機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike   作:見ルシア

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PHASE-31 月基地へ

 アラスカでの戦闘を終えた後、ヴェンデロートは再びマザーベースであるルーマニアのシルバニア基地へと戻ってきていた。

 

 格納庫を視察中のホバートが目の前のMSを見て呟く。

 

「オルレアンで見たMS、まさかストライクダガーが我が隊にも配備されるとは思っても居なかったな」

 

 アラスカでのサイクロプス使用によりザフト軍に多大な被害を与えるも、ユーラシア軍もまた甚大な犠牲を被った。

 が、この一連の出来事は公には『ZAFTが新型大型破壊兵器を使用した』という事で処理されている。

 

 この事からユーラシア連邦はアラスカでの顛末に不快感を示していた。

 大西洋連邦との溝が深まる中、それを取り繕うかのようにシルバニア基地は大西洋連邦からMSの供与を受けることとなったのである。

 

「それに試験運用機まで我々に送って頂けるとは」

 

 副艦長がホバートの横でストライクダガーの隣に置かれている赤いMSを見ながら言った。

 

 イージスダガー

 ストライクダガーがストライクの量産型MSとすれば、こちらはイージスの量産型MSである。

 

 頭部は他のストライクダガータイプと同じゴーグルフェイス、機体色こそ元の機体と同じ赤だがラミネート装甲であり、PS装甲は搭載されていない。

 しかし、変形機構は健在であり、四脚の砲撃形態へと移行する事が出来た。

 

<代わりに今までの戦闘データの提供を求められましたがね>

 

 格納庫に設置されたインターフォンからアタランテが言った。

 副艦長はアタランテに尋ねる。

 

「イージスダガーのパイロットには誰を乗せるおつもりなのですか?」

<それはもう決めてあります。オリアスク少尉です>

「彼女を? 大丈夫なのですか?」

 

 副艦長はアタランテに再考を施すように求めた。

 

<彼女の容態は安定していますので特に問題は無いかと、それにあれは操作系統が複雑なのでコーディネーターでもなければ扱えないのですよ>

 

 アタランテの説明にホバートと副艦長は顔を見合わせる。

 そう言われても強化人間のコーディネーターなど早々と信用できる相手では無い。

 しかし、アタランテはパイロットの話はこれで終わりと言う様に話を変えた。

 

<それよりもビクトリア宇宙港を奪還しだい、我々は宇宙に上がります>

 

 ビクトリア宇宙港

 アフリカにあるマスドライバー施設を有する基地である。

 パナマを失った地球連合には宇宙へ出るためのマスドライバー施設がある基地はもう残されていなかった。

 そのためマスドライバー施設がある基地を接収する事が優先目標となっている。

 初めは中立国のオーヴ連合首長国のマスドライバーを接収しようとしたのだが、これを爆破されてしまった。

 

 そのための代替え案としてビクトリア宇宙港の奪還作戦が現在実行に移されていたのである。

 

 アタランテの思考は既に次の戦場である宇宙へと移っていた。

 

────

 

 格納庫ではへリックスからパラサイトストライカーを取り外す改修作業が行われている。

 

<パラサイトストライカーは月で改修作業を受けます。宇宙戦用に改造する必要があるというのが第一目的ですが、これまでの戦闘データを反映させるための意味合いもあります。これで更なる進化を遂げるでしょう>

 

 アレンは作業の進行具合を見つつアタランテの説明に耳を傾けていた。

 

<代わりのストライカーパックがこのガンバレルストライカーになります>

 

 へリックスの隣には赤いMAらしき物体が置かれていた。

 

「これはストライカーパックというよりも資料で見たメビウス・ゼロに似ていますね」

 

 メビウス・ゼロは地球連合軍が開発した宇宙戦用MAである。

 アークエンジェルでも地球に降下するまで運用していたという事をアレンは知っていた。

 その機動性とオールレンジ攻撃が可能な武装『ガンバレルシステム』で多数のザフト軍MSを退けたとされている。

 

<それはそうでしょう。メビウス・ゼロのガンバレルシステムを元に作られたのですから>

 

 ガンバレルストライカー

 メビウス・ゼロと同じ有線式ガンバレルを4基搭載したストライカーパックである。

 ストライカーの機種部にはガトリング機関砲が1門。

 また、このストライカーパック自体がMAに変形し独立して戦闘を行うことも可能であった。

 

 新たなストライカーパックを見たアレンがアタランテに尋ねる。

 

「これは元々ストライクダガー用の装備だったのでは?」

<ストライクダガーにはストライカーパック用プラグが無いため装備出来ないのです。そもそもガンバレルシステム自体が適正が無いと扱えない代物ですがね>

 

 様々な戦局に対応するために考えられたストライカーパックシステムだが、結局生産性を高めるためにPS装甲共々オミットされてしまったのであった。

 

<宇宙戦用の装備でもあるため、今までとは勝手が違います。それにパラサイトストライカーが取り外された事で、へリックスの操縦は全てあなた任せになるのでその心づもりもお願いします>

 

 パラサイトストライカーが無ければアタランテと通信を行う事は出来ない。

 つまり、これからはアタランテの支援無しで戦わなければならないと言うことであった。

 しかし、今のアレンには不安よりも早く新装備に慣れなくてはというはやる気持ちの方が大きい。

 

「早く宇宙での戦闘が待ち遠しいですね」

<前向きになったのは何よりです。ガンバレルシステムの適正も問題ありませんでしたし、私から心配することもありませんね。貴方ならこの間の新型よりも有線兵器を使いこなせるはずです>

 

 アタランテがアレンの決意に満足そうに言う。

 

「どんな敵が相手でも倒してみせますよ」

 

 アレンは最後にそう言うと、もう一度新しいストライカーパックに目を向けるのだった。

 

────

 

 ビクトリア宇宙港の奪還に成功した翌日、再度シルバニア基地のMS部隊に出撃命令が下った。

 

 まだ地球のザフト軍基地は残っているが、宇宙軍の再編のためという名目で月基地プトレマイオスへの転属命令が出たのである。

 

 奪還したビクトリア基地のマスドライバーからついに宇宙へと上がった。

 

「ここが月基地か」

 

 アレンはシャトルの窓から眼下に広がる荒涼とした景色とその中にある巨大な人工建築物を見て呟いた。

 月基地プトレマイオス 地球連合軍の月面基地の1つである。

 

 その後着任の挨拶が終わると、一行はさっそく新たな母艦へと案内された。

 

「これが『ニカノル』か、かなり大きいな」

 

 その巨体を見てホバートが呟く。

 前の母艦であるヴェンデロートは全長195mあったが、このネルソン級ニカノルは全長が250mと艦のサイズが一回り大きくなっている。

 

「では副艦長、器材の積み込みとアタランテシステムのデータ移行の作業統括を頼む」

「了解しました。早速作業に取り掛からせます」

 

 こうして新たな戦艦への移行作業が開始されたのだった。

 

 ────

 

 シルバニア基地の一行が月基地に来てから4日程経った頃、新造艦ニカノルに緊急アラートが入った。

 

「パトロール艦が敵艦と遭遇して交戦中だと? それで我々に出撃命令とは」

 

 ホバートがアラートの内容を復唱する。

 

「我々の出港準備はもう既に出来ています。もう1隻の準備が整いしだい直ちに救援に向かいましょう」

 

 副艦長がこの艦はいつでも出られる事を伝える。

 パトロール艦への援軍にはこのニカノルとドレイク級がもう1隻出る事になっていた。

 

「出撃できるMSは?」

「ストライクダガー4機、イージスダガー、そしてヘリックスですね」

 

 ホバートはその報告をパネルを見ながら聞くと苦い顔をしてこう答えた。

 

「敵の数が多い、たしかにそれ相応数のMSが必要だと言うのは分かる。だが、イージスダガーを前線に出すのはな」

 

 ホバートは問題のあるオリアスク少尉を出撃させるのを渋った。

 

「艦長、迷っている時ではありません。イージスダガーはこの艦と有線接続を行っており、アタランテがいつでもMSのコントロールを掌握できる様になっているそうです」

 

 副艦長はホバートの懸念を払拭する様に言う。

 

 戦闘空域に近付くと損傷した味方艦が敵艦2隻に追われている所であった。

 その周囲で両軍のMSが戦闘を行っている。

 

「あの艦を落とさせる訳にはいかん。まずストライクダガー隊、イージスダガー、へリックスを出撃させろ! 念のためアレン中尉にはオリアスク少尉の監視もさせるんだ」

 

 ────

 

 ホバート艦長の命令をアレンはへリックスのコックピットで聞いた。

 

「ついに宇宙での実戦か、それにあのパイロットの監視も」

 

 戦闘に関してはまだ不安な所もあった。

 シミュレーターで訓練し、実際に宇宙空間で機体を動かした事はあってもその状態で戦えるかというのは別問題である。

 その状態で更にあのパイロットの監視も命じられている。

 

 …………

 

 いつもはアレンがコクピットで何かを言うたびにアタランテが一言喋っていたのだが、システムを取り外してしまったため、その声は聞こえて来ない。

 少しだが、不安な気持ちになる。

 

「アタランテが無くてもやってみせるさ」

 

 アレンはそれを振り切る様に首を降ると目の前の状況に集中する。

 丁度、格納庫ではストライクダガーが出撃するためにカタパルトに乗る所であった。

 

「リナルド・ハーティ、ストライクダガー、出撃する!」

 

 アラスカで戦死したシャルルに代わってリナルドが元バクゥ隊の指揮を取っている。

 続けて3機のストライクダガーが宙域に飛び出して行く。

 

 その次は赤い機体、イージスダガーである。

 そのコクピットにいるパイロットからへリックスの方へ通信が入った。

 

「それではお先に、監視者さん」

「アレン・クエイサーだ、変なあだ名で呼ばないでくれ」

 

 オリアスクからの通信にアレンは少しムッとしながら答えた。

 既に自分がお目付け役となっている事は本人も知っているようである。

 

「これは失礼しました。アレン中尉……フフッ」

 

 オリアスクは少しおどけながらアレンに謝ると、発進シークエンスに入った。

 

「では、オリアスク、イージスダガー、発進します」

 

 アレンはその後ろ姿を見送ると、自分も出撃するためへリックスをカタパルトに乗せ機体を出撃させた。

 

 


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