機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
模擬戦から2日後、ヴェンデロート艦内では採掘機の搬入作業が終わり、動作テストが行われようとしていた。
そこに突如警報が鳴り響く。
「未確認機が接近中との事です。現在オルレアン基地の管制室と連絡を取り詳細を確認中です。」
「基地内にいるクルーを呼び戻せ!我々も迎撃態勢を整えるんだ」
オペレーターからの一報に動作テストの指揮を取っていた副艦長は作業を一時中断し指示を出す。
「ついにこの基地にまで攻めてきたか」
自分もブリッジに戻りつつ、こう呟いた。
ヨーロッパ方面の都市、基地はベルリン、ボルドー空軍基地を初めとして次々とザフト軍の手中に落ちつつある。
このオルレアン基地が落とされればユーラシア連邦の首都であるブリュッセルを守る防波堤がまた一つ失われてしまう。
「ともかくアタランテの指示通りに動かなければ」
そう決意するとブリッジへと入って行った。
ーーーーー
オルレアン基地司令部
「接近してくるのはディン3機で、輸送する艦の姿は見当たらないか」
「囮だろう、仮に接近されてもヘルダートでどうとでもなる」
「ローエングリン砲のチャージを急がせろ」
司令部では参謀達が各所から送られてくる報告に対して指示を出していた。
「4番ポストと5番ポストより、敵MSと交戦中との報告です」
「やはり来たな、アタランテシステム様々と言った所か」
ライゼルはその報告に静かに頷いて言った。
ポスト4、5はオルレアン基地地下区域の警備ポストである。
オルレアン基地にはロワール川からの地下水路がいくつか通っており、そこから敵部隊が侵入してくる事は充分に考えられた。
「地下水路にストライクダガー部隊を配置していたのは正解だったようだな」
「ですが、基地外周にいる敵MSにはこちらのMSを当てる事が出来ません」
アタランテにより基地警備の見直しが行われ、ストライクダガーは全て基地内部の地下水路に配置されていた。
「それには問題はない、ヴェンデロートに搭載されていたバクゥ隊が外周各所に配置されていたはずだ」
「その事ですが、つい先ほどその情報は誤りだと言うことが分かりました。へリックス、バクゥ部隊共にヴェンデロートにまだ収容されているそうです」
「なんだと!?それもアタランテの指示だと言うのか」
ライゼルは驚く。
その時、オペレーターが新たな機影に気づいて叫んだ。
「これは、H.L.V(重量物打ち上げロケット)が降下?位置は……基地の真上です!」
「何!?早くローエングリン砲で打ち落とせ!」
「駄目です!ローエングリン、射角制御間に合いません!」
虎の子の陽電子砲は基地の北西から近づいて来ていたディンに対して向けられていた。
そのため即座に砲塔を回転させる事は出来ない。
代わりに有り合わせの地対空75mmバルカン砲塔システムから迎撃弾が上空に向けて発射される。
それでH.L.Vの外装甲は剥がれたが、中のMSは未だ健在であった。
「ハッハァァァ!やはり俺には軍用犬を飼い慣らすよりもこいつの方があってるな!」
フランキーがコックピット内で吠える。
出てきたのはザフト軍の陸戦型重MS ザウート。
機動力は劣るが、既に敵基地内部に取りついている今ではその欠点も克服したかに思われた。
タンク形態で着地し衝撃を緩和する。辺り一面を土煙が舞う。
「こっちにとっちゃ全部が破壊目標だ、後のために燃料タンク位は残しておきたいがな」
そう言ってザウートの主砲である2連キャノンを目の前の対空砲に向かって放つ。
その爆発を満足そうに見届けると、後続の部下達に指示を出した。
「各機、敵司令部へ攻勢をかけるぞ、後から来た他の部隊に手柄を横取りにされる前にな」
「了解」
ザウート達は無限軌道を狙われないように頭部側面に設置されているスモークディスチャージャーから発煙弾を次々と発射する。
既にオルレアン基地の見取り図は把握済みであった。
その司令部まであと少しという所で、フランキーはこちらの進行ルート上にブルドッグ(対MSミサイル搭載トラック)やリニア・ガンタンクなどの戦闘車両とは違う機影があることに気づく。
「MSだと?もしや例の「十字架」か」
フランキーは直感でそれがバクゥ以外のMSであるという事を見抜いた。
前回の戦闘では、こいつが甲板にいたことが戦闘後の映像分析で分かっている。
あの時はこいつの砲撃により、味方のバクゥが1機やられた。
「借りを返す時が巡って来たと言うわけだな。こちらフランキー、まず司令部の前に奴を仕留める。援護しろ!」
「了解!」
無限軌道の轟音が戦場に鳴り響く。
ーーーーー
<やはり、狙いは司令部でしたか>
「煙幕で敵影が確認できない、何機いるんだ?」
周囲は発煙弾から発生した煙幕により、見渡す限り白い煙が立ち込めている。
アレンとしては視界を完全に塞がれた状態で戦闘に突入する事になった。
<アレン、私が既に1機、敵の位置を捉えています。私の指示に従ってください>
アタランテに言われるがままブーストを吹かし、煙の中に突っ込む。
へリックスは正面からフランキーの乗るザウートに突撃する形となった。
意外な行動に、対するフランキーは一瞬、虚を付かれるが、それもほんの一瞬だけである。
「砲撃戦用のMSなら接近戦が弱いと思っていたのか?むしろ逆だと言う事を教えてやる!」
ザウートの2本のマニピュレーターがクローアームを掴む。
そのあまりの重圧にクローアームごと機体を抑え込まれ、へリックスは膝をつく。
「ハッ!なんだ、重武装の割りにはやけにパワーが無いな」
「く……」
アレンはどうにかして機体を立ち上がらせようとするが、どうにもできない。
相手の方は益々増長した。
「どうした?まさか無策で突撃してくるとは思わなかったが」
<解析終了、接触回線から敵機の位置が分かりました>
フランキーはいきなり割り込んできた機械的な音声に戸惑った。
ヘリックスが隠し腕のビームライフルを展開して煙の中に数発撃つと、その先にいたザウートが次々と爆散していく。
「馬鹿な、スモークで位置を把握出来ていないはずなのに……!?」
<これで終わりです>
最後に本体が持っていたビームトーチでザウートの胴体を一閃するとモノアイから光が消えた。