機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
5月2日、アークエンジェルが入港したとの連絡がヴェンデロートにも伝わった。
しかし、入港したメインゲートが立入禁止区域に指定されたため、艦員は誰も実物を見る事は出来ていない。
それから3日がたった頃、アレンはいつものようにへリックスのコックピット内で機体のチェックを行っていた。
<先程、アークエンジェルのこれまでの軍務についての査問会が終わりました>
アタランテがどこからか入手した情報をアレンに話し出す。
<アークエンジェルはストライクをアラスカに連れて来る事が出来なかったみたいですね。代わりにバスターを取り返したみたいですが>
「アークエンジェルがあの『砂漠の虎』を撃破したという話はオルレアンを出る時に耳にしましたが、その後何があったのですか?」
アレンはアタランテに尋ねる。
<ええ、ブリッツを撃破しましたが、イージスと相討ちになっています。ストライクのパイロットはMIAの様です>
MIAとは戦闘中行方不明の事である。
アレンは少し重い気分になった。
「コーディネーターとは言え、一度会ってみたかったな」
種類は違えど、ストライカーパックシステムを使っている者同士として話を聞いて見たかった。
が、生きてアラスカまで来られていても面会すら叶わなかったろうとアレンは納得する。
<ところで、そのコーディネーターをストライクに乗せた事を軍司令部は重く受け止めているようですね>
「え?」
アタランテの思わぬ一言にアレンは驚く。
<忘れたのですかアレン? 彼等がアルテミス陥落の原因を作った事を、この作戦が開始される前に話したはずです。そもそもヘリオポリスの崩壊から始まり、第8艦隊を全滅させてしまった。これがストライクにコーディネーターを乗せ、もたらした結果ですよ>
「それは……しかし、彼は多数のザフト軍
アレンはストライクの戦果について言った。
<ええ、『砂漠の虎』を撃破したのも、奪取されたG兵器の内2機を撃破、1機を回収したのも彼等の功績です。ですが、彼等の目的はストライクをここに連れて来る事でした。それに失敗した。これが結果ですよ>
これまでずっとアタランテと行動を共にしてきたアレンだか、ここに来てアタランテの真意が読めないでいた。
一体、彼女は何を伝えようとしているのか。
<そしてここにも、今までの行動が疑問視されている部隊がいますね>
アタランテが言っている部隊とはこの艦の事に他ならない。
その一言にアレンは戦慄する。
「!? 、まさか我々が? 我々は幾度もザフトと交戦し、戦果を重ねてきました!」
アレンは抗議する様に言った。
たしかに
また自分達はここに来るまでの道中で度々ザフト軍を撃退してきた。
その事はどうなるというのか。
アタランテはそれは問題ではないとでも言う様に台詞を連ねる。
<先日の我々の時の査問会でも、それらの戦果や功績は考慮されませんでした。軍司令部は
「そんな……」
思わずアレンは絶句してしまう。
これまでの戦闘は無駄だったというのだろうか。
<パナマではあのストライクダガーの生産がようやく軌道に乗ったそうです。オルレアンに配備されていた機体よりも性能は上がっています。もはやアークエンジェルも我々も必要とされていないとは思いませんか?>
「アタランテは……アークエンジェルも……我々も……もはや必要とされていないと?」
心なしかアレンは声が震えている事に気づく。
<これが結果ですよ。だから我々は知ることになります。この結果がもたらす意味をね>
────
キャミッサーはまたジブラルタル基地に戻っていた。
作戦終了に伴い、既にFAITHの管理下では無くなっている。
「ルッツ・キャミッサー、貴方の活躍がなければ本作戦の成功も無し得なかったでしょう。後程、感謝の品を贈らせて頂きますよ。また戦場でお会いしましょう」
バルナバス管理官は別れ際にそう言って細やかな賛辞を送ってくれた。
だが……
「流石、キャミッサー隊長様々ですね。こんな大きな母船で任務を行っていらっしゃるなんて、このコンソールも真新しい奴じゃないですか」
そう言うと緑髪で如何にもニヒルと言った青年はコンソールのディスプレイ・タッチパネルを触る。
ネイピア・ネベル。
何故彼がここにいるのかと言うと、所属していた部隊が全滅し、行き場を失っていた彼をバルナバス管理官が不憫に思い、キャミッサーと同じ所属にしたからである。
「……バルナバス管理官の計らいとは言え、これには参るな、まさか贈り物とはこいつの事なのか」
キャミッサーはあまりの彼の能天気さに、早くもだが少し嫌気が差してきていた。
「ところでさっきの秘書官の人……アネットさんでしたっけ? 彼女、中々グラマーですね。隊長なら彼女の趣味とか何とか知ってませんか?」
ネベルがアネットに付いて聞く。
キャミッサーはネベルが初対面のアネットを食事に誘っていた事を思い出す。
それと同時にその時のロスのなんとも言えない顔も思いだして、思わず思い出し笑いをしそうになる。
が、なんとか笑いを噛み殺した。
ふてぶてしい態度も、女を口説くのも別に構わない。
ただ、キャミッサーにとってネベルに任務遂行の為の積極性が見られないのは看過しがたいことであった。
キャミッサーはネベルを叱りつける。
「ネベル、今この瞬間にも『オペレーション・スピットブレイク』の成功のために奮闘をしている隊員達がいる事を忘れるな」
『オペレーション・スピットブレイク』
オペレーション・ウロボロスの一環として、ザフト軍の総力をあげパナマ基地を攻略するこの重要な作戦にキャミッサーも参加する心づもりでいた。
だが、本作戦終了までエール・リベルタはこのジブラルタル基地で防衛任務を全うせよとの命令が出ている。
「は、申し訳ありません!」
ここでキャミッサーをこれ以上怒らせるのは不味いと思ったのか、ネベルは急に大人しくなった。
その時、基地内からの通信がブリッジへと入ってくる。
通信を取るとパネルにロスの焦った様子が映っていた。傍らにはアネットもいる。
「こちらエール・リベルタ、ブリッジ、キャミッサーです。ロス機長、どうされましたか?」
ロスが切羽詰まったとでも言う様に早口で喋りだす。
「先程通達があった。『オペレーション・スピットブレイク』がついに開始されたぞ! 目標はアラスカの
「アラスカ? まさか……!?」
アラスカ、地球連邦軍の総本山に侵攻するということはすなわち……。
キャミッサーはザラ議長が目標を直前で変更した事の意味を瞬時に理解した。
「ザラ議長は一気にこの戦争の決着を付けるおつもりなのか?」