機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
滑走路を飛び立つ大型輸送機の姿は沿岸からも確認する事が出来た。
それを確認したアタランテがオペレーターに
<グゥルを出して下さい。我々も輸送機を追います>
既に
だが、アレン達の追跡しようとするその行動もザフト側から見過ごされる訳は無かった。
「『十字架』、お前の相手はこっちだ!」
キャミッサーの駆るゾノがヘリックスの前方を塞ぎ、ヘリックスに向かって突進してくる。
ゾノはグーンと同じ水陸両用
アレンもヘリックスのビームトーチで迎え撃つ。
鈍い金属音と共にビーム・トーチと大型クローによる鍔迫り合いが発生し、接触回線でお互いの会話が聞こえるようになる。
「
ゾノが大型クローの爪を立てつつ、ジリジリとヘリックスに詰め寄る。ヘリックスは頭部のバルカンで牽制するが、この距離でも回避されてしまった。
「まさかその考えを撤回する事になるとは、そしてこの感じ……久しく忘れていた感情だ!」
「く、こいつザウート並みかそれ以上にパワーが」
ザウート戦の時は敵のマニピュレーターをクローアームで受け止めていたが、今のヘリックスは背のクローアームを支柱にしてようやく体勢を支えている状態である。
既に両足のマグネットアンカーも展開済みであるが、徐々に押し込められていく。
「この距離では厄介なミサイルも使えまい。オルレアンでの、いや、これまでの雪辱をここで精算させて貰おう」
「オルレアンだと!?」
キャミッサーの言う通り、この状態ではパラサイトストライカーの4連装ミサイルポッドだけではなく、隠しビームライフルも銃口を向ける事さえできない。
「これで終わりだ。出来ればディンで仕留めたい所ではあったがな」
キャミッサーが掌部のフォノンメーザー砲を発光させた。
アレンは咄嗟の判断でビーム・トーチから手を離す。
ビーム・トーチがフォノンメーザー砲による攻撃で爆発し、その衝撃で少しではあるがゾノとの距離を離す事が出来た。
「こいつは、あのディンの隊長機のパイロットなのか」
<どうやらその様ですね>
アレンは再び突進してくるゾノを前に、ヘリックスの腰部に格納されている対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダーを取り出し、両手に持つ。
今度は大型クローをアーマーシュナイダーをクロスさせて受け止める。
強い衝撃音が響き、短剣は直ぐに刃こぼれを起こした。
「それでは右腕のクローは防げても、左腕の方は防げまい、それともようやく背中の隠し腕を使う気になったか」
「く……」
完全に詠まれている。その事がアレンに焦燥感を募らせる。
キャミッサーが宣言通りゾノの左腕を突き出そうとする時、アタランテが口を開く。
<アレン、地形はまだこちらの味方をしてくれているみたいですよ>
キャミッサーは突然回線に入ってきた謎の声に一瞬だが戸惑った。
「まだもう一人、パイロットが乗っていたというのか?」
女性の声、どこか機械的で冷たいという印象をキャミッサーはこの一瞬で持った。
バンッ!!
不意の衝撃。
アレンがヘリックスの足元にクローアームを叩きつけて足場を壊したのである。
ヘリックスの足元が陥没し、機体は水中に落ちていく。
「水陸両用
キャミッサーはその行動の真意が理解出来ず、自らも水中に飛び込むべきかの判断が出来なかった。
「良くやったキャミッサー、後はこちらに任せてもらおう」
「待て、これをやったのは私ではない。まだ不用意に奴には近づくな!」
どうやら水中にいたザフト軍の兵士はキャミッサーがヘリックスを水中に落としたと考えたようである。
キャミッサーの警告もむなしく、水中にいた1機のゾノが泳いでヘリックスに近づいて行った。
へリックスの胴体部を両腕で掴み、掌のフォノンメーザー砲を発射しようとする。
<ようやくこれを使う時が来ましたか>
「ようやくだと……? 何!?」
ゾノのパイロットがその機械音声に対して反応しようとした時には既に機体が槍で貫かれていた。
対装甲パイルバンカー『ゲイボウ』、対PS装甲用の近接武装がここで効果を発揮したのである。
間を少し置いて、ゾノの爆発の衝撃で水柱が上がった。
「言わんことではない。奴はまだ水中にいるのか?」
キャミッサーは歯噛みする。ヘリックスではなく、先程のゾノが何らかの方法で撃墜されたのは明白であった。
一方のヘリックスは先程の爆発の衝撃でキャミッサーのゾノの位置から離れる事に成功する。
採掘基地を支えている支柱をパラサイトストライカーのクローアームで掴みつつ、上に登るとなんとか地上に戻った。
その時、要請していた
ヘリックスがそれに乗るとアタランテは艦に指示を出した。
<ヴェンデロートも輸送機の追撃をお願いします>
「この採掘基地を放棄せよと? それにまだ救護活動が……」
副艦長は渋るがそれをアタランテは一蹴する。
<既に時は一刻を争う状況です。それにもはや
「分かりました。救助活動はまだ活動可能な艦に任せて我々も大型輸送機を追います」
────
ヴェンデロートが採掘基地からの離脱を図っている頃、水柱を見たアネットのディンがキャミッサーのゾノの近くに着陸した。
「キャミッサー隊長、ご無事ですか!?」
「アネットか、こちらの方は大丈夫だ。そっちはどうだった?」
「不安材料だった緑色と青色の
緑と青の
しかし、今のキャミッサーの感心事はその新型の事ではない。
「空から『十字架』が見えなかったか?」
キャミッサーはあれから付近を見張ってはいたが、例の
「例の
グゥルまで用意していたという事実はキャミッサーを驚かせた。
アネットはそれに気付かずに話を続ける。
「基地の制圧はほぼ完了し、バルナバス管理官の仰っていた通りに進んでいますね。
アネットが感心した様に言う。
既に虎の子の2機の
「
キャミッサーはそう言って唇を噛む。
基地を制圧出来ても、目的である『十字架』を倒す事が出来なかったのであれば何の意味もない。だが、輸送機を追っているというのであればまだチャンスはあると言えた。
「アネット、私は輸送機を追う。そのディン借りるぞ」
「了解しました」
キャミッサーとアネットはお互いの乗機を交換する。
「そう言えば、バルナバス管理官から我々は深追いをするなと命じられていたのでは?」
アネットがゾノのコックピット内で思い出したように言うが、既にキャミッサーはディンに乗り離陸した後であった。