機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
レイダーの攻撃に対して、アレンは防戦一方となっていた。
<このままでは共倒れです。こちらから仕掛けますよ>
「しかし、友軍機を撃墜するのは……」
アレンは躊躇するが、その間にもレイダーがMA形態でこちらへと向かって来ていた。
機体下部の大型クローが光る。
「動きさえ止めれば」
アレンはレイダーと空中で交差する瞬間にヘリックスのクローアームを最大限に展開させ、レイダーをその真下から掴んだ。
その機体を捕らえられるも反撃を仕掛けようとレイダーはもがく。
その顔面から100mmエネルギー砲『ツォーン』からビームを一発吐くが、射角が取れていないためヘリックスには当たらない。
その細く短い光が最後の抵抗となり、機体は動きを止めた。
フェイズシフトダウンを起こしているにも関わらず、ビーム兵器を使用したため機体を動かすバッテリーも無くなったのである。
「上手くいったか……」
撃墜せずに済んだ安堵感からアレンは大きく息を吐いた。
<撃墜した方が早かったのですがね、これでは問題を棚上げにした様な物です>
アタランテはメインカメラを操作して輸送機をコクピットの画面に映す。
<ですが、今は輸送機の被害が心配ですね。高度も徐々に下がり続けていますから>
輸送機は各所に煙を吐きながら飛行を続けていた。これでは一度輸送機に着艦し、レイダーを降ろす事も出来ない。
ヘリックスを乗せているグゥルも流石に
アタランテが言う「問題を棚上げにした」とはこの事を言っているのであった。
「しかし……」
<アレン、あなたの行動を責めているのではありませんよ。これが最善の選択だったと言うのであれば私も同意します。そして>
アタランテは話を変える。
<先程、輸送機から降りたカラミティも既にレイダーと同じバッテリー切れを起こしていると考えて良いでしょう。先行したフォビドゥンが
カラミティ。
ソラス少尉も先程のレイダー、ヴァスプ少尉と同じような錯乱状態になっているのだろうかとアレンは思った。
そしてフォビドゥン。
先程の赤いガンダムタイプの
<この様子では輸送機の方には一度採掘基地に戻って貰った方が良いでしょう。一応忠告はしておきましょうか>
そう言ってアタランテは輸送機との回線を開いた。
────
オリアスクには後方でレイダーとへリックスの戦闘が行われていた事など知るよしも無かった。
今もただ目の前で背を見せた敵を狙うのみである。
「見つけたあああ!」
戦線を離脱中のジン2機とディンを見つける。
その内の1機、ディンに照準を合わせ、それに向かってバックパックからビームを放った。
ビームは右に一度くねった様に曲がり、ディンの頭部シェルに直撃する。
その衝撃でディンは高度と飛行速度が下がるが、飛行はまだ可能であった。
「追手か、既にバッテリーも少ないが」
それを見たジン1番機のパイロットは機体を反転させるとジェグスに装備されているビーム砲の照準をフォビドゥンに合わせる。
「分隊長、他部隊のディンの事など放っておいても良いのでは? 今は
「分かっているベック、お前は先に行ってくれ。本作戦を完遂させるためにも、ここで奴を仕留めなければならん」
ジン3番機のパイロットの忠告を聞きつつも、分隊長はフォビドゥンへと向かっていく。
だがビーム兵器であれば、有効打を与えられるのは先程の戦闘で既に証明済みであった。
「落ちろ! ナチュラルの赤い
ジェグスから放たれた2本のビームがフォビドゥンを襲う。
フォビドゥンはバックパックを上から被る様に展開するとビームを軽く左右に受け流した。
「ビームを弾いただと!?」
分隊長が驚いている間に、フォビドゥンは一気にジンとの距離を詰める。
「貴方の機体、肥っているけど味の方はどうかしら!」
ジンもレーザー重斬刀を構えるが、赤い死神が振り下ろした大鎌はその重斬刀もろともジンの機体を切り伏せた。
ジンの機体が空中で爆発する。
「不味い。見た目だけで、やはり中身はガリガリと言った所かしら……」
オリアスクは霧散していくジンの残骸を見てがっかりした様に言うと、すぐさま追撃を再開した。
程なくして先程の攻撃で頭部を失ったディンを見つける。
もう1機のジンは先に行ってしまった様でその周辺には見当たらない。
「今度は上手く捌いてえぇ……な!?」
バックパックの右方シールドが被弾する。
意図しない方向からの攻撃を受け、フォビドゥンは体勢を崩す。
オリアスクが思わずその攻撃のあった方向を見上げると、新たなディンが飛来してくる所であった。
────
「こちらルッツ・キャミッサー、援護に回ります」
キャミッサーの駆るディンが90mm対空散弾銃より放ったスラッグ弾がフォビドゥンのシールドを直撃した。
スラッグ弾とは散弾銃で本来複数の弾を一斉に発射する散弾とは違い、散弾銃で発射可能な散弾ではない一発弾の事である。
拡散しない分、散弾よりも威力が高く、貫通力も高い。
「援軍の後詰めの部隊か、こちらはラビ隊のネイピア・ネベルだ。とは言ってもラビ隊長も他の奴等も落とされちまって、もう俺しか残ってないがな」
ディンのパイロットからの通信が入る。
ここでキャミッサーは相手が特務隊の所属では無いことに気づいた。
「私はその後詰めの部隊ではない。
「
ネベルはさらっと言った。
キャミッサーは特務隊が他部隊を見捨てる行動を取るとは思えなかったが、これも
「我々も追撃に参加できていれば、この様な被害は……ともかく、その指定ポイントまで援護する。そちらはまだ飛べるな?」
「助けてくれるのか? よろしく頼むぜ、キャミッサーさん」
「さん付けはやめてくれ」
「キャミッサーさん」という言葉の響きで一瞬フランキーの事を思い出したからである。
「それじゃキャミッサー隊長で、あんたが俺の新しい隊長だ。どこまでも着いて行かせてもらうぜ!」
「その呼び方の方が慣れているからな、助かる」
ネベルの馴れ馴れしさに、若干の不快感を抱くも、キャミッサーは散弾銃をリロードしつつ高度を上げ、自らが殿を担う。
先程の発砲で稼いだ赤い死神との距離は既に無くなっていた。
「あら? 七面鳥の数が増えたわね、叩けば増えるって奴かしらああぁ!?」
オリアスクはそう叫びながら大鎌を振り回すが、キャミッサーのディンには当たらない。
「あまりにも動きが単調だな、これに多くの同胞が葬られたとは思えんが」
撤退戦であれば、相手との距離を出来るだけ離す様にする物だがキャミッサーは逆にフォビドゥンとの距離を踏み込めば格闘戦が出来る位まで詰めていた。
そのためオリアスクもわざわざバッテリーを大幅に消費するビーム砲を使うのではなく、格闘を仕掛けている。
しかし、キャミッサーにとってフォビドゥンの動きは大降りが多く、動きは予想しやすいと言っても良かった。
「対抗手段として持ってきた武器が時間稼ぎにしかにならないとは、なんとももどかしい所だな」
キャミッサーはそう言いつつも、散弾銃から再びスラッグ弾を発射した。
今度はフォビドゥンの真っ正面に当たるが、それでも相手の動きを押し止めただけで、撃墜には至らない。
頼みのスラッグ弾でも効果があまり期待できないのであれば、既にこちらの攻撃手段は無い。
既に指定ポイントへと向かうしかこの状況を打開する手段は残されていなかった。
────
一方、その指定ポイントに先に到着していたバルナバスは既にアガシー(ボズゴロフ級大型潜水母艦)に乗艦し、ある機体のコクピットの中にいた。
「バルナバス管理官、
「艦長、その必要はありません。彼らは仇討ちの事を考えているのでしょうが、そんな感情はこの場には不要であるという事を示すためにも私が再び出る必要があるのです」
艦長からの進言をバルナバスは軽く断った。
他部隊から連れてきたディン部隊が全滅するのは想定の範囲であったが、虎の子のジェグス部隊にまで被害が出たのは自身の見通しの甘さによるものとバルナバスは思っていた。
その清算は自分自身でやるべきというのがバルナバスの心情である。
「『十字架』の
バルナバスがヘリックスに関して考えているとオペレーターからの通信が入った。
「接近する味方機の反応を確認しました。距離88、機種特定……ディン2、その後方にフォビドゥンです!」
オペレーターからの報告にバルナバスは少し驚いて言う。
「おや、残っていたディンは1機のみだと思っていましたが」
オペレーターに再度確認の通信を入れる。
それぞれのディンの識別を聞いてバルナバスは苦笑した。
「キャミッサー、貴方はまるで『十字架』に取り付かれているみたいですね。それにお似合いの死神まで連れて来るとは」
当初はあまりこの機体の目撃者を増やしたくないと思っていたのであるが、考えが変わった。
新型の
「蜘蛛の糸を垂らしてあげるとしましょう。『アラウクネ』を出します。ハッチを開けてください」