機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
ヤキン・ドゥーエでの戦闘は今だに決着が付かずにいた。
ジェネシスを何としてでも落とそうとする三隻同盟、そして2度もジェネシスを撃たれ壊滅状態となった地球連合軍とザフト軍の戦闘がまだ続いていたのである。
キャミッサーは1機のメビウスを相手にしていた。
「今さら通常兵器で
敵の機銃を全て
メビウスをまた1機撃墜、着実に戦果をあげていくがキャミッサーは何かわだかまりを感じていた。
だが感傷に浸っている暇は無い、すぐに敵の新手が迫ってきている。
「向かってくるのならば、こちらも迎え撃つしかない」
再びアラウクネのビームクローを構える。
今度はストライクダガーを葬った。
勝敗は既に決しているというのに、敵の勢いは一向に変わらないようである。
キャミッサーは後方に鎮座している大型戦略兵器ジェネシスを見上げた。
「これを落とすか、自らが滅ぶまで終わらないと、そういうことなのか」
第二射を撃ち終えたジェネシスではミラーブロックの換装作業が進んでいる。
この作業が意味するもの、それは第三射が予定されている事に他ならなかった。
「次の目標は、いよいよ地球か……」
既に地球連合軍は本隊も増援も月基地ごと壊滅させている。
では、次に狙う目標はもう地球しか残っていない。
だが、地球にジェネシスを撃つ。
それは地球上に住む生命が全て死滅すると言うことであった。
「敵MS隊接近! 距離300、機種特定……1機はZGMF-X09Aジャスティス!」
オペレーターが新たな敵機の接近を告げる。
赤いMSとその僚機がヤキン・ドゥーエの中枢に迫ってきていた。
「止めろ! もう止めるんだ! こんな戦い!」
ジャスティスのパイロットがオープンチャンネルでザフト兵に呼び掛ける。
どこかで聞いた事のある声、その声はジブラルタル基地でアネットと話をしていた赤服のパイロットと同じであった。
「あのMSに乗っているのはアスラン・ザラか?」
アスランによる呼びかけはなおも続いている。
「本当に滅ぼしたいのか!? 君達も! 全てを!」
だが、ほとんどのザフト兵にその言葉に同調する事なく罵詈雑言をアスランに浴びせていく。
「今更何をしに戻ってきた!」
「このコーディネーターの裏切り者が!」
両者が交戦する。
ジャスティスはフリーダムと同じ核搭載機である。
そしてパイロットはストライクを撃墜したアスラン・ザラ、並みの機体とパイロットでは相手にならない。
いとも簡単にヤキンの中枢へと突破されてしまった。
「侵入されたか」
キャミッサーは後を追おうとするが、それをカラサワが止めた。
「まだ外に敵がいる。後は中の守備隊に頑張ってもらうしか無い」
「……分かりました」
キャミッサーは歯がゆい思いで、ジャスティスの後ろ姿を見送る。
「ジャスティスには突破されたが、まだ向こうに敵の母艦が3隻もいるだろう」
カラサワはそう言って向こう側にいる3隻の戦艦を示した。
「あのエターナルと足付き、それと足付きに似た戦艦、たしかオーブの宇宙戦艦だったと思うが、既にジェネシスが奴らの射程距離に入ってしまっている。我々で援護に向かうぞ」
そう言うと自らのジンハイマニューバで救援に向かおうとするが、キャミッサーは動かずにいた。
「どうしたキャミッサー?」
「カラサワ隊長は地球がジェネシスに撃たれても良いと……そう考えているのですか?」
「当然だろう? ザラ議長も同じ考えのはずだ。それともキャミッサー、ここに来てようやく敵に情けをかける気になったのか?」
「いえ、そんなことは……」
キャミッサーは反論しようとしたが、その前にカラサワが何かに気づいた。
「ん? なんだこれは」
多数の機影がヤキンの内部からこちらに向かって来ている。
後ろを見るとヤキン・ドゥーエから多数の艦船とMSが出撃している所だった。
「味方艦? ここで前面に出るのか」
キャミッサーは一瞬増援が来たのかと思った。
が、それは間違いであったことに気づく。
様相がまるでヤキン・ドゥーエから脱出しているとしか思えなかったからである。
「撤退だ! ヤキン・ドゥーエはもう放棄された!」
「撤退なのか?」
ヤキンから出てきたザフト兵が口々に撤退を口にする。
様々な通信が飛び交い、ザフト側は情報が錯乱していた。
カラサワの部下の一人がこちらに近づくと言った。
「カラサワ隊長、他の部隊は撤退を開始しています。我々も続くべきでは?」
「待て、早まるな。まずは状況を見極めてからだ」
カラサワは部下の進言に「待った」の指示を出した。
態勢を立て直して事態の収集に動こうとするが、1機その指示を聞かずに飛び出していく。
「キャミッサー、何をしている戻れ!」
カラサワが止めるのも聞かず、キャミッサーはヤキン・ドゥーエへと入っていった。
────
アスランはヤキン・ドゥーエからジェネシスの内部に侵入していた。
目的はただ一つ、ジャスティスを自爆しジェネシスを破壊するためである。
ジャスティスの自爆装置を起動させた後、カガリのストライクルージュに乗り移るため、ハッチを開ける。
その時、目の片隅で見覚えのあるシルエットを見つけた。
「イージス? なんでこんな所に」
イージスはアスランがヘリオポリスでの新型MS奪取作戦で連合から鹵獲して以降、ストライクと相打ちになるまで自らの乗機としていたMSである。
だが、よく見るとそのイージスの顔はガンダムフェイスではなくストライクダガー系のゴーグルフェイスであった。
「地球連合軍のMSがここまで侵入を果たしていたのか?」
それにしては様子がおかしい。
機体色は赤色のままなのに、その身を漂うに任せている。
「どうした、アスラン?」
不思議に思ったのか、カガリが尋ねる。
アスランはイージスの方を指差すと言った。
「いや、何であんな物がこの場所にあるのかと思ってな」
「イージス? あのMSも復元されていたのか?」
「わからない、だが……」
アスランは答えに窮した。
その時、イージスのゴーグルフェイスが怪しく光ったのである。
「動き出した? カガリ! 下がってろ!」
アスランはジャスティスのハッチを閉める。
そして自爆装置のカウントダウンをキャンセルすると、イージスダガーへと向き合った。
今のジャスティスにはメインスラスターの役目を果たしていたファトウムが無い。
その分機動性が低下しているが、相手が敵意を見せるのであれば戦うしか無かった。
イージスダガーは4本足の
「スキュラを使う気か、だが」
アスランは盾を構えて敵に突進していく。
スキュラがジャスティスを直撃するが、ラミネート装甲の盾がそのビームを拡散することで攻撃を防いだ。
「うおおおお!!」
間合いを詰めたアスランは2本のビーム・サーベルの柄を連結させ双刃のハルバートにすると敵を切り結ぶ。
イージスダガーはその場から崩れ落ちると、爆発した。
「アスラン! まだ来るぞ!」
カガリが何かの接近に気づく。
何かが通路から、いや通路の壁をこじ開けながらこちらに向かって来ていた。
通路から巨大な4本の腕が飛び出してくる。
「まだいたのか、何なんだこいつは?」
アスランはその異様な姿に驚くも、再びハルバートを構え直すのだった。