機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
「あなた、少しお利口な七面鳥さんみたいだから食前の祈りを捧げる時間を上げようかしら」
オリアスクは冷笑する様に言うと、フォビドゥンを後退させ、自らディンとの距離を取る。
その後、大鎌を右手に持ちかえ、左腕部に内蔵されている大型機関砲『アルムフォイヤー』をキャミッサーの方に向けて構えた。
その砲門を見たキャミッサーは流石に表情を変え、思わず叫ぶ。
「大型のバルカン砲だと!? あんなものまで装備しているのか」
キャミッサーは直ぐに回避行動を取るが、115mmの大口径機関砲から放たれる弾の威力は標準的な75mmバルカン『イーゲルシュテルン』の比ではなく、その一斉掃射により、徐々にディンの装甲が蝕まれていく。
数秒でディンの6枚あるウイングの内、2枚に大穴が空いた。
「隊長! こっちは機体を軽くするためにミサイルを全て撃ち尽くして、散弾銃も捨てちまったんだ。援護は出来ないが、大丈夫か!?」
ネベルが詫びる様に言う。彼なりに心配してくれている様であった。
「気にするな、回避だけに専念してくれれば良い。ここまで来て撃墜されたのでは話にならないからな」
元から援護は期待していなかったが、既にこちらの機体の方が危険な状態に成りつつあった。
「話にならないか……」
この状況にも関わらずキャミッサーは苦笑した。
このままでは共倒れも時間の問題である。
バシュン!
フォビドゥンの斉射により、ついにキャミッサーのディンのウイングの1枚が剥がれ落ちた。
さすがにもう駄目かと思われたが、ネビルが前方に一筋の希望を見つけた。
「隊長、あの潜水空母が目標の『アガシー』だ」
キャミッサーも前方に浮上しているボスゴロフ級大型潜水母艦の姿を認める。
「ようやくか、あの機体は?」
キャミッサーはその潜水艦から発進してくる機体に目を奪われた。
黒と紫を基調とした
その頭部はジンやシグーと似たようなトサカ付きのモノアイ、背中のバックパックから生えている4本腕が特に目を引いている。
「ルッツ・キャミッサー、ここからは『アラウクネ』が引き受けます」
その
「ところで、作戦開始前に輸送機からの
アラウクネに搭乗しているバルナバスは命令違反をしたキャミッサーにたしなめるように言った。
「申し訳ありません、例の『十字架』がこちらへと向かったので障害になるのではないかと」
キャミッサーとしてはその通りなので返す言葉も無い。
「まあ良いでしょう。あなた方は『アガシー』へと向かってください。あの機体は私が相手をします」
バルナバスが命令違反を不問としたのは、キャミッサーのおかげでディン部隊の全滅を免れたのも事実であり、その事を考慮したからである。
詰問が終わると、バルナバスはアラウクネのモノアイをフォビドゥンの方へと向ける。
対するオリアスクは突如として現れた
「あら、七面鳥から蟹に変わったのかしら?」
そして、再び大鎌を両手持ちにすると、アラウクネに向かって飛びかかっていく。
「まあ、食べられればどちらでも良いんだけど!」
一方のアラウクネは右腕の爪を構えるとそこから紫色の光を伸ばす。
内蔵型ビームサーベルが大鎌を受け止める。
レーザー重斬刀の時とは違い、今度は鍔迫り合いが起こった。周囲に火花が飛び散る。
「蟹のくせに武器だけはマシな物を用意したようね」
「私は腕を切られた礼を返しに来たまでですよ」
オリアスクはここで相手が最初に会ったディンのパイロットと同一人物であると言うことに気づく。
両者が再び離れると、バルナバスはアラウクネのバックパックの腕から網状の物体をフォビドゥンに向かって射出した。
「ここは搦め手を使わせて貰いましょう」
突然アラウクネから発射された網目状の物体「ヒートネット」にオリアスクは反応する事が出来ず、フォビドゥンはそれを頭からを被ってしまう。
「網? こんなもので動きを止めようなんて」
オリアスクは悪態を吐くが、もがけばもがくほどヒートネットが絡まり、身動きが取れなくなる。
そして、ブースターの吸入口のファンにネットの一部が入り込み、メインブースターが停止する。
「ブースターに異常!? まさかこんな、ワタシガァァァ!」
推力を失ったフォビドゥンは海に向かってまっ逆さまに落ちていった。
その様を見届けると、バルナバスはアラウクネのビームサーベルの光を消す。
「こちらバルナバス、敵機を無力化しました」
バルナバスは『アガシー』に敵機の撃墜を報告する。
「ルッツ・キャミッサー達は無事に『アガシー』に着艦できたようですね」
アラウクネとフォビドゥンの戦闘の最中、キャミッサーとネベルのディンは『アガシー』に着艦していた。
「はい、2機共収用は完了しております」
それをオペレーターに確認すると、バルナバスは『アガシー』に次の命令を出す。
その命令とは予備のジェグス隊を発艦させる事であった。
「さて、イレギュラーを排除しに行きますか」
バルナバスはジェグス隊が出揃うと、再び輸送機の方向へとアラウクネを向け、追撃の芽を摘みに向かった。
────
<まだその状態で追撃を続けると言うのですか>
「当然だ、
アタランテは煙を出す大型輸送機に撤退を促すが、ドハティ大佐は聞く耳を持たないようであった。
「それと、レイダーは今すぐこちらに返して貰おう。先程のレイダーによる攻撃は機体トラブルによるものだ。今すぐ検証する必要がある」
<機体トラブルですか>
向こう側としては先程の戦闘の不手際は機体トラブルで片付けるようであった。
<今にも落ちそうな輸送機に着艦しろと? 無茶を言わないでください>
アタランテは今の状態の輸送機に着艦する事は危険であると判断し、それを拒否した。
「貴様、AIが人間に逆らうのか!」
ドハティが通信越しに怒声を浴びせる。
その時、ヘリックスのレーダーが味方艦の反応を捉えた。
採掘基地から出港した『ヴェンデロート』がようやく追い付いたのである。
<……話になりませんね。ひとまず『ヴェンデロート』で補給を受ける事にしましょう>
アタランテは通信を一方的に切ると、ヴェンデロートへとヘリックスを向け、着艦動作に入った。
ヘリックスはレイダーをクローアームに掴んだ状態でヴェンデロートへと着艦する。
そしてレイダーを降ろすと、すぐさまヘリックスに補給が開始された。
「ヴァスプ少尉はなぜこちらに攻撃を……」
ヘリックスのコックピット内でドリンクを飲みながらアレンはリマリック基地で会った時の事を思い出した。
やはり、あの様な暴挙を取るとはどうしても思えない。
そのレイダーの方を見るとコックピットからパイロットを運び出そうと、整備員が作業している所だった。
その中に軍医のソール・スタンの姿をアレンは見つける。
様子を見ていると、オペレーターから敵機体を発見したとの報告が入った。
「イエロー100、マーク60に熱源反応! 熱紋照合、ジン3、それと1機は……データにありません!」
「またデータに無い機体? ザフトの新型なのか」
相次ぐ新型の出現にアレンも戸惑いを隠せなかった。
先程の戦闘の時のジン部隊もだが、アレンは妙だなと思う気持ちが強くなる。
<アレン、新型と言うだけで驚いていたらキリがありませんよ>
「たしかにそうですが」
アタランテが忠告する。
「ヴェンデロートからの映像を回します!」
オペレーターからの指示でコックピットの画面が切り替わる。
切り替わった映像には先程と同様の装備をしたジン3機によるジェグス部隊と、その少し上空にグゥルに乗るザフトの新型