機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
「ザフト、連合、両軍に伝えます」
その青い翼の
「サイクロプス?」
<月面のエンデュミオン・クレーターで使用されていたマイクロ波発生装置ですね>
アタランテが解説する。
サイクロプスは元々レアメタルの混ざった氷を融解させるための装置なのだが、これを暴走させる事で周囲一体にマイクロ波加熱を生じさせ強力な戦略兵器にもなる。
実際、グリマルディ戦線ではサイクロプスを暴走させた事でザフトに多大な損害を与える事が出来た。
そのためサイクロプスはザフト側にとって、多数の犠牲を出した忌々しい戦略兵器の名前でもある。
「この基地がエンデュミオンの時の様に自爆すると?」
思わずアレンも自分の任務を忘れて固まってしまった。
エンディミオンでサイクロプスはザフトに損害を与えてはいるが、自軍にも多大な被害が出ている事を聞いていたからである。
<実際にこの基地にサイクロプスがあればですが、現在検証中です。ザフトは先程の通信を鼻から信じていないみたいですがね>
アタランテはまだサイクロプスの有無に関して結論を出していなかったが、ザフト軍の方は鼻からあの通信を信じていないようであった。
デュエルが先陣を切り、青い翼の
「デュエル!」
デュエルはシャルルや他のバクゥ隊員の仇の
両者が組み合う中、アレンはデュエルにへリックスのビームライフルを構える。
が、行動を起こそうとした時には既に勝負は付いていた。
「あのデュエルを一瞬で無力化したのか」
デュエルは脚を斬られ、乗っていたグゥルから蹴り出されている。
そのまま海面に叩き付けられるかと思われたデュエルだか、それに気づいたディンに上半身を抱えられると戦線を離脱して行く。
アレンはあまりの力量の差にただその場にたたずむしか無かった。
────
アラスカ基地が自爆すると言う通信はヴェンデロートのブリッジも震撼させた。
「アタランテ、これは一体どう言うことなのです? あのパイロットが言っている事は本当なのですか!? このアラスカ基地が自爆すると言うのは?」
ホバートの問いにアタランテが答える。
<私のデータにはこの基地にサイクロプスが仕掛けられているという情報は何一つありません>
「それではやはりあの
<そうとも言い切れません。先程の通信の声紋を照合した所、あのパイロットの声紋はストライクのパイロットであるキラ・ヤマト少尉の声紋と一致しました>
ブリッジにいる誰もがこの解析の結果に驚いた。
元ストライクのパイロットであれば、アークエンジェルを守る様な行動を取っているのも不思議では無い。
「あの機体に乗っているのはストライクのパイロットだと?」
<ええ、なぜザフトの機体に乗ってこの場に現れたのかは不明ですがね>
ここで少し間をおくと、アタランテは自分の見解を述べ始めた。
<知っての通り、彼はコーディネーターです。我々に反旗を翻すのも充分に考えられますが……>
アタランテが自身の考えを述べている最中、ホバートが反発した様に口を挟む。
「ザフトに寝返ったと? それではザフトの
ホバートの反論にアタランテは毅然としてこう答える。
<私はストライクのパイロットがザフト軍に寝返ったという推測はしていません。たしかに今の彼の行動には矛盾が見られるかも知れませんが、彼が今銃を向けているのはザフトに対してであり、我々にではありません。どれもコクピットを狙っていないのは気になりますがね>
現に青い翼の
<私は彼の言っている事は正しいと判断します>
ブリッジがまた騒がしくなる。
あのパイロットが言っている事は正しいと言うアタランテに対して皆驚いた様であった。
「しかし、始めにサイクロプスがこの基地にあるという話をアタランテ、貴方はしたではありませんか? それはどうなるのです?」
副艦長はどうしても納得できないと言う態度を示す。
<たしかに私のデータにはこの基地にサイクロプスがあるというデータはありません。ですがアラスカ基地の地下にサイクロプスを設置するというのは充分に可能なのです>
アラスカ基地の施設の大部分は地下にあり、その巨大な地下都市は『グランド・ホロー』と呼ばれている。
この広大な地下都市にアラスカ基地を吹き飛ばす量のサイクロプスを設置する事は可能な話であった。
<現にザフトは戦力の大半をこの基地の攻略作戦に投入しています。今ここでサイクロプスを起動させればザフトの戦力の大半を奪う事が可能です>
「状況としてはたしかにそうですが、まさかこのアラスカを自爆させるとは」
推論を並べるアタランテに対して、さすがにホバートも信じられないと言う様に首を振るが、アタランテは更に説明を続けた。
<そして、この基地を現在守っている主力は我々ユーラシア連邦です。ザフトの戦力を削ぎつつ、我々の戦力も減らす事、これによって利を得るのは大西洋連邦に他なりません。現に大西洋連邦の主力はこのアラスカではなくパナマにいます。大西洋連邦はアラスカを失いますが、基地機能の大半を既に移転済みなのであれば大して影響は無いでしょう>
アタランテは大西洋連邦の主導で今回の作戦が行われていたという結論を出した。
「待って下さい。アークエンジェルは大西洋連邦の所属で最新鋭の艦なのです。充分に大西洋連邦の主戦力では……は、まさか……」
副艦長は反論したが、途中でその意図に気づいたのか言葉を濁した。
<ええ、囮としてはこれ以上無い位の上玉なのですよ彼らは、彼らとストライクがザフト軍を幾度となく苦しめ、多大な戦果を上げてきた事は両軍が認める所です。だからこそ囮として相応しい>
ブリッジにいる誰もが黙ってしまったが、アタランテは言葉を続けた。
<アークエンジェルを討つ事よりもこのアラスカ基地から脱出する事を考えた方が良さそうですね、アレン中尉を呼び戻して我々もこの場から撤退しましょう。ホバート艦長、撤退の指示を>
アタランテからの指示を受けて、ホバートは我に帰った様にこう宣言した。
「わ、分かりました……各員、全速力でこのアラスカを離れるぞ! 基地が自爆すると言うのであればもはや防衛する意味もない 」
<アークエンジェルとは別方向から脱出します。あの
ヴェンデロートはアークエンジェルから離れる様に進路を取る。
今ではもう敵味方を問わず、この基地から脱出する事に精一杯の様であった。
「基地中枢部より大型の熱源反応です!」
オペレーターがサイクロプスの起動を伝える。
「各員、衝撃に備えろ!」
そう言いながらホバートも艦長席にしがみついた。
爆発が艦の後ろから押し寄せてくる。
ガガガ!!
缶の中に入れられた状態でバットに思い切り叩かれた様な衝撃が艦全体に走る。
揺れが収まるとアタランテが言った。
<衝撃は収まったようですね、念のため艦のシステムチェックを開始します>
ホバートは頭に被っている艦長帽を押さえながら副艦長に言う。
「副艦長、合わせて人員と器材の異常の有無を各担当者に合わせて報告するように伝達してくれ」
「了解しました。直ぐに報告させます」
命令を伝達するとホバートは物が散乱したブリッジを見ながらこう呟いた。
「ユーラシア連邦の残存部隊は……」
<我々は運が良かったと言えるでしょう>
アタランテのその一言でホバートは全てを察した。
「ホバート艦長、ここは一度我らの基地に戻るべきかと……」
副艦長が落胆するホバートに声をかける。
「そうだな、シルバニア基地に戻るしか無いだろう」
<その決定に私も賛成します。ユーロ会議にも今回の戦闘の経過を伝達しておきましょう>
アタランテの理解も得ることが出来た。
こうしてヴェンデロートはアラスカを脱出すると、マザーベースであるシルバニア基地への帰路に着いた。