FRAME ARMS DESTINY T&S 作:デボエンペラー
そして今日は誕生日。少し凹むことがあったけど、一応元気だし10日に問題が出たと考えればまだマシというレベル。
シンとルナマリアがナンソウの学校へ転入してから早2週間。シンは主に学ぶことになった歴史の教科書を睨みながら学んだことの復習を行っていた。
(プロジェクトReスフィアに、月面軍の侵攻。ツヴァイウィングのライブ事件にT結晶の発見。そして紅赤朱の内乱。重要人物はライト・ドーソン、源内蒼慈、そしてツヴァイウィングの天羽奏と風鳴翼。うち確定している生存者は天羽奏のみだが所在不明。逆に明確に死亡しているのは源内蒼慈と風鳴翼で、行方不明なのはライト・ドーソンか……)
シンはノートにメモと簡易的な人型を書いてそこに名前を書く。そのうち翼と蒼慈と書かれた人型には大きくバツ印を書き込み、ライト・ドーソンには三角印、奏にのみ何も書かなかったが小さく所在不明と書き込んでいる。
(第三次世界大戦はコズミックイラやクラウドセンチュリーの両方で起こっているとは言え、まるっきり内容が違う。遺伝子研究はクラウドセンチュリーの方が大きく遅れている印象だ)
シンが見たところ、遺伝子工学に関してはコズミックイラの方が優れており、逆に科学分野ではクラウドセンチュリーの方が優れているという印象だった。
第三次世界大戦にしてもヴィスクエアやヴィクトリオが若いころに起きているとは言え、日本は平和憲法を理由に戦争に参加せず。アメリカ対ヨーロッパ対共産圏対中東という状態になったが、最終的にノイズやバイスタランチュラが現れてなし崩し的に戦争終結になったらしい。バイスタランチュラはヴィスクエアがいかに自分が活躍したかアルテに誇張しているような雰囲気で話したらしいので、歴史には記されていないのだろう。
「歴史が違えば価値観も違う、か……」
シンはここ最近での授業を思い出していた。体育は手を抜いていても得意中の得意、コーディネーターの頭脳を持って数学や化学などは難なくこなし、英語に至ってはコズミックイラでは共用言語であった以上暗記でしかない。一方では古文や現代文の様な日本語を使った授業、そしてコズミックイラとは違う世界史や日本史などがシンにとっては苦手分野だった。思わずボロが出そうになってしまい、何度『分かりません』と言う言葉を使ったか。
(……)
とは言え、シンにとってはコーディネーターの肉体と、この世界のナチュラルの肉体に差が見られないように感じ取れた。以前プロストやケインとも組み手を行ったが、初戦でのケインの時はかろうじてザフト式のサブミッションを行い得意のナイフ技を披露して勝利を収めたが、恐らく二度目以降は対策を取られるだろう。現に続けてのプロストの時は対策を練られて読まれ負け、更に雷太の時は体格差で敗北してしまっている。
ヴィスクエアとの組手に至っては雷龍剣抜きでも思い出したくもない、あれで老人だなんて絶対に嘘だ。あれで老人を労われなんて言われた日には敬老精神なんざオーブ解放戦後のオーブドル程度の価値以下しかない。
(……『ナチュラルはコーディネーターに勝てない』……その常識がコズミックイラにはあったのか? まあ、胡坐掻いているような奴らもいたからなぁ……)
ルナマリアも射撃はともかく、それ以外の腕前は他の面々を抜いて赤服を得る腕だったし、自分もレイ・ザ・バレルに劣ったが次席で卒業、インパルスを受領するに至った。尤も、コーディネーターだからと言ってナチュラルに負けるはずがないと言ってそれなりにしか学習や鍛錬を行わなかったものもいたが、そんな奴に赤服を受領どころか卒業する資格すらなかったが。
「あれ? シン、まだいたの?」
すると近くに青のブレザーと赤いスカートを着たルナマリアが自分の顔を覗き込んでいた。シンも思わず顔を赤く染めながらも直ぐに何か用かと声を上げるが、ルナマリアはいつものように明るく声を張り上げた。
「何か用って、そろそろヴィスクエアさんのいる蕎麦屋へ行く時間じゃないの? あの人は笑って許すだろうけど、その分蕎麦を食べ続けてシンに払わせるんじゃない?」
ルナマリアが隣で自分に急ぐよう急かす。スマートフォンを見てみると確かにそんな時間だった。
「うわッ。もうこんな時間か……悪いな……真由紀」
周囲を見渡して廊下を横切る人影を確認してから偽名で返事をして荷物をまとめ始める。基本的にシンは学生としては午前中のみ授業に参加して、午後は船の中で待機することになっていた。尤も、軍務として重要だと判断されればその限りではないが、よほどのことがない限りは縁のない事だと思っているため、見張りとして行動することになるだろうと考えている。
一方でルナマリアとアルテに関しては自宅以外では学校で聞いたことしか分かっていない。周囲にそれとなく聞いてみたところ、アルテはともかくルナマリアに関してはアルテ関連しか付き合いが無いとしか聞かなかったのだ。その結果、一見強面の不良とあからさまなチャラ男、魚顔のオタクのミステリー漫画で殺されそうな三人組と親しくなったのはここだけの話。
「所で放課後、どうするか予定決めてるか?」
「えーっと……今日はアルテの部活に付き添いで参加するわ。あたしはこの際帰宅部でいいし、シンは防衛機構だから参加できないでしょ? それが何か?」
ルナマリアの行動範囲の狭さにシンは頭を抱える。アルテでさえ陸上部に入部していると言うのに、ザフトにいた当時は社交的だった彼女が今ではかつての自分よろしく人と触れ合おうとしないのは、やはりクライン派に裏切られたせいなのだろうか。それともアスランもろともメイリンを殺そうとした自分のせいだろうか。
「……いい加減俺やアルテ以外にも友達とかサークルを見つけろよ、昔の俺じゃないんだからさ」
「い、急ぐんじゃなかったの? ほらほら早く!! 道草していないで急いだ急いだ!!」
「あ、おい!! 俺は真面目な話してるんだっての!!」
ルナマリアに押し出されるように教室から追い出され(しかも扉も締められる始末)、仕方なく移動する途中で女子たちと陸上を行っているアルテ――縦横無尽に動き回る彼女の応援及び見物客に男子が多いのは腹立たしいが気持ちはわかる――を見かけ、アルテもこちらに気づいてにこやかに手を振ってきて、自身も行ってくると言ってからヴィスクエアが待っている蕎麦屋へと向かった。
「シン、プロスト……じゃったな、奴から話は聞いておる。生身で雷龍剣を使ったそうじゃな」
ナンソウの蕎麦屋に呼び出されたシンは蕎麦を啜る動き――幸いヴィスクエアの蕎麦はまだ二玉目だった――を止めてヴィスクエアを見据えた。
「ええ……俺も何が何だかさっぱりで……」
「そりゃそうじゃろ。わしも何一つ教えとらんのに使える方がどうかしとるわ。言っておくが主らと会った際、寝とる間に弄ったりしとらん」
その時ヴィスクエアが陰に『ルナマリアに手を出していない』と発言したも同然の内容にシンは眉をひそめたが、直ぐに彼が声を上げる。
「とはいえ、雷龍剣自体に関しては雷龍を宿した剣に触れるだけで使い手になれるソシャゲレベルのガバガバ認証じゃがのぉ……」
いくら大雑把なヴィスクエアとは言え、簡単に自分の剣を他人に触れさせるような事などしないし、手入れも自分が見込んだ存在に行わせている。
「……そういや、フレズヴェルク=アーテルに乗った時も足から雷を放っておったのう……」
それでも雷龍剣を使えるようになった記憶もないし、アルテも剣らしきものを持っていなかった。そもそもアルテ自身も一回も雷龍剣を使ってすらいない。
「あ、あのフレズヴェルクが雷龍剣の発動キーそのものとか……」
「面白いアイディアじゃったが、残念なことに誰が乗ってもうんともすんとも言わんし、わしにも反応しとらん。更に言えばどいつもこいつも雷龍剣の使い手にはなっとらん」
シンは再び思考の海に沈むが、ヴィスクエアは何故か蕎麦を啜るのみだった。ひとつだけシンにもわかることがある。
「俺が知らないうちにヴィスクエアさんの知らない雷龍剣に触れていた……といったところですか?」
「結局どこで触れたかに戻るんじゃがな……つーわけで、出口が分からん迷宮なんぞもう知らん!! 今回は閉廷!!」
「開き直らないでくださいよ!!」
開き直って蕎麦を一気に啜るヴィスクエアにシンも吠える。しかしこれ以上はどうにもいかないため、シンもヴィスクエアに続いて蕎麦を啜る。
「……美味いですね」
「そりゃナンソウの名物じゃからの。こいつを食うために態々ナンソウへ来る物好きもいるくらいじゃ」
快活に笑うヴィスクエアに対してシンも頷く。そしてヴィスクエアから一枚の書類が渡され、シンはそれに目を通す。
「……これは?」
「主の新しい機体じゃ。日本名は『衝雷』、欧米式じゃと『ウェアウルフ・インパルス』じゃ」
資料を見た感じだと全体的な形は漸雷とは変わらない印象だが、カラーリングはデスティニー及びかつて自分やルナマリアが使っていたフォースインパルスを思わせる色彩に変更されている。更に言うとタクティカルナイフや見慣れない刀剣状の武器も装備されているし、射撃武器もライフル上の物が腰部に備えられている。
「実はこやつの名前や色に関しては主が使っておった屑鉄の悪魔……デスティニー及び戦闘映像ないしデータから確認された『インパルス』とやらから主がよく使っておった形態を参考程度に使っておる。アーキテクトの関係上、主の専用機になるんじゃから、それにあやかってみたんじゃ」
インパルスはコズミックイラにいた頃に自分とルナマリアが使用していたモビルスーツだったが、ラクス側に裏切った連中によって嬲られながら破壊された記憶は忘れられない。自分にとってはフリーダムを降した印象深いセカンドシリーズの一機だった機体の、そのあまりにも呆気なさすぎる最後にシンはセンチメンタルな気分に浸ってしまった。
「以前の機体は従来の機体の改修案としての機体じゃったが、今回のは主に合わせた機体じゃ。履帯の代わりに脚部と背部、肩部にエクステンドブースターを装備させ、更に雷龍剣用の兵装として試作型のサムライマスターソードを一振りずつ備えさせた。まあ主の技量では雷龍剣は備え付け程度のもんでしかないがの。また、接近戦用の機体になる前提上、背部の120mm低反動砲はオミットしておる」
ヴィスクエアの口から雷龍剣の名を聞いたシンは思わず顔を俯かせる。
「反動砲をオミットする以上、タクティカルナイフを主にMSGウェポンを使用してもらう。主の戦闘データから大物を振り回すより、ナイフないし中型の武器を振り回す方が相性いいと判断した。勿論装甲はフェイズなんちゃらじゃないから油断するでないぞ。榴雷改でさえフレズヴェルクのベリルウェポンに掛かれば一瞬でお陀仏じゃ」
彼は指で銃を作ってシンに向かって撃つ。シンは息を呑んで衝雷の仕様書を読みふけっていた。
「フリーダムやジャスティスとやらと戦えないと思っておってもないもんは出せんぞ。高速機動が出来るのはスティレットとバーゼラルドぐらいなもんじゃが、スティレットは出力不足、バーゼラルドなんぞ見てくれだけの紙装甲に主を乗せたら速攻でファイヤーボールになりかねんわ……真由紀もといルナマリアやアルテの嬢ちゃんを代わる代わる乗り換えるぐらいで我慢せぇ……つーか男性陣の何人かが主を殺気立った目で見てるの、気づかんのか?」
ヴィスクエアの言葉に思わずシンは顔を赤らめ、そしてすぐに驚愕の声を上げる。あのクソ元上司も英雄のネームバリューでモテモテだったため、ヨウランやヴィーノから嫉妬の炎が燃え上がっていたのは覚えている。
「……まあ、主のコーディネーター……じゃったか? その動体視力を利用してコクピットをわしらやガングニールの嬢ちゃんと同じ仕様にすれば、まだ分からんが……」
「どういった仕様ですか?」
「単純じゃ。パイロット自身の動きをそっくりそのまま機体に反映させて、思考を機体の動きに反映するフィードバックシステムを搭載しとる。わしのもその仕様じゃが、流石に宇宙じゃ地上と同じ様に行かんから宇宙用の予備機であるスティレットは通常の操縦方法じゃったりする。主を拾った時のあれがまさにそれじゃ」
参考にならない参考だった。コズミックイラの南アメリカ独立戦争で暴れまわったバリー・ホーじゃあるまいし、そんな物を扱えるパイロットが目の前の爺ファンタジー兄弟以外にいてたまるか。
「……ん? ガングニールもあなたと同じ操縦方法?」
「つってもあの嬢ちゃんに関しては独立させて行動させておる。あの嬢ちゃん……いや、特機部二の主な敵はノイズじゃ、アントやあのボケどもに気を取られてノイズを倒せなかった……じゃ目も当てられん。これは綺麗ごとでも偽善でも何でもない。聖龍の王者ないし輝虎の覇者でしか互いを倒せない、剣の英雄でしか焔の災厄を倒せない……おとぎ話のような、されど現実の話じゃ」
真剣な眼から察して息を呑むしかない。オーブの理念がどうこうなら嫌味をダースどころかグロス単位で用意できるが、今回に限りそれを言うのは憚られた。
「……ブツはもうブラスの所へ運んでおるから、そこで慣らし運転はしておけ。そいつはわしの機体同様雷龍剣を使えるように最初から設定してはおるが、取っておくしかない取って置き程度に考えておけ」
ヴィスクエアの言葉と同時にシンも頷き、最後にある質問を行った。これだけは何度催促しても知っておきたい事だった。
「あの……アルテの事に関して何かわかりましたか?」
一瞬だけ呆気にとられたヴィスクエア。しかしそれも直ぐに霧散してシンの髪を掻きまわしながら笑顔で答える。
「なーに。まだまだ裏を取ってる最中じゃ。それに主はあれもこれもと気にせんと、あの嬢ちゃんたちを護ることを優先せいッ!!」
がんばれよ若人、と言い切った直後、食べ終わった蕎麦を置いてその場を去る。シンもそれに続いて蕎麦を啜り、食事を終えると仕様書を片手に店を出る事にした。
ちなみに余談だが、ヴィスクエアはちゃっかり自分が食べた分だけ会計を済ませてトンズラしたらしい。あの連中と比べれば遥かにマシで常識的な対応のため、歯ぎしりをしながら財布の中から千円札を2枚置くしかなかった。
しばらく時間がたって格納庫へ移動した後、シンは改めて自分に与えられた衝雷を見上げて息を呑んだ。
腕や足が白く塗られ、青い胴体や肩に紅い腹部やつま先。改めてみるとかつての愛機だったフォースインパルスやデスティニーを思わせ、シンにとって郷愁の念を抱かせた。顔こそダガー系やウィンダムを思わせるデザインだったが、今のシンにしてみれば外見のデザインで我儘など言える立場ではない。
そして肝心の機体の性能だが結論から言うと、インパルスやザクに並ぶ拡張性が印象的だった。
何せ漸雷……更に言えば大元となった轟雷自体が拡張性に優れた機体で、この機体を設計した源内蒼慈の優秀さを突きつけられるという事態に陥っていた。
装甲はユニット化されたジェネレータも兼任しており、元々あったという履帯ユニットも鑑みれば高い走破性も有している。装備を変えれば砂漠戦も雪上戦、それこそ水中戦もこなせる機体になったという印象だった。
ジン・オーカーとバクゥ、そしてこの機体……どちらを砂漠での量産機に選ぶかと聞かれたら即座にこの機体を選ぶ。バクゥも優秀だが自身はステラやルナマリアとは違いバクゥ系列の操縦は苦手で、ジンやゲイツで培われた人型の操縦方法が活かせるのだ。
しかも装甲ユニットの換装も容易であることから接近戦及び指揮官機の漸雷の他に、砲撃戦仕様の榴雷系統や軽量型の迅雷など様々なバリエーションが豊富で、現地改修型も含めればその数は膨大であるとの話。源内蒼慈が結成した紅赤朱のフラッグシップ機もこの機体をカスタマイズしたものだという。
最も量産されたフレームアームズ、それがこの轟雷系統であり日本が誇る技術の結晶だった。フレズヴェルクシリーズが投入されてからは旧式化されているようだが、それでもこの機体を愛用する部隊やパイロットは少なくない。
(シルエットやウィザードシステムの様な拡張性がこの機体に備えることが出来る……源内蒼慈ってとんでもない奴じゃないか……)
シンにとって源内蒼慈の印象は日本を理想で潰されないためとはいえ内乱を引き起こした男という印象だった。しかし轟雷系統の優秀さを見るとただただ単純に内乱を起こしたかっただけでは無いという事実も認めざるを得ない。轟雷の拡張性はシンでさえも認めざるを得なかった。
(とは言え、これであの二人に勝てるかと言われるとな……)
この機体を使ってストライクフリーダム及びインフィニットジャスティスを倒せるかと言われると答えは否。この機体がデスティニーレベルの機動性を持たない以上、追いつく前にストライクフリーダムお得意の不殺戦法を喰らうか、逆にインフィニットジャスティスの接近戦を許してしまい滅多切りにされるかの二択でしかなかった。
(雷龍剣を使うって言うのも手だけど、普段使えないものに縋っても意味はない……やっぱ防御力と機動性、そして攻撃力を兼ね備えた機体が欲しいな……)
雷龍剣を使えるようになれば攻撃力の問題はクリアされる。攻撃力と頑強さと機動性、この三つを兼ね備えた機体がこの世界にあるのかどうかが疑問だった。
(まあとにかくやってみよう。機体の性能差で負けた、何て言われるのも癪だしな)
シンはそう思うとシミュレーション装置に、デスティニーから持ち込んだ対ストライクフリーダム及びインフィニットジャスティス用のプログラムディスクを挿入して起動させた。
その日、ケイン・ネオスライドは表面上はともかく、内心では上機嫌だった。前々から要請していたブラストシールドの申請がようやく通ったのだ。
ブラストシールドは元々新型汎用FA開発計画の本命機・バーゼラルドの拡張パーツとして造り出されたが、ただでさえその開発計画が現場から反感を持たれていた状況を鑑み、従来機拡張計画の一つとして「FAの宇宙用追加装備」という名目で開発が行われ、仕様上でも増加推進器の他、大型シールドとしても運用できるよう設計がなされている。
ケインはこれを本来の用途である乗機バーゼラルド・ブルースカイの強化に使う予定なのだ。これでブルースカイも本来の姿を得ることが出来、装甲面の問題も解決できた。
尤もブラストシールド受領前にブルースカイを調子に乗って壊すわけにもいかないため、当分はスティレットに乗って当面の繋ぎにするしかないが、それも次の機会まで我慢だ。それにブルースカイを受領したのは騒音人災及び紅赤朱の乱以降であり、アメリカにいた頃はスティレットを愛機としていた程だ。
(……今日はブラストシールド装着型ブルースカイをシミュレーションしておくか……)
幸いブラストシールド装着型のバーゼラルド……『ゼルフィカール』のデータはこちらにも回っている。シミュレーションルームに行くと2台あるシミュレータのうち1台は使用中のランプが点灯しており、申請者の名前を見るとケインも思わず動きを止めた。
(……Sin Asuka……朱鳥信、か……)
朱鳥信――
ミリティアコーポレーションから派遣されたテストパイロットだと話は聞いている。しかも人類最強の二振りの剣の一方であるヴィスクエア直々の推薦だとの事。
操縦の腕は並大抵ではなく、格闘技も何処かの軍の物を学んでいたかのような動きを見せ見慣れない技に翻弄され敗れてしまった。素人ではないのはこの時点でも分かっているし、雷太に格闘技で敗れたのは体格差でしかない。
白銀のヴァイスハイトやバイスタランチュラとの戦いで緋色の雷を放ったと聞いているが、どうにも腑に落ちない。いくら自分が二課の本当の顔を知っていたとしても、彼の名は聞いたことがないのだ。
いや、仮に聞いていたとしても派遣元が二課になるだけ。彼が演技を行ったかと言われると、答えはノーとしか言えない様な直情型の人物。全て演技だったら称賛に値するし、本性を露にした際には自分は良くて捕虜、最悪の場合その時点で死亡する。
同行者は恋人だろう朱鳥真由紀と、彼らが拾ってきたと言う記憶喪失の少女であるアルトゥラ・ホークがいるが、アルトゥラの方はシン以上に演技が出来そうにないタイプだ。それに真由紀の方はスクールに通っている女性兵から聞いてみたが男性陣はおろか女性陣とも積極的に絡もうとしない。
経歴に関しては調べなおしたところ、南太平洋の防衛機構に属して部隊はおろか国も月面軍によって壊滅した。そこをヴィスクエアが拾い上げたとの事だが、それもミリティアコーポレーションから聞いたもの……すなわちヴィスクエアが偽装できる範囲だった。
(……まああいつも新しい機体が来たという話だし、その慣らしでもしているんだろう。俺はその後でも……――)
そんな事を考えているうちにシミュレーション装置のコクピットハッチを模した部分が開かれる。そしてシミュレーション装置のLEDランプが赤く明滅し、あからさまに撃墜されたと表現していた。
「……クソッ!! やっぱりか!! シミュレーションでも俺は奴らに勝てないって言うのかよ!!」
息を荒々しく吐き、中から朱鳥が出てくる。近くに自分がいたことを察すると慌てて敬礼を返し、声を張り上げた。
「あ……し、失礼しました、ネオスライド中尉」
しかしそんな態度も気にも介さず、それを手で制する。彼はここ最近シミュレーションを行っていたが、特に何の問題もなくクリアしていったのは記憶に新しい。
その彼が声を荒くしてシミュレーションに負けたことを悔しがっている事に少し興味を抱いた。それに同じ設定ばかりのシミュレーションでは、イレギュラーの対応が遅れるから違う設定で試してみたい。
「ああ。別に構わない。しかし俺が知っている限りだと腕は問題ないと思っていたが、どうしてシミュレーションで負けたことに苛立っているのか気になった。俺も同じ設定でやってみてもいいか?」
自身の疑問に対して朱鳥は思わず目線を泳がせる。そして彼はそれを渋々と承諾し、今度は自身がシミュレーション装置に入り込んだ。自身の機体のデータを組み込み、先ほどまで彼が使っていたであろうプログラムを起動させる。
プログラムを起動させて最初に映ったのは広大な宇宙。しかしそれに見とれる暇もなく鳴り響く警報音。赤く染まったモニターに映るWARNINGの文字。その直後、二機のフレームアームズが姿を現す。
(……? なんだあの機体は? フレームアームズ……なのか?)
一機は薄い赤色と長い頭頂部を有し、背に巨大なリフターを背負った銀色の関節を持つ機体。もう一機は腹部に発射口と青い翼、腰部に砲撃武器を持った黒い胴体と白い四肢を有した黄金の関節を持った機体。
確かにブルースカイ、そしてそのオリジナルとなったバーゼラルドも見てくれを重視しているが、目の前の機体はその比ではない。二機と対峙した際、システム音がどちらの機体と戦うか選択を迫ってくる。どうやらこのプログラムはどちらか一機と戦うか選択し、もう一方とは戦わないようになっているようだった。正確に言えば一番下の方に同時対戦という文字が浮かんでいたが、カーソルを合わせると警報音が煩わしいほど鳴り響き、反射的にカーソルを上段にずらす。
(……改めて機体を見てみると、明らかに白い機体は遠距離戦のフレームアームズ、遠距離に徹されたら近づいても離されてそれが延々と続きかねない。赤い機体は恐らく接近戦用の機体だろう。ならば――)
直ぐに赤い機体を選択し、白い機体は即座に姿を消す。そして直ぐに赤い機体に向かって対フレズヴェルクシリーズに開発されたATCS弾……フレズヴェルクシリーズの代名詞の一つでもあるTCSを貫通させる干渉弾に攻撃性を持たせた弾丸を撃ち込む。相手も手にしたエネルギーシールドらしきもので防御を行い、弾丸自体はシールドを貫通する。
しかし、相手はそれを気にした様子も見せずに今度はこちらに飛び掛かってくる。手にしたライフルやシールドに備わったアンカーでけん制し、こちらが距離を離そうものなら今度は飛び掛かってきてシールドに備わった刃で突撃するという、見た目に寄らずかなり嫌らしい動きをしてくる。
(だが、これでどうだ!!)
隙だらけになった不意を打ち、セグメントライフルを胸部目掛けて撃ち込む。本来は二丁拳銃は推奨されていないが、この際やむを得ない。しかし、その動きすら気にもせずにあの機体はライフルを囮にし、今度はリフターを切り離して遠隔操作でこちらへ向かわせた。
(!? あのリフター自体が武器だとでもいうのか……!? しかも、明らかにコクピットにも命中したと言うのに、撃墜どころかそもそもダメージの判定すらない……どういうことだ!?)
ダメージ判定に関しては無効との判定が出ている。ケインが呆然とした瞬間、目の前のリフターの主翼が突如光を纏い、それが刃となって形成される。
「しまっ……――」
急いで距離を離すが、それは囮だと言わんばかりに敵の機体が足を振り上げ、そこからも光の刃を形成する。その軌道は正に自身のコクピットを貫通するコースだった。破れかぶれにフレズヴェルクシリーズ対策の盾になるABSAを発動させるが、これでエネルギーが枯渇。そして先ほどのリフターの刃がコクピットを切り裂き撃墜判定を受けることになった。
「……ッ!!」
撃墜判定を受け、コクピット内が赤く染まり警報音が鳴り響く。それと同時に入り口が開かれ、そこから朱鳥が気まずそうな雰囲気でこちらを見据えるという結果になった。
「すみません、ネオスライド中尉!! 大丈夫でしたか!?」
「……大丈夫だ。ところであの機体は何なんだ? 見たことのないフレームアームズだったようだが……」
そんな中、一人の人間がこちらへ駆けつけてくる。いかにも神経質そうな男はケインの元へ走りこむと息を大きくつきながら声を挙げた。
「ね、ねお、ネオスライド、中尉……今動ける人員はブリーフィングルームへとの事です……」
その言葉に対し、ケインも頷き直ぐにシンへと視線を向けた。
「……分かった、直ぐに向かう。朱鳥、話は後にしてもらう。いいな?」
「はい……俺も参加します」
シンとケインは即座に動き、ブリーフィングルームへと入り込む。今回は急を要する話だったので何人かの人間が時間になっても来ていないという事態になり、シンが周囲を見渡すとプロストらもその中に入ってしまっていたのが分かった。
「内容に関して単純に言おう。北海道が落ちた」
その言葉に対して周囲が息を呑む。確かに北海道はロシアとも国境が近く、そこが落ちればロシアが北海道に上陸するかもしれないという事実は第二次世界大戦を見れば分かっている。すると今度はモニターに藍色に彩られた戦闘機を思わせるシュトラウスが出てくる。
「北海道攻略の指揮官は、日本で騒がれている色付きのFA……通称“色付き”の一機でもある藍色のシュトラウスカスタム機……通称『
向こう側にも異名が付いている存在がいる。シンはそれを思い知り息を呑みこむしかない。
「被害の状況は?」
シンが思わず口を開きケインが横目でこちらを見据え後ろにいた雷太が怒気を孕んだ空気で威圧するものの、ブラスは目を閉じて答えを述べた。
「敵はUEリアクターを用いた発電施設を中心に破壊。民間施設に関しては殆ど手を付けずという状況だった。明確に狙いをUEリアクターに絞っているみたいだよ」
民間人への被害が無いのは安心したが、一方で敵の狙いが分からなくなる。かつてのプラントよろしくNJで敵のライフラインを分断するのが目的なのだろうか。だとすると、アルテと出会った時の白いアントの攻撃……民間施設や一般人に攻撃を加えたという事実が出てくる。
「先の西日本とは違い、領土こそ占領されていない。しかしインフラ復興のため、幾つかの部隊は北海道の支援に回らざるを――」
ブラスが言い続けようとした瞬間、警報音が鳴り響く。それに対してブラスは話し合いを中断して腕を払った。
「聞いての通りだ。至急出撃用意。朱鳥信、キミは今後准尉相当として扱う」
「り、了解です!!」
「暫定的に君のコールサインをアーチャー4と認定する。ネオスライド中尉の指揮下に入るように」
その言葉を聞き、シンとケインは同時に頷く。そしてケインは即座に出撃態勢に入るため即座に格納庫の方へと向かいシンもそれに続くかのように走り出した。
ケインはスティレットの元へ走ると近くにいた整備員に今回はスティレットで出ると話す。今までだったらバーゼラルド・ブルースカイで出撃したが、先の北海道陥落の報告とブラストシールドの受領話から、装甲が比較的厚いスティレットの方がいいと判断した。
「アーチャー1より各員。今回俺はスティレットで出る。先の北海道陥落の報告から、真夜中の鴉の一群が出張る危険性を鑑みて、現時点のバーゼラルドではわずかな着弾が命取りになると判断した。また、今回よりアーチャー4が我々の指揮下に入る。機体こそウェアウルフだが、機動性はスティレットと互角かもしれんぞ」
そのやり取りにアーチャー2とアーチャー3は笑うが、アーチャー4もとい朱鳥信は一瞬だけ怪訝そうな顔つきを隠さない。しかし時間が経ち出撃が可能のサインが入ってケインは意識を戦場へと向けた。
「では第3機動艦隊出撃に入る。アーチャー1、スティレット・ブルースカイ……」
「派手にアリ共をぶちのめそうじゃないですか!! アーチャー2、ウェアウルフぅ!!」
「索敵は俺に任せてくださいよ。アーチャー3、レヴァナントアイ・サーチャー……」
「アーチャー4、衝雷……ウェアウルフ・インパルス!!」
「出撃するッ!!」
『行くぜェ!!』
「行きます!!」
四人の声が空母から解き放たれ、機体も安全な箱舟から既に火花散る戦場へと馳せ参じる。眼前に迫る敵こそ黒鉄のアントと黒いコボルトやシュトラウスにヴァイスハイト……信の初陣となった戦いの初戦と代り映えしない顔ぶれだった。
「アーチャー3、索敵を頼む。アーチャー2とアーチャー4は地上から月面軍の掃討に入れ」
『了解!!』
『り、了解!!』
信が遅れて声を上げるが、直ぐにアーチャー2……フレッド・グラフドッデ少尉と合流し、アントやコボルトの掃討に入る。自身も腕に備えたガトリングの掃射で大橋を侵攻していたコボルトやアントを貫き爆散させる。
(……“真夜中の鴉”は今も姿を現さない……俺の不安が外れたのならばいいが……それともこいつらは囮……?)
父からは港方面にエプコギルドを配置している事から最悪の事態は免れるだろうが、こちら側に真夜中の鴉が現れかねない。その不安を拭うかのように弾切れを起こしたガトリングの代わりに腰から新型のレールガンを取り出してそれをアントへ向けて引き金を引く。
「……よし、まだ身体が覚えている……!!」
受領されたバーゼラルドの『軽さ』に慣らされた体で真っ当にスティレットを動かせるかどうか不安だったが、どうやら動きを合わせることが出来る。次々とスティレットに送られてくる観測データから近づいてくるであろうシュトラウスに向けて銃を突きつけようとして、突如警報音が鳴った。
「何!? これは色付きだと……!!」
そして姿を現すのは赤を基調として所々に銃火器で装飾を施したシュトラウス。
『ハァーイ♪ ミンナノアイドル、『
ガトリングの銃口を向けシュトラウスの口があり得ないと分かってながらも口元が歪むさまを見せつけられた。
『私カラノファンサービスヲォ……プレゼンッフォーユー!!』
そして鳴り響くガトリング。ベリルウェポンではないもののエネルギー状の弾丸が降り注がれ、ケインは即座に機体をずらして射線から逃れ距離を大きく保つ。しかも“赤き情熱”は時間差でガトリングを放ち続け弾切れを起こしたと判断すると自分の出番は終わりだと言わんばかりに一気に距離を保つ。そして直後に幾重もの砲撃が自分たちに襲い掛かる。
「本気で今回はスティレットでよかったよ……ッ!!」
思わず眉間に皺を寄せて毒づく。もしこれがバーゼラルドならば、掠めただけで火球になって燃え尽きるのがオチだった。
「色付きが“赤き情熱”だけとは思えん……アーチャー3、他に誰かいるか?」
アーチャー3に問いかけると、彼は息も絶え絶えに声を挙げた。尋常ではない様子に怪訝になるが、今は報告の方が優先された。
『あ、アー、チャー3より……アーチャー、1……敵は“赤き情熱”だけ……ありませ……青き……怒涛』
その言葉を最後にアーチャー3の通信が途絶える。そして響いた爆音とモニターから消えるアーチャー3のシグナル。今度こそケインは歯ぎしりを耐えることが出来なかった。
「……“
『ソンナ事ヨリ、アンコールヨォ!!』
ケインは縦横無尽に飛び回る赤色のシュトラウスを相手に空中戦を行うことになり、他のスティレットもそれに続くしかなかった。
一方でシンもアントやコボルトの大群を相手に手にしたハンドライフルとタクティカルナイフで戦っていた。緋色の雷もこんな時に限って出てくることがないのは腹立たしい。
「コボルトとシュトラウスの連携をどうにかすれば!! ヴァイスハイトにしなければいいんだろ!!」
シンは学んでいた通りコボルトとシュトラウスの合体を防ぐため、優先的にアントを潰して回っていた。他の機体もそれに続き、アントやコボルトの持つビームオーブガンを中心に攻撃を行い破壊していく。
そして目の前にいる最後のアントを手にした刀で刺し貫き、コクピット部分を抉って回す。
「敵撃破!! 次はコボルトを……!!」
そう考えた瞬間、シンの機体から警報音が鳴り響く。そしてその直後エネルギー状の弾丸が赤いシュトラウスから撃たれているのを察してエクステンドブースターを起動させて回避行動を取る。最小限の被害で済ませた後はシュトラウスの方へ向かおうとして、眼前に更なる障害が立ちはだかった。
『ハッ!! 案ノ定撃チ漏ラシ発見ッ!!』
その直後、シンが進もうとした場所へ一機のコボルトが姿を現す。その色は青で彩られ、更に両腕は巨大というのも憚られるマニピュレーターを備えたあからさまな接近戦仕様に改造を加えた機体が姿を現した。
『サッサト消エテモラウゼェ!!』
腕を振り回し、シンの移動を阻害する。周囲の機体もコボルトの戦い方に合わせてか距離を離して射撃戦を行っているのが分かった。
「青いコボルト……こいつも“色付き”ってやつか!!」
目の前にいる存在は自身にとって不倶戴天の仇敵である連中や、以前対峙した銀色のヴァイスハイトと比べると威圧感こそ少ないが、それを余って補えるほどの覇気に満ち溢れていた。
『オラヨォ!! 今度ハ俺ガ相手ニナッテヤルゼェ……“青キ怒涛”ニ飲マレナァ!!』
その声を合図に青いコボルトが拳を握り締めこちらへと襲い掛かり、シンは手にした刀で“青き怒涛”へ斬りかかることになった――
シン視点ではまだ月面軍は機械音声で発せられています。次回あたりでルナマリアの初陣を書きたいぐらいだ。本来は嵐虎剣もこの話で出したかったけど、次々回以降に持ち越しーorz