機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
「ふむ、やはりこの機体は対
今のアラウクネの主武装は近接戦闘用のクローとビームサーベルである。
バズーカの様な火力のある火器は搭載されていない。
「戦艦と輸送機はジェグス隊に任せるとして」
そう思っていた時、バルナバスは地上戦艦の前方から飛び立つ機影を確認する。
補給を終えたヘリックスがグゥルに乗り再度出撃したのである。
「ようやく来ましたか、『十字架』の
アタランテは瞬時にアラウクネの分析を行う。
<ビーム兵器にあの装甲はどうやらPS装甲、G兵器の技術を流用したのでしょう>
「PS装甲……ビームライフルを当てていくしか」
実弾兵器であるレールガンもミサイルも効かないのであれば、取る手段はやはりビーム兵器しかない。
アレンはヘリックスのビームライフルを右手に構えさせると、アラウクネに狙いを定めてビームを数発撃った。
対するバルナバスはアラウクネのビームサーベルでビームを斬り払い、攻撃を防いだ。
「やはりビームライフルを持っていましたか」
バルナバスはそう言って、アラウクネが乗っているグゥルをヘリックスの方へと向ける。
アラウクネのモノアイとへリックスのツインアイの眼が合う。
「他のG兵器と同じヘッドタイプとは」
アラウクネはバックパックの格闘用クローの腕2本をヘリックスに向かって射出する。
「腕を飛ばしてきただと!?」
アレンはビームライフルで打ち落とそうとするが、腕は途中で見えなくなった。
「消えた!? くっ!」
不意に空中から二本のビームサーベルが現れ、1本がヘリックスの左肩を切り裂く。
もう1本は後からバックアタックを狙おうとしていたようだが、アタランテがクローアームを操作して防いだ。
<これはミラージュコロイド・ステルスですね鹵獲したブリッツからデータを流用したのだと思われます>
ミラージュコロイドを用いた電磁光学迷彩技術。
これを使用すればあらゆる可視光線や電磁波を機体の後方に屈曲させ、機体色を周りの風景と同じ、いわば透明に見せる事が出来る。
<敵の攻撃は見えませんが、対策の手段はあります>
アタランテがパネルに映し出されていたセンサーの表示を変更する。
<この重力下で、あれだけの重量物を飛ばしているのです。ビームライフルで撃つビームよりも攻撃は遅いですよ>
「分かりました。やってみます」
対するバルナバスは先程のミラージュコロイドと有線格闘用クローを使った攻撃の戦果に疑問を持っていた。
「二本ともクリーンヒットを狙えると思ったのですが、上手く対応されてしまいましたね」
それはまるでバックパックと本体が別の指揮系統で動いているような……
そう考えているとヘリックスから牽制のビームが飛んできた。
「ともあれ、もう一度試してみる必要があるようですね」
再びバックパックから腕を射出し、ミラージュコロイド・ステルスをその腕に纏わせる。
<来ましたよ、音を頼りに位置を把握します>
ヘリックスのソナーから位置を把握し、4連装ミサイルを発射する。
ミラージュコロイド・ステルスの展開中は電磁的・光学的にほぼ完璧な迷彩を施すことが可能とは言え、音紋までは遮断できない。
また、コロイド定着に用いる磁場の関係からPS装甲は同時に使用できなかった。
何もないと思われた空間でアラウクネが射出中の腕1本にミサイルが着弾し、爆発する。
「ミラージュコロイドを見抜いたのか!?」
バルナバスは驚く。そして急いで射出中の腕を戻した。
もう1本の腕はすぐさまミラージュコロイド・ステルスを解除し、PS装甲を展開したため撃破されずに済んだ。
「こう瞬時に対応されてしまうのでは、逆に成す術がありませんね」
バルナバスはそう言うとアラウクネは射出中の腕を収納し、機体の体勢を建て直す。
その時、予期せぬ方向から警告アラートが鳴った。
ピピッ!
ヘリックスとは別に、アラウクネ眼下の水中から熱源反応が現れる。水面が隆起し、その原因の正体が姿を現した。その姿を見てバルナバスは思わず呟く。
「フォビドゥン? ここまでしぶといとは」
撃墜されたと思っていたフォビドゥンだが、今の今まで潜水し機会を伺っていたのである。
「キサマアァァァ!」
オリアスクは叫ぶとバックパックのレールガンをアラウクネに向けて構え、高速弾を発射する。
弾丸はアラウクネの上半部に直撃するが、PS装甲であるため、実体弾ではダメージを与えられない。
「待て、フォビドゥンのパイロット! 輸送機の近くで戦闘を行うな!」
アレンはフォビドゥンの攻撃を止めようと通信を入れる。
アラウクネの位置は、丁度フォビドゥンと大型輸送機の間に挟まれる形となっていた。
最初の2発は敵機に当たったものの、この状態でフォビドゥン側から攻撃すれば、輸送機への直撃は免れない。
「落ちろ!!」
が、オリアスクはその忠告を無視し、フォビドゥンがバックパック両側に付いているレールガンを連射しつつ、続けて『フレズベルグ』からビームを放った。
レールガンの実弾2発がアラウクネを直撃するが、これも機体に傷を付けるにも至らない。
だが、続けて発射されたビームがアラウクネの右肩を抉った。
アラウクネの右肩部が吹き飛ぶ。
「ふ、また右肩を持っていかれたか」
バルナバスが呟いたその直後、バンッ! とアラウクネの後方で爆発音が鳴った。
アラウクネを掠めたビームが大型輸送機の正面に直撃し、爆発を起こしたのである。
バルナバスもフォビドゥンの行動に驚く。
「これは……まさか向こうからやってくれるとは思いませんでしたね。ジェグス隊に伝達、戦果は取れました。撤退しますよ」
フォビドゥンの砲撃により、致命傷を受けた大型輸送機はその体制を垂直にすると真上から海に突き刺さっていく。
続けて水しぶきと爆発が起きると、その姿を海の藻屑へと変えていった。
地上戦艦『ヴェンデロート』のブリッジでホバートはまさかの光景に蒼白になっていた。
「ま、まさか大型輸送機が落ちるとは、ドハティ大佐は……?」
「救助挺を準備が出来次第発進させろ! 採掘基地とリマリック基地にもこの状況を知らせて救助を要請するんだ」
艦長の代わりに副艦長が救助の指示を出す。
「ホバート艦長、空中哨戒のためにスピアヘッド2機を出しますが、よろしいですね?」
「わ、分かった。許可する」
ホバートは顔の汗を拭いながら承諾した。
副艦長は沈み行く大型輸送機が表示されているパネルに再び向き直りると、一つため息をついてからこう言った。
「まさか味方機に撃墜されるとは、一体どうなっているというのか」
────
数時間後、大型輸送機は北大西洋の海に完全に水没してしまった。
その後も3日間程、『ヴェンデロート』や生き残りの駆逐艦は付近の捜索を続けた。
が、救助できたのは数名足らずであり、ドハティ大佐を含む多くの隊員が今だに見つかっていない。
「ホバート艦長、これ以上の捜索はもはや無意味かと、我々も一度リマリック基地にまで戻りますか?」
副艦長はホバートに捜索打ちきりの決断を迫った。
「たしかに、もう生存者の救出は望めんだろう。本日を持って捜索を打ち切るとしよう」
「了解しました。捜索活動中の隊員にもその事を伝達します」
ホバートは重い顔で苦渋の決断を下すと、艦長席の椅子に座り込み、帽子をテーブルに置いてから両手で頭を抱えた。
「結局、
「艦長……気を確かに持ってください。まだ戦争は終わっていないのですから」
落胆するホバートに対し、副艦長が声をかける。
重い雰囲気が漂うが、この状況でもアタランテは次の命令が来ている事を伝達する。
<その通りですよ副艦長、既に上から次の指示は来ています。我々の次の目標はアラスカです>