機動戦士ガンダムSEED Parasite Strike   作:見ルシア

9 / 37
PHASE-09 ディン再び

 小雨が降る中、下山したばかりのヴェンデロートは再び襲撃を受ける。

 

「敵MSの発進を確認、熱源照合、ジン3、ディン6!?、そんな、9機も」

 

<やはり来ましたか、今回は本気で落としにきたようですね、あのディンとジンはこの間戦闘を仕掛けてきたのと同じ機体のようですね>

 

 動揺するオペレーターを尻目にアタランテは冷静に答える。

向かってくるMS群は全てザフトの中型輸送機エール・リベルタから発艦した物であった。

 

「総員、第一戦闘配備、迎撃にあたれ!」

 

 右手を振りかざしながらホバート艦長が怒鳴る。

その間にもレーダーは複数の赤いマークがこちら側に接近しているのを捉えていた。

 

「アレン中尉には艦の後方を守らせろ、敵機を近づけさせるな、バクゥ隊は……」

 

<バクゥ隊はあのポジションから外しませんよ、これ以上速度を下げれば敵に囲まれます>

 

 現在、バクゥ4機は犬ぞりの様に地上戦艦を牽引していた。

そのおかげで艦の速度は通常の2割増程度は上昇していたが、このままでは防衛の際の戦力は低下する事になる。

 

「……了解しました」

 

 とは言えアタランテ無しではバクゥを動かす事は出来ない。ホバートは渋々了承した。

 

ーーーーー

 

「この戦闘で艦を落とすつもりなのか」

 

 出撃待機命令が出ていたアレンは既にへリックスに乗り込んでいた。

武装とストライカーユニットはいつものパラサイトストライカーだが、前回の戦闘で使用した300mmレールバズーカ「ゲイジャルグ」は引き続き装着したままであり、対空ミサイルも増設している。

 

 それに加えて今回は近距離戦用の対装甲パイルバンカー「ゲイボウ」を片側に装備していた。

槍の先端部分に仕込んでいる火薬を起爆させる事で破壊力を増し、理論上はPS装甲にも損傷を与える事が出来るとされていた。

 

<外部からのレールガン程度の攻撃では有効打にならないと向こうも考えているはず、その時にこの格闘戦用の武装が役立つはずです>

 

 近接武器を装備している事についてアタランテが説明する。

 

<また、こちらにもグゥルがあります。自軍のサブフライトユニットとして有効利用させて貰うとしましょう>

 

 グゥルまで用意していた事をアレンは初めて知ったがその疑問は頭の隅に置いて置くことにして、いつもの様に発進シークエンスを行う。

 

「アレン・クエイサー、へリックス、出る! 」

 

ーーーーー

 

 ヴェンデロートの甲板に降り立つと、すぐさま艦の後方から接近していたディン2機に狙いを定めて対空ミサイルを発射する。

 

「前よりもミサイルの誘導性が上がっているな」

 

 先陣を切っていたキャミッサーはディンの高度を下げバレルロールを行い、ミサイルを回避したが、側ではグゥルを撃破されたジンが地上に不時着した。

 その後、ディンの姿勢を戻すと6連装多目的ランチャーからミサイル2発を対空砲に向けて撃つ、目標は直撃を受けて炎上する。

 

「まずは対空砲から潰させてもらおうか」

 

「ちぃ!」

 

 アレンの横でも対空ミサイル砲台が別のディンからの攻撃を受け一瞬でスクラップへと姿を変えた。

 

「やはりこれを使うしか無いか」

 

 300mmレールバズーカ「ゲイジャルグ」を肩に展開させ、キャミッサーの乗るディンを狙う。

電磁加速した砲弾、装甲の薄いディンであれば一撃で仕留める事はもちろん、回避も困難なはずである。

だが

 

「アラート?上か!?」

 

 別のディンからの攻撃が来たため、目標をそちらに切り替え、敵の射程に入る前に「ゲイジャルグ」で胴体を撃ち抜く。

 

「武装が追加されていたのか」

 

 キャミッサーは一端機動を変え、ヴェンデロートから離れた。

 

「1機撃墜したが、敵隊長機にレールガンの射程を見切られたな」

 

アレンは虎の子の兵器を見せた事を悔やむが、今は別の目標に切り替え、艦の防衛に専念するしかない。

 

ーーーーー

 

「オルレアン基地まで後どれくらいだ?」

 

 副艦長が焦燥した顔でオペレーターに尋ねた。

 

「まだ距離4万程あります」

 

「オルレアン基地の警戒範囲に入れれば良いのだが、それまで持ちこたえる事ができるか、正念場だな」

 

 副艦長が思案していると、ヴェンデロートの左前方にロワール川が見えてきた。

この川を辿っていけばオルレアン基地に着く。

 

「バクゥ隊より入電、2番機の脚部に損傷との事です。また他の機体も稼働限界が近付いて来ています。バッテリーではなく機体とパイロットの負荷がです」

 

 バクゥは全機が艦と接続しているケーブルから電力供給を受けているが、発進してから長い間艦を牽引していたため、脚部に負荷がかかり不具合が出てきている機体も発生し始めていた。

 

<そろそろ限界ですね、後方の機体から撤退させましょう>

 

 艦にバクゥが次々と収容される。

動力源が自機のみとなった艦は急激に速度が低下、この好機をザフトが逃す訳はない。

 ディン2機が収容しつつあるバクゥを狙うが

突如、黄色の閃光の前に消し飛んだ。

 

「オルレアン基地からの長距離射撃です!」

 

 オペレーターが声をあげる。

この砲撃はヴェンデロートがついにオルレアン基地の警戒網に入った事を示す物であった。

 

ーーーーー

 

「これは陽電子砲か?まさか地球圏内でこの武器を使うとは」

 

 キャミッサーは焦りの表情を滲ませた。

陽電子砲は絶大な威力の負の側面として、発射の際に放射能を発生させる事から宇宙ならともかく地上で使うのは環境への影響も懸念しなければならない。

それを地上で使う者がいるとは警戒しなければならない事であった。

 羽を揺らし自らの母船に合図を送る。

程なくしてエール・リベルタから撤退を示す照明弾が打ち上げられると、残っていたザフト機は全て戦域を離脱して行った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。