぁそうだけどさ……」

 

「それに俺らにはお前がいるから大丈夫だ。頼りにしてるぜ、河野」

 

 幼子は体力が少ない。ペストにも抵抗する体力がなくてなればその先には死が待っている。

 それならば大本陣とやらの隔離所に連れて行ってもらった方が良い。パニックになろうが、自分達が何とかすれば良い。

 そこまで考えついて、自分がそのパニックを無意識のうちに避けようとしていた事に情けなさを感じた。

 自分はそれを収めるために、頼りどころのない人々に応えるために立候補したのではなかったのか。

 

「河野、お前は少し考え過ぎだ。もう少し気を楽にして物事を考えろよ。そうしないと見えるもんも見えなくなっちまうぞ」

 

 ドラクの思いがけもない言葉に思わず涙が出そうになるも、グッとこらえて感謝の言葉を告げた。

 

「ありがとう、ドラク」

 

「良いってことよ。俺ら生きて全員でまた黒ウサギちゃんの応援するって決めてんだからな」

 

 そう言ったドラクは、母親に訳を伝えると、手に幼子を抱えて河野の元へやってきた。幼子が泣かない様に頭を撫でながら。

 向かうかと言ったドラクへ頷き、河野は避難所を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幼子と母親を隔離所へと連れて行き、ドラクに先に避難所に帰る様に言った河野はとある部屋の前に立っていた。

 本来は入ってはいけないはずなのだが、現状を打破するのにはこの部屋の主に現状どうなっているのかを聞くしかなかった。

 何でも河野はこの中にノーネームで唯一黒死病に罹ってしまった者がいると風の噂で聞いていた。まぁ正確に言えば歩いていた兵士がそう言っていたのだが。

 意を決してコンコンとノックする河野。中から男の「ヤベッ!」という様な声が漏れたその後、小さな声でどうぞと声がかかった。

 ゆっくり開けると、ベッドの上の少女が上半身だけを起き上がらせてこちらを見ていた。あの時競技場で見たノーネームの少女だった。

 

「えっと…………」

 

 見た事もない男が入ってきた事により戸惑う少女。それにカッターシャツに紺色のズボン。それにリュックサックを背負った男など()()()()()()()()()()()()()

 一方の河野も何と切り出して良いか分からず困っていると、突如別な男の声が聞こえてきた。

 

「なんだよ、”サラマンドラ“のやつかと思ったじゃねぇか」

 

 ベッドの下から出てきた学ランの少年、逆廻十六夜はそう一言だけ呟くと、河野を睨みつけた。得体の知れない奴が少女の寝ている部屋に入ってきたのだ。不審者ではないかと疑うのも無理はない。

 敵視されているのを感じ取った河野は、思わず頭を下げてこう叫んだ。

 

「頼むッ!今どんな感じになってるかだけ教えてくれ!」

 

 これが避難所の人々への希望になると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 










そもそも避難所は一つではないんじゃないかと思ったのが最初でした。
それから沢山の避難所の中で何も伝えられていない様な所があってもおかしくはないんじゃないかと思い、河野が大本陣まで行って現状を聞こうとしたという事です。まぁあのサラマンドラなんでそんなはずはないと思ったんですけどね。
また、ペストの発症が六日目にして初なのも、そもそもペストの潜伏期間が2〜7日だったので、発症が遅くてもおかしくはないかなと思いました。
以上です。次回はノーネーム陣との会話と避難所での後編を書きたいと思います。
次回もお楽しみに。
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