FRAME ARMS DESTINY T&S 作:デボエンペラー
後ノイズに関しては話題には出しましたが、今回は名前だけ。それにあれは設定上会う確率が低いから今回は意図的に出してません。つーかノイズが出た時点で今のシンじゃまずモブのごとく炭になるのがオチ。
ちょいと話が進んだらカルマさん出します。
シンは夜中、ヴィスクエアに対して定期連絡を行っていた。因みにルナマリアはアルテと共に眠っているためこの場にはいない。
「じゃああの雷を放つプログラムは貴方が仕組んだんですね?」
『まぁ、の。先日のアントの乱入の時に主がフレズヴェルク・アーテルに乗った際の行動が気になっての、わしの使っとるOSをコピーしといたわ。まさか初っ端から使うことになるなんざ予想外じゃ』
シンは先日の雷に関してヴィスクエアに定期報告がてら問いただしたところ、彼はあっさりと自分の細工を認めた。元々が彼のプログラムである以上、変なウィルスに感染しているとは思わないが、それを早く言ってくれればよかったものを。
『主の言いたいことも分かるが、あれは自分が認めたもんにしか使えん様になっとるぞ。現にOS調べようとしても妙なコードの羅列や子供の落書きにしか見えんかったじゃろ』
ヴィスクエアの言葉は事実だった。あれからしばらくしてブラスに呼ばれてケイン、プロスト、雷太と共に自分が使っていたOSを見せてもらったが、意味をなさない単語の羅列と子供の落書きの様な印象を与える図しか見ることが出来なかった。
『あれを使って悪用するような奴が腐るほどおるからの、その予防策じゃ。使う機体は殆ど同じで、余程改良やシステム周りの改造を加えん限り余程のエースでない限り横並びじゃ。どんな手を使ってでも、なおかつ楽して人より上に立ちたいと言う奴は腐るほどおるからの』
確かに機体の性能差による蹂躙に関してはあの連中が一番知っている。あれが奴らの手に渡ったら『自由と正義』あるいは『理念』のために悪用されるだろう。とは言え、シンはあの技について抱いた印象をヴィスクエアに対してぶちまける。
「……それに雷龍剣についても聞きましたけど……一人にしか継がせないとか、対になる嵐虎剣はいくつもの流派に分かれているとか、どこの世紀末救世主伝説ですか?」
『……返す言葉が無いわ』
シンがヴィスクエアから改めて聞いた雷龍剣の印象に関しては、正に昔オーブにいた頃に読んだ西暦時代のコミック――クラウドセンチュリーでも同じタイトルがあったときは盛大に噴出した――に出ていた暗殺拳を使う主人公の流派かよ、と言うのが第一印象だった。
「……まあ、あれが無かったら俺は今頃墓の下でしたし、もういいです。で、アルテに関してですが、何かわかりましたか?」
雷龍剣に関しては予想外だったため時間が空き次第、即座に連絡を入れたがシンにとって気になる情報はこっちだった。
『……ある意味予想通りの結果じゃ。彼女の捜索願及び行方不明リストの中にそれらしい情報はなかった』
「本当に……ですか?」
「ある意味印象深いもんを二つも持っておってリストにも願いにもないってことは、本気で戸籍が無い可能性が高いわ」
彼のセクハラまがいの発言にシンも顔を若干赤くして頷く。ステラ及び偽ラクスと互角かそれ以上の凶器を持っていて印象に残らないのはまずありえない。クローンで将来を絶望視していたレイや、許嫁やファンよりも某テロリストを優先的に考えるハゲ疑惑の元上司は彼女を見たとしても印象に残って無さそうだが。
『……まあ胸糞の悪くなる理由なら考えようがあるがの』
「え?」
『……次の報告までに『ツヴァイウィング』についてネットでも人伝でもいいから調べるように』
「ツヴァイ……ウィング……ですか?」
それは確かこの世界で目を覚ました時に張られていたポスターに描かれていた二人組のアイドル……つまりこの世界に来て最初に抱いた違和感の正体だとシンは思い出した。
「プロストから聞いた話だと、二年前に解散したアイドルユニットですよね? この世界の日本じゃ結構いい線まで行ってたとか」
『そーじゃ。正確に言えば調べるのはファーストライブで起こってしまった出来事だけでいいぞ。それも主が可能な範囲でじゃ、無理だと思ったらそこまででよい』
その緩い範囲にシンが目を瞬かせるものの、直ぐに代わりのフレームアームズの話にする。
『漸雷に関してはこっちでアーキテクトを調整したもんを届けるから、それまでは生身での任務に当たれ。今の主は第二のあ奴に等しいわ』
機体を壊し続け、上層部に睨まれたパイロットがいるという話はケインやプロストから聞かされている。挙句の果てに自分の名前を冠した機体名を皮肉で着けられる始末。初陣で同じことをやらかした自分は、第二のジャン・B・ウィルバーと言われ上層部から悪い意味で注目されている。
故にシンは改良したアーキテクトが届くまでフレームアームズの搭乗を禁じられているため、生身での任務に当たることになった。まあ空いている時間はルナマリアとアルテとの交流にも使っているため、依頼が無い間はシミュレーションルームに籠りっきりだが。
『この世界では『SCARU』と言う特殊任務の経験がある歩兵を集めてパイロットにしてるのが特徴の特殊部隊がおる。実は二課もある意味じゃSCARUの構成員候補じゃ』
「二課って言うと……赤いラピエールを有している部隊ですよね? そこのトップがすごい切れ者だって聞きましたけど、大丈夫ですか?」
『部隊っつうより災害対策が主じゃがの。ああ、そうそう。そ奴らにだけは宿題の手助けを依頼するのは禁止じゃからな』
釘を刺されたシンは首をひねる。二課にだけ聞かないようにって、その事件で何をやったんだろうかと気になるが、シンは頷きを返すしかない。
「あともう一つ、俺達の素性に関して大丈夫ですか?」
『デスティニー……じゃったな、そいつがこの世界で造ったもんではないという事はバレた。あとブラスからも主の正体に関して問われたわ、屑鉄の悪魔に乗っていたのは朱鳥信じゃないか、とな』
それにブラスに対して自分が正体を白状した記憶もない……精々が出撃前に会話を行ったぐらいで……
「あ」
『……思い当たる節はあるようじゃな……弦十郎がデスティニーが異世界製、ブラスがデスティニーのパイロットが主だと感づいた以上、あの二人が話し合った時点で主が異世界の人間だとバレるぞ……まぁ、弦十郎もブラスも切れ者だから責めるつもりなど端から無いがの』
シンはその話題に深く突っ込まないことを思い至った。彼がそこまで言い放つ風鳴弦十郎とはいったいどの様な訓練を積んだ猛者なのだろうか……? それにブラスに関しても警戒する必要も出てきた。
「……今後は不用意な行動は慎みます。でも機体の方は直ぐにお願いしますよ。仕事なしじゃ収入入りませんから」
『わーっとるわい。今度は主も機体を壊さんように気を付けるんじゃな』
その言葉を最後にシンとヴィスクエアの通信は終わり、シンも翌日に備え寝ることにした。眠る際にルナマリアの温もりがない時間ももう慣れた物だった。
翌日、シンはルナマリアと共に朝食を作っていた。話題はアルテに関する話題だった。
「じゃあアルテの事に関してはまだ分かってないの?」
「ああ。ヴィスクエアさんも何か心当たりがあるみたいだけど、雰囲気からいい印象ってわけじゃないみたいだ」
二人が皿洗いを行い、そしてサラダ用の食材を切りながら準備を進める中、ルナマリアが呆れながら声を上げた。
「はぁ……それにしても雷龍剣に嵐虎剣……月面軍だけなら大して変わらないと思ってたけど、クラウドセンチュリーってホントコズミックイラ以上のトンデモワールドよね……あ、シン。お皿出して」
「宿題に関して調べてみたけど、ノイズとかいう触れただけで即死するバケモンがいるって話だぜ。一人一殺とはいえフリーダムが可愛く見えるよなぁ……パン焼けたみたいだぞ」
「ジブリールが知ったら絶対に兵器として運用するわね、来てないことを祈るしかないわ……パンよし、サラダよし、楠舞牧場の牛乳よし、目玉焼きにベーコンよし。これで完成ね」
二人が朝食の用意がてらノイズについて話し合ったところ、起きてきたアルテも手で目をこすりながら欠伸を上げて声を上げた。
「しん~まゆき~おはよ~」
子供の様な仕草と成熟した肉付き。その行動はやはりステラを思い出し、シンは少しため息を吐いた。だがすぐに顔を笑顔にして声を上げた。
「ああ、おはよう」
「おはようアルテ」
「あ、今日もおいしそうッ!! 早く食べよっ!!」
目を輝かせて席についてパンや目玉焼きを口元を汚しながらも食べるアルテ。そんな中でシンたちは今回の予定を合わせ始めた。
「俺は今日、炊き出しのヘルプに入るけど……そっちはどうだ?」
「今日はアルテの学校探しね」
アルテの学校探しに関しては結構難しい。遺伝子検査も行われた結果、彼女の年齢は15歳前後と分かりそれに伴った学校を探している。尤も、アルテの学力を調べたところ、低空飛行になった事だけ記しておく。
「ボク、学校行かなくてもいいのに……」
「それだけは絶対にダメだ」
「そうよ。人様に後ろ指刺されるような生き方だけは絶対にダメよ」
シンとルナマリアはアルテの言葉に対してノーを突きつける。最大級の反面教師を覚えている二人にとって、最低限の道徳ぐらいは学んでほしい二人にとって、それだけは譲れなかった。
「とは言えどうする? ここがダメなら本土行きしかないぜ?」
「このナンソウで1つしかない学校……ここがダメなら泣きつくわ」
最悪ルナマリアの防衛機構入りも検討しなければならなくなった。流石に自分たちで決めたルールよりも、生活費や学業の方等周囲で決められたルールが優先されるべきであり、今更ながらプラントを乗っ取ったにも等しいコーディネーターたちが非常識なのか改めて分かった。
「あ、ごめん。ルナもプラントの人間だったな」
「いーわよ別に……」
シンは以前、ルナマリアから聞かされた自分の家が貧乏かつ父親が有名な方のヤキン・ドゥーエ戦で戦死――フリーダムにバーニアと手足を撃ち抜かれ、そこをストライクダガーにコクピットを刺された――して、税金免除のために入隊したという話を思い出した。
しかも家が貧乏であることから、両親ともに最低限の遺伝子操作しかしなかったため、同じ第2世代でも姉のルナマリアに関しては才覚はナチュラル(射撃に至っては論外)に近く、アスランと共に脱走した妹のメイリンは上の下ランクとなっている。因みにシンは肉体と頭脳は弄っておらず、出身の事もあり一時期ハーフコーディネーターではないかと噂になったほどだ。
「好き勝手やって生きることが出来る奴ってホント羨ましいわ。脱走に強奪、挙句の果てに政策が気に入らないからってクーデター……ネオジェネシスやレクイエムの事があったからってねぇ……」
「ねおじぇねしす? 真由紀、何それ?」
「こっちの話よ」
ルナマリアがそう言うと、シンはふと思い至ったことを話す。
「学校で思い出したけど、俺達ってどうするんだ?」
「あ……確かにそうよね……」
「……行かないとだめだろうな。アルテが文句言ってサボりかねない」
そばを見れば顔を輝かせているアルテの姿があり、自分たちが行かないことを口実にサボりかねない雰囲気だった。
「……もうナンソウの学校でいいな」
「そうね。ナンソウなら態々説明する手間も省けるし」
ナンソウの学校には防衛機構所属である事を話せば、週三回午前中にのみ授業に参加すれば問題ない。
問題は自分たちの年齢だが、セカンドステージ強奪事件が起きたのはコズミックイラ73年の10月2日で、ユニウスセブンがテロで悪用されたのがその翌日かつ当時シンは16歳でルナマリアは17歳。
また、シンは9月1日生まれでルナマリアは7月26日生まれ。メサイア攻防戦はコズミックイラ74年6月上旬に行われたが、今の暦はクラウドセンチュリー213年5月前後である。
「学年……どうなるのかしら?」
「年齢は1歳差でも、明らかに誤解されたしなぁ……」
実は年齢に関してはヴィスクエアにも説明を行い、これまた盛大に驚かれた。彼はシンとルナマリアは同い年だと思っていたらしい。
「一応アンタの入学手続きもこっちで済ませるから、安心して仕事に行ってきなさい」
ルナマリアがそう言う中、シンは食事を終えて立ち上がる。
「それじゃあ俺、行ってくるから。まあ今回はプロストと一緒の仕事だから、今回の文句はエプコギルドに言ってくれ」
「行ってらっしゃい」
「行ってくる……あ、アルテ。俺達も学校に行くことになるから、学校のサボりはダメだからなッ!!」
シンはそう言いながら外へ出る。一方のアルテは転がるサラダのトマトと必死の攻防を続けながら食事を続けていた。
「はぁ? ツヴァイウィングについて知りたい?」
プロストが缶コーヒーを口にそんな事を言うと一気に飲み干す。近くにはプロストが所属している傭兵集団のエプコギルドの面々がいて、トレーラーに荷物と炊き出し用のレトルトや飲料水を積み込んでいるのが見える。
今回の任務は月面軍に襲われ、被害が大きかった街への炊き出し及び治安維持の協力任務だが、今回は傭兵等を中心にした面々を中心に招集をかけているほどである。
「お前さぁ、それぐらいネットで調べろよ。態々俺様ちゃんに聞かなくても、当時は滅茶苦茶ニュースになったんだぜ?」
「まぁ。彼女らに関しては自分でも調べましたけど……」
ツヴァイウィング。かつて日本で一世を風靡したと言われるほどのツインボーカルユニットで、風鳴翼と天羽奏の両名で構成されていた。
しかし彼女らのファーストライブにおいて突如襲撃してきたノイズや月面軍によって多くの被害を生み出した。結果、風鳴翼を含めた大多数の人間が死んでしまった事件でもある。また、この事件によって残された天羽奏も芸能界からの引退を表明しており、某歌姫とは違い立場を明確にしていた。
「なんだ。別に俺様ちゃんに聞く必要なくね? まあ俺様ちゃんはどっちでも行ける口だけどね……んで朱鳥ちゃん、どっちが好みよ? 俺様ちゃんはやっぱり奏ちゃんの方だったなぁ」
「俺はアイドルで一度痛い目を見ていますから、アイドル関連は距離を離したいんですけど。可能な範囲で調べろって言われたのが気になって……よく知らないから地雷踏みそうで怖いんですよね」
ポスターで見た天羽奏とラピエールのパイロットの姿が髪型と胸部の果実が重なり、気のせいだと小さく笑いながらシンは自分が最も気にしている個所を上げる。するとプロストは締まりのない顔を一瞬にして引きつらせ、そしてため息を吐いて声を上げた。
「……あぁ、ライブの被害に関する話ね。傭兵の俺が聞いても胸糞が悪くなる話だぞ、いいのか?」
プロストが一人称を普段使っている『俺様ちゃん』から、戦闘に使っていた『俺』に変えるようなレベルだっただろうか。しかしプロストはやるせなさと若干の怒りを抱きながら声を上げた。
「ここで話すような話じゃねえ。トイレに行ってから話す。お前の反応から知らなさ“すぎる”だろうからよ」
「え? そんな話ですか?」
「そんな話だよ……オメエら、俺はこいつに常識を教え込んでやるから積み込みは任せた」
シンはプロストに引っ張られ、トイレへ入ると彼が誰もいない事を確認してから声を上げたが、やはりその顔は苛立ちに支配されていた。
「単純に言うとな、生き残った被害者に対してマスゴミ共が『死んだ被害者の中には逃走中の将棋倒しによる圧死や、避難路の確保を争った末の暴行による傷害致死も含まれる』って情報出したんだ」
「え? それじゃあ生き残った人たちが責められるような内容じゃないですか?」
「そうなんだよ。結果マスゴミの野郎の言葉に踊らされた連中が出るわ、被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたっつーことから苛烈な自己責任論が起きてバッシングの雨あられ。結果、頼んでもいねえ正義の味方が大量に出てきやがって、迫害ブームの始まりってわけよ」
その言葉を聞き、シンは思わず口元を抑える。そこからもプロストは話していたが全く覚えていない。プロストは知らないとはいえ、シンはその事実に思い当たる節があったのだ。
かつてコズミックイラで行われたロゴスメンバーに対する糾弾。それに伴うロゴス狩り。シンはかつて弾圧する側に回っていたに等しい状況だった。
あの時、明確に悪だと断じられたのはロゴスの幹部及び名指しで非難されたロード・ジブリールのみ。しかし、襲われた会社の中にはコーディネーター殲滅思想に染まっていない会社もあるはずだった。とは言え、ロゴスに関わっている=死の商人と言う悪印象を抱かせる事態になったのも事実だった。
「……おい、信? 返事できるか? どうした?」
「……あ、すみません。少し気分が悪くなって……」
「……すまねえな。空き部屋があるからそこで吐いてこい」
シンは無言で頷き、部屋へと駆け込む。そして便座を開けて胃の中に入っていた物を一斉に吐き出した。
「……う……げぇ……ゲホッ……」
シンはロゴスを討ったことに関しては後悔はしていない。しかし、その中で犠牲になった人の中には関係のない人もいたかもしれない。キラ・ヤマトやアスラン・ザラに対しても揺るがなかった自身の“正しさ”が初めて揺らいだのは、やはり民間人の死だった。
そしてシン・アスカにとって、自分だけ生き残ったにも等しいトラウマ……オーブ解放戦争において両親と妹が亡くなり自分だけが生き残った記憶と、メサイア攻防戦においてルナマリアを救うためとはいえ結果的に戦闘を放棄して逃げ出した記憶がよみがえる。
「……ゲホッ、ゲホッ……ぐぇ……」
何がFAITHだ。何がスーパーエースだ。今の自分はあの日、家族を喪った日から何も変わっていない。
胃液のみになってもシンは吐くことを止めなかった。とは言え、吐くものを吐ききっても腹のうちにあるトラウマは吐き出す事すらできなかった。
――吹き飛んだ花は二度と戻りはしない。戻りはしないものを悔やんでも、決して手に入ることはない。だからこそ吹き飛ばした花の事を忘れてしまえば、楽になれる――
思い出したのは、裏切者の言葉でも、家族や仲間たちの仇でもなく、しかしこの世界に来て一番痛烈な言葉を残したある人物の言葉だった。
シンがトイレから出てきたのは、吐き出すものが胃液すら出せなくなってしばらくしてからだった。プロストも今回の件は流石に想定外だったのか、手で顔を覆い天井を見上げるばかりだった。
「悪い……やらかしたか……?」
「……いえ……こればかりは俺の問題です……この程度で依頼キャンセル……なんてそれこそ話になりませんよ……」
シンは口元を手で覆うと、プロストが無地のハンカチを差し出す。
「……やるわ。返さんでいい、野郎とのキッスなんざ死んだってゴメンだ」
「……すいません」
プロストと共にトレーラーに戻り、プロストが申し訳なさそうな顔を浮かべて謝罪する。こういった切り替えの速さはある意味で彼の武器にも等しい。
「……フレームローダーは既に現地へ運んでいるみたいだし、積み込みは俺らの方でやっとくわ。後はMSGロボ程度なら吹き飛ばせるアーマーマグナムを積み込むだけだし、いいだろ」
「……了解、です……」
「時間になるまで楽にしてろ……まあ、世間話になんか話してやるわ」
プロストの言葉に甘え近くのコンテナを背もたれに座る。隣にプロストが座り、タブレットを用いて目当てのページを開いた。
「防衛機構っつっても元々は複数の国の軍隊が月面プラント奪還のために合流して出来た一つの多国籍軍みたいなもんだ。ナンソウだけでも結構バラバラだぜ、俺様ちゃんたちエプコギルドにお前や真由紀ちゃんたちのミリティアコーポレーション、ケイちゃんやブラ爺の第3機動艦隊。後は北斗雷太がいたナンソウ防衛軍に、外部協力班の特異災害対策機動部二課だな……ほら、具体的な例が身近にある」
……なるほど。全員が防衛機構に所属しているのではなく、様々なチームが防衛機構と言う枠組みに所属しているという形になっているのか。
「じゃあ、エースパイロットって誰だかわかります? ヴィスクエアさんに聞いてみたんですけど、殆ど機体性能が同じだからどんぐりの背比べだ、って言われまして……」
もしかしたら何人か知っている名前が挙がるかもしれない。そう考えたシンはパイロットの名前を挙げるよう頼みこみ、その言葉にプロストも天井を見上げて、目をつむる。何か考えた後、彼は小さく声を上げた。
「パイロット限定でガチで強い奴って言えば……まずはトルース・ロックヘッドの様な俺様ちゃんのガチ上位互換の傭兵だな。最近出回っているVTOSもそいつを基に作成されているって話だ。後方支援型なのにエースにも等しいリロイ・ハロルドも機体を選ばない万能選手だし、ロイ・エイラムも旧式化したスティレットをこよなく愛する最強の空戦FAパイロット、ケイちゃんも一応『無窮の青空』って異名持ちでアメリカじゃ有名って話だぜ。あとはナンソウ防衛軍の『神拳』北斗雷太に、ナンソウで一番の戦闘機乗り『黄昏の荒鷲』こと西川啓介、止めちまったけどお前に近いタイプの……」
「ジャン・B・ウィルバー。ヴィスクエアさんから聞かされてます」
「うんそう、そいつは『元防衛機構所属』だけどね。逆にFA乗りに絞らなきゃ、そのヴィスクエアやヴィクトリオの様な規格外の爺ファンタジーども、風鳴弦十郎のように指揮や用兵が一級品の影の軍神、弦十郎と同じ二課所属で生身での戦闘じゃ防衛機構第二位のガングニールが上がるな。お前が会った事のある人間もしくはそいつが所属している組織はこんなもんだな」
プロストは指を折りながら人の名前を上げていく。ガングニール……恐らく赤いラピエールに乗っていた女性だろうが、彼女の真価は生身での戦闘と言う事か。予想通りとは言えヴィスクエアやケインの様な知り合いは挙げられたものの、やはりコズミックイラで聞いた名前は微塵も出て来やしなかった。
「お前の名前が挙がってなくても気にすんなや。お前はまだ新人なんだし、俺様ちゃんも下から数えた方が早いレベルだ。お前さんに声がかかるようになるには実績が足らんのよ。まあ、防衛機構内の派閥はケイちゃんの方が詳しいから――」
「プロストさん!! いつでも行けます!!」
「……おう分かった!! 今すぐ乗る!! 詳しい話は後でケイちゃんに聞いてくれよ」
話を途中で切り上げ、シンとプロストは運転席――なんと一台で22人も乗れる――に乗って移動を開始した。
「おめえが朱鳥信って奴か。話はコイツから聞いてるぜ。俺はエプコギルドのギルド長スートだ」
そう言ってスートと名乗った太った腹にお世辞にも美形と言えない悪人面をした、世紀末救世主に指先1つでダウンされてもおかしくない大男は子供が見たら怯えそうな笑顔を浮かべてシンに向かってそう言ってきた。シンたちが今乗っているのはエプコギルド最大の資産ともいえるFAが1小隊分乗ることが出来る大型車両だった。外見的にもコズミックイラ及びプラントではまず見られない外見である。
「おやっさん。その面構えを、そいつの連れの女の子で見せないでくださいよ。俺様ちゃんレベルになるといいけど、その顔だけなら人型グロ注意ですからね。階級はなんとケイちゃんと一緒」
「ハッ、会って早々やらかしたオメエに言われたかねえわ。まあその言葉がガチなら、男ならマジでお近づきになりてえと思うレベルだけどガキンチョじゃなぁ。二課にいるオペレーターさんや科学者さん位じゃねえと話にならねえよ」
「……二人ともアウトですよ。仮にお眼鏡に叶っても会わせると思います?」
若干の怒気を含めて言うと、二人一斉に肩をすくめて茶目っ気交じりに舌を出して頭を小突く仕草をする。ポーズも殆ど同じだったのが憎らしい。
「……で、おやっさん。今回の人員の話だけど、やっぱ基準はあれか?」
「そりゃそうだろ。トドメ刺しに行くわけじゃねえんだし、トラブルの種を増やして溜まるか」
二人の会話や基準の意味が分からず、シンは咄嗟に質問の声を上げた。
「あの……基準って何ですか?」
「ああ。簡単簡単。そこの出身者以外を招集したんよ。別の街とは言え以前バカが『そこの出身だから救出隊に志願します』って言って着いた途端ヒャッハーしやがったからな。最悪なことにウェアウルフ使いやがったから轢き殺しやがったし、奴は奴でネットに流して逃げる奴らを馬鹿にするし、挙句の果てにはノイズだぜ!?」
街中で強い装備はあんまり使えないし街1つ消し飛んだわ、そう言ってプロストは呆れと侮蔑を混ぜ込んだ表情を浮かべていた。
「まあ迫害ブームに乗っかった連中だから自分の非を棚上げするわ、被害者もテロ行動を被害者根性丸出しで正当化するわで大惨事。当時のお偉いさんと基地司令を巻き込んで仲良く共倒れだったけど」
反省するならまだしも、ここまで来るともう収まりがつかないし、ひどい時には月面軍やノイズよりも襲い掛かってきたテロリストを最優先に始末しろと言い出す始末。この行動に対して日本どころか各地の防衛機構も頭を抱えた。そう言った理由の『心当たり』があるため、日本を馬鹿にすることなど出来ず明日は我が身にされてしまったのだ。
尤も彼らの行動は美談にも悲劇にもする気は無く、単純に元々の元凶の1つでもあるノイズと迫害ブームに因んで『騒音人災』、月面軍でさえ援軍扱いされたという情報とかつてのレトロアニメのワンフレーズから『オシオキ』、ただ単純に『バカどもの末路』と言われる始末。そこまで酷いレベルは最初の1か所しかなかったため、被害は最低限で済んだ。
幸い手本を見せてくれたので、迫害された側の抗議も以降は単純なデモ活動と迫害のリーク(尤もそれらも個人ではなく団体だが)になっているし、武装蜂起した連中は残らず西日本との最前線送りが確定(ナンソウはあくまで海上都市かつ一般人の住居なので含まず)。迫害した側も会社ならば復興支援のスポンサー(迫害された側も信用を失っているため、“寄付”されたお金は政府が保管している)になっているし、職を失わせた人たちへの救済や学業支援も行わせている。虚偽の報告など許さんと言わんばかりに政府が調査した後にこのざまである。
「……俺様ちゃんたちの任務は炊き出しと馬鹿どもの駆除です。今回武器は殆ど持ち込んでないし、アーマーマグナム程度じゃアントやMSGロボなら倒せますがそれ以外はまず不可能、万が一ノイズが来た場合は二課に連絡しながら逃げましょう」
「そういうこった。信、言っておくが俺らは正義の味方でも何でもない。ああ言った奴らが逃げたとか言っても、聞く耳を持つなよ。それにノイズの発生率に関しては一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率以下って計算も出てるんだ。そいつがよく見てる日本製の漫画やアニメとかゲームじゃあるまいし大量に来られてたまるか」
「は、はい……」
シンはプロストとスートの言葉にうなずき、シンたちを乗せたトレーラーは大橋を渡り被災した街へと向かった。
今回被災した街は月面軍との戦闘、それも以前見た白いアント(後で聞いてみたところ、ライブの際に襲い掛かってきたのも白いアントが殆どだったらしい)のみで済んだのが幸いだった。配給や火事場泥棒対処などの仕事を行い、持ち込んだフレームローダーを使って瓦礫の撤去を行うのが仕事だ。因みに要救助者の捜索などは既に二課が中心となって行い終了した模様。
「こらそこ―、割り込むな二度も並ぶな多い少ないで揉めるなー。食料で揉めるんならスタッフが美味しく頂いて持って帰りますよー」
拡声器を手にしたプロストの緊張感のない、それでいて明確な脅迫に揉めていた面々は大人しくなる。シンは近くにいたNPO法人に勤めている年配の男性と共に豚汁や食料をレンジで温めた白米を簡易皿に盛りつけ、それを子供や年配の面々に配給する役割を担っていた。
「信ーちょいと毛布を避難所に運んでくれー」
「はいわかりました。それじゃあ俺は毛布運びますから」
「分かったよ……」
そう言って彼は持ち場を離れることを許可し、シンはプロストの同僚から毛布を渡されて避難所へと移動する。そして毛布を運んだ後、シンは震えている人に対して毛布を掛けていく。中にはそれでもなお睨みつけてくるような人間もいたが、ベルリンでの救助活動で何度も見た目だったので、あえて気にせず活動を行った。色々と世間話をして持ち場へ戻ろうとした瞬間、喧騒が入り口付近で起こっているのが見えた。現場の指揮を行っていたスートとそれに正面から向かう痩せぎすの男が何やら言い争っていたのである。
「ですからねぇ。我々は今回炊き出しのために来てるんですよ。そー言ったトラブルに関しちゃ裁判所で争ってください、ここでドンパチやるんなら問答無用でしょっ引きますよ。おたくらも『オシオキ』の件に関しちゃ知ってますよね」
「うるさい!! 関係ない奴は出しゃばってくんな!! 俺らだってツヴァイウィングのトラブルに巻き込まれて痛い目を見たって言うのに、同じこいつらは何のお咎めも無しかよ!! こいつらも同じ屑なのに卑怯だぞ!!」
「だからそう言った連中も、あんたらのお仲間によって以前痛い目を見たじゃないですか。これでお相子、喧嘩両成敗ですぜ。いい加減話し合いましょうや」
どうやらツヴァイウィングのライブ生存者が文句を言いに来たようだ。プロストは気づいているものの、あからさまに嫌悪感丸出しの表情をしている。
「俺らと同じクズどもをクズと言って何が悪い!! 月面軍って奴らはノイズと違って攻撃が効くんだろ? なら生身で戦えよ!! それが出来ない時点で俺らより屑だって認めろ!!」
「そうだそうだ!! 謝れ!! 土下座だ!!」
「アンタらも同じだ!! 全員ネットに晒してやるからな!!」
自分勝手な物言いに対してシンも怒りと吐き気を催すが、彼らの言い分も理解できてしまう。そもそも自分と同じ元オーブの難民も理念とアスハ憎しで暴走しているし、オペレーション・フューリーに関しては参加を志願してしまうほどだった。勿論オーブ側からしてみれば自分たち難民は裏切者だろう。現に一度ムラサメに乗ったパイロットから理念を踏み躙ろうとする裏切者の誹りを受けたこともある。
だからと言って両方に加担する気は無く、シンはため息を吐く。それが気に入らないのか、自分に対して怒鳴り声を上げてきた。
「なんだその生意気な面は!! 何もわかってないような奴が分かった面をすんな!!」
成程、アスランから見た自分はこう見えていたのか。その点だけはアスランに感謝し、そしてすぐに忘れた。よし、これで自分はまた1つ学習した。
「スートさん。もういいですよ。吐き出させるだけ吐き出させましょう」
「は? どういうことだよ」
「俺もよく知ってますけど、案外文句や愚痴を聞いてほしいだけかもしれません。大爆発を起こすよりかはマシでしょう」
「……ま、もうあんだけやらかした後だ。誰もが聞く耳持たず、ってわけじゃねえよな……ああ。迷惑にならないようにうちのトレーラーに招待しますよ。暴れてもいいですが、その場合はそれ相応の待遇になりますがね」
拳を握りしめながら言うスートの言葉に対して多くが悪態づきながらこの場を去っていく。それでも何人かは残りスートらと共にトレーラーに向かい、自身の話を延々と述べていった。そしてその後で見た彼らは何人かはばつが悪そうに、ごく一部は一度浅くだが一礼をしてこの場を去っていく。
「……へぇ、意外と話し合おうとするんだな」
「……俺も難民ですからね。気持ちはわかるんですよ……まあ中には頭ごなしに否定するような奴もいましたから、それを反面教師にしてるんですけど」
生え際の怪しい元上官は自分と話し合おうともせず『キラは敵じゃない』と延々と否定していたし、フリーダムやアスハの無能は言わずもがな。
「……俺様ちゃん、以前ああ言った奴らのトラブルに巻き込まれてさあ。あん時はケイちゃんと一緒だったから良かったけど、あれ以来どっちもどっちで関わりたくなくなったんよね。被害者根性丸出しでさ」
「……その言葉は自分にも来ますね……俺も故郷の国のお偉いさんには何度もああいった態度取りましたから」
「今回は助かったぜ坊主。さて、ちょいと配給とかの続きを行くか」
スートの言葉に対してシンとプロストもそれに続く。幸い月面軍もこれ以上のトラブルも、ノイズ――プロストに画像を見せてもらったが、なんだか遊園地のマスコットみたいな印象だった――の出現もなく、その日の夜になってシンたちは明日の帰還準備を行い始めた。
「ちくしょう……なんだよあいつら……人を虚仮にしやがって……」
痩せぎすの男が苛立ちながら声を上げた。自分に対して反論を行った不細工な男も、自分に対して冷ややかな目で見据えた色黒男も、挙句の果てには歯向かってきた赤目の小僧も気に入らなかった。
「アイツらが悪いんだ……被害者は俺なのに、クズどもを庇うあいつらが悪いんだ……こうなったらあいつらを巻き込んで死んでやる……」
慣れた足取りで勤めている解体現場へ足を運ぶと、そこには小型の工事用MSGロボが鎮座していた。本来ならば鍵を差さないと起動せず許可なく動かすのは犯罪だが、自分の素性を知った上でクビにしなければ何をしてもいいと言わんばかりの態度を取ったクズどもの備品だ。自分が退職金代わりに貰ってもいいだろう。それに鍵は杜撰な管理だったため差しっぱなしの物が一台見られた。
そして手にした興奮剤を一気に飲み干す。ここ最近出回っている安値で手に入るドラッグであり、自分の様な人間でも安く買えるのが特徴だった。確か名前は『バイスタランチュラ』と言う薬物だった気がする。
「ヒャッハァァァァッ!!」
すると今までの怒りが吹き飛び、残ったのは全てを破壊しようとする衝動のみ。だがそれが自分にとってたまらなく気分がいい。
「ひゃは、ヒャハハハハハ!!」
がむしゃらな動作を行い、解体現場を文字通り解体しつくし、残ったMSGロボもスクラップに変える。解体現場である以上周囲に住宅が見られないのが残念だが、それはあのクズどもで賄える。
「イケイケイケー!! アイツらは汚物だ、汚物は消毒だー!!」
MSGロボは不気味なほど正確に避難所へ移動を開始した。
因みにツヴァイウィング派閥戦争
赤:プロスト、ブラス、ヴィスクエア
青:ケイン、雷太、ヴィクトリオ
無投票:シン、ルナマリア(双方ともにあまり知らない)、『黄昏の荒鷲』、スート
無効票:アルテ(両方に出した)、ガングニール(青に出したけどさぁ……)
……はい、この中で一人参加しちゃアカン人がいます。
ちなみに今回、敵役をどうするかで考えていた。