機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
「アレン中尉、なぜディンに対して攻撃を行わなかった!」
アレンは先程の戦闘で一度も発泡しなかった事についてホバートから叱責を受けている。
「私が攻撃に参加しなかったのはアタランテの判断によるものです。アタランテが闇雲にこちらの手の内を晒しながら攻撃を仕掛けるのは得策ではないと判断しました。それは私の機体の戦闘記録を見て頂ければ分かると思いますが……」
基地にいる時、こういう場面ではすぐにアタランテが音声で反論してくれていた。
しかし、この艦のアタランテシステムは基地にある本体からのデータ移行が全て終わっておらず、基地にいる時の様にまだ音声で指示を出せる状態ではない。
そのためアタランテは未だに無言のままである。
「しかし……」
「艦長、もう忘れたのですか? アタランテの判断であればそれが優先されます。この件はもう良いでしょう」
副艦長がホバートに進言する。
「それよりも我々はアイルランドのリマリック基地へと急がねばなりません。ザフトに動きを知られてしまいました。追撃隊が来るのも時間の問題でしょう」
「ううむ……」
副艦長から言われてようやくホバートは引き下がった。
先の戦闘では初の艦防衛戦だった事、連携が上手くいっていなかった事などからディン1機ですら落とす事が出来なかった。この不備を敵が突いてくる事は十分に有り得る話である。
「リマリック基地どころか中継基地であるオルレアン基地まで後5日、その間に襲撃を受ける可能性は十分あります。ここはリマリック基地に先遣隊の派遣を求め、防備を整えるべきかと」
「仕方ない、救援を要請するか」
そう言ってアレンの方に向き直るとこう言った。
「アレン中尉、ご苦労だった、もう下がっていい」
「はい、では失礼致します」
────
ブリッジを出ると廊下でシャルルが待っていた。
「お疲れ様でした。かなり絞られたみたいですね」
「そこまででも、アタランテが配備される前を少し思い出しましたね、昔はいつも怒鳴ってばかりだったんで」
「へぇー、自分がシルバニア基地に配属された時にはアタランテシステムは既にありましたから昔はそんなんだったなんて想像し難いですね
」
実を言うとその辺りの記憶はアレン自身も曖昧なのだが、今はとにかく自室で休息を取ることにした。
────
ヴァルファウ級大型輸送機 『エール・リベルタ』 カタパルト
「キャミッサー隊帰還、整備班、消化班はAデッキへ」
ヴェンデロートのはるか北方面にその輸送機は飛んでいた。ジブラルタル基地から飛んできた彼らの目的はヨーロッパ方面の遊撃であった。
まずディンが先に着陸し、その後にグゥルに乗ったジン3機が着陸する。
────
「ロス機長、面白い物を見つけました。どうかこれをご覧下さい」
先ほどヴェンデロートを翻弄したディンに乗っていたパイロット、ルッツ・キャミッサーは機長室で機長に何枚かの写真を見せる。写真にはヴェンデロートとその甲板に乗っているバクゥ、へリックスの姿が映っていた。
「これは……この映っている
「はい、砲台に隠れていてあまり映りは良くありませんが、この造形、連邦のG兵器と同じタイプの
顔面蒼白な機長を前にしてキャミッサーは不適な笑みを浮かべる。
「バクゥ3機と人型MS1機か、4機とは言えナチュラルがMSを数を揃えて運用していたとは、ジブラルタル基地から増援を乞わねばなるまい」
「いえ、ジブラルタル基地は現在、アフリカで戦闘中のバルドフェルド隊の支援で手一杯の様子、我々だけで対処しましょう、向こうの相手はあの『足付き』ですよ」
『足付き』とは大西洋連邦の新型艦であるアークエンジェルの事である。
ザフト軍ではこの新型艦に関する情報が無かったため、その形状、特に脚部状の
「我々だけで対処できるのか?」
「彼らは空中戦に関してはまだ不得意かと思われます。ディンの様に空中戦が可能な
先の戦闘での敵の対空装備の不備を指摘する。
「では追撃隊を組織して直ぐにでも仕掛けよう」
「いえ、それはまだ時期が来てからかと」
直ぐにでも追撃すべきと言う機長の意見をキャミッサーは否定した。
「私が気になるのはこのG兵器もどきです。この
パネルに映る1機(へリックス)を指差す。フランケ隊はシルバニア基地を強襲した後、隊長機を含むジン3機が撃墜された。唯一生き残った一人は他部隊に配置替えされたと聞く。
「彼らがあのシルバニア基地からの部隊であれば、まだ何か隠している可能性が十分に有りえます。まずこの『犬小屋』の目的は何か、何処に向かっているのか、それを調べる必要があります」
現在、ヨーロッパ方面とアフリカ方面はザフト軍がジブラルタル基地の建設して以降、そこを本拠地として多数の部隊が各々で地球連合軍基地の攻略を行っている。
第一次ビクトリア攻防戦での地上戦のノウハウと多数の
その一つがルーマニアのシルバニア基地である。
「アネット、君の撮った写真のデータは全てジブラルタル基地に送ってくれ、情報は共有しておいた方が良いからな」
「了解しました」
アネットと呼ばれた藍色の髪の女性士官はキャミッサーからデータの入った媒体を受けとると部屋を出ていった。
キャミッサーは機長の方にもう一度向き直ると報告をこう締めくくった。
「ここで今もう一度武勲を立てればネビュラ勲章ものです。機長あなたが望んでる特務隊への配属まであと少しですよ」
5/19 推敲 リマリック基地とオルレアン基地に関する文言を追加
5/24 「」内の「」を『』に、誤字修正