機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
「この間の捕虜とMSはここじゃ手の施し様が無いんで一度ヤキンに送って、それでも駄目ならプラントに送るそうですね」
ネベルがどこからか聞いた情報をキャミッサーに話す。
二人は宇宙要塞ボアズの待機室にいた。
先日の戦闘で拿捕したイージスダガーとそのパイロット。
機体の方は変形機構こそ違うも、PS装甲が無い。
所詮はイージスの量産型と言った所で、なんら目ぼしい所は無かった。
問題はパイロットである。
「まさか、Nジャマー回収作戦の時の赤いMSと同じパイロットとは驚きましたよ」
詳細は分からないが、Nジャマー回収作戦時に録られた戦闘データと声紋を照合した所、鎌を持った赤いMSのパイロットと同一人物である事が分かった様であった。
「たしかに、あのMSには手こずったな」
その時の戦闘の事を思い出しながらキャミッサーも頷く。
そして、あの戦闘がなければこいつとも縁が無かったのにとも思った。
「そのパイロットが同じコーディネーターで人体強化をされてるときちゃあ……そりゃここじゃ手に余りますよ」
ネベルが顔をしかめながら言った。
「マイクロ・インプラントに薬物投与か、ナチュラルめ、ここまでやるのか」
キャミッサーも人体強化の話は聞いていたので、これには思わず憎悪が沸いた。
遺伝子さえいじらなければ何をしても許されると言う当事者達の声が聞こえてきそうだ。
「だが、コーディネーターなら我々の仲間と言うことだな」
「え、それ本当に言ってるんですか?」
キャミッサーとしては普通に思ったことを言ったまでだったのだが、この発言はネベルをかなり驚かせたようである。
「Nジャマー回収作戦の時には確かに敵同士だった。だが、それも無理やり従わされていたのなら仕方あるまい」
キャミッサーはネベルが以前の戦闘の遺恨の事を引き摺っているのかと思い、その話を持ち出した。
「それもたしかにありますけど……同じコーディネーターだからと言って味方と思うのはどうかと思いますよ。自ら進んでナチュラルに味方するコーディネーターもいますよね」
ジリリリリ!!
キャミッサーは反論しようと思った時、二人の会話を遮るかの様にけたたましく警報が鳴った。
ネベルが両耳を押さえながら席をたつ。
「うわ、またどこかの艦が月に近付きすぎたんじゃないですかね?」
「いや、このボアズで警報が鳴るとは、まさか……」
キャミッサーも席から立ち上がる。
二人はスクランブルのため格納庫へと急ぐのだった。
────
C.E.71年9月23日
プラント本国攻撃を目的とした最終作戦であるエルビス作戦の発動。
それに伴い、ザフト軍の要塞ボアズへの攻略作戦が行われた。
これに地球連合軍はアガメムノン級宇宙戦艦ワシントンを旗艦とし、第6、第7機動艦隊を投入、全面攻勢の構えで臨む。
その大艦隊の最左翼の中にニカノルはいた。
ニカノルは全長250mあるネルソン級戦艦だが、300mのアガメムノン級の前では実際の大きさよりも小さく見える。
そのニカノルのブリッジでホバートが号令を下していた。
「いいか、我々でボアズへの突破口を開くぞ!」
と、艦長席から威勢よく檄を飛ばす。
しかし、すぐにも最前線に出ようとするホバートに対して副艦長は思いとどまるよう諌めた。
「このネルソン級でもザフト軍のMSの攻撃を受ければひとたまりもありません。ハルバートン提督の悲劇をお忘れですか、それに作戦の主旨とも違いますぞ」
ホバートは副艦長の提言にしぶしぶと頷く。
「分かっている。MS隊を発進させろ!」
その号令を合図にネルソン級のカタパルトから、アレンのヘリックスとリナルド達のストライクダガー隊がそれぞれ出撃して行った。
────
ニカノルを出撃してから直ぐにへリックスの警告アラートが鳴る。
「ボアズの守備隊か」
前方から緑色のMSが接近、アレンはアラートの鳴った方向にヘリックスのビームライフルを構える。
ビュン!
向こうの方から先にビームを撃ってきた。
緑色のビームがヘリックスの左肘を掠める。
こちらも反撃し、出方を伺っていると徐々に敵機の姿が明らかになってきた。
「ジンでもシグーでもない、新型の量産機か」
アレンはそう考察すると、接近戦に備えるためへリックスのビームトーチを構えた。
2機の距離が縮まり近接戦闘となる。
相手は盾からビームの刃を二本伸ばすと、それを使って斬りかかってきた。
アレンはビームトーチで受けるが、出力負けしていたのか押しきられてしまう。
「こちらの方が負けている? く……」
敵機を右足で蹴り出して距離を離し、続けざまにビームライフルを撃つ。
直ぐに敵機の姿が火球へと変わる。
「もう、こちらの方が旧式と言う訳か」
なんとか退けたが、すぐに次の敵機が迫ってきていた。
光も自陣側の方が多くなった様である。
「押されているな」
戦況はこちらから攻め始めたはずなのに逆に押しかえされていた。
そうアレンが思っていると、後方から新たな味方機が接近してくるのをレーダーで確認する。
「あの機体はたしか……」
カラミティ、レイダー、フォビドゥン
色こそ違うが、アイルランドで見たガンダムタイプ3機の同型機がそこにいた。
3機がその圧倒的な火力と機動力でボアズの守備隊を押し返していく。
「凄い」
アレンが感嘆していると、聞いた事のある声が話しかけてきた。
「その機体は、もしやアレン中尉ですか?」
「その声はヴァプラ少尉か?」
見た事のある青いレイダーがこちらに近づいてくる。
「お久しぶりですアレン中尉、まもなくピースメイカー隊が攻撃を開始します。ここにいたら危ないですよ。それでは」
それだけ言うと青いレイダーは離れてく。
その時、ニカノルから通信が入った。
「アレン中尉、ピースメイカー隊が作戦宙域に到達した模様です。ただちにボアズから離れてください」
オペレーターも先ほどのヴァプラと同じ事を言う。
「了解しました。帰投します」
アレンはへリックスをニカノルの方へと後退させる。
ストライクダガー隊もその後に続いた。
「あれがピースメーカー隊だな」
地球連合軍のMAメビウス、そのどれもがミサイルを抱えていた。
そのミサイルが次々と発射されると、ボアズが光に包まれていく。
────
「ボアズが……落ちた?」
キャミッサーには目の前の光景が信じられなかった。
さっきまで自分達がいた宇宙要塞ボアズはそこには既に無く、無数の残骸が漂うだけとなっていた。
そこに隊長であるカラサワからの通信が入る。
「キャミッサー、撤退命令だ、我々もヤキンまで一時撤退する」
キャミッサーはカラサワに尋ねる。
「カラサワ隊長、ボアズが一瞬にして落ちるなど、これは……」
「ああ、核だろうな。だが、今は退くしかない」
そう言ってカラサワは通信を切った。
キャミッサーは頭を抱える。
「まさかナチュラルが核を使うなど、Nジャマーの回収は阻止したはずなのに」
Nジャマーの影響下では全ての核分裂が抑制されているため核兵器は使用できない。
だが、既に再び核を使用されてしまったのは事実である。
地球連合軍がNジャマーに対して何らかの対抗策を用意したのは明らかであった。
「あれを再び使われたらヤキンも、そしてプラントも終わりだな」
キャミッサーは後ろ髪を引かれる思いだったが、アラウクネを翻すと進路をプラント最後の守りであるヤキン・ドゥーエへと向けた。
11/4 イージスダガーにPS装甲が搭載されてるかのような描写があったので修正