機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
アレンはドレイク級を出発した後、すぐにヘリックスを
「内側からだと、更にその大きさが実感できますね」
ドッキングさせた後、アレンは思わず呟いた。
<そうでしょう。その大きさゆえに大型MAの搭載できる火力、バッテリー容量は既存のMSとは比べ物になりませんよ>
更に4枚の複合盾をヘリックスの前面に覆いながらアタランテが言う。
これで完全にヘリックスはMAに守られているかのような形になった。
<では出発しましょうか、ヤキン・ドゥーエへ>
銀色の大型
戦況のさらなる変化はすぐに訪れた。
<高エネルギー反応を確認しました。ジェネシスの二射目が発射されたようです>
アタランテが分析結果を伝える。
光が月へと降り注がれていく。
パラサイトストライカー・シングルはPS装甲に覆われているが、それでもガクッとした衝撃を受けた。
<あの砲撃で攻撃隊の第二陣も、その後方の月基地も壊滅しましたか>
地球連合軍は最初の第一射で戦力の40%以上を失い、この第二射で補給を含む第二陣、更には月基地まで失ってしまった。
もはや地球連合軍の戦闘続行は不可能である。
それにも関わらず、アタランテは淡々としていた。
<まもなくピースメイカー隊も出ます。我々はこのままヤキン・ドゥーエへと向います>
「了解」
アレンはアタランテの考えに従う。
そしてこれからもそうであると、彼は疑っていなかった。
────
「あんな兵器が我々にあったとはな」
キャミッサーは後方にある巨大兵器を見て呟く。
ジェネシス
核エネルギーを使用した巨大なガンマ線レーザー砲であり、今の今までミラージュコロイドで秘匿されていたザフト軍の最終兵器である。
「敵MS隊接近、守備隊は迎撃をお願いします」
オペレーターが敵機の接近を告げる。
「まだ戦うと言うのか」
キャミッサーはそう思いつつもアラウクネのブースターを吹かす。
敵艦船からのビーム砲を合図に敵MS隊が攻め込んできた。
「もはや数の優位すら無くなったというのに」
キャミッサーはビームの弾幕の中に自らアラウクネを飛び込ませる。
何発かのビームが機体を掠め右肩には直撃を受けてしまったが、ビームクローがストライクダガー1機をえぐった。
そのまま敵部隊の懐に入ったキャミッサーは蜘蛛の牙で敵を仕留めていく。
「ビーム兵器が台頭してきた今となっては、PS装甲もあまり信用できないな」
右肩の反応が低下してしまったが大した影響はない。
キャミッサーが次の標的を探していると、思わぬ人物から通信が入ってきた。
「ルッツ・キャミッサー、お久しぶりですね。プレゼントの調子はいかがですか?」
「バルナバス管理官? 、貴方もここにいらしたとは」
キャミッサーは驚く。
通信が入ってきた方向を見ると
ゲイツと特殊装備のジンで構成されたMS部隊がこちらに向かってきていた。
「どうやら損傷を受けたようですね」
バルナバスはアラウクネの右肩の傷を見ると言った。
「受領した機体に傷を付けてしまい、申し訳ありません」
「ハハ、謝る必要はありませんよ、戦場で傷はつきものですから」
バルナバスは笑いながら言った。
だが、こんな事を言いに来たのではないのだろうと思い、キャミッサーは疑問をぶつけた。
「まさかバルナバス管理官もこの宙域にいらしたとは思いませんでした」
「我々の完全勝利まで後少しです。何としてでも持ちこたえて下さい」
バルナバスはキャミッサーの問いに答えをはぐらかす。
それでもキャミッサーはこの管理官がこれから何をするのか気になり質問を続ける。
「しかし、バルナバス管理官はどちらへ?」
「私は任務を遂行しなければなりませんので」
そう言うと、バルナバスは一団を引き連れて去って行った。
────
アラウクネから離れた後、部下の一人がバルナバスに尋ねた。
「良かったのですか? 彼も十分な戦力と言えると思いますが」
「相手はたった1機、この兵力で十分ですよ」
全部で5機、その内の3機は自身を含むゲイツ、1機がジンアサルト、1機が索敵用のジン長距離強行偵察複座型である。
部下は全員が自分の息のかかったFAITH所属のパイロットであり、忠誠心は高い。
相手が相手であるだけにもっと入念な準備が必要だったのかもしれないとも思った。
バルナバスはコクピットの中で一人、気持ちを吐露する。
「せめてゲル・フィニートが用意できていれば切り札に成り得たのですが、仕方ありませんね」
受領できなかった新型MSの事を考えるが、悠長な事は言っていられなかった。
バルナバスは部下に言う。
「それにこの情報はあまり拡散させないほうが良いですからね」
「ラウ・クルーゼがナチュラルだった事、そして
バルナバスは部下の問いに無言で頷く。
どちらの事実も信じがたいことではあった。
だが、クルーゼがNJCのデータをナチュラルの捕虜に渡し、それが地球連合軍に渡ったことは既にバルナバスの調べで分かっている。
NJCはNジャマーを無効にする技術であり、地球軍がボアズで再び核を使用できたのもNJCを使ったからに他ならなかった。
「ただ、あの新型を受領される前に身柄を取り押さえておきたい所でしたね」
プロヴィデンス、この機体がクルーゼの乗機となっている事は想定外であった。
ジャスティス、フリーダムの兄弟機である。
他2機と同じ様にNJCが搭載され核エンジンで稼働している。
既存バッテリー機では既に機体の出力差だけで既に勝負が付いていると言ってもよい。
「ザラ議長の信頼を欺いた事、その報いを受けてもらいましょう」
本来であれば自分がプロヴィデンスを受領する事も有り得た。いや、あったのである。
その対抗心がバルナバスを突き動かしていた。
ジェネシスの2射目が発射された今、もはや戦況はザフトの勝利である。
勝利者であるコーディネーターにナチュラルの間者はいらない。
「後方より敵影1! 距離400! 更に接近してきます!」
索敵していたジンのパイロットが叫んだ。
バルナバスは驚く。
「プロヴィデンスか? まさか後ろから来るとは」
「いえ、MSにしては大きすぎます。これは……艦船?」
肉眼でも見える様になってきた。
その機体を見てバルナバスを含むここにいる誰もが言葉を絶句する。
「なんですあれは……」
それは艦船の異様な姿をしたMA、パラサイトストライカー・シングルであった。
<ザフトのMS部隊ですね。我々の障害を排除致しましょう>
「了解」
アタランテがアレンに指示を出す。
対するバルナバスは虚をつかれはしたが、すぐに指示を出した。
「各機散回! 敵機が回頭した所を狙う!」
が、MAの動きが予想以上に速かった。
まず動きの遅いジン長距離強行偵察複座型が犠牲になる。
「高速で近づいて槍で一突きとは、旧時代の戦い方ですか」
バルナバスは舌打ちするが、脅威には変わりない。
MAは獲物を加えたまま、向きを変えるため回頭に入った。
それに向かってゲイツはビームライフルをジンは重機関砲をそれぞれ撃つ。
爆発
だが白煙の中からMAは姿を表した。
その牙でバルナバスのゲイツを捉える。
「まさか、こんな志半ばで私が」
ゲイツが槍の先で爆散した。
敵わないと考えたのか、残ったザフト機は散り散りに逃げ始める。
「アタランテ、追いますか?」
リーダーを失い、撤退する3機を見てアレンは言った。
<その必要は無いでしょう。それよりも我々の計画を急がねばなりません>
アタランテがコクピットのパネルに映像を映し出す。
核ミサイルを阻止され、デュエルがこちらに向かってくる所で映像は終わった。
<これはドゥーリットルより撮影された最後のピースメイカー隊が全滅した様子です。こんな所で遊んでいる暇ではありませんでしたね>
ドゥーリットルはジェネシスの第一射で撃沈されたワシントンから指揮を引き継いでいたが、結局この艦も沈んでしまった。
核攻撃隊も全滅し、もう地球連合軍にジェネシスを落とす手段は残されていない。
だが、この状況にも関わらずアタランテの指示は相変わらずヤキン・ドゥーエのままであった。
アタランテが理由を説明する。
<既に私の子機がヤキン・ドゥーエのシステムに侵入しています。後は本体の私がヤキン・ドゥーエに入ればシステムを完全に掌握し、この戦争を終わらせる事が出来ますよ、ジェネシスを使ってね>
「ジェネシスを?」
アレンは思わず聞き返した。
<ジェネシスでプラントを撃つのです。これでコーディネーターは宇宙から消えますよ>
パネルにヤキン・ドゥーエまでの新たなルートが表示される。
<このルートで行きましょう。これならザフトの防衛網に引っかからずに済みますから>
アレンはアタランテの指定したルートを確認すると機体を反転させ、ヤキン・ドゥーエの中枢へと向かって行った。