機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
<アタランテシステムのインストールが全て完了しました。これより防衛システムのチェック及び再構築を行います>
ディン隊襲撃の翌日、ようやくアタランテの音声機能も含めて全ての機能が使用可能になった。艦内はアタランテとの接続が上手くいっているかどうかの確認に追われている。
無論、アレンの乗機であるへリックスも例外ではない。アレンもコクピットに入り、システムチェックを行っていた。
へリックス本体の武装、75mm対空自動バルカン砲塔システム イーゲルシュテルンに関しては異常なし、対装甲コンバットナイフ・アーマーシュナイダーは現在、研磨機で磨いでいる最中である。
パラサイトストライカーには対空設備の拡充として新たに4連装ミサイルポッドが追加されている。背部の大型クローアームの稼働範囲を狭めないようにこれは左腰部に配置された。
「アタランテ、ストライカーユニットの再確認を頼む、特に誘導兵器に関しては対空用に調整して欲しい」
<了解しました。ところでアレン、昨日の戦闘で私がなぜへリックスの操作を止めたのか、分かりますか?>
アタランテはこの前の戦闘に関しての質問を投げ掛ける。アレンはキーボードを叩く手を止めずにその質問に答えた。
「相手は明らかに偵察が目的だった。こちらの手の内を晒さない様にとあなたが判断したからでは?」
その返しには答えず、代わりにパラサイトストライカーに接続されている大型クローアームがコクピットの前にまで来て人差し指を立てるような動作をする。AIとは言えたまに感情を表すような動作をする事があるなとアレンは思った
<それもありますが、正解はこの艦の対空兵器とバクゥだけでどこまでやれるかを試したのです。結果は散々でしたが>
たしかに戦艦と
「あのディンはこれまで基地防衛戦で相手をしていた通常機とは翼の形が違っていました。誰か専用にカスタマイズされた機体だと思いますよ」
ザフト軍では既存の機体を個人に合わせて改造を施す、いわゆる専用カスタマイズを度々行っていた。その方法は機体のカラーリングが通常と違ったり、細かいチューニングを施したりなど実に様々である。
<また、半分だけ正解ですね、そうあのディンは早期警戒・空中指揮型ディン特殊電子戦仕様です。操縦するパイロットの他に管制機器を操作するオペレーターが二人乗っています。ですが専用機ではありませんよ>
そして小さい声で付け加えた。
<本来は手に円形のアンテナを持ってるんですけどね>
アタランテが言うには対艦戦用ではなく偵察に特化したディンであったようだ。それに向こうが本気でこちらを攻め落とす気であれば、後方に控えていたジン3機も攻撃に加わっていたはずである。
アレンのキーボードを叩く手が止まる。
「結局の所、向こうはあえて見逃してくれたとそう言いたいんですか?」
<正解です。私達は泳がされているんですよ>
────
「グリーン89、マーク25、チャーリーに識別不明機! 熱紋照合、インフェストゥス1!」
襲撃を受けて以降明らかに偵察目的のディンやインフェストゥス「ザフト軍の
「スピアヘッドを発進させろ! ただし深追いはさせるな」
「敵機、遠ざかって行きます。……ロストしました」
「発進取り止め! しかし、これでは見張られているも同じではないか」
オペレーターからの報告にホバートは指示を訂正する。
「すぐに攻めてこない所を見ると、敵はまだ戦力を整えていないという所ですかな、リマリック基地からの増援はどうなっている?」
焦燥感に駈られるホバートを横目に見つつ、副艦長はオペレーターに確認をする。
「リマリック基地からは
「他には何かあるか?」
「搭載しているのはスピアヘッド 4機との事です」
「スピアヘッド、やはり
スピアヘッドと聞いて落胆した声を出す艦長、空中戦が想定される状況に置いて戦闘機を増援に出した事は正しいのだが、部下の前でホバートは落胆した表情を隠そうともしない。
副艦長は量産型
「彼らは大西洋連邦、我々ユーラシア連邦とは所属が違います。私は彼らが援軍を派遣してくれるとさえ思ってもいませんでした」
リマリック基地のあるアイルランドは西暦末期に起こった再構築戦争以降、大西洋連邦に所属している。
ユーラシア連邦と大西洋連邦はプラントという共通の敵を前にして共闘しているだけであり、プラント無き後は大西洋連邦もユーラシア連邦にとって障害になると副艦長は考えていた。
いつしかヴェンデロートはドイツ南西部に位置する黒い森シュヴァルツヴァルトに差し掛かっていた。ここを越えればフランスである。
5/19 推敲