機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
採掘基地は海上の上にあり人工島の様な感じであった。
ヴェンデロート以外にも駆逐艦などの戦艦が停泊しており、滑走路には大型輸送機の姿も見える。
艦が到着した次の日の明朝から早速、現場の発掘作業が開始された。
オルレアン基地から持ってきた採掘機を現場で組み立てた後、シールド工法で地盤中にトンネルを構築していく。
採掘作業は採掘機と工兵にほとんど任せているため、アレン達
「採掘機は無事に稼働してるみたいですね」
「ああ、ちゃんと目的の物があるところまで掘り進めてくれれば良いが」
アレンとシャルルは同じ班に振り分けられていた。二人ともヴェンデロート艦内の待機室でアラート待機中である。
「もう既に3日ですか……早いものですね」
シャルルはそう言うと軽く伸びをした。
既に採掘機が掘り進み初めてから3日間が経過している。予定では今日か明日にでも採掘機が
目標物の地点まで到達する見込みである。
そんな時、バクゥ隊のパイロットの一人が息を切らせて待機室に入ってきた。
「シャルル隊長!
そう言って部屋に入ってきた人物は慌てたように敬礼動作を行った。
リナルド・ハーティ。シャルルの部下の一人であり、彼もバクゥのパイロットである。
「リナルド、それは本当か?」
「はい、ただこれから
ここでリナルドはあっ……とアレンを見る。
「おいおい、アレン中尉の前でその態度は無いだろう」
シャルルが叱責する。
アレンは部下の非礼よりも、アタランテがドハティと揉めたと言う話の方が気になっていた。
何があったかをアタランテに聞く必要がありそうだ。
「シャルル少尉、リナルド少尉、俺はヘリックスの所に行く。何かあったら二人で対処してくれるか?」
リナルドが何か言おうとしたが、察したシャルルはその口を手で押さえるとこう言った。
「了解しました。任せて下さい」
「すまない」
アレンはその場を二人に任せると格納庫へと向かった。
────
アレンはヘリックスに搭乗すると早速アタランテを呼び出した。
<
「その事で、話があって来ました。何か揉め事が発生したと聞きましたが」
<そこまで知っているのなら話は早いですね。彼はNジャマーを海上に引き揚げたらすぐにアラスカのジョシュアに送る様に指示を出していたのです。私の解析を待たずにですよ>
それに対抗するために開発されたのがアタランテシステムであり、アレン達がはるばるアイルランドまで来たのもこのためであった。
<この事は当初の計画とは違うと、ユーラシア連邦から大西洋連邦に抗議文を送ってもらっています。ただ、私はこれから起こる別の問題の方を危惧しています>
「別の問題?」
アレンが尋ねる。
<
「奴等が仕掛けてくるとしたら……輸送中に? それとも……」
アレンは思案するが、どうとも言い切れない。
<どうやら、それを思案する時間も無いようです>
そうアタランテが言うや否や、基地内に警報アラートが鳴り響いた。
「総員、第一戦闘配備! 繰り返す! 総員、第一戦闘配備!」
副艦長の叫ぶ声がスピーカーから聞こえる。
「く、もうザフトが攻めてきたのか」
アレンは近くにいた整備員に整備用のサブアームとクレーンを移動する様に指示を出し、通信でオペレーターを呼び出した。
「アレン中尉だ、既にヘリックスに搭乗している。これより迎撃に向かうため、敵機の位置を送ってくれ」
「了解しました。反応は基地周辺の上空に8機、基地周囲の海中から6機が確認されています。では、ヘリックス発進どうぞ」
オペレーターの指示でカタパルトに乗ると、前方の扉が開く。
水中の反応という事はおそらく敵機はグーン……。オルレアン基地での嫌な記憶が甦るが、
その記憶を振りきるように発進シークエンスを完了させる。
「アレン・クエイサー、ヘリックス、出る!」
────
採掘基地内は既にあちこちで火の手が上がっていた。
停泊していた駆逐艦からの砲火をものともせず、沿岸からグーンが、空からはディンが次々と基地内に侵入を果たしている。
そんな中、グーンよりも一回り大きな緑色の
重装甲の上半身、そこから伸びる両腕の大型クローが一際目を引く。
「さて、ディンから降りてこの『ゾノ』でどこまで奴に対抗できるか」
今回キャミッサーはいつもの大気圏内用
前回のオルレアン基地戦でグーンのフォノンメーザー砲が例の
このゾノにも両手の掌部に同じ武装が取り付けられており、また地上での格闘戦能力も向上しているためバクゥ相手にも十分に対抗する事が出来る。
「こちらの準備は万全だ。最後はやはり私次第だな」
そう呟くと両手のフォノンメーザー砲の銃口を基地に向けた。
────
「水中に隠れやがって!」
先程までグーンと対峙していたシャルルが舌打ちする。
バクゥのビーム・トーチで切りつけようとした所、また海中に逃げられてしまった。
オルレアン基地の時とは違い、グーンは接近すると直ぐに海中に潜ってしまう。
水中に逃げられたのではバクゥの得意な接近戦に持ち込めず、射撃戦をするしかなかった。
<バクゥ隊はヴェンデロートの甲板に引き揚げを>
「なぜです?それではますます接近戦に持ち込めなくなります」
<既に足場をいくつか壊され、もはや地形的な有利はありません。それに、このままではこの基地は海の底に沈みますよ>
アタランテの指示にシャルルは異議を唱えるが、基地の各地で陥没や浸水が起こっているのも事実である。
「了解しました……隊長機より連絡、バクゥ隊は全機ヴェンデロートに一時撤退、甲板より援護射撃を行うぞ!」
────
ドハティは大型輸送機の作戦室から指示を出していた。既に
「そろそろ頃合いか、予定通りカラミティとレイダーにも撤退の連絡を入れろ。この機の守りも必要だからな」
Nジャマーの解析が完了すれば、解決されるのはエネルギー問題だけではない。
『核』の力が戻ると言うのはそれを利用した兵器も再び使用可能になると言うことを意味する。
そんな強力なカードを大西洋連邦がユーラシア連邦に簡単に渡す訳は無かった。
「あの機体の方はどうだ?戦力として使えそうかね」
ドハティは隣の参謀に尋ねる。
「はい、フォビドゥンの調整は万全です。ですがやはりパイロットが……」
リマリック基地に配備されたガンダムタイプの
GAT-X252フォビドゥンガンダムも本作戦のために同じく配備された内の1機である。
「まだ、安定しないのか?」
「安定はしておりますが、問題は我々の指示に従うかどうかと言った所でして、担当医達はStage4に上げるべきではと申しております」
しかし、フォビドゥンのパイロットに関してはある問題があった。
ドハティはザフト軍の遊撃部隊がリマリック基地に侵攻してきた時の事を思い出す。
その時、3機の評価試験も兼ねて最初の出撃を命じたが、結果は侵攻してきたグーン4機、ディン4機の内それぞれ半数を撃墜である。
問題はその後フォビドゥンのみ撤退命令を無視して執拗に追撃をした結果、バッテリー切れを起こした事である。その時フェイズシフトダウンしつつも残りのグーン2機を撃墜したようだが、この命令違反した上での戦果はとても褒められた物では無かった。
「その事なら、問題あるまい。敵を前にして撃つ 。それだけで十分ではないか」
参謀は顔をしかめた。
もう一度出撃させた時にも同様の事が起こり、今度は深海探査挺まで使ってサルベージするはめになった。
それで今まで出撃を停止させていた事を忘れた訳では無いだろうと思ったからである。
「もしもの時には奴を使う。少し勿体無いが敵中に放り込めば足止め位は働いてくれるだろう」
「ドハティ大佐、全ての準備が完了しました」
機長が全ての準備が完了した事をドハティに伝える。
「よし、直ちに機を発進させろ。目標はアラスカだ」
その号令を合図に大型輸送機は滑走路を走り出した。