機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
大規模な襲撃でオルレアン基地は壊滅とはいかないまでも相当な被害を被った。
敵機の数はそう多くは無かった。降下してきたザウートが3機、グーンが5機、ディンが3機である。そのうちザウートは全機、グーンは2機撃墜出来ていた。
が、こちらはローエングリン砲と多数の固定砲台、リニアガン・タンク等の戦闘車両及びストライクダガー5機を失ってしまっていた。
「ホバート君、君の部隊のこの度の働きに感謝する。君達がいなければ、今頃ザフトの旗がこの基地に掲揚されていた事だろう」
「そんな事はありません。皆の勝利ですよ」
地上戦艦『ヴェンデロート』の艦長室で謙遜するホバートに、ライゼル司令はそう言って謝意を示した。
「君達の部隊にはまだ留まっていて欲しいが……そういう訳にもいかんのだろう」
「ええ、我々にはニュートロンジャマー回収の任務が残っています。受領した採掘機は必ずアイルランド基地へ届けてみせます」
副艦長が答える。それでも両者名残惜しそうにしていると部屋に設置されたスピーカーからアタランテが催促する。
<そろそろよろしいでしょうか。お話の通り、まだ我々は任務の途中ですから>
それはもう復興作業もある程度区切りがつき、隊員の葬儀も終わったのだから、この基地には用は無いだろうと言うようなものであった。
<基地戦力の補充に関してはブリュッセルにも話を通しておきました。またアイルランド基地から来ましたスピアヘッド4機もこの基地に残しておきますからご心配なく>
アイルランド基地に依頼していた増援はオルレアン基地防衛戦の二日後にようやく到着した。
虎の子のローエングリン砲を2台、更にはストライクダガーを失った今、オルレアン基地の防衛はほとんど無い。
そのため、ユーラシア連邦の首都ブリュッセルやパリなどの周辺基地から戦力の補充が行われるようになっている。
「では……最後に君達の任務の成功を祈っているよ」
ライゼルはホバート、そして副艦長と握手を交わした。
同日の昼、地上戦艦「ヴェンデロート」はオルレアン基地を出港した。
――――
陸上戦艦「ヴェンデロート」は海面を滑るようにドーバー海峡を進む。
ここを抜ければアイルランドのリマリック基地までもうすぐである。
「アイルランドは大西洋連邦に所属しています。果たして我々を受け入れてくれるのか」
「ニュートロンジャマーの解析は我々地球連合軍に取って多大な利益をもたらしてくれる。その機会を不和だけで台無しにしてくれる事は無いだろう」
心配症な副艦長とは違い、艦長のホバートは楽観的な見方をする。
現にユーラシア連邦に所属しているオルレアン基地では大西洋連邦からストライクダガーを貰い受けていた。
また、護衛のためにスピアヘッド4機を援軍にも寄越してくれている。
少なくとも敵対的に来られるという事は無いはずであった。
「それより、君も甲板で海でも見て気分転換をしてみたらどうだね?」
甲板では休憩中の隊員が海を見るために大勢出ていた。
「これが海かぁ」
「すごーい!ひろーい!」
乗員には内陸出身の者もおり、実際に海を見るというのが初めてという者も多い。
「忘れていた、乗員に船酔いしている者がいないか確かめねば……」
副艦長の心配事は増えるばかりであった。
――――
アレンも休憩中の他の隊員に紛れて甲板に出ていた。
海は穏やかで、他の隊員の活力も申し分ない。先日までのオルレアン基地での戦闘が嘘のようである。
しかし、最近のアレンには先の戦闘での事で、どうしても考えてしまう事があった。
ストライクダガーのパイロット達にはやはり実戦は早すぎた。基地の警備の配置には、まだ改良の余地があったのでは無いかと思った。
運ばれていく隊員の棺の光景がまだ脳裏に残っている。
「アレン中尉が外に出られるとは珍しいですね」
後ろを振り返るとシャルルも甲板に来ていた。
他のバクゥのパイロットはいないようである。
「何か悩み事でも……いや、アレン中尉に限ってそれはありえませんね、失礼しました」
「いや、良いんだ。心配してくれただけでもありがたいよ」
アレンがそう言って微笑すると、シャルルは一瞬いぶかしげな顔を浮かべるが、すぐに元の表情に戻してこう提案した。
「ところで、今からバスケをやる人数を集めているんですけど、良かったら中尉も……」
<アレン、お休みの所申し訳ありませんが、へリックスのOSの再調整が終わったので格納庫に来て頂けませんか?>
甲板に設置されたスピーカーからアタランテの呼び出しが入った。
先ほどまで賑やかだった甲板の空気が急に重くなる。
この艦内での行動は全てアタランテに筒抜けという事を皆思い出したようだ。
「了解しました。直ぐに向かいます」
そうアレンは呟くと、シャルルに別れを告げ格納庫へと向かった。
<先ほどはオルレアン基地のMSパイロット達の事を考えていたんですか?>
「……」
廊下を歩いていると、またアタランテの声がしたがアレンは答えない。
<先に言っておきますと、今回は彼らのストライクダガーから回収したグーン戦のデータをOSに組み込んだのです。彼らの犠牲を無駄にしないためにもね>
アレンはやはり黙ったままである。そのまま廊下を歩いていると誰かから呼び止められた。
「やれやれ、上官に挨拶も無しとは感心せんな」
そう言って副艦長はアレンの方を見る。アレンは慌てて姿勢を正し、敬礼した。
「お疲れ様です副艦長、申し訳ありません」
「まあ、君は先日の戦闘の最前線にいたのだからまだ体調が万全に戻ってないのだろう」
「いえ、そんな事は」
「君のこれまでの活躍には私も感謝している。もうしばらく頑張ってくれ」
アレンは目を丸くした。副艦長からそう言われるとは思ってもいなかったからである。
「それでは、私は艦内を見回ってくるので失礼するよ」
副艦長はアレンの横を抜けて甲板の方へと立ち去って行った。