機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike   作:見ルシア

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PHASE-16 FAITH

 ザフト軍 ジブラルタル基地

 

 キャミッサーとロス機長はオルレアン基地攻略戦の報告をするため、ジブラルタル基地に召喚された。

 

「キャミッサー、このままではネビュラ勲章を頂くどころか集団左遷されてしてしまうぞ……」

 

「我々の次の任務はプラントでの輸送の護衛といった所でしょうか、お望みの内地勤務ですよ」

 

「茶化さないでくれ、たしかに以前は内地勤務を希望してはいたがこれでは……いや、今はそんな事よりもだな」

 

 キャミッサーの少し棘があるような言い方をロスが咎める。

 二人は先程まで今回のオルレアン基地攻略の失敗で叱責を受けていた。

 

「それよりもこれから特務隊にする弁明の文言を君が考えてくれ」

 

「ロス機長、まだ叱責を受けると決まった訳では」

 

「ロス機長それにキャミッサー隊長! 私、表彰されちゃいました! 今夜は私が『エール・リベルタ』の皆に基地クラブでおごりますね!」

 

 ロスとキャミッサーの会話を遮る様にアネットがはしゃぎながら二人のの方へと歩いてきた。手には賞状らしき物が握られている。

 彼女は別室でオルレアン基地のローエングリン砲の攻略に参加した功績で表彰を受けていた。

 

「今日はこのまま、基地見学にでも……と思ってたんですけど、そういう雰囲気ではなさそうですね」

 

 二人の様子を見て、アネットはバツの悪そうな顔をする。

 

「ああ、これから特務隊の方とお会いしなければならなくなった」

 

 そう言ってロスは先程受けた指示をアネットにも話す。

 キャミッサーもその話を聞きながらジブラルタル基地参謀の怒鳴っている顔を思い出していた。

 

「場所は第三ブリーフィングルームで時間は今から30分後、相手の所属は特務隊だそうだ」

 

「特務隊の!? 、一体どんな人なんでしょう?」

 

 ロスとアネットがこれから会う人物に関して話す中、キャミッサーは少し自分が蚊帳の外に置かれた気がした。

 

────

 

 第三ブリーフィングルームで待っていると例の人物が入ってきた。

 ロス機長の指揮下の元、敬礼を行うとその人物も身分を明かした。

 

「お会い出来て光栄です。『エール・リベルタ』機長テイラー・ロス、それとルッツ・キャミッサー、アネット・パッセル。私はFAITHのバルナバス・オールドリッチ管理官です」

 

 バルナバス管理官は北欧系の風合いと言った感じの人物で身体はすらりとしていたが、ひ弱というイメージでは無かった。髪は紫色で瞳は灰色である。

 

「こちらこそ、管理官殿、特務隊の方と伺っております」

 

「特務隊……そのあやふやな呼び方は止めましょう。先程も言ったように「FAITH」でお願いします」

 

Fast Acting Integrate Tactical Headquarters(戦術統合即応本部)

 プラント国防委員会直属の指揮下に置かれている。ザフトのトップエリート部隊である。

 

 お互いに簡単な自己紹介が済むとバルナバスは上座の席に座った。

 

「では早速ですが、話を進めさせて頂きます。まず、貴方の報告資料には全て目を通させて頂きました。直近の作戦参加はオルレアン基地攻略戦だそうですが、私はその結果について話に来たのではありません」

 

 どうやらまた攻略作戦失敗を咎められる訳では無いと知り、ロスは胸を撫で下ろした。

 

「そもそも貴方がオルレアン攻略戦に参加したのは成り行きで、本当の目的はこれだったんじゃありませんか?」

 

 そう言うとバルナバスは『十字架』のMSヘリックスと『犬小屋』地上戦艦ヴェンデロートの映ったパネルを見せた。アネットが以前撮った写真である。

 

「はい、たしかにこれらを追ってオルレアンまで来たのは事実です」

 

 ロスが答える。

 

「私が聞きたいのはこれからも貴方はこのMSを追うのか? という話ですよ。正直な話、これからは連合もMSを戦場に投入してくるのは間違いありません。これから幾多のMSが戦場に現れては消えていく事になるでしょう」

 

 ここでバルナバスはパネルの映像を次々と切り替える。そこには連合のMS、ストライク、イージスなどのG兵器やストライクダガーも写っていた。

 

「それなのに珍しいMSだから、または部下の仇だからなどと固執されては困るのです。もっと大局を見て行動して貰わねば」

 

「はあ……」

 

 ロスは呆気に取られた様子で何も言い返せない。

 これでは不味い。

 バルナバスは遠回しに追跡を止めろと言っているのではないかと思ったキャミッサーは発言の許可を求めた。

 

「バルナバス管理官、私からも発言してよろしいでしょうか?」

 

「どうぞ、ルッツ・キャミッサー」

 

「我々がこのMSを追っている理由は……たしかに仇を取る事も理由の一つではあります。ですが、それだけではありません。このMSには何か秘密がある。それを知るために追っているのです」

 

 ロスとアネットは心配そうに両者をそれぞれ見るが、その言葉を聞いてバルナバスは逆に表情を和らげた。

 

「なるほど秘密……知的好奇心ですね。であれば今後は我々の指揮下に入って頂く事になります。というのも彼らの目的は我々のターゲットと同じなのですから」

 

「それはどういう意味なのでしょうか?」

 

 思いがけない話にロスが質問する。

 

「私の隊はアイルランドにあるリマリック基地の調査を行っていました。この基地の周辺でNジャマーが見つかったという情報を受けたからです」

 

 また、パネルを操作する。

 

「更に調べた所、そのNジャマーは固い岩盤に挟まった状態となっている事まで判明しました。そしてこのNジャマーを取り出すための採掘機を運んでいるのが、どうやらあなた方が追っている『犬小屋』のようなのです」

 

 ロスは最初に追跡を決めた事を少し後悔し始めていた。キャミッサーは静かにバルナバスの話を聞いている。

 そして3人に対してバルナバスは最後の質問をした。

 

「もちろん、作戦への参加を拒否して頂く事も出来ます。我々FAITHには階級がありませんからね」

 

 ────

 

 バルナバスとの話が終わった後、小休止のためキャミッサー達は基地の空港ラウンジに来ていた。

 

「やりましたねロス機長、これで特務隊の一員ですね」

 

 アネットがロスをおだてる。

 

「これでは特務隊の下部組織に組み入れられただけじゃないか。しかし、一体何を指示されるのやら」

 

 そこに赤服の一団が通りかかった。

 その内の一人、藍色の髪でエメラルド・グリーンの瞳の青年に気づいたロスは思わず呟く。

 

「あれは、アスラン・ザラじゃないか? ザラ委員長の息子で、ラクス・クラインの婚約者の」

 

「ということは、彼らが奪取したG兵器のパイロットなのか」

 

 キャミッサーもそちらの方を見て驚く。まさかこんな形で会えるとは思ってもいなかった。

 

「え? 本当に!? 私、ちょっとサイン貰って来ます!」

 

 アネットはノートとペンを手に持ち、一目散にその一団に駆け寄って行く。

 

「何? 待てアネット、場をわきまえるんだ。キャミッサー、早く彼女を止めてくれ!」

 

 ロスがキャミッサーに頼むが、キャミッサーの方は少し考え事をしていて対応が遅れてしまった。

 気づいた時には既にアネットは何やら赤服の面々と話している。

 しばらく談笑した後に、ようやく戻ってきた。

 その腕には戦利品が抱えられている。

 

「年の離れた双子の妹の記念にあげたいと言って無理やりサイン貰っちゃいました。本当は妹も弟もいないんですけど」

 

 と罰が悪そうに笑った。

 

「まったく、一体何を話していたんだ? しかも、全員からサインを貰うとは……」

 

 ロスがたしなめる。

 

「まず何の話をしていたから説明しますね、初めは私の友達がラクス・クラインのバックダンサーをやってるって話から持っていったんです。あ、これは本当ですよ」

 

 アネットは信じてないな? と言いたげな表情をしたが、「まあ良いです」と話を続ける。

 

「でも、その話の受けがあまり良くなかったので、私の髪とアスランの髪色が同じと言う話をしたら、それが変に盛り上がっちゃって……あの髪色、私もなんですけど母親と同じだったんですね」

 

 コーディネーターは外見を自由に設定できるため、その気になれば親とまったく違う容姿にもする事が出来た。

 

「サインに関しては、その場の成り行きですよ。それにサインは3人からしか貰ってません。一人はなんかピリピリしてましたし」

 

 そう言ってノートから1枚を抜き出す。

 

「本命は『アスラン・ザラ』、この1枚だけです。あ、この人のサインも貰えて正解だったかな、なんか可愛かったし」

 

 そうアネットが見つめる先には『ニコル』の文字が見えた。

 

「後、この人が催促してたくれたおかげでサインを貰えたんですけど……私、やっぱりこれはいらないので、隊長にあげます」

 

 ノートからまた1枚抜き取りキャミッサーに渡す。

 そこには『ディアッカ・エルスマン』と書かれていた。

 

「では、早速皆に自慢して来ますので、私は先に戻ってますね」

 

 と、そそくさと空港ラウンジを出ていった。

 キャミッサーが貰った色紙の処分に困っていると

 

「キャミッサー、いらないのであればそれを私にくれないか?」

 

「?」

 

 ロスの突然の申し出にキャミッサーは虚を突かれる。

 しばしの沈黙の後、ロスは苦渋の表情を浮かべながらようやく白状した。

 

「私は……その……まだ一度も……彼女から贈り物を貰った事が無いのだ」

 

「ああ、そういうこと……」

 

 また沈黙が流れた。


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