機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
<バクゥの通常弾頭なら76発でPS装甲もその効力を失います。まずはPS装甲を減衰させ、フェイズシフトダウンに追い込んでください。グゥルからデュエルを落とせば本体にも当てやすくなるでしょう>
アタランテがデュエル攻略のための指示を出す。
「重
グゥルを自分の手足の様に操るデュエルを見て、シャルルが感嘆したように言う。
だが、驚いてばかりもいられなかった。
多方向から狙っているにも関わらず、バクゥのレールガンはどれもデュエルどころか、それが乗っているグゥルすら捉える事が出来ていないのである。
<アレン、ゲイジャルグでグゥルを狙って下さい>
「了解……!」
アレンはへリックスの脇に300mmレールバズーカ『ゲイジャルグ』を構え、グゥルを狙って撃つ。
攻撃の意図に気づいたのか、デュエルは自らグゥルを蹴り出して地面に飛び降りた。
バンッ!
ゲイジャルグの一撃がデュエルの足元をかすめる。
そのまま両足で地面に着地するが、少し体勢を崩したのか右膝を着き前屈みになった。
「よし、デュエルはグゥルから降りた。ビームピックで決める!」
シャルルはバクゥの頭部からビームピックを展開すると、デュエルに向かって機体を走らせた。
アタランテの解析によれば、あの状態では頭部のイーゲルシュテルンも肩のレールガンも射角が取れない。
つまり、有効打を加える絶好の好機である。
だが、地面を蹴ってを飛び掛かるバクゥ見てデュエルのパイロットは皮肉めいたように呟いた。
「敵がよろけた所に格闘を叩き込むか、たしかに間違ってはいないな」
既にデュエルの左手には盾に隠れるようにしてビームサーベルが握られている。
切りつけ様にデュエルのパイロットが叫ぶ。
「だが、動きがマニュアルなんだよ!」
シャルルの目の前にビームサーベルが迫り来る。
最速の攻撃をするために最短距離を取り、デュエルの真っ正面から仕掛けたのが仇となった。
「間違っていたのか……? アタランテの指示通りの攻撃が……」
赤い閃光が光る間際にシャルルは呟くと、バクゥの胴体が切り裂かれていく。
瞬時に真っ二つにされた機体はそれぞれが地面に叩きつけられ、爆発した。
「シャルル隊長!?」
「まさか、隊長がやられたの!?」
自軍隊長機の撃墜、バクゥ隊の間で動揺が広がっていく。
だが、その死を悲しんでいる時間は与えられ無かった。
デュエルのアサルトシュラウド右肩部装甲に装備されている115mmレールガン『シヴァ』から放たれた弾丸がバクゥ1機を貫く。
体勢を立て直したデュエルは右手のビームライフルで更にバクゥを狙う。
「ヒ……や、やめて……」
狙われたバクゥのパイロットは操縦桿から手を離し、両手を顔の前にかざしてビームの光からその身を守ろうとする。
しかし、その行動は無駄とでも言うようにビームの直撃はバクゥを火球へと変えた。
「ガノ! オリヴィエ! まさか二人とも……?」
リナルドが撃墜されたバクゥのパイロット二人の名前を叫ぶ。
<防衛ラインを縮小します。バクゥは全機後退してください。7秒後にヴェンデロートからの支援射撃を開始します>
続けざまに味方機が撃墜された事で、アタランテも作戦プランの変更をせざるを得なくなった。
<3、2、1……砲撃開始>
バクゥ隊が退くのに合わせてヴェンデロートからの砲撃がデュエルを狙う。
デュエルは再びグゥルに飛び乗ると艦砲射撃を回避する。
<アレン、出番ですよ>
「分かっている!」
砲撃の最中、グゥルに乗ったへリックスがデュエルの前に現れた。
「当たってくれ!」
アレンはへリックスはビームライフルを3連射する。その内の1発が右肩のアサルトシュラウドを掠めた。
「よし、このまま押し込めば……」
アレンの操縦桿を握る手に力が入る。
対するデュエルはアサルトシュラウドの左肩部に装備されているミサイルポッドを展開すると、へリックスへと向けてミサイルを放った。
「グゥルをやられる訳には」
アレンはグゥルを上昇させ、ミサイルを回避する。
だが、そのミサイルはへリックスを狙ったのでは無い。
ドゴオォーン!
大きな爆発音が後方に木霊していく。
5番ゲート前を守っていたリニアガン・タンクに着弾し、その車両の爆発で5番ゲートに大穴が開いたのである。
「しまった」
消沈した様に呟くが既に遅い。
目的を達したデュエルは、補給を受けるため海の方へと飛び去って行く。
アレンはデュエルを追おうとしたが、それをアタランテが止める。
「また、コントロールが……何故ですアタランテ!」
アレンは憤慨するが、アタランテはなだめる様に説明を始める。
<アレン、アークエンジェルが僚艦を引き連れて戦線を離脱しようとしています。我々はこれを止めねばなりません。一度ヴェンデロートに戻りますよ>
────
へリックスがデュエルと交戦の最中にアークエンジェルから入った緊急通信は、ヴェンデロートのブリッジを震撼させていた。
「アークエンジェルより入電! 『我ニ続ケ』これは……」
アークエンジェルからの通信は本艦は現戦闘海域を放棄し、離脱するという物であった。
「何、戦線を離脱すると!? これでは敵前逃亡ではないか!?」
ホバートはオペレーターからの報告に唖然とした表情を浮かべる。
副艦長も驚いた表情を浮かべるが、パネルを見ると同情した様に呟いた。
「既に複数の僚艦がアークエンジェルの指示に従っているか……たしかにこの状況ではな」
パネルに示された味方部隊の機影はもはや多数のザフトの機影の前には風前の灯火とでも言って良い位にしか残されていなかった。
<ヴェンデロートはこれよりメインゲートに向かいます。アークエンジェルの行動は決して許されるものではありません>
「しかし、この5番ゲートはどうするおつもりなのですか?」
<5番ゲートは放棄します。今はアークエンジェルを止めるのが先です>
副艦長からの問いにアタランテはあっさりと今のゲートを放棄する事を宣言する。
「これよりヴェンデロートはメインゲートへと向かう。取り舵いっぱい!」
ホバートが意を決した様に言う。
「艦長!?」
「アタランテの判断は絶対だ。我々はそれに従うしかない、今までもそしてこれからもだ」
ホバートにそう言われては、副艦長も引き下がるしか無かった。
────
海上に出たヴェンデロートはメインゲートの近くにまで差し掛かっていた。
遠くに多数のザフト軍
「あれがアークエンジェル、ようやく実物を見る事が出来たが既にボロボロではないか……」
ホバートが率直な感想を述べる。
アークエンジェルは右舵フライトデッキに大穴があき、その優美な姿が既に失われてた。
<見とれている場合ではありません、我々の目的はアークエンジェルを……>
「分かっている! アレン中尉を出撃させろ」
ホバートはアタランテの指示をうんざりしたように途中で遮るとアレンに出撃命令を出した。
「ホバート艦長、本当によろしいのですか?」
副艦長がホバートの良心に訴えかけるように言う。
「仕方がないだろう。我々が生き残るためにはアタランテに従うしかないのだから」
ホバートは首をすくめると、そう言って返した。
実際問題として、今ザフト軍の猛攻を最小限に止めていられるのは、アタランテの防空システムのおかげである。
そのアタランテの機嫌を損ねる事は出来なかった。
────
ヴェンデロートの外に出たアレンは艦に連絡を入れる。
「これよりアークエンジェルに向かう。援護願います」
だが、アレンが手を下すまでもなく、まさに今ジン1機がアークエンジェルの艦橋を狙い撃とうとしていた。
「アークエンジェルもこれまでか」
思わず呟いてしまった。
しかしそれが自分が直接手を下さなかった事への安堵なのか、アークエンジェルが任務を果たせなかった結果への嘆きなのかはアレンには分からなかった。
その時、空から緑色の閃光が走ると、ジンの持っていた重突撃機銃を撃ち落した。ジンは驚いた様に空を見上げている。
「何だ?」
アレンも驚いた様に見上げた。
その空から青い翼を持った