白のエルフさん   作:あじぽんぽん

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アンティーク

 重厚な色合いもつ木造の建築物、そこに店を構えるドワーフ工房カネダ。

 その隣には同じく木造建築だが洒落た作りの喫茶店カネダがあった。

 名前から察せられる通り、この二つは同じ経営者の店であるが、たまにしか注文が入らない工房より喫茶店のほうが明らかに繁盛をしていた。

 

 喫茶店カネダではランチタイムの時間を迎え、いつも以上の賑わいを見せている。

 休日である、元から客の入りは悪くはないが、そうなる理由は一目瞭然であった。 

 

「すいません~エルフのお姉さん。こっちも注文お願いします~!!」

「あ、は、はい! た、ただいま!?」

 

 客寄せとなっていたのは名指しされて、ぴょこんと飛びあがるエルフの少女。

 オープンカフェとなっている店内は路面から店の様子がよく見え、この土地では珍しい異人種……エルフの姿は人を寄せるに十分すぎる効果があった。

 エルフの少女は同年代と思える少女達の元に、慌てて注文を取りに向かう。

 光に輝く白銀色の髪、彼女はスカートの長い古風な制服――メイド服を着けていた。

 エルフの少女が歩くと、それだけでシックな店内が幻想的な雰囲気へと様変わりする。

 

「カレーピラフとジンジャーエールと本日のお勧めケーキで」

「私は、シーフードスパゲティとアップルティ、それと詰め合わせフルーツ」

「えっーと、私は……」

 

「は、はい、ちゅ、注文を繰り返しますね、カレーピラフと……」

 

 少女達のバラバラな注文、オーダーシートに記入していたエルフの少女は硬い表情で確認する。

 緊張し何度も言葉をつっかえさせ、いかにも慣れてなさそうな接客であった。

 しかし、その一生懸命な様子から悪い印象を受ける者は少ないだろう。

 周りで見ていた客達はハラハラしながらも密かに応援していた。

 やがてエルフの少女はオーダーの確認を終えると顔をあげた。

 途端に人形のように硬質だった表情が一転する。

 彼女は長い耳を緩やかに動かし、ふんわりとした優しい表情を浮かべたのだ。

 

 その変りよう、妖精の微笑みに少女達全員が呆気にとられて見惚れてしまう。

 

 彼女達がこのお店に入ったのは、外からエルフの姿が見えたからだ。

 多くの異人種の中でも最も美人が多いとされるエルフ種。

 テレビジョンやネットのお陰で一昔前よりは露出が増えたが、それでも自分達のコミュニティから出てこないエルフを見かける事は非常に珍しい。

 動画や画像だけが出回る事でエルフの神秘性は逆に増していったのだ。

 そんなエルフ、少女達は学校での話のネタにでも……その程度の軽い気持ちだった。

 しかし長い耳をぴょこぴょことさせる生エルフの破壊力は、彼女達の予想を遥かに超えていた。

 

 ――え、な、なに、この可愛い生き物は……お、お持ち帰りしたいっ!?

 

 少女達全員がうつむいて頬を染めてしまう。

 ジッと様子を見守っていた客達も、仕事を一つやりとげて嬉しそうなエルフの姿に微笑みを浮かべる。

 彼ら脳内には、田舎から出てきたエルフの少女が慣れぬ生活に戸惑い苦労しながらも、一生懸命に頑張っているというハートフルな物語が生まれているに違いない。

 

「良子さん、オ、オーダー入りますっ!」

「は~い、シロちゃん。あと、これ出来たから、三番テーブルにお願いね~」

「は、はい、分かりました!!」

 

 エルフの少女は喫茶店カネダの店長である良子から料理を渡される。

 スカートの裾に足を取られないよう、自然と小幅になる不器用な歩き方で料理を届けに行く。

 その姿を店内の客達は、再びハラハラしながらも温かい心とまなざしで見守る

 切れる事のない名指しの注文に、エルフの少女は引きつった硬い笑顔を浮かべた。

 それが第三者からは俗世離れした神秘的な美しさと見えるのだから、エルフの美とは才能である。

 

 そんなエルフの少女シロウは、おのれのメイド姿に悶絶していた。

 そしてこうなった経緯を思い出しながら、慣れぬ接客仕事をしていたのだ。

 

 

 ◇

 

 

 朝も過ぎた時間である、シロウとカナメが向かったのは、シロウの職場であるドワーフ工房カネダであった。

 店の店主でありシロウの雇い主でもある金田源五郎に、取り替えっ子病にかかってしまった事と、通院でしばらく休む事を伝えるためである。

 様々な工作機械が置かれているが、整頓されている綺麗で明るい店内。

 三人は木製の分厚い丸テーブルを囲んで座っていた。

 

「いやぁ驚いたなぁ、シロ君がエルフに……しかもこんな別嬪な娘さんになっちまうとはなぁ」

「あはは……僕も驚いてます」

 

 カナメが説明をしてくれたのでシロウの事情は源五郎へスムーズに伝わった。

 

 このドワーフ工房カネダは古い魔道具の整備や修理などを専門でするアンティーク工房だ。

 ドワーフ種族の仲でもドワーフの名を冠した看板を掲げられるのは、長老会で認められた腕利きのみである。

 その金田源五郎はドワーフ、妻の良子は人間の異種族夫婦であった。

 シロウの母と金田夫妻は古い友人らしく、天涯孤独の身となったシロウの保証人となってくれた。

 また詐欺に騙されて一文無しとなってしまったシロウを弟子として雇ってくれたのだ。

 

「しかし困ったな……」

「え……!?」

 

 深刻そうな源五郎の表情にエルフの少女は疑問の声をもらす。

 不安げにするシロウに源五郎は長いひげに手をそえて酷いしかめっ面を見せた。

 

「ドワーフとエルフは犬猿の仲なんだよ、それこそ物語が作れるくらいね? シロ君が良い子である事は分かっているけど、これでもボクはドワーフ一族のはしくれ、その伝統を破るわけにはいかないんだよなぁ……」

「ええっ!?」

「シロ君には残念だが、この店で君を雇い続けるわけには……」

「そ、そんなっ!?」

 

 丸い目をギョロギョロと動かす源五郎。

 明らかにからかっている様子だが、単純なシロウは真に受けてしまう。

 

 最初は生活のために始めた魔道具修理屋の弟子だが、続けていくうちにシロウなりに仕事に対しての熱意が生まれていた。

 何より人よりも要領の悪いシロウを叱るでもなく、高い技術を出し惜しみするでもなく、ドワーフらしい忍耐強さと、ドワーフらしからぬ丁重さで指導してくれる源五郎を尊敬していたのだ。

 シロウもいつか自分も魔道具の修理職人として一人前になりたい、そのような思いを抱くようになっていた。

 

 師として敬愛する源五郎から、いらないと言われたら明日からどうやって生きていけばいいのか!?

 

「あう、あう、あう、あう……!?」

 

 パニくったエルフの少女は口をぱくぱくさせて涙目になってしまう。

 

「金田さん、流石にシロで遊びすぎでは?」

「あ、ははは、ちょっとシロ君をからかいすぎたか、メンゴメンゴっ!!」

 

 見ていられなくなったのか、苦笑しながらも源五郎を止めに入るカナメ。

 カナメと源五郎は初対面である。

 しかし、源五郎がどんな性格なのかは勘のいいカナメには察する事が出来た。

 ドワーフのいかつい容姿に似合わぬお茶目さで源五郎はシロウに謝罪する。

 

 でも、今どきメンゴはないよな……と、カナメは密かに思った。

 

「え、あの……仕事を続けていいんですか?」

「そりゃ、もちろんさ。それどころか弟子として立派に成長しているのに、いなくなられたらボクと良子さんが困っちゃうよ~」

 

「あ……ありがとうございますぅ!!」

 

 他人に褒められる事の少ない人生を歩んできたシロウは、感動のあまり本気泣きになってしまう。

 

「お、おおっ!? シロ君、泣かないでおくれ、おじさん困っちゃうよ!?」

 

 言葉こそおどけているが本当に困った様子の源五郎。

 ドワーフとはいえ、男は基本的に女の涙に……特に美人さんの涙には弱いのだ。

 可憐なエルフの美少女となれば尚更である。

 

「す、すいません、嬉しくて……」

「お、おうおう、そうかそうか……シロ君は良い子だなぁ」

 

 そう言ってシロウの肩に手を乗せ撫で叩く源五郎。

 その行動にスケベ心はなく、純粋にシロウを気遣ってのものだ。

 情に厚い源五郎はシロウの姿が変わる前から、孤独な弟子に対して、このようなスキンシップをたびたび取っていた。

 カナメは静かに見守った。

 ドワーフとエルフ、そして男と女であるが、良い師弟関係であった。

 

 まったく事情が分からぬ第三者が見たら誤解間違いなしの光景でもあったが。

 

「パパさ~ん。そろそろ混む時間なので、喫茶店のほう手伝って欲しいんですけ……」

 

 お店の扉を開けて入って来たのは、そのまったく事情の分からぬ妻の良子であった。

 呼びかけていた良子の言葉が途中で止まる。

 それに源五郎も気づき、見開かれた彼女の目の先を追ってしまう。

 

 良子が見ていたのは自分の逞しい胸……いや、違うぞ源五郎、我が愛すべきワイフが見ているのは小柄なエルフの美少女だ。

 

 恐らく彼女の方向からは源五郎がシロウを抱きしめているように見えたのだろう。

 結論付けて誤解を解くために、源五郎は良子の顔を真っすぐに見る。

 何かあった時はお互いの目を見て話し合う、そうやって異種族同士の結婚をした源五郎と良子は様々な苦難を乗り越えてきたのだ。

 しかし今回ばかりは源五郎も咄嗟に言葉が出なかった。

 

 良子のおっとり美人と言えるふっくらとした顔が……ただ恐ろしかった。

 

 咄嗟にカナメが分け入って仲裁してくれなければ、金田夫婦は結婚十年目にして破局の危機を迎えていたかもしれない。




筆が中々進まなくて放置していたら色々設定忘れかけています
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