FRAME ARMS DESTINY T&S 作:デボエンペラー
因みに最初はプロストがFG〇やってて、アーラシュの宝具を使うシーンを入れようかと考えていたけど流石にネタに走りすぎたと思い自重した。
夜、シンたちはトレーラーの中でババ抜きをしながら見張りを行っていた。何人かは仮眠を取っていたし、ルナマリアも1時間前に連絡を取り合って確認した後に眠りに就いている(彼女もライブ事件に関する情報を集め、かなり凹んでいた)。プロストも本屋で購入したライトノベル――シンも一度見せてもらったが、異世界転生だの神様転生だの異世界漂流だのチートだのハーレムだの追い出され復讐だの、ある意味笑えない内容――を読みながら眠気と戦っている。このまま何事も問題が無ければ、朝の炊き出しと後程来る日本支部に引継ぎを行いナンソウへと戻る事になっている。
「スートさん、顔に出てますよ。これがババ――」
シンが引き抜いた時、逆に表情が強張った。なぜならシンが手にしたカードこそジョーカー……ババだったのだから。
「……ほい、これで上がりっと。悪いな坊主、こういうのは経験がものを言うのさ」
手慣れた手つきでシンからダイヤの8を掴み上げると、クローバーの8と共に放り投げる。それを見たシンは最後に残ったカードと共に項垂れた。
「嘘だろ……」
「これで俺の6勝目……続けるか?」
流石にこれ以上の敗北は嫌だと感じたシンは首を横に振る。スートも流石に自分が懲りただろうと判断してカードをしまい込んだ。
「ふぁ……おやっさん。やっと終わりました?」
プロストも欠伸を上げながら手にした本を閉じて、本に挟まっていたチラシを栞代わりに挟み込む。
「おー終わったぜ。そろそろシフトの交代時間だ。早めに寝て英気を養え」
その言葉と同時にプロストとその周囲にいた何人かの人員は毛布を取り出し、それを羽織って転がる。シンもそれに続いて眠るが、その手には妹の形見であるピンク色の携帯電話を握りしめていた。
しかしそれから数分もしないうちに外から共に配膳を行ったNPO団体の男性――何度か聞いているうちに分かってきたが、どこか声がレイに似ているような気がする――が慌てながら飛び込んできた。それに対してプロストやシンも眠気に耐えながら声を上げた。
「なんですか……まさか火事場泥棒でも入りましたか……」
「それならまだいい方だよ。ともかくこっちに来てくれ!!」
ただ事ではない雰囲気に無理やりかつ慣れた様子で眠気を振り払いながら仮眠を取っていた面々を叩き起こし、シンたちはトレーラーの外に出て双眼鏡を手に取る。
するとそこには5m前後の……フレームアーキテクトより10mも全高が低いが、それでも人よりは大きい機体が建物を破壊しながらこちらへと向かってきていた。手には武装らしきものはないが、なぜこのような場所に……
「どっ、何処のどいつだよ!! あんなもん街中で動かしやがって!!」
「最悪の想像だが、少なくともここであんなもん持ち出した時点でやらかすような馬鹿って事は確かだ!! あんなもんに乗って街中で許可なく暴れまわったらもう、殺されても文句言えねえぞ!!」
「……」
プロストとスートが言い合う中、シンは街中で暴れようとしている機体を見てオーブで縦横無尽に暴れまわったフリーダムと連合軍のGタイプ三機、そしてコズミックイラのベルリンを火の海と瓦礫の山に変えたデストロイを思い出した。
「ど、どうするんですか? まさか街中でドンパチやるとか……」
「今回はフレームローダーも持ち込んでますが、流石に街中でやるわけにはいかんでしょう。フレームローダーでも街中のドンパチをやらかして二次災害起こしたら事です」
スートが男性をなだめる様に言う中、突然向こう側から声が響く。それは所々呂律が回っておらず拡声機能を使っているのか音割れも酷いが、それでもその人物が誰なのか瞬時に納得することが出来た。
『お、お、お前らららぁぁぁぁぁぁ!! クズは処分しないいいいいいといけなぁぁぁぁぁいんだだだ!! 汚物は消毒してぇぇぇぇ処分してぇぇぇぇぇ生まれ変わるのが最大のぉぉぉぉぉ!! ぎぃぃぃぃぃぃむぅぅっぅぅぅぅぅ!!』
その主張は昼頃こちらへ向かって文句を言い放ってきた迫害された側の人間だった。何人かは悪態づいていなくなったが、その中でも最後の最後まで悪態づいていた人間があれに乗ってこちら側へ向かってきていたのだろう。
「うげっ!! あれって昼頃のあいつかよ!! あん時フルボッコにしとけばよかったぜ!!」
「……」
シンが落ち込んでいても問題は変わらない。以前ナンソウへ攻め込んできたアーマーグライフェンやヴァイスハイトならともかく、相手はMSGロボでしかも戦闘用の物ではない。それならば今の生身のシンたちでも武装さえすれば勝てなくもない。
そもそもコズミックイラでも宇宙ならば大量のメビウス、地球ならば戦闘機や戦車がMSを倒す事だってある以上、数の暴力は存在するし、人型兵器は万能ではない。慢心したコーディネーターのMSがナチュラルの歩兵に敗れる事もデュランダル派――あえてクライン派ではなくデュランダル派と称する――の将兵が記した本に書かれていたぐらいだ。
そしてそれはクラウドセンチュリーでも当てはまり、エプコギルドもナンソウに来るまではFAと歩兵戦力を巧みに使いこなし優秀な傭兵集団として名を上げていたのだ。スートも戦闘車両で支援を行ったことも一度や二度ではない。勿論フレズヴェルクやヴァイスハイトが来るようになってからは後ろで指揮をするようになったが、それはフレズヴェルクシリーズと戦うのに戦闘車両では足手纏いすら烏滸がましい状況になったからである。
話を戻すが、今回は場所が問題だ。こんな街中でFAを使って戦闘をやった場合、問題にしかならない。ましてや人もいる。こんな状況でMSGロボが避難所で暴れたら想像すらしたくもない事態になる。
「……ど、どうする……説得すら無理だ……こんなところで暴れられたら……」
「……どうするも何も1つしかねえぞ。コクピットに近づいて殺すしかねえ。じゃなかったら俺ら全員奴らに殺されてあの世逝きだ」
「プロスト、信。とにかく、今できる事を確認すっぞ!! 避難に関してはうち等で持ち込んだトレーラーに誘導する形をとるが、それでもあれを近づけさせない事を大前提とする!! 幸いアイツは武器らしい武器は持ち込んでいないから、近づくまでは安心だろうよ!! 最悪フレームローダーは案山子程度に立たせとけって伝えとけ!!」
スートの声に対してプロストも頷きを返す。そして即座にプロストが今できる事を声に出して言い放つ。
「俺だったら足止めぐらいになるが、トドメはどうなるか微妙なラインだ。足が止まっていればトドメはさせるが、コクピットにまでたどり着くのに時間がかかりそうだ」
「俺は身体能力に自信はありますし、足止めも参加できます。コクピットも以前講習を受けたので何とか把握してます」
「俺は足止めオンリーだな。オッサンに動きを期待すんな。動かせるのは俺達三人だけで、後は誘導に回す」
その言葉に対して頷くプロストとシン。勿論動きはRPG-7タイプのハンドバズーカとアーマーマグナムを持ち出す動きが中心だ。
「……出来る事は暴徒用のトリモチ弾を使って足止め。トドメにアーマーマグナムでパイロットを射殺する……これだけなら楽だったんだけどよぉ……」
いうのは簡単だが、やるのは難しいし、そもそも現在進行形で避難所へ移動中だ。誰もいない建物に誘導させる必要が出てきている。理性を失っていても流石に目的を果たさず死ぬつもりは無いだろうから避けるつもりだろう。
「それに以前の月面軍の騒動で、建物には人はいねえ。万が一ビルをぶっ壊しても問題は無さそうだ!! ぶっちゃけビルの中に人がいたとしても、火事場泥棒していたてめえらの自己責任ってことで!!」
スートが大声を張り上げ、万が一の被害に対する処遇も宣言する。この際懸念されるのは避難所にいる人たちであり、この期に及んでビルの中にいた者に関しては救出する対象ではないとの宣言だ。シンも不承ながらも優先されるものを選び頷きを返した。
「ぶっちゃけ避難誘導やってる奴の中からもう一人持ってくるか?」
「ハンドバズーカは二本で一本はおやっさんで確定。アーマーマグナムも数少ないですよ。正直な話、殺し役は一人で十分です」
「……数が足りない……でもこれ以上人員は割けない……」
シンとプロスト、スートが言い合う中、突如として1人の男が身体を震わせながら前に出た。シンたちには見覚えがあり、それは昼頃に配膳を共に行った男、そしてシンたちに今回に事態を知らせた男だった。
「……お、おれが……」
「ん? あんたまだ避難してなかったんですか? 早く逃げてくださいな、民間人から犠牲者出したくないんですよ俺ら」
スートが彼を適当にあしらいながら、準備を進めていく。しかし、彼は怯えを隠そうともせず、けれども意を決したのか足を一歩前に出した。 「おれが……おれが囮になる……」
『はぁッ!?』
正気か。
それはシンたちの隠さざる本音でもあり、目の前の男性もそれを感じたのであろう目を逸らしていながらも感じ取っていた。
「……マジですかい?」
「お、俺だって自分が……自分が、馬鹿なことを言っていることぐらいわかるさ……あのまま足止め作戦をしたとしても、前進していくんだ。今でこそゆっくりとした動きだが、急に早くなったら終わりだ、間に合わない……だったら誰かが囮になるしかないだろ……」
今現在エプコギルドは全員避難誘導を行っており、戦闘を行えるのはシン・プロスト・スートの三人のみ。あのMSGロボに関しては急に速くならない保証もないため、誰かが囮になって足止めをするしかない。
だが問題は誰が囮作戦を行うか? 問題はその一点にだったのだ。その問題は目の前の男性が行うと宣言し、声を上げていた。
「それに……俺はその武器を持って動けないし、ましてや素早く動くことすら出来やしない……だったら囮くらいしかないんだ……それに俺だってアイツをキレさせる方法ならあるッ!! あのライブで娘が死んでから自分勝手な理屈で喚き散らして、人様に迷惑をかけて!! 飲んだくれている間に妻や義母が心中した際、ようやく自分がしでかした事に気付いた大馬鹿だ!! それに比べたらこの程度……そんなの上等……上等だへいきへっちゃらだコンチクショウ!!」
震えながら泣き、鼻水を垂らしながらも叫ぶ。それを見てしまった以上、シンたちは彼の参加に反対することは無理だった。
「……フレームローダーに乗って囮になってもらいます。そん中なら生身よりかは安心でしょう。流石に生身で囮になったりさせるのは、こちらとしても不可能です。勿論武器は無しですし、遠隔操作で緊急停止は出来るようにさせてもらいます。背丈も両足とも腕を使っていますからアレと同じぐらいですぜ」
あそこまで言い切ったのであればやらかしの心配もない。シンたちは作戦を行うために囮に最適な建物を探すことにした。男性の持っている町内地図を参考にして数秒後、最適な場所を満場一致で見つけた。
「ああ……敷地の広さと言い、隠れる場所の多さと言い、あそこなら問題ないでしょう。奴の移動距離なら生身の足でも、十分にたどり着ける時間はあります」
そしてシンたちは知らなかったし今後も知ることもないが――その建物は今回騒動を引き起こした男が務めていた解体業者のオフィスが入っているビルでもあった。
建物が崩れる音を聞きながら男は恍惚とした表情を浮かべていた。
元々男はあのライブの事件の際、あの人に触れても自分だけが炭化しない得体の知れない黒いノイズから這いずるかのように逃げ出し、やっとのことでライブ会場から逃げ出した際にあのクソッたれな報道が起こったのである。
そこからが本当の地獄だった。自分を誰かを見捨てて逃げ出したクズの様に扱い、職や居場所を奪い、家族すら自分を見限る始末。
そんな奴らが月面軍の襲撃を受け、生きていたと聞いた際にはネットを使って『月面軍に仲間も家族も何もかも売り渡したクズども』と言うレッテルを貼って苦しんだ際には絶頂すら覚えた。家族が心中したと聞いた際には駆け付け、文字通り死体蹴りを行って野犬の餌にした。
今暮らしている街でも自分があのライブの生存者だという事がバレ、ブラック企業顔負けの超過業務を押し付けられる始末だ。しかも逆らったらクビにするというパワハラまで受けるわ、抗議したらパワハラがこっちの仕業になるわセクハラまでついて回るわとひどい目に遭った。
しかも月面軍がこの街に襲い掛かってきても今度は追い返される始末。あの屑鉄どもめ、町の連中を皆殺しにしてから壊されやがれ。
そして奴らが生き残ったことを抗議したら逆に文句を言われた。月面軍も、奴らを取り締まるはずだった政府も役に立たない以上、俺が裁きを下してやる。
そう、コレハオレが下すべき裁き。言うなれば正義の鉄槌。何せ奴らが正義を振りかざした以上、偽りの正義を断罪する義務が俺にはある。
それを行うならばナニヲシテモイイ。クスリモ殺しも盗みも戦争もクスリモ女を犯して殺すことも――
そうだ。いっそのこと自分の人生を狂わせたあの二人のうち、生き残って今も逃げ回っているクソ女の方を意地でも見つけ出して――
『――こっちを見ろーーーッ!! クソッたれーーーーッ!! あのライブで自分だけ逃げだした卑怯者ーーーーッ!!』
そんな中、自分の正義を否定するクズの声が響いた。周囲を見渡すと、そこには散々人を使い潰そうとした人間のクズどもの本拠地に陣取ったフレームアーキテクトが一体立ちはだかっていた。明らかに場をわきまえない声はそこから発せられている。
『お、お前、さっきいちゃもんつけてきた奴らの一人だろーーーッ!! 大方あのライブで散々な目に遭って、今も理不尽な眼にあっているって感じだろ!! で、でもなぁ!! お前だってあのニュース知ってるだろ!! 紅赤朱の時にどさくさ紛れでやらかした奴がいて、そいつらのせいで迫害の被害者どころか、加害者までも白い目で見られるようになったんだぞ!! それで満足しないのかアンタはぁッ!!』
知ったことか。大体自分には関係ない。それにこれは正当な報復であり、奴らの様な理不尽な行動とは全く違うのだ。
『大体だなぁ!! 人に喚き散らした俺もお前も同じクズだし、今この光景見たらお前なんかより、娘が生き残ってくれた方がなんぼかマシじゃないか!! それにお前がいつまでも認められないのは、俺と同じ性根がクズだからじゃないか、人様のせいにすれば楽だもんなぁ!!』
何も知らないくせによくもそんな口を開けるな。ふざけるなごみクズの分際でごみクズの分際でごみクズの分際でッ!!
『お、俺もお前も同じクズだッ!! クズをクズと言って何が悪いんだぁぁぁぁッ!!』
「……こ、ここここ殺す!!」
自分を侮辱した奴を殺す。それが最優先だ。自分と同じなのに同情されるごみクズなんぞいつでも掃除できる。まずは自分を侮辱し、正当な行動を否定した奴から殺すッ!!
「だらっしゃぁっ!!」
そして拳をアーキテクトへ向けて打ち付ける。その攻撃をもろに受けたアーキテクトは吹き飛び、ビルに向かって打ち付けられた。
「どどどうだぁッ!! ここ、これでととどめだぁっ!!」
とどめを刺そうと倒れこんだアーキテクトに近づいた瞬間――
「ん……あ゛あ゛あ゛ッ!!」
突如として足首の関節が固まってしまい上手く踏み込めず、逆側の膝関節も上手く曲げられず勢いを殺すことが出来なくなり、その勢いのまま前へと倒れこんでしまった。
「よしっ!!」
スートがハンドバズーカを手に声高らかに叫ぶ。狙いは膝関節とそことは逆側の足首関節。音声スピーカーから発せられた奴の声は明らかに冷静さが失われており、ダメージを受けない攻撃であれば気づかれないのは明白だった。
まず最初にフレームローダーの中から奴を挑発する言動を行い、相手の動きを引き付ける。勿論これには一時的にでも避難所から目を逸らすのが主目的であり、別にこっちに向かわなくてもいい。
彼が挑発している隙をついてもう一人と共に膝と足首の関節目掛けてトリモチ弾を射出。結果膝と足首のトリモチが固まっているのにも気づかず、奴はあっという間に地面に倒れこむ結果になった。
「……これで俺の仕事は後始末だけだ。後は任せたぜ……」
スートはその言葉と同時に視線をフレームローダーへと向けていた。
今回の行動における抹殺役を買って出たのはプロストだった。彼からしてみると『朱鳥信』はまだまだ16~7の少年であり、例え犯罪者でも民間人殺しに手を染めさせたくはなかった。
「任務開始……!!」
アーマーマグナムを構え、即座に走り出す。相手が両足共に健在ならば間に合わなかっただろうが、片方は足首が、もう片方は膝関節がトリモチで固められ動かすことが出来やしない。腕立て伏せの要領で上半身を起こしたMSGロボのコクピット近辺にアーマーマグナムを向け、警告すら出さずに引き金を何発も引き続ける。このアーマーマグナムはアーキテクトやMSGロボ程度の装甲ならば何の問題なく貫ける弾丸を装填している。
『ガァァァァァッァァ!!』
男の悲鳴がスピーカー越しに響き渡り、プロストは何の抑揚も躊躇もなく何度も引く。あの男の命など、当の昔に天秤の秤から投げ出された。故にあの命を断ち切ることに何の躊躇いもない。
『ぎっざまぁ……なんで……じゃまずるんだよぉ……』
あの男の声が聞こえるが、それは弱々しく感じられる。それに対して一瞬だけ銀髪の女の姿が浮かび上がったが、直ぐにアーマーマグナムを左腰に据えたものに持ち替えてコクピット目掛けて発砲する。
それを最後に動こうとしていたMSGロボの動きが停止し、この場から動こうともトリモチから解放されようともしなくなった。信が恐る恐る鉄パイプを持ちながら近づくのが見える中で、プロストがコクピットハッチを強制的にこじ開け、即座に中身を引きずり出して確認する。
MSGロボやフレームアーキテクト程度の装甲なら射抜けるアーマーマグナムの弾丸をコクピットに何発も撃ち込まれた為か、腹部と頭部を中心に紅い花を咲かせている。万が一のために頭部にもう一撃弾丸を撃ち込んでこれでとどめを刺す。
「信、トドメは刺したからこれで仕事は終了だ。顧問、さっきとどめを刺した。そっちの方は怪我はないか――」
「プロストッ!! 後ろぉっ!!」
信の叫びと同時に振り向くとプロストは信じられないものを見た。先ほど頭部に弾丸を撃ち込んだはずの男の腹部から蜘蛛らしきものの集団が一気に飛び出してきたのだ。
蜘蛛らしき、と言ったのはその蜘蛛の体には大量の眼が付いており、所せましく見据えていることから装飾品や擬態の類ではない。姿かたちもまずグロテスクであり、ノイズの方が愛嬌あるとも言える。
「な、なんだこれはッ!?」
プロストは思わず飛びのき、わき目も降らず逃げ出すが間合いを取る。プロストが息を呑んだと同時に目に映ったのは蜘蛛の様な動きをする体中に眼球を身に着けた男の変わり果てた姿と、信が振りかざした鉄パイプがウェアウルフ・アヴェンジャーの時と同じ様に突如緋い雷を纏った瞬間だった。
(ホントになんだよこれ!? フレームアームズや月面軍ならまだしも、雷龍剣に嵐虎剣、ノイズとか言うフリーダムやデストロイすら裸足で逃げ出す化け物に、挙句の果てにあの得体の知れない蜘蛛ぉ!? クラウドセンチュリーってスペースオペラの皮を被ったB級映画の世界かよ!?)
シンは何度目かになるクラウドセンチュリーの非常識を目の当たりにしたが、プロストやスートの表情から彼らもあの蜘蛛に関しては情報を入手していなかったことがわかる。プロストがこちらへ向かってくるが、あんな得体の知れない相手なら気持ちは分からなくない。
(とは言え、あれを放置する方が問題だよなぁ……)
あの男を食い破って生まれたも同然の寄生蜘蛛……昔オーブにいた頃に妹のマユと共に見たB級ホラーのレンタルビデオ3本セットの一本に、狂ったコーディネーターの科学者が遺伝子操作の結果として寄生蜘蛛を生み出して世界滅亡の危機に陥れ、それに対してブルーコスモスが青き清浄なる世界のために戦うという、プロパガンダとは言えトンデモ映画があった事を思い出した。
(……ありゃ絶対行かせちゃいけないタイプだ。あれが元が迫害の被害者だろうと、もう知った事かッ!!)
その時に見た蜘蛛は1匹とは言え大型で、目の前のこれは小型とは言え大量。しかし明らかに威圧感や恐怖はあちらの方が遥かに上だと分かる。それに妙な動きをする男がいる以上、あれは明らかに寄生蜘蛛の類だった。
(もしあいつらなら憎しみの連鎖だとか不殺だとか言い張るだろうが、こいつを放置したらその時点で避難所へ向かわされる!!)
そう考えた時にはもう考える余裕などなかった。胸の内に迸る感情に支配され、手にした鉄パイプを思い切り振りかざす。その瞬間、シンの眼にもわかるように緋色の雷が鉄パイプに迸り、それを一気に振り下ろした。
「――――え?」
シンが雷に気づいた時にはそれを振り切った後、雷は直進してくる蜘蛛の大群を男の成れの果てと共に一気に焼き払う。グロテスクな蜘蛛の大群も、避難所へ襲い掛かろうとしていた痩せぎすの男の成れの果ても、皆平等に緋色の雷の奔流に飲まれ、塵1つ残さず消滅していた。
「……」
蜘蛛と男の成れの果てを焼き払い、焼き焦げた臭いを嗅いだ後で手にした鉄パイプを落とした。自分自身何が起きたのかさえ分からず、驚愕に目を見開いていた。今ならブルーコスモスのお題目を鏡の自分に向かって呪詛の様に言う事さえ出来そうだ。
思い出すのはオーブで両親と妹の変わり果てた姿を見てしまった時。爆風に吹き飛ばされて捻じれた人形のようになった父、樹に押しつぶされ臓物すら飛び散らした母、そして腕がちぎれ体がひしゃげた妹――
プロストもスートも自分を見て驚愕の表情を浮かべており、特にプロストに関しては今回で二回目である以上、機体ではなく自分に何らかの異常が見られたことは疑いようがない。
「……なんだよ、これは……」
思わず蹲り口元を手で押さえる。以前使った際はヴィスクエアが仕組んだプログラムである以上、何も疑いようがなかったが、今回はフレームアームズにすら乗っていない。シンは手にした鉄パイプから迸る緋色の雷を見て抱いた感情は歓喜でも希望でもない。真逆の感情でもある困惑と絶望だった。
「何なんだよ……」
コズミックイラにいた時にこの力さえあれば、家族の仇であるキラ・ヤマトも、裏切者であるアスラン・ザラも、ロゴスの首魁であるロード・ジブリールも、虐殺を行いながらも自分はのうのうと新たな人生を送るネオ・ロアノークも、役に立たないと知っていながらも国と民を焼いた理念に固執するカガリ・ユラ・アスハも、テロリストの首魁であるラクス・クラインもこの力で葬れたはずなのに。
「なんだよこれはッ!?」
デストロイに乗せられたステラを救えたはずなのに。ルナマリアも仲間に裏切られたという悪夢から守れたのに。レイも議長もミネルバの皆もいなくならないで済んだのに。
「今更この力を手にしたって……何の意味があるんだよぉっ!?」
あの日家族を死の運命から逃れさせることが出来たのに。
「では今回の件は我々が引き継ぎます」
朝になって本土側の防衛機構の面々が駆け付け、今回の一連の事件の取り調べはスートが受けることになり、シンはプロストや他の面々と共にナンソウへ帰ることになった。シンは横目で見てみたが、それは以前フレズヴェルク=アーテルに乗った際に自分の取り調べを行った軍人だった。意外と世間は狭いものだと思ったが、シンはそんな事を考える余裕すらない。
「あー。それと参考になるかどうかわかりませんが、残ってたコクピットに転がってた薬物のビンです。綴りからしてナントカチュラって言うのはわかるんですけど、コクピットにアーマーマグナムをぶち込んでまして壊したかもしれません……避難所へ向かわせないようしてたんで勘弁してください」
スートが金銭を軍人に手渡すと、彼も呆れたように受け取る。
「……ナントカチュラ……それは目玉のついた禍々しい蜘蛛のような存在でしたか?」
「ええ、まあ……」
「……このビンも証拠として受け取っておきます。ええ、実は今回のような民間人の間で流行っている危険ドラッグでして、我々も追っているんですよ。ドラッグではなく寄生蜘蛛の卵ではないかとも噂されてまして、防衛機構でも追っているんですよ」
スートと軍人のやり取りも、シンにとっては聞こえない。シンにとっては自身が放った雷の方が重要だったのだ。
「勿論あなた方には迷惑をかけません。また、今回の一件に関しては犯人を雇っていた企業側にも問題があった事が発覚しています。絞られるとしても彼らの方でしょう。あなた方と共に行動した男性も命に別状はございません」
スートや軍人の会話を耳にする事もなく、シンとプロストはナンソウへと帰還を開始する。シンは自分と行動を共にした男性が傷を負いながらも無事だったという事だけは反応を示し、安堵の息を漏らしていた。プロストはそれに気づいていながらもあえて気づかぬ振りをして興味のないライトノベルを黙々と流し読みしているのみだった。
そして発進してから数分後、シンの懐から音が鳴り響きスマートフォンを取り出そうとしたが、同時に妹の形見の携帯電話を懐から落としてそれを真っ先に拾い上げた。それを見てプロストも呆れ返ったかのような声を上げる。
「おいこらお前。スマホ鳴ってんのに別の事優先してねえでさっさと出な。どうせ相手は真由紀ちゃんやアルテちゃんだろうが」
プロストがようやく口を開く。シンが携帯を開くと、ようやくサーバーが繋がったのかルナマリアから安否の催促メールが一斉に届いたのである。
『シン大丈夫? 怪我してない? メールを見たら返事して』
『本当に大丈夫? 空メールだけでもいいから』
『大丈夫?』
『だいじょうぶ?』
『だいじょうぶ?』
『いきてるの?』
『いなくならないで』
「うわぁっ!!」
シンが思わず悲鳴を上げ、スマホを持った腕をプロストの顔に直撃させる。当然怒りに震えたのを見て平謝りするが、彼もメールを見て思わず言葉と表情を詰まらせた。
「……今回の一件は俺が上とかに報告しとくわ。お前はさっさとお家に帰って真由紀ちゃんやアルテちゃんに顔でも出しとけ。それがテメエが一番優先することだろ、あの爺にも俺が話しとくし今日ぐらい仕事はお休みしなさい……つーかメールさっさと返事しとけ」
プロストがそう言うとシンも頷きながら即座にメールに返信を行う。すると即座にルナマリアからメールが届き、『良かった』の一文だけを見て彼も安堵のため息を漏らした。
ナンソウへ到着すると即座にプロストから帰宅命令を出され、シンは即座に当てが割れた部屋へと足を運ぶ。アルテが寝ぼけ眼で欠伸を上げながら着崩した寝間着姿で出迎え、ルナマリア……もとい真由紀はどこだと聞くと彼女はテレビの前を差す。
「……シン?」
テレビでは聞きなれた戦況報告のニュースが流れ、その中で先の一件もニュースになって流れる。そして彼女は明らかに眠っていない風体だと分かり、手にはスマホを手にしている。
「ご、ごめん。俺も少しプロストたちに協力してたから……」
シンの言葉を待たずにルナマリアはシンに寄り掛かる。シンはそんな彼女を離そうともせず、ただただ彼女のなすが儘になっていた。そしてルナマリアが安堵からか寝息が聞こえてきて、ベッドへ運ぶものの自分を離そうともしなかった。
(……そういや俺も寝てないや……色々あったからな……今度起きたらあの雷の事は忘れよう……)
自分も色々あったが、彼女の姿を見たらどうでもよくなった。ルナマリアが自分を掴んだままだったため、刺激しないよう自分も横になりそのまま睡魔に身を任せることになった。
「今回の一件は以上だ。有名な『バイスタランチュラ』って言うヤクブツ、今回も出てきたぜ……ここ最近そう言うヤクネタ多くねえか?」
プロストは船のレクリエーションルームでケインに報告していた。既に受付やブラスらには報告済みで、今回はケインに私的な用事も済ませている。
「そうか、済まなかったな……」
「まっさかまた騒音人災に巻き込まれるなんざ思わなかったぜ。今回は被害も囮を志願した人以外被害なし、お前はいなかったけどおやっさんや信もいたから大丈夫だったがな」
プロストがコーヒーを口にしながら愚痴を言うと、ケインも眉間に皺を寄せながら声を上げた。その手にはプロストがあえて受付には報告しなかった箇所が記されている。
「表向きにはお前がバイスタランチュラを焼きつくしたが、実際には朱鳥が緋色の雷を使った……間違いないな?」
「生身でな。言っとくが聞いても無駄だと思うぜ。本人すら困惑してたレベルだ。更に言うと演技でもねえ……で、ケイン。お前から見て信が嘘ついているように見えるか?」
「……父やMr風鳴が深く聞かない以上、そう言う事だろう……背中を任せられるかは別問題だがな」
ケインはそう言って書類を見据える。一方でプロストもケインに向かっていつもの口調で話しかけた。
「……ま、俺様ちゃんは金さえ払ってもらえれば何でもするぜ。それがオンボロとか訳アリの搭乗でも、ヤクネタの監視でもな」
プロストはそう言うと音楽を聴き始める。それはツヴァイウィングの代名詞とも言える『逆光のフリューゲル』だった。
「……で、ケイちゃん。ツヴァイウィングの悲劇、二つの意味で知ってる?」
「ファーストライブで起きた事と、その後で起きた悲劇だろう? 俺も騒音人災に巻き込まれたのはお前も知っているはずだ」
「……信はそれを俺様ちゃんに聞いてきた。で、結果を聞いたらすげえショックを受けて吐きまくったぜ……演技じゃないのは明らかだったが、だからこそ妙だった」
そしてプロストはケインに向かって目つきを鋭くさせて、ある言葉を突きつけていた。
「まるで『別の一件』で『同じ結果』を知っている人間の反応だったぜ。更に言うと、『当事者』の反応だった」
「……シンが生身で緋色の雷を使った……のう」
ヴィスクエアはプロストからの報告を聞き、頭を抱えていた。彼もシンが生身で雷龍剣を使えるとは思っておらず、頭痛の種が増えたというようなありさまだった。幸いシンが使うアーキテクトは改良を済ませているため、直ぐにでもシンに送ることが出来る。
「ヴィクトリオも厄介なネタを拾ってきおって……これを聞いたシンがどうなるかなど、予想つくわ」
彼が映し出したモニターには、数多のフレームアームズの手足を撃ち貫いて戦闘不能にする一機の機体……シンの話から聞いたストライクフリーダムやアカツキと言う『モビルスーツ』と、その旗艦である『エターナル』や『アークエンジェル』が映し出されていた。
シンが戦っていたというインフィニットジャスティスは姿を見せていないが、彼だけこの世界にいないという可能性は切り捨てている。しかも僚機にはスティレットや轟雷、アーマーグライフェンがおり、それがヴィスクエアの神経をすり減らしていた。
「バイスタランチュラの件もそうじゃ。まさかあれがまたワシらの前に姿を晒すとはのう……」
バイスタランチュラの事を思い出すと拳を握りしめ、表情を一気に強張らせる。しかし直ぐにまた別の問題に頭を悩ませた。
「……シンにとっては朗報かどうか知らんが、アルテ嬢ちゃんの情報が掴めた……」
しかしそれは本当に知らせていい情報かどうか、ヴィスクエアにも検討つかなかった。知らせるべきなのだろうが彼女が記憶喪失であるという点を踏まえると、どうにも二の足を踏んでしまう。
「……胸糞の悪くなる理由が大当たり、か」
伝手を酷使して調べた結果。彼女は2年近く前にある会場にいたことが発覚した。
「……生き残った結果、記憶を失い精神までも退行化……しかもフレズヴェルクに乗っていた事から月面軍に属している可能性が高い……」
それはかつてツヴァイウィングのライブ会場……つまりあの事件が起きた現場でもあった。
「最悪の場合、彼女が敵になる可能性もあるぞ」
記憶を取り戻して、人間を憎み、シンたちの敵になる可能性……あるいは月面軍に戻る可能性……それらも踏まえる事になった。
メガミデバイスを作ってて遅れました。
また、種死の主役はストライクフリーダムだと暗に認めざるを得ない形となりました。
おら、ラクシズ共。ストライクフリーダムがアサルトバスターポジションだって認めるぞ、よかったな。