機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
ボアズを陥落させ勢いづく地球連合軍、そしてその牙はついにザフトの最終防衛ラインであるヤキン・ドゥーエへと向けられた。
「ストライクダガー隊が例の4本腕を含むMS部隊を確認致しました」
オペレーターが淡々と状況を報告していく。例の4本腕とはアラウクネの事であった。
ホバートは艦長席から立ち上がると作戦指示を伝達する。
「PS装甲持ちのあの機体か、各自に決して単独では仕掛ける事の無いよう徹底させろ!」
そう言うとホバートは再び艦長席に腰を下ろした。
副艦長が口を開く。
「艦長、こんな時に言うのも何なのですが」
ホバートは副艦長の方を見る。
「どうした?」
「核、そしてその目標が非武装のコロニーであっても、それには抵抗はありません。ですが、また我々が核の囮に使われるというのは、また大西洋連邦にしてやられているのでは?」
今回の作戦はヤキン・ドゥーエを落とすのが目的では無い。狙いはプラントであった。
ホバートは副艦長の「我々は囮」という意見を否定するように言う。
「アラスカの時とは違うだろう。現にアレン中尉がピースメイカー隊の護衛に着いてるではないか」
アレンは核ミサイルの護衛任務のため、ニカノルとは別行動を取っていた。
「だが、大西洋連邦主導で事が進んでいるのも現実ではあるな」
アラスカで主戦力の大多数を失ったユーラシア連邦は独自のMS開発でも大西洋連邦に水を開けられてしまった。
そして今回、Nジャマーキャンセラーを入手し核が再び使えるようになったのも大西洋連邦の功績である。
今後も連合内での大西洋連邦の発言力がより一層増していくのは明らかであった。
「結局、大西洋連邦だけでも勝てたのかもしれんな」
「何を言われるのですか艦長、我々もここまで来ました。大西洋連邦だけではここまで来れなかったでしょう」
ホバートは副艦長の言葉に頷くと、再び指揮に戻った。
────
「この戦いでシャルル小隊長の仇を取る。行くぞ!」
リナルドは元バクゥ隊の面々を鼓舞するように言うと、自らもストライクダガーで先陣を切っていく。
地球連合軍による最終作戦。
無数にも思われる数の艦船、メビウス、ストライクダガーがヤキン・ドゥーエへと侵攻し、その勢いのままにザフトの艦船やジンなどのMSを飲み込んでいる。
だが、応戦するザフト軍の方もやられるばかりではない。
キャミッサーは3機のストライクダガーを同時に相手にしていた。
ストライクダガーは各々がビームライフルでアラウクネを狙うが、その機動性に翻弄され1発も当てる事が出来ない。
「ナチュラルのMS、いくら数が多くても」
2機をアラウクネのビームクローでそれぞれ打ち払う。
だが、1機に後ろに回り込まれてしまった。
ビームサーベルを構え斬りかかってくる。
しかし、既にキャミッサーにはそのストライクダガーの事など考えていない。
「あの十字架のMSはここにはいないのか」
そう言うとバックパックの腕からヒートネットを射出し、後方の1機を絡めとる。
ストライクダガーは網で身動きが取れなくなった。
キャミッサーはその機体を容赦なくヒートクローで切り捨てた。
「や、やめ……うわああ!」
接触回線でストライクダガーに乗っていたパイロットの断末魔がコクピットに木霊する。
「機体の性能差が分からないとは」
キャミッサーは吐き捨てるように言った。
その様子を見たカラサワは感嘆する様に言う。
「流石だなキャミッサー、だがもう次が来たぞ」
カラサワが指示した方向を見ると、既に新たな敵影が近付いていた。
「PS装甲のある私が先陣を切ります。援護をお願いします」
キャミッサーはそう言うとカラサワのジンハイマニューバの横を抜け、敵機の群れに乗り込んでいく。
地球連合軍の攻勢は続く、だが、対するザフト軍の守りも堅牢であり、一進一退の攻防が続いていた。
その時、緊急事態を知らせる通信が入ってきた。
「あのミサイルを落とせ! プラントをやらせるな!」
緊急通信の入ってきた方向を見ると、多数のメビウスの群れが見えた。
どれもその腹に大型のミサイルを抱えている。
キャミッサーは思わず叫んだ。
「ここで核だと!?」
この事態に他のザフト兵も気付いたのか、慌ててミサイルを阻止しようと動き出す。
「各機、あのメビウスを優先して落とせ!」
カラサワはそう言うと、自らも核ミサイルの阻止に向かう。
キャミッサーも同じく阻止に動くが、ここからでは間に合いそうにない。
「奴らまさか最初からプラントを狙う算段だったのか」
今はそれでも核ミサイルを止めるために奮戦するしかなかった。
────
砂時計型の新世代コロニー、プラント。
そのコロニー1基に約50万人も住んでいるため、大きさはもちろん巨大戦艦の比ではない。
だが、ボアズを一瞬で崩壊させた核の威力であれば、ヤキン・ドゥーエも残り91基あるプラントもすぐに落とせるであろうことは明白であった。
その核ミサイルの護衛に付いたアレンは眼下のピースメイカー隊を見て呟く。
「これでこの戦いも終わるのか」
ザフト軍はヤキン・ドゥーエへの侵攻を阻止しようとするのに手一杯で、プラントの防衛は手薄になっていた。
メビウスのパイロットの一人が叫ぶ。
「青き清浄なる世界のために!」
ボアズ戦と同じくメビウスから核ミサイルが次々と発射していく。
が、2機のMAの砲撃により核ミサイルが一瞬で打ち落とされてしまった。
アレンは想定外の事態に疑問符を浮かべる。
「なんだ? 爆発するのが早すぎる」
よくみるとそのMAの中にはMSが収まっていた。
その内の青い翼のMSを見て、アレンは思わず目を見張る。
「あの機体はアラスカで見たMS、あれもストライカーパックなのか!?」
核ミサイルが撃墜された後、続けてオープンチャンネルで凛とした女性の声が宇宙に響いた。
「地球軍は直ちに攻撃を中止して下さい」
ラクス・クラインの呼びかけには地球連合側だけではなくザフト側でも動揺が拡がっていた。
キャミッサーもこれには驚き、思わず機体を停止させてしまう。
「ラクス・クライン? そうか、プラントを守ってくれたのか」
「キャミッサー副隊長、何を見とれてるんですか! ラクス・クラインも今はザフトの敵なんですよ!」
ネベルはキャミッサーにしっかりするように言うが、他のザフト軍も新しく現れた艦を攻撃するかどうかの意見が割れ、動揺が広がっている。
だが動揺は意外にもすぐに収まった。
ヤキン・ドゥーエからの緊急通信がザフト全軍に通達されたのである。
「え、全軍射線上より退避……ジェネシス? こんな作戦コードありましたっけ?」
「ともかく、ここは命令通りに退くしか無いだろう」
キャミッサーとネベルは突然の命令に戸惑うも、その場から急いでMSを離脱させる。
その直後、轟音とともに巨大な閃光が遠くを通り過ぎていった。
「何か分からないけど、すげぇ……」
ネベルが思わず言うが、誰も答えられない。
再び宇宙に静寂が戻ると、そこには地球連合軍の艦やMSの残骸が漂うばかりであった。
────
「く、一体何だと……」
アレンは閃光が通り過ぎた時、近くにいた戦艦の爆発に巻き込まれていた。
背に爆発を受けたため、本体のヘリックスはまだ戦えるがガンバレルストライカーはもう使えそうにない。
「ニカノルは?」
アレンは母艦へと連絡を入れるが応答がない。
「リナルド、応答してくれ。母艦はどうなっている?」
一緒に戦闘を行っていたストライクダガー隊の面々にも通信を送るがこれも返事は返ってこなかった。
「まさか……」
ともかく今は補給を受けなければならない。
幸いにも損壊の少ないドレイク級が見つかったので、アレンは通信を入れる。
「こちらユーラシア連邦所属アレン中尉だ、補給のため着艦許可願う」
直ぐにドレイク級のオペレーターから返答が来た。
「こちらユーラシア連邦所属護衛艦ノックスです。アレン中尉、ノックスへの着艦を許可します。第3カタパルトの方へとお願いします」
なんとか着艦し、中に入ると格納庫の中は負傷した兵士、破損したメビウス、ストライクダガーなどで込み合っていた。
「破損が少ないMSから優先的に補給させろ!」
整備員の怒号が飛ぶ。
はからずしも、ユーラシア連邦に所属する艦に拾われたのは幸運であった。
ヘリックスの整備状況を見ながら補給が終わるのを待っていると、整備員の一人から声をかけられた。
「アレン中尉、至急ブリッジにまでお願いします」
「了解した。すぐに向かう」
アレンはブリッジへと向かった。
「アレン中尉、入ります」
ブリッジに入ると、このドレイク級の艦長がわざわざ出迎えてくれた。
「君がアレン中尉か、私がこのドレイク級の艦長を務めているハスターだ。君宛に通信を繋ぐように言われてね」
「私宛に?」
<アレン、あなたとヘリックスが無事で何よりです>
思わぬ声にアレンは驚いた。
「アタランテ!? 今どこにいるのです」
<私なら、そちらの艦の隣にいます。窓の外を見てください>
アレンがブリッジの窓を見ると、巨大なMAが艦の横に平行して泳いでいた。
青色のフォルムに長い尾が1本、両側には大型パイルバンカーが1本づつ付いている。
元々ですらヘリックスと同じ位の大きさがあったのだが、これはその4倍とも言える大きさになっていた。
全長130mあるドレイク級が2つ並んでいると言っても過言ではない。
「これがパラサイトストライカーの最終進化系……」
<ええ、パラサイトストライカー・シングルです。ストライカー・パック単体での行動が可能となりました>
ブリッジにいる誰もがこの巨大兵器に目を奪われていた。
アレンはある事に気が付き、アタランテに質問をぶつける。
「しかし、パラサイトストライカー単体で活動できるのであればもうユニットをヘリックスに接続する必要は無いのでは?」
<単独での戦闘が可能になったというだけです。性能を最大に引き出すためにもヘリックスとの常時接続が必要なのですよ。そしてそれをコントロールするアレン、貴方の力もね>
自分はまだアタランテに必要とされている。それが分かった事で、この状況でもアレンは思わず微笑してしまった。
「あの、ちょっとよろしいですかアタランテ?」
ハスターが口を挟む。
「私は貴方がユーロ会議直属の特務を受けているという事しか知らないのだが」
<その認識だけで結構ですよ。貴方がそれ以上知る必要はありません>
アタランテは一方的に話を終わらせると、遠隔操作でブリッジの扉を開く。
<アレン、ヘリックスを出してください>
「了解しました。ハスター艦長、それでは失礼します」
アレンは一礼するとブリッジを出て行った。