機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
「まずはザフトのMSの注意を引き付けるぞ」
そう言うとリナルドはストライクダガーのビームライフルをパトロール艦に取りついているジンに向けて乱射した。
他のストライクダガーもそれに続き、敵に突貫して行く。
襲撃を受けたパトロール艦は黒煙を吹いてはいるものの、辛うじて航行は出来る様であった。
艦の周囲にはMSの残骸が漂っている。
前線で戦うストライクダガー隊に少し遅れて、アレンのへリックスも戦線へと到着した。
「上も下も無い世界での戦闘か」
雰囲気は水中戦に近い。
辺りを漆黒の闇が多い、どこから攻撃が来るのか予想できないからである。
アレンは僚機であるイージスダガーへと通信を入れる。
「オリアスク少尉、あまり前に出過ぎないでくれ」
「こんな小魚じゃ、お腹も膨れない、やっぱり」
オリアスクは既にジンを1機、ビームサーベルで仕留めた所であったが不満そうに返事した。
そして他のジンには目もくれず、後方のローレシア級の方に突撃していく。
「!? 、オリアスク少尉、指示に従え!」
アレンは叫ぶがイージスダガーの勢いは止まらない。
「やっぱり……こんな軽食じゃなくて」
敵の弾幕を物ともせず、ローレシア級の懐に飛び込むと4脚のMA形態に変形しスキュラを放つ。
スキュラからの熱線が敵のローレシア級のブリッジに直撃し、赤い閃光が走る。
「アハハ、やっぱりメインにはこれくらいの大きさと量が無いとねえ」
そう満足げに言うと、もう1隻の方へと狙いを定め、イージスダガーの向きを向けた。
危険な行動ではあったが、イージスダガーの一撃は戦況を大きく変えた。
母艦を撃墜された事に気づいたのか、もう1隻を守るためにザフト軍のMS隊が後退を始めたのである。
ホバートはその状況を踏まえてMS隊に撤退の指示を出した。
今回の作戦の目的はパトロール艦の救出であり、敵の殲滅が目的では無いからである。
「敵は諦めたようだ、皆よくやってくれた。ストライクダガー隊はそのままパトロール艦の護衛、へリックスとイージスダガーは我が艦にまで戻るように、月基地まで撤退するぞ」
が、1機だけ指示を聞かずに撤退する敵艦を追うMSがいた。
オリアスク少尉のイージスダガーである。
「出された料理は全部食べないと失礼じゃないかしら?」
そうオリアスクは言うとスロットルを吹かすが、機体が動かない。
突然MSがコントロールを受け付けなくなっていた。
「!? 、バッテリー切れにはまだ早いはず」
何事かと操作パネルを見るが、画面に表示された『命令に従え』という表示を見て目を丸くした。
「まさか虫がいたとはね……でも」
オリアスクが更に操作を続けると、パネルの表示が消えてコントロールが戻った。
「案外簡単ね」
不自然に思える程簡単に操作権を戻す事ができた。
これにはオリアスクでも少し疑問に思ったが、援軍の艦と合流しようとするジンを見つけるとすぐにそんな事は忘れてしまう。
「残さないって言ったでしょ」
そう言うと追い付き様に黄色のビームサーベルで切りつける。
ジンの機体が上下に分断され、2つの火球へと変わった。
────
奮戦するオリアスクだが、戦艦ニカノルのブリッジではその身勝手な行動がちょっとした物議になっていた。
副艦長がオペレーターからの懸念を口にする。
「艦長、新たなザフトの艦が1隻この宙域に接近しています。このままではイージスダガーは挟み撃ちにされますよ」
副艦長に指摘されてコンソールを覗き込んだホバートは顔をしかめた。
たしかに新たな敵艦が1隻、接近してきていた。
「敵の援軍と言う訳か、わざわざ相手をしてやる通りは無いが……」
現在、イージスダガーは1機だけ突出した位置にいる。
一緒に随行していた味方艦は既に損傷を受けてるパトロール艦を伴って撤退を始めていた。
そのため、このままではこの艦の戦力だけで2隻を相手にすることになってしまうのである。
「あれを制御するなどやはり無駄ではないか、ともかくアレン中尉に回線を繋げ!」
ホバートは悪態をつくと、アレンへと通信を繋がせた。
────
「アレン中尉、何をやっている! はやく少尉を連れ戻せ、新たな敵艦が迫ってきているのだぞ!」
へリックスのスピーカーからホバートの激昂する声が聞こえる。
「分かっています。既にやっていますよ」
アレンはホバートから指摘されるまでもなく、既にイージスダガーを追ってその付近まで接近していた。
ホバートとの通信からまもなく、敵艦の横でイージスダガーが孤軍奮闘している姿が見えた。
次々と敵機を撃墜しているあの様子では、援軍など必要なさそうである。
「よくやっているが、あの戦い方ではバッテリー切れを起こすぞ」
イージスダガーもバッテリー機であるため、エネルギーは無限ではない。
またこの艦を落としても、すぐに新しい敵艦が来る。
その優勢がいつまでも続くわけではなかった。
早く連れ戻さなければと思ったが、敵艦から出撃してくるMSの1機を見てアレンは目を見張った。
「あのMSは……?」
アラスカで見た新型MS。
黒紫色のフォルムは健在で、バックパックにある蜘蛛の足のような4本腕も全て健在である。
「あの機体も宇宙に上がっていたのか、ならば」
アレンはガンバレルストライカーから有線式ガンバレルを展開し、そのMSを狙う。
四方からの攻撃、相手もこの前の様に腕を飛ばして応戦するだろうとアレンは予測した。
が、その意に反するかのようにそのMSは右腕から網目状の物体を飛ばし、有線式ガンバレルの1つを包み込んだ。
そして自ら弾幕の中に飛び込むと左腕からビームサーベルを展開し、ガンバレルの1つを切り裂く。
「戦法を変えたのか?」
アレンはうなる。
こちらは2機のガンバレルを落とされてしまった。
レールガンも当たっているはずなのだが、向こうはPS装甲を纏っているためか1つも落とすことが出来ていない。
「やはりレールガンでは駄目か、かといってミラージュコロイドの使用時を狙うにしてもアタランテのサポートが無いと位置を測定できないな」
思うような手段が無い中、焦燥感だけが募っていく。
────
アレンが戸惑うのも無理は無かった。
紫色のMS、アラウクネには前回の時とは違いキャミッサーが乗っていたからである。
「あのMS、まさか宇宙まで上がってきていたのか」
思わぬ出会いにキャミッサーは驚いた。
しかし、相手のMSのストライカーパックはいつもの『十字架』ではない。
「宇宙用の新装備か? だが、こちらがやる事に変わりはない今度こそ撃破させて貰う!」
キャミッサーはその汎用性の高さに驚きつつも、距離を詰めるのだった。
────
敵機が距離を詰めてくる。
接近戦を仕掛けようとしているのは明白であった。
「この中遠距離用の装備では接近戦は不利か?」
アレンが迷っていると、赤い機体が2機の間に割って入ってきた。
オリアスクの乗るイージスダガーである。
「アレン中尉、横から獲物のつまみ食いはよく無いですよ?」
「オリアスク少尉、既に撤退命令が出ている。直ぐに艦に退け!」
アレンは忠告するが、オリアスクからの返答は無い。
代わりに四足のMA形態に変形し、スキュラを黒紫色のMSに向けて連射する。
その熱線の内の一つが直撃し、直撃し爆発が起こった。
が、黒紫色のMSは未だに健在であった。
直撃したと思われた一瞬にビームクローで熱線を切り払ったのである。
「面白い芸当をするじゃないの」
オリアスクはなおもスキュラを放つ。
が、徐々に熱線の威力弱まり、動きが止まった。
ついに機体がバッテリー切れを起こしたのである。
────
「イージスダガー、停止しました!」
ニカノルのオペレーターが叫ぶ。
既に周囲の味方は撤退した後である。
「やむを得ん、当初の目的は果たした。撤退する」
ホバートは撤退の指示を出した。
それと同時にニカノルから信号弾があがる。
「撤退命令……だが、少尉をあのままにしておく訳には」
既にイージスダガーは機能を停止し、へリックスもガンバレルストライカーに損傷を受け万全の状態ではない。
アレンは敵機をビームライフルで牽制しつつ、イージスダガーに近づく。
「もうあと少し」
突然、ガクッとした衝撃が機体にのし掛かった。
バックパックが狙撃され、爆発したのである。
「く……」
しかし、爆発の衝撃でイージスダガーの方へと吹き飛ばされたため、図らずしも合流を果たす事が出来た。
その時、接触回線でへリックスに通信が入る。
<アレン、撤退命令が出ています。帰還して下さい>
それはイージスダガーに仕込まれてたアタランテからの物であった。
アレンは驚く。
「アタランテ!? ですが、この機体と少尉を置いていく訳には」
<このままでは2機共撃墜されますよ。少尉の事なら心配ありません>
「……了解しました」
アタランテに何か考えがあるものと思い、アレンはへリックスをイージスダガーから離すとその場を離脱する。
ザフト側に追ってくる気配は無い。
「まったく……歯が立たないとは……」
パラサイトストライカーが、アタランテが無いとこうも違うのかと思わざるを得ない。
アレンは次の戦闘までに、ガンバレルストライカーの練度を上げるなりの対策をしなければとニカノルへの帰路で思うのだった。
────
「こちらとしても深追いは出来ないか」
キャミッサーに決着を付ける気持ちが無かった訳ではない。
しかし、このまま攻めても月基地に逃げ込まれてしまうだけであり、そうなった場合にこちらの今の戦力だけで月基地を落とすことは厳しかった。
アラウクネは稼働時間も考えると深追いは得策とは言えない。
思案していると、ゲイツに乗っているネベルが接触回線で話しかけてきた
「キャミッサー副隊長も見ましたあれ? この前のと同じガンダムタイプですよ」
「ああ、装備は違ったが」
「この分じゃバクゥもいるんじゃ無いんですかね。知ってました? 犬が人間よりも先に宇宙に行ったんですから」
ネベルが相変わらずの軽口を叩く。
キャミッサーはビームクローの光を消し、戦闘態勢を解くと呟いた。
「しかし、まさかこの宇宙で早々と出会う事になるとは思わなかったな」
「それだけ戦場も狭くなってきたと言うことじゃないですかね、それにもうヨーロッパでは大規模な戦闘は無いみたいですし」
あれ程ザフトが攻勢を続けていたヨーロッパも既にジブラルタル基地を放棄し、ザフトの影響力は低下している。
まだ地上では大洋州連合方面のオーストラリア等で戦闘が続いているが、ビクトリア宇宙港が再び取り返されてしまった今、奴等が宇宙に来ているのも何ら不思議な事ではない。
「それで、このイージスもどきはどうしましょう?」
ネベルはイージスダガーをMSを見ながら言った。
機体は完全に沈黙しており、今さら動き出す気配も無い。
「もしかしたら何か情報を聞き出せるかも知れん、艦まで連れていく」
そう言うと、キャミッサーは自らがイージスダガーを艦まで曳航して行った。
11/4 イージスダガーにPS装甲が搭載されてるかのような描写があったので修正