FRAME ARMS DESTINY T&S   作:デボエンペラー

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私がビルドファイターズトライ関連で一番驚いたこと。
キジマ・ウィルフリッドの名前と中の人を知った時と妹のキジマ・シアちゃんですね。
うん、こりゃうちの小説に出る二人が知ったら噴飯ものだわwwwwwww

真面目な前書きを行うと、少し起動場面は紅椿の芽様のFRAME ARMS:RESEMBLE INFINITE STORATOSを参考にした箇所もあります。

あと、アーテルちゃん、可愛い。


PHASE-02 接敵

 CrowdCentury……人々に衆暦・クラウドセンチュリーと呼ばれるようになってから200年近く経った時代。

それまでに加速度的に進んでいた情報化と、月面から発見されたT結晶と呼ばれる高エネルギー結晶体がもたらしたエネルギー技術によって、エネルギー問題が解決した世界。

されど無尽蔵ともいえるエネルギーは数多の眠らない街を作り上げ、リソースの上限を忘却した人々は地球という名の有限なフィールドの中で静かな繁栄を築き上げ、反比例するかのように人口増加は徐々に生活圏を食い尽くしつつあった。

勿論国連や数多の国家はそんな事実を黙って見過ごすはずはなく、ある計画を実施に移す。

 

 汎用作業重機を用いた惑星開拓計画――通称『プロジェクトReスフィア』

 

生活圏を地底・海洋・宇宙へと繋げ、ゆくゆくは外惑星への進出をも見据えた、史上かつてない壮大な計画。

その計画の一環としてありとあらゆる環境下でも耐えられる建設/開発用重機の開発が急務となり、多くの会社が社運をかけ10年もの歳月をかけようやく『フレームアーキテクト』を作り上げた。

動力としてT結晶から用いられた新機軸のエネルギーシステム『ユビキタスエネルギーシステム』通称UEユニットを搭載し、地底・海洋の人工都市の開発に成功、そして初期段階最終段階として中継点と呼ばれる拠点を軸に月面にフレームアーキテクト開発プラント……後に月面プラントと呼ばれる建造物を建築することになった。

しかし、それが悪夢の始まりでもあった。中継点に突如として暴走したフレームアーキテクト……後にアントと呼ばれるモノタチの大軍が襲い掛かり、駐留していた人々に襲い掛かり、中継点に用いられたUEユニットを破壊したのだ。

更に返す刃で月面プラントで開発された降下艇を建造・地球に侵攻を開始する。そして海上都市や地底都市、多くの軍事拠点をアントによって占領されることになる。

勿論地球にいた人々も黙っているわけではない。急遽『地球防衛機構』を組織し、フレームアーキテクトに武装を施して反抗を試みる。しかし多勢に無勢の状況になる中、ある面々がフレームアーキテクトを骨格に更なる武装を施す計画を実施に移した。

それによって開発された兵器……フレームアームズと呼ばれる事になる兵器に生まれ変わるのであった。

最初のアントの暴走、そして最初のフレームアームズが創造されてから2年。

今も月面プラント……今や『月面軍』と呼ばれるようになった侵略者と防衛機構は今もなお戦いを続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミリティアコーポレーション……今やフレームアームズの内部骨格になったフレームアーキテクトを、本来の形である汎用重機として再設計した『フレームローダー』及びフレームアームズの強化パーツ及び大型重機となる『ギガンティック』シリーズの開発メーカーの一面を持つORG。

シンを拾ってくれたヴィスクエアはそこの社長……組織の中枢でもあるため、ある意味では重役ともいえる。まあここ最近この本社近くにもアントが出てきたが、ヴィスクエアが自分用のフレームアームズと腰に据えていた剣で切り裂く光景を見てナチュラルだコーディネーターだと言う考えは当の昔に消え失せた。

話を聞いたところ彼はこの世界に伝わる、知る人ぞ知る剣の流派の伝承者であるらしく、現在弟子を募集しているとの事。

シンはそこで社員研修を受け、都市開発部のメンバーになるための資格を取得していた。幸いモビルスーツを使った経験から難なくフレームローダーの操作は熟せたため、直ぐに必要資格の汎用重機操作免許の資格は取得できた。

 

 「やっと手に入った……」

 

 車の免許証のように貼られた妙に変な顔写真を眺めながら、シンは更新する際はまともな顔つきになってやると誓う。いくら都市開発部のメンバーに入ることになっても肝心の資格が無ければ来た意味がないのだ。よりにもよってヴィスクエアは資格に関しては自分で取得しろと言わんばかりの対応だった。

 それに偽名を余儀なくされたルナマリアの事もあり、彼女はヴィスクエアの秘書になるべく学習を続けている。

 

 「あ、いたいた。シーン!!」

 

 そう言ってシンの元へ駆けつけてくるのはルナマリアだった。彼女の姿を認めたシンは周囲を見渡し、何人かの姿を確認すると使う名前を即座に決めた。

 

 「ああ……真由紀か。そっちの方は大丈夫か?」

 

 明らかに違う名前で呼ばれたが、直ぐに自分の事だと察した彼女は頷きを返す。シンは死んだ妹である『マユ・アスカ』の名前を捩った『真由紀』をルナマリアに貸していたのだ。今の彼女は『ルナマリア・ホーク』ではなく『朱鳥真由紀』であり、自分も『朱鳥信』と名乗っている身である。

 

 「あの人、今あたしたちが向かう予定の海上都市でお偉いさんたちと会談している最中みたい」

 「まあ俺らを特別扱いする気は無いって話だもんな……まあミネルバの皆の墓を用意してくれたのはありがたいけどさ」

 

 シンもその待遇には納得していた。自分だけならまだしも、ルナマリアの事がばれたら大惨事に繋がりかねない。それにこの世界から元の世界に帰る手立てがない以上、骨を埋める覚悟もしなければならないのだ。

 

 「正直な話、皆のことはまだ実感がわかないけどな……ヨウランやヴィーノあたりがひょっこり現れて『俺死んでねえ!!』とか言いそうでさ」

 

 シンがそう言うとルナマリアは沈み込む。シンが手元に残した妹の形見となった携帯電話とステラから渡された貝殻、FAITHの紋章しか今やコズミックイラで生きた証は無いのだから。

 

 「……うん」

 

 ルナマリアも同じ感想なのだろう。まあ時間もまだ空いているし、墓参りにでも行こうかと考える。

 

 「近いうちに海上都市へ向かうんだ。行けるうちに墓参りに行こうぜ」

 

 海上都市へ向かえば本土へ帰って来るのに何年かかるか分かりやしない。早く済ませておこうと考え、シンとルナマリアは即座に会社を離れて近くにある寺へと向かった。

その手には花屋で購入した花束を用意しており、シンとルナマリアはそのまま墓石へと足を運ぶ。著名な野球選手が納骨された墓場は戦争の影響か墓石が多くなって乱立しているが、場所は契約したスマートフォンのメモ書きで把握している。

 

 「あれ?」

 

 今日に限ってその墓の近くに1人の男性がいた。紺色のジャケットに短く切りそろえた茶の短髪、目つきは鋭く、鍛えているのか体つきも並みの軍人よりも引き締まっている印象を覚えた。

その人物が用があったのはミネルバのクルーの墓ではなく、その横にある墓だったのだろう。彼の前にある花は真新しく、彼自身隣の墓に目線が行っている。

 

 「……その墓、お前たちの知り合いか?」

 

 男はそんな事を呟く。シンとルナマリアは男の言葉に目を配りながら言葉を促していた。

 

 「気に障ったのなら謝る。この近くに来たときは必ず来るが、隣に横に広い墓が無かったのでな。ちらりと見た感じ外国人の名前ばかりだったから気になった」

 

 なるほど、男はこの墓場によく来る人だったのか。ならばシンも頷きを返し、即座に質問を行う。

 

 「そのお墓は誰の?」

 「……家族の墓だ。少し依頼が終わって近くに寄れたから墓参りに、な。大きな仕事も入ってしばらく来れないだろうから都合もよかった」

 

 端的に答えた男の回答に対してシンは何度も悪夢に見た光景を思い出し、手にした携帯電話を無意識のうちに握りしめる。そしてルナマリアも彼に向かって声を上げた。

 

 「……やっぱり戦争で?」

 「……いいや。ゲスな犯罪者に殺された。しかも戦争がはじまる前だ。まあそいつも一年前に墓の下へ送ってやったがな」

 

 そして彼は水を手慣れた感じで墓にかけ、目をつむる。しかし彼は目をつむりながらある言葉を唱えていた。

 

 「結局のところ、平和な世だろうと戦乱の世だろうと死ぬ奴は死ぬし、生き残る奴は生き残る。それだけだった。花を何度捧げたとしても、キリがない」

 

 シンはその言葉を聞いた時、あることを思い出した。自分たちの世界でユニウスセブンが落ちたとき、一度だけオーブに寄って補給を受けた際に1人の青年と出会ってある問答をしたのだ。

 その時の自分の回答は覚えているし、青年はその回答に応えてはくれなかった。その時の光景がシンには被って見えたのだ。

 だからこそシンはポツリと呟くしかなかった。だがそれは反射に近い返答でもあった。

 

 「いくら花を植えても……人はまた花を吹き飛ばす……」

 

 シンの呟きに男とルナマリアは呆気に取られていた。しかしルナマリアと違い、男は一礼を行ってから用が済んだと言わんばかりに歩き去っていく。

 

 「……そうだ。吹き飛んだ花は二度と戻りはしない。戻りはしないものを悔やんでも、決して手に入ることはない。だからこそ――」

 

 そして通りすがる際、シンに向かって彼はポツリと呟いた。その言葉に対してシンは思わず息を呑みこんでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『だからこそ――吹き飛ばした花の事を忘れてしまえば、楽になれる――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シンとルナマリアは男と別れた後、街中を歩いて社員寮へ向かっていた。元々荷物が少ない身である以上、手荷物を用意するだけで海上都市へ向かう用意は出来ているのだ。

しかしシンの表情は優れない。今も男と交わした会話が耳にこびり付いているのだ。吹き飛んだ花の事を忘れたら楽になれる、と。それは仲間の死すらも平然としていたアスラン・ザラと同類に成り果てろと言わんばかりの内容だったため、シンは盛大に否定したかったのだ。

確かにステラはハイネを殺したが、大きな理由はハイネがフリーダムによって武装を奪われた自分を庇ったからこそだ。正直な感想、ステラよりも自分やフリーダムの方が憎いぐらいだった。

 

 「シン……さっきの話、忘れなよ……」

 

 ルナマリアの気遣いも嬉しいが、それ以上にさっきの言葉がしみ込んでくる。あの男は花という言葉の意味に気づいていた。だからこそ、彼はあの言葉を返してきたのだろう。

戻らない死者の事など忘れてしまえ、と。この世界に来た以上は自分の未練を切り捨てろ、と。過去は過去だと割り切れ、と。

 

 「冗談じゃない……ッ!!」

 

 シンはその言葉を否定するかのように声を荒げる。しかし、その対象は自分にその言葉を言った男ではなく、家族を殺した張本人と自分たちを裏切った元上官だった。

だが、そんな時突如として警報音が響き渡る。この警報音は研修中に何度も聞きなれたもの。それが意味するのはただ一つ。月面軍の襲来のみ。

 

 「逃げるぞッ!!」

 

 ルナマリアの手を掴み上げ、シンは即座に走り出す。他の人たちで溢れているルートは諦め、人がいないルートを探し出して移動する。走っている最中、白いフレームアーキテクトを象った異形の存在が姿を現す。どうやらアントも来たようだった。

 

 「急げ!! 早くしないと死んじまうぞ!!」

 

 シンが思い出すのはかつてオーブで戦争が起きた際に両親と共に避難していた際の事。あの時は戦闘の余波で妹の携帯電話が零れ落ち、自分はそれを拾いに行って更なる爆撃に見舞われた。そして家族の元へ戻れば――

 

 「冗談じゃない……冗談じゃないぞ……っ!!」

 

 忌まわしき原初の記憶を振り払い、シンとルナマリアが急いで逃げた先には白いアント以上の最悪な光景が浮かんでいた。逃げた先に一機のフレームアームズが道をふさぐように倒れこんでおり、その傍らに1人の少女が倒れこんでいた。

フレームアームズに関してはパールホワイトを基調とし、所々に青い結晶体を散りばめた鳥を思わせるような機体。両腕に備わった鎌は刀身が半ばから折れてしまっており役に立たない。腹部にあると思われるコクピットハッチは開かれている。

更にその傍らには白い水着のような服を着た金の二つ結びの少女の姿。所々に切り傷や打撲らしき痕があるものの呼吸している様子から命に別状はないが、目を覚ます様子は見られない。最悪なことに、シンたちの背後からはアントが近づく音が響き渡る。

 

 「クソッ!! ルナ、その子を連れて乗り込むんだ!!」

 

 最早シンは躊躇わない。この場で全員が生き残るにはある方法しか残されていなかったからだ。ルナマリアも少女を連れて乗り込み、それに遅れてシンが飛び乗る。

この世界の駆動骨格は基本的にフレームアーキテクト。故に汎用重機を操る資格を手にしたシンにとって、幸いだったことに操縦方式がフレームアーキテクトの物と同じだったことだろう。

即座にコクピットハッチを閉じ、起動スイッチを押し込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ALL UE-UNIT [BOOT]

 ――TCS OSCILLATOR[BOOT]

 ――ALL WEPONS...[ERROR]

 ――65mm GUNPOD...[LEFT BULLET 0/RIGHT BULLET 0]

 ――BERYL SMASHER...[FATAL ERROR...SYSTEM CUT]

 ――SIDEWINDER MODE...[FATAL ERROR...SYSTEM CUT]

 ――PILOT DATE...[OK]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「やっぱり所々イカレてるか……それに認証も問題ない、か……ッ!!」

 

 画面に表示された異常を見ただけでも両手の武器は使えず、胸部のガンポッドの残弾は左右ともに0。挙句の果てには変形機能まで使えないと来た。

 一番の懸念だったパイロット認証に関しては通ったことから、シンの中で支配していた『ある仮説』が現実味を帯びてきたのを感じ、アントに感じた時以上の苛立ちをもって舌打ちをする。

 そしてこの機体の名を見たとき、今度こそシンは息を呑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――X2 HRASVELGR ATRA[ENGAGED]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フレズヴェルク……アーテル!?」

 

 シンはその名を聞いたことがある。フレズヴェルクの名は北欧神話に登場する鷲の姿をした巨人。しかしこの世界での意味は月面軍の中でも最強に等しい機体の名前であり、恐怖の代名詞になった。

そしてアーテルは……ヴィスクエアが言っていたフレズヴェルクの中でも『最強』と謳われる機体で、両手にした大鎌から『死神』と揶揄される存在。

その様な機体がどうしてこんな所に……しかも武装が破損かつ不時着した状態で……

 

 「シンッ!!」

 

 ルナマリアの声にわれに返るシン。その時、アントが手にした銃火器でこちらに向かって銃弾を放つが、シンに着弾する前に突如として何らかの干渉波が放たれて威力が無力化された。

 

 「な、なんだ今のは……まさかこれが話に聞いたTCS……!?」

 

 シンはヴィスクエアから聞かされた特徴を思い出しながら言う。このまま防御に徹するのも手だが、人がいる可能性がある以上、先手必勝しかない。

 

 「うおおおおッ!!」

 

 フレームアーキテクトを操作する要領で動かし、シンはフレズヴェルクを前進させる。そしてアントを掴み上げ、そのまま上空へと飛び立って空地へと向かう。

シンにとって、譲れない境界線である民間人の人死にを出さない。そのために広い空地へと向かう必要があったのだ。そして空地を見つけた今、シンはアントを地面に叩きつける。

武器がほとんど使えない以上、殴り飛ばすしかない。腕にもTCSがあるためか、殴るだけでもアーキテクトであるアントには脅威となって、頭部と胸部を破壊されて沈黙した。

更にもう一機、シンの背後からもう一体のアントが姿を現す。振り返るが殴るよりも早くアントが飛びつくだろう。ならば自分にできることは1つだけだった。

 

 「クッ……そぉ!!」

 

 シンは振り向きざまにフレズヴェルクの足に装着されていたTCSに雷を纏わせてアントを蹴り飛ばした。TCSを纏った蹴りでアントは上半身と下半身に分断され、そのまま爆散する。

そして新たにアントの大軍がこちらに迫ってきたとき……

 

 『アリ共、さっさとくたばりやがれ!!』

 

 その声が響き、自分は即座にその場を離れたが、その直後にガトリングの弾丸があいさつ代わりと言わんばかりにアントを穴だらけに仕立て上げた。

その奥にいたのは茶を基調とした榴雷改と呼ばれる支援・突撃用のフレームアームズだった。更に次の狙いを自分自身だと言わんばかりにガトリングを向け、声を上げる。

 

 『アリ共と仲間割れしていた奴か!! てめえは一体何モンだっ!!』

 

 その言葉に対して怒りに震えたがこの機体が月面軍恐怖の代名詞である以上、怪しいのは明確に自分だ。さっさと投降して敵意が無い事を示すしかない。

即座にコクピットを開け、両手を上げながら前へと進む。それを見た榴雷のパイロットは驚きの声を上げていた。

 

 『三人も乗っていたのか……話は聞かせてもらうからな……!!』

 

 男の声に対してもシンは頷きを返す。明確にまずい事をやったのは自分だし、彼はオーブの人間ではないので高圧的に接されても文句を言うつもりは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防衛機構が設置した避難所の簡易建物にて、シンは先ほどの榴雷改に乗っていた厳つい男性に取り調べを受けていた。ルナマリアは少女の治療のためにすぐにこの場から離れ病院へと向かっていたため、自分が代表として取り調べを受けることになっている。

 

 「で、あのフレズヴェルク・アーテルを避難所代わりに乗ってアリ共と戦っていた、と」

 「はい。俺と……真由紀はそのフレームアームズの近くで倒れていた子を見つけて、コクピットが開いていたそれに飛び乗ったんです」

 「……戦闘ログを見た際、貴様の動きは明らかに手慣れていた様子だったが?」

 「……元々、自分はあるORGにいたんですよ。そこで軍に所属していましたけどテロリスト共に襲われて壊滅、防衛機構には属していなかったから救援も要求しても……って感じです」

 

 シンは慣れた様子で嘘を言う。元々こういった事態のためにヴィスクエアと話し込み、異世界云々を除いて全てを話す事を決めていた。

この話は完全に嘘(九割真実)ではないため、シン自身もすぐに提案を呑んだ。キラ・ヤマトやラクス・クラインには新たに罪を背負ってもらおう。

 

 「……そこで培った技術、と言うわけか。これ以上は時間の無駄にしかならないからいいが、フレズヴェルク・アーテルはこちら側で接収する。いいな?」

 

 男はその件に関しては納得したのか、直ぐに妥協点を話してシンに対する疑いを収める。そんな中、突如として1人の人間が駆け込んできた。自身の身元引受人となったヴィスクエアその人である。

 

 「シン、何をしとるんじゃ?」

 

 トラブルに巻き込まれた事への呆れ3割、勝手な行動をした事実に対する怒り7割と言ったところだった。

 

 「まあアリ共に巻き込まれた以上、これ以上は何も言わんわ」

 「……すみません」

 「……一応戦闘ログに関してはこちらも見させてもらったが……これがまた厄介な代物での」

 

 ヴィスクエアの話によると、シンが最後に行った足蹴りに関してはあれは普通のフレズヴェルクではありえない雷を放っていた。本気を出したヴィスクエアの機体も戦闘ログだけ見させてもらったが、白い刀身から雷を放っているのを見たことがある。

 

 「コイツは操縦と言うよりも個人で得た技に等しい。まあ、そいつは追々話す予定じゃがな」

 

 車に乗り、自動操縦で病院へと向かう二人。自然と話題は今回の被害と病院へと向かったルナマリア達に向けられた。

 

 「あの……被害と二人に関しては……」

 「まず被害に関してはけが人や重傷者、防衛機構側の死者は出てしまったが何とか最悪の被害は抑えられた、と言う感じじゃ。市街戦となるとどうしても武装も貧弱なものになる」

 

 その点ではシンは先のフレズヴェルク・アーテルが武装が軒並み使用不可能になっていた事を今更ながら感謝した。

 

 「次に……あの二人に関しては病院へ行った方が分かりやすいし早いじゃろ」

 

 その言葉と同時に車の動きも止まる。どうやら病院へとたどり着いたようだった。待合室にいたルナマリアがこちらに駆け寄り、シンに向かって問題がなかったと聞いてくるが、いろいろと問答をしたぐらいだと話した。

 

 「それで……真由紀、あの子の様子は?」

 「少し前に目を覚ましました。ただ……」

 「ただ?」

 

 ルナマリアの歯切れの悪い様子と、シンに対して何か気遣っているような印象を覚えたが、話してもらわないことには話が進まない。ヴィスクエアはルナマリアに向かって声を上げた。

 

 「それで? その嬢ちゃんの様子はどうなんじゃ?」

 

 シンと同じ質問をするが、言葉の節々から話せと言っている印象を与える。ルナマリアもそれを察したのか、2人に向かって声を上げた。

 

 「……あの子、記憶が無いって言っていました」

 

 その言葉を聞き、シンは思わずルナマリアに対して詰め寄る。シンの脳裏にはある1人の少女の姿が思い浮かんでいた。

ステラ・ルーシェ。コズミックイラの世界で出会った1人の少女。そして連合軍の非人道的な扱いによって記憶を奪われ、更には薬物投与などによって体を蝕まれ、最終的には殺戮兵器に乗せられてあと一歩で救い出せるところをフリーダムによって台無しにされた。

その少女の死はシンの心に深い傷を負わせ、改めてフリーダムないしキラ・ヤマトに対する強い憎悪を抱かせる切っ掛けになった。ルナマリアもその事を察したのか、直ぐに声を上げて反論する。

 

 「で、でも薬物投与の痕は無いって話だし、あの戦闘に巻き込まれただけって話も……それに一回病室で話したところ、特に受け答えとかにも問題ないって話だし……」

 

 しかしその言葉もシンには届かない。シンの中である仮説が思い浮かび、そしてそれ以外の可能性を頑なに否定しているのだから。

 

 「ではそのお嬢ちゃんと話し合おうか」

 

 ヴィスクエアがそう言うと同時にシンとルナマリアもそれに続く。そして彼女がいるであろう病室へ入るとそこにはあの時の少女が自分の置かれた状況を気にせず笑っていた。

その衣類は一見すると透けた水着を思わせる服から患者服に着替えさせられてはいるものの、改めてみるとたわわに実った果実が患者服からでも強調され、思わず息を呑むと眼から光を消したルナマリアに足を踏まれた。ヴィスクエアは明後日の報告を向いて口笛を呑気に吹いている。

 

 「あ、お帰りーどうしたの?」

 

 記憶を失った少女はルナマリアにそんな事を言うと、ヴィスクエアは彼女に向かって様々な質問をした。

 

 「主の名前は?」

 「……分からないよ」

 「何故あの場に倒れていた?」

 「……気づいたら病院にいたから」

 「両親や家族は?」

 「そっちはボクの方が知りたいよ!!」

 

 様々な話し合いをした結果、本当に記憶喪失であることが判明した。また、先ほどの問答からも家族関連になると感情的になる、と言う点も分かった。また、打撲や切り傷も浅いらしくすぐにでも退院出来そうだともルナマリアから聞いた。

 

 「……まあ家族関連に関してはわしの方でも調べておく。行方不明リストの中にいる可能性もあるからの……ああシン、少し話したいことがある」

 

 そう言ってヴィスクエアはシンに向かって部屋を出るように促す。シンも彼に対して少し話したいところがあるのか、頷きを返してルナマリアに彼女の事を頼んで後に続いた。

 

 「で、シン。主の考えを言ってみろ」

 

 やはり彼も『その可能性』に行きついていた。その顔は普段の好々爺の印象はなく、むしろ歴戦の人物のそれを思わせる。

 

 「……正直に言いますよ。行方不明者リストに入っているかどうかも怪しいですね」

 「……つまり?」

 

 シンはその言葉を聞き、本命の言葉をようやく呟いた。

 

 「彼女がフレズヴェルク・アーテルの正規パイロット」

 

 その答えを聞き、ようやく彼も顔を普段の物に戻す。彼女こそがフレズヴェルク・アーテルのパイロットだと考えた方が自然だったのだ。

 

 「嬢ちゃんは気づいてないのか?」

 「……無意識のうちに切り捨てた可能性もあります。彼女、ここに来る前に仲間たちに裏切られていますから」

 

 過去の通信を思い出し、シンも表情を強張らせる。一方でヴィスクエアはシンに向かって声を上げた。

 

 「正直に言うぞ。あの嬢ちゃん、そのままだと娼館送りになる可能性が極めて高い」

 「それは……」

 「調べてみるが、データに無い可能性が高すぎる。しかもわし等でさえその可能性に行きついたのじゃ、悪意まみれの連中に知られたら最悪の事態じゃ」

 

 そして頭を抱え、シンに向かって声を上げた。

 

 「で、シン。正直に言うと真由紀……ルナマリアの嬢ちゃんだけなら海上都市で普通に働くだけでも何とかなる。じゃがあの嬢ちゃんを含めるとなるとそれだけじゃ足らん」

 

 シンも息を呑む。要するに彼が言いたいのはたった一つだった。

 

 「朱鳥信……いや、シン・アスカ。もうこればかりは選択する事など出来ん。防衛機構に出向を命ずる」

 「……了解です」

 

 シンは彼に向かって敬礼を返し、その命令を受託した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一週間後、シンはルナマリアと少女を連れて海上都市へ向かうことになった。




少しばかり難産だった。最初は物語の舞台になる海上都市でやろうと考えたけど、少し話に無理があったのか、つーかシンが最初に乗るフレームアームズが訳アリなのもあって少し場所と時期をずらした。
後海上都市へ向かうと話す機会のないキャラが出そうだったから、その人物をさっさと出したかったのもある。

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