機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
落胆するホバート達を他所にアタランテは次の作戦の指示が来ていた事を伝えた。
「アラスカ?
は一体どういう意図で……」
副艦長はその指示について再度聞き直す。
アタランテはいつもの様に感情の無い声で答える。
<これはユーロ会議からの指示です。現在地球連合軍の本隊はパナマ防衛の準備を進めています。我々は後顧の憂いを断つための備えという訳です>
ユーロ会議はユーラシア連邦の最高会議の意思決定機関である。
末梢の
同日夜、ヴェンデロートは救助活動を打ち切るとアラスカへと舟先を向ける事となった。
────
次の日の夜、ホバートと副艦長、それに軍医のソール・スタンは新型ガンダムの3人のパイロットに対する今後の対応について話あっていた。
「まさかあのパイロット達がナチュラルでは無いとはな、『生体CPU』と言うのか」
ホバートが手元の資料を見て言った。
「強化されているだけで元はナチュラルですよ、アタランテの入手したデータによれば生体CPUはMSを動かすための部品の事を示す言葉の様です。より詳細には『ブーステッドマン』と区分されているみたいですがね」
ソールが訂正する。
彼らにCTスキャンを行った結果、脳内だけでなく体内の各所にマイクロ・インプラントが埋め込まれている事がアタランテの解析で判明したのである。
またカラミティ、レイダー、フォビドゥンのデータを解析した結果、彼ら3名が『生体CPU』と呼ばれるMSの部品として扱われている事も判明した。
ホバートがソールに尋ねる。
「ソール軍医、3人の様子に関してはその後どうなっている?」
「ザナキス・ソラス少尉、マーク・ヴァプラ少尉に関しては現在医務室で療養という名目で軟禁しております」
味方機に攻撃をしかけたフォビドゥンとレイダーのパイロットであるヴァスプは本来であれば拘束すべきであるが、大西洋連邦とユーラシア連邦の所属の違いから無下に扱う訳にもいかなかった。
「また、ブーステッドマンの運用に必要なγ-グリフェプタンもアタランテが指定する分量を与えた上で監視を昼夜問わず付けております」
「運用か、あまり好ましい言い方ではないな。それに生体CPUを維持するための薬がなぜ我が艦に備えられていたのですかな?」
副艦長は怪訝な表情を浮かべてソールの方を見た。
「失礼しました。アタランテの指示はそのまま言った方が良いかと思いまして……薬に関しては医療用でたまたま持ち合わせていただけですよ」
ソールは慌てて弁明する。
「ところで、問題はフォビドゥンに乗っていた女性パイロットの方なのですが」
そう言ってソールは手元のカルテを見た。
「まだ階級氏名も判明していないのか?」
副艦長が尋ねる。
ソールは頭をかきながらその質問に答えた。
「それに関してはアタランテが調査済みです。ホオズキ・オリアクス、階級は少尉、彼女も他2名と同じ時期にリマリック基地に配属されたようです」
「彼女も他2名と同じようにブーステッドマンなのか?」
「はい、たしかに彼女もブーステッドマンでした。問題なのはアタランテが診断した結果、『コーディネーター』という結果も出ちゃいまして……」
「何、コーディネーターだと!?」
ソールからの報告にホバートは驚く。
「つまり、ホオズキ少尉はブーステッドマンとコーディネーターの二つの特徴を有していると?」
副艦長も報告を聞き返した。
「まあ、そう言うことになりますかねえ」
ソールは困惑した表情で答える。
「ともかく、この件は伏せて置いた方が良いな」
ホバートはそう言うと場を締めくくった。
────
「面会謝絶か……」
先程までアレンはソラスとヴァスプが収容されている病室の前にいた。
「アレン中尉は直接被害を受けた当事者ですからお気持ちも分かりますが、ここは抑えて下さい」
だが、病室に入ろうとした所を看護師に止められてしまったのである。
アレンとしては特に攻撃を仕掛けてきた事の非を責める訳でもなく、ただ単に見舞いに来たと言うだけだったのだが、追い出されてしまう形となってしまった。
「お疲れ様です。もしかして彼らを見舞いに来られていたのですか?」
呼び掛けられた声に振り返ると、シャルルが後ろから歩いて来ていた。
「ああ、断られてしまったがな」
「それなら良かった。彼らはナチュラルでは無いという噂が艦内で出回っていますし、あまり関わらない方が良いですよ。まあ、アレン中尉なら既にアタランテから詳しく聞いているとは思われますが」
アレンはレイダーとの戦闘中にアタランテがヴァスプの事を『ブーステッドマン』と呼んだ事を思い出した。
「いや、こっちもアタランテからはその噂以上の事は聞いていないな」
「そうですか……自分は彼らをコックピットから運び出すのを手伝ったのですが、あの様子はたしかに普通じゃありませんでした。彼らに関わるとまた変な噂を立てられてしまいますよ」
「また変な噂を立てられる」というのをアレンは気になったが、当のシャルルは心配そうな顔をしていたので話を合わせる事にする。
「そうだな、彼等への対応は衛生に任せる事にするよ」
シャルルはその返事を聞くと表情が明るくなった。
「それが良いと自分も思いますよ。では、失礼します」
立ち去るシャルルを見送ると、アレンはもう一度病室の方を見て自分も部屋へと戻って行った。
────
アラスカ
地球連合軍の統合最高司令部が置かれている基地である。
「入港してからもう5日間もこの状態とは、艦内待機はいつまで続くのやら」
留守を任されている副艦長がブリッジでぼやく。
艦がここに到着してから既に5日が経過している。
基地に到着した当日にフォビドゥン、カラミティ、レイダーの3機のガンダムは接収され、ソラス少尉とヴァスプ少尉は艦を降りた。
それからはホバートと付き添いの隊員2名がアラスカ基地上層部との交渉のために艦を出るだけで、他の艦員は艦の外に出ることすら許されていない。
「ところで、オリアスク少尉だけ他2名と違って艦を降りる事が出来なかったのはやはりコーディネーターという事が関係しているのでしょうか?」
副艦長は思っていた疑問をアタランテに尋ねた。
<十中八九、それで間違いありません。彼等としても対応を決めかねている。もしかしたら、このまま厄介払いしたいのかも知れませんね>
フォビドゥンのパイロットであるホオズキ・オリアスク少尉は処分が決まるまで、引き続きこの艦内で監視と言う事になっていた。
「副艦長、ホバート艦長達がお戻りになられました」
オペレーターがホバートが戻ってきた事を伝える。
「そうか、何かしら進展があれば良いが」
ホバートがブリッジに入ってくると、さっそく副艦長はホバートに尋ねた。
「ホバート艦長、お疲れ様でした。何か進展はありましたか?」
「ああ、艦内待機は今日までだそうだ。行動区域に制限を設けられたがね」
艦内待機が解除されるという情報はブリッジ内を賑わせた。どこからともなく拍手が起こる。
「それと、他にも皆に伝えねばならん話がある」
アークエンジェルが明日入港するという情報、パナマ基地防衛のために主力のほとんどか出払っているという事、その穴埋めのためにユーラシア連邦から兵力を結集している事が伝えられた。
「アークエンジェルですか、一度実物を見てみたいと思っていました」
副艦長が言う。
「私も許可が降りればブラックホール排気システムを見せて貰いたいと考えているよ。この艦のエアコンはたまに効きが悪い時があるからね」
楽観的にホバートは答える。
が、内心では許可など降りる訳が無いと思っていた。
咄嗟に以前アタランテから聞いたアークエンジェルについての情報の事を思い出したのである。
ストライクのパイロットがコーディネーターだということ。
体裁を気にするアラスカの上層部がアークエンジェルのコーディネーターに対してどういう対応をするのか、まだ読めないでいたのである。
流石に直ぐ様排除する様な真似は行わないだろう。であれば軟禁して飼い殺しか……
「しかし、この劣勢の状況で貴重なパイロットを遊ばせておくと言うのも不自然な話か」
それに既に我々もコーディネーターをこのアラスカに連れて来てしまっている。
ホバートは考えても仕方がないと言う様に首を振ると、前を見つめた。