機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike 作:見ルシア
シュヴァルツヴァルト(黒い森)
シュヴァルツヴァルトは別名「黒い森」と呼ばれるドイツの南西部に位置する山岳地帯である。
その中を全長180m、全高68mある中型陸上戦艦「ヴェンデロート」は周囲の針葉樹林を時には押し倒し、掻き分けながら進んでいた。
「ユーラシア連邦本部とベルリンからは航行の際に出来るだけ自然環境に配慮するようにと言われていましたが」
副艦長がホバートに苦言を言うが、艦長は意に介さない様子でこう返した。
「これでも迂回に時間が掛かっている。やはり我々も大西洋連邦のアークエンジェル級のように大気圏内を飛行できる戦艦が欲しいところだな」
従来の大型輸送機ではMSを1機しか搭載する事が出来ない。
今回の作戦はへリックス1機だけではなく、シルバニア基地がこれまでに鹵獲したバクゥなどの敵MSを一度に輸送する事も考えられていたため、急遽、MS用の陸上母艦として建造していたヴェンデロートを使用する事になったのである。
「レーダーに所属不明機の反応!熱紋照合、これは……バクゥです!」
「バクゥだと!?」
バクゥはザフト軍が誇る四足歩行の地上型MSである。
「ここで待ち伏せしていたのか、こちらもバクゥとヘリックスを出せ!」
<<ヘリックスはまだ出しません、ここはバクゥだけで対処します>>
アタランテから「待った」がかかる。
ホバートはしぶしぶ「了解しました」と言うとまた指揮に戻った。
「カイ・シャールヴィ、バクゥ、出撃する!」
青と白でカラーリングされた4機のバクゥが地上に降り立つ。
「いいか、深追いはしなくていい、艦周辺にいるやつを追い払うんだ」
「深追いしたくても出来ませんよ」
ホバートの指示にシャルルは抗議するように呟いた。
こちらのバクゥにはアタランテシステムと有線接続を行うためのケーブルが付いている。
基地防衛戦の時は特に問題は無かったが、いざ外での戦闘となると稼働範囲の問題が浮上してきていた。
ザフト軍のバクゥ3機が三角形のフォーメーションを取りながら、こちらのバクゥ1機に狙いを定める。
同型機であるため、必然と450mm2連装レールガンの撃ち合いになった。お互いに武装の射程は同じ、ザフト軍側はフォーメーションを組んだ事で狙いを絞らせない作戦を取っている。
「脚を止めるな!狙われるぞ!」
隊長機であるシャルルが叫ぶ。
戦艦の周りからは離れられないため、逃げる範囲が限られている。
対してザフト軍側は周囲の木や岩などの障害物を盾にしたりと地形を活かした戦法を取っていた。
「せめて森林地帯から脱出しなければ、艦長、進路をフェルドベルク山に変更しましょう。高山の方が低木が多く、奴等が身を隠す障害物も少なくなるかと」
「そうだな、進路変更、目標はあの山だ!」
ホバートが進路変更を指示すると同時にアタランテも動いた。
<<アレン、甲板にスタンバイをお願いします、出番ですよ>>
「了解しました。移動を開始します」
アレンはパネルで新装備の接続に問題が無いことを今一度確認すると、ヘリックスを発進させる。
待機していたエリックスは従来のパラサイトストライカーに加えて、その大型クローアームの部分に300mmレールバズーカ「ゲイジャルグ」を連結させていた。バズーカは背負い式である。
<<ストライカーパックの1つ、バズーカストライカーを参考にさせて頂きました。実際に使うのはこれが初ですけどね>>
「バズーカストライカー?ランチャーストライカーではないのか」
アレンは知らないストライカーパックの名前を出されて少し戸惑った。
バズーカストライカーはランチャーストライカーをベースに設計された砲撃型ストライカーの1種である。ランチャーストライカーの主武装である320mm超高インパルス砲「アグニ」とは互換性もある。
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鈍い音をたて、手負いの箱舟は山を登る。
周囲では味方のバクゥが敵を牽制してがんばっていた。
そしてついに、陸上戦艦は損傷を受けながらも山岳地帯の雪原にたどり着く。
白い大地にバクゥの黒い機体はよく目立っている。
「よし、砲撃を開始しろ!」
ブリッジにいるホバートから一斉射撃の指示が下る。
アレンはヘリックスの右膝を立ててしゃがませると、同時にバズーカも展開させて砲撃体勢を取った。300mmレールバズーカ「ゲイジャルグ」とヴェンデロートの副砲が火を吹く。
「ゲイジャルグ」は350mmレールバズーカ「ゲイボルグ」と比べると威力は劣るが、小口径化した分、貫通力と弾速は向上している。
アタランテによって統制された攻撃はバクゥの回避行動を予測していた。1機のバクゥが副砲の直撃を受け、炎上する。
ザフト軍側は形勢不利と悟ったのか撤退していく。
「退いていったか、よし第一戦闘配備解除、警戒レベルを2にまで下げる。一旦停止して被害状況の確認をしよう」
ホバートが停止命令を出す。
バクゥとヘリックスを収納した後、ヴェンデロートは雪風を避けて岩影に停車した。
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「ここから海に出て、更にその海を越えないといけないのか」
ホバートはため息を吐く。
外では雪が降る中、整備員が艦の装甲の補修修理を行っていた。
「艦長、しっかりしてください、アイルランド基地からの増援は出発しているのです。合流まで今しばらくの辛抱です」
弱気なホバートを副艦長がたしなめた。
これから先はまだまだザフト軍の追撃が続く、例えアタランテシステムがあるとは言え、生身の指揮官が弱気では困るのである。
外ではまだ雪が降り続けていた。