機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
キャミッサーはジブラルタル基地から宇宙要塞ボアズへと向かうシャトルの中にいる。
窓の外では少しずつ小さくなる地球と、暗闇に無数の星々が輝く様子が広がっていた。
「宇宙か、久々だな」
その宇宙空間を見ながらキャミッサーは一人考える。
「やはり敵本拠点を叩くというのは無謀だったのか」
ザフトによるアラスカ攻略作戦は失敗に終わった。
しかも地上戦力の大半を失ってしまっている。
この地上戦力が乏しい時に宇宙軍への転属、
ジブラルタル基地ではパナマ攻略戦の準備が進められている中、自分達だけ宇宙へと戻るのは少し後ろ髪を引かれる思いもあった。
「まあ、宇宙に戻りたい気持ちが無かった訳でも無いが」
と言うのもアラスカ攻略戦の最中、エール・リベルタ内でもちょっとした事件があったからである。
今までの部隊を離れ、新たな地での任務を任せられるというのは気持ちの整理を付けるという点でも正直ありがたい。
そう考えて一人納得していると、隣に座っていたネベルが手持ちのタブレットを見つつ話しかけてきた。
「そういえば今度の小隊長はキャミッサー隊長の士官学校時代の教官の方とか、乗機はディンらしいですね」
キャミッサーとネベルは今の遊撃隊を離れ、ボアズの守備隊に配属される運びとなっている。
新しい部隊の情報が知っておきたいのだろうと思い、キャミッサーは自分の知っている事をそのまま答えた。
「ああ、それに『オペレーション・ウロボロス』では彼の部隊にいた事もある。オルレアン攻略作戦後はボアズの守備隊に配属されているとは知らなかったが」
トシア・カラサワ
オルレアン攻略作戦に参加していたディン部隊の隊長で、その作戦ではアネットが彼の部下についていた。
彼はキャミッサーとロスの士官学校時代の教官でもある。
「それと隊長は止めてくれ、もう遊撃隊の隊長ではないからな」
「とは言いましてもね……」
キャミッサーに指摘され、ネベルはばつの悪そうな顔を浮かべるとまた手元のタブレットに視線を戻す。
しばらくして、機内に入港前のアナウンスが流れた。
「間もなく、当機はボアズ宇宙港に入港いたします。安全のためベルトの着用サインが消えるまでは席を離れないようにお願いします」
キャミッサーとネベルはシャトルを降りるとカラサワの待つ小隊本部へと向かった。
──ー
「キャミッサー、以下2名入ります」
二人は小隊本部に入った。
キャミッサーは部屋の奥の椅子にカラサワが座っているのを見つける。
「よう、ルッツ。こうして直に会うのはいつ以来かな。まずは二人共そこに座ってくれ」
カラサワは椅子から立ち上がり、キャミッサー達を自ら椅子に案内した。
キャミッサーとネベルは会釈してその言葉に従う。
二人が椅子に座り、ネベルの自己紹介も終わるとカラサワはこう切り出した。
「この間のオルレアン戦以来か、あの時は直接話も出来なかったが」
「はい、オルレアンでは自分の部下達がお世話になりました」
「あの嬢ちゃん達か、中々の操縦センスだったな」
カラサワはくだけた様子で言った。
その様子をみてキャミッサーは相変わらずだなとこちらも態度を和らげる。
「しかし、あのロスがあの気の強そうな嬢ちゃんと婚約とはねえ、もしかしてお前仲人役を頼まれてたんじゃないか?」
「え、仲人だったんですか?」
カラサワの冗談にネベルが驚いた様に口を挟む。
「なんだ、君も彼女を狙ってた口か?」
「いや、そう言う訳では無いですよ……はい」
ネベルは慌てて弁解する。
その様子を見て仲人役はお前だとネベルを見ながらキャミッサーは冷ややかに思った。
と言うのも、ネベルがアネットに積極的にアプローチをかけていた事が事の発端だからである。
これに気を揉んだロスがアネットに思い切って告白をしたらOKを貰えたというのがキャミッサーがオペレーターから聞いた話であった。
問題はその後が大変で、流石に婚約した二人を前線に出しておくという訳にもいかず、ロスは内地勤務、アネットはプラントの士官学校で教官を勤める事になった。
このロスとアネットの婚約の話が無ければ今頃エール・リベルタはパナマ攻略作戦に参加していたはずである。
「だろうな、しかし婚約したら即プラントに戻れるとは知らなかったな」
「かなり優遇された様ですがね、両方ともプラントに戻れるというのは、まあ仕方ありませんよ」
キャミッサーはなだめる様に言った。
コーディネーターの第三世代の出生率は下がり続けている。
この種としての死活問題に対して婚姻統制まで行っているが、それも中々成果を上げられていないと言うのが実情であった。
「しかしなあ、この大変な時にわざわざ婚約しなくてもと俺も思う所はあるがね」
「ですよね! 士気に関わりますよ」
カラサワの意見にネベルも賛同する。
「こんな事なら俺が先に唾を付けて置くんだった」
そう言ってカラサワは肩を落とし溜め息を吐く。
「は、はぁ……」
ネベルは呆れた表情を浮かべるしか無かった。
「と、こんな話ばかりしていても仕方ないな」
カラサワは机のパネルを操作するとある機体の資料を表示させた。
「お前達の機体の話をしよう。とりあえずこちらを見てくれ」
机のパネルに
「ジンですか」
ネベルがパネルを見て呟く。
ジェグス装備のジンを見たネベルにとって、そのジンはあまりにも簡素に見えた。
「ただのジンじゃないぞ、ジンハイマニューバだ。宇宙空間用に特化された高機動型で推力が通常よりも大幅に向上していてだな……」
ジンハイマニューバ
ジンに近代化改修を施した機体であり、各部にスラスターを増設している。
カラサワは力説を続けるが、ここでキャミッサーはおや?と、ある疑問を投げ掛けた。
「申し訳ありません、私の機体は既に受領済みです。その資料は既に送っていたと思うのですが……」
「何? ちょっと待ってくれ」
カラサワは自分の机に戻るとパネルを操作する。
「あったあった」
どうやら、キャミッサーが送っていた資料が見つかったようであった。
「ほお、これが近々配備されるというゲイツか?」
ゲイツ
ジンの後継機として開発された機体であり、奪取したG兵器の技術も取り入れた高性能な量産機である。
「それのプロトタイプの様な物と言った方がよろしいでしょうか」
キャミッサーはバルナバスから聞いていた事を答えた。
アラウクネはゲイツの原案に当たる
カラサワはキャミッサーの意味有りな発言に少し興味を持った。
「言うねえ、ついにオーダーメイドの専用機体を用意して貰える位偉くなったようだな」
「専用機と言うわけでもありません。ですが、機体の調整はこちらの希望通りにやらせて頂いております」
アラウクネはバルナバスから譲り受けたものであるため、現在キャミッサー自身が機体に慣れるための訓練と同時進行で設定変更を行っている。
機体の話が終わるとカラサワは今後の予定について話を始めた。
「後は基地司令への申告、基地設備の案内、それに部屋の案内や荷物の移動もか、他にもあるがまず今夜は……」
ここでカラサワは二人の方を交互に見る。
「歓迎会だな、実を言うと既に基地クラブに予約を入れてあるんだが、大丈夫だよな?」
「はい、よろしくお願いします」
キャミッサー達には断れるはずもなく、二つ返事で返した。