白のエルフさん   作:あじぽんぽん

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魔法少女

 エローフプリンセス。

 

『魔法少女タフ&クール、二人はナイスガイッ!!』

 

 アニメ第二シーズンから、人気の高いエロフ・エローフ姫を、第三の魔法少女として変身させた際の呼び名である。

 小さい頃にそれを観ていたシロウ。

 姫を外国語(・・・)読みにしただけじゃないか! と子供心に突っこみをいれた。

 そして『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』とは、変身してエローフプリンセスとなった彼女が放つ事のできる必殺技だ。

 

 ちなみにエローフ姫が魔法少女になっても、コスチュームが変更されるだけで、見た目は可憐で美しい少女のままである。

 エローフ姫が第三の魔法少女として変身するという前情報が発表されたときのことだ。

 小さいお友達が一斉に泣き出し、その保護者と大きいお友達から、制作スタジオに問い合わせの電話が引っ切りなしに掛かってきたというのは有名な話だった。

 

 普通に考え、ゴリマッチョな魔法少女(ゴリラ)とか聖女(ゴリラ)とか女騎士(ゴリラ)とかって誰得ですか?

 

「エローフプリンセス!! エローフプリンセス!! エローフプリンセス!!」

 

 小さい拳を握って足踏みして、ぷるぷると力んでいる幼女二人に熱心に応援された。

 シロウもぷるぷると泣きそうだ。

 どうしようかと思っていると、太ももをポンポンと叩かれる。

 タクちゃんが目を閉じて首を左右に振っていた。

 この年齢でシロウよりも色々悟っていそうな彼は将来女にモテそうだ。

 

「ハ……ハートフルゥ……セクシィ……ダイナマイッ……」

 

 カの鳴くような小さい声でボソボソと、胸の前で両手を小さく突き出す。

 そして体を横にやや傾けて、親指と人差し指を合せてハートの形を作る。

 それから、パチリっとウィンク。

 

 エローフプリンセスの必殺技『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』の決めポーズだ。

 

 シロウは自分が、こんな事をしているという事実が酷く恥ずかしかった。

 実際には可憐なエルフの美少女が頬を染めて、恥ずかしがりながらエローフプリンセスのモノマネをしているのだ。

 保護者は「あらあらまあまあ」と微笑み、大きなお友達は大歓喜するだろう。

 

 だが、無垢な幼女達には不評のようだ。

 

「えー、最初からして欲しいなぁ……」

「必殺技の名前もよく聞こえなかったぁ……」

「お姉さん、がんばって……」

 

「う、うぅぅ…………」

 

 実はこの木森(キモリ)のシロウ、エローフプリンセスの必殺技『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』を不完全ながらも真似する事ができるのだ。

 まだ幼かった当時のシロウはアニメ的な演出のカッコよさに痺れて、一時期熱心に練習した。

 だが、それをたまたま見かけた近所のお婆さんに。

 

『あら、シロちゃん。タコ踊りの練習かい? うふふ可愛いわね』

 

 褒められた後に頭を撫でられて美味しいお菓子を貰った……そしてシロウは練習を止めた。

 お婆さんには今でも感謝をしている。

 あれは若気の至り、人様には到底見せられるものではない、今思い出してもシロウの黒歴史だ。

 

「ハートフルゥ……セ、セクシーダイナマイッ……」

「えー全然違うよぅ……」

「ハートフルセクシー……ダイナマイッツ」

「声が小さい~!」

「ハ、ハートフリュ! ……ハートフルセクシー! ダイニャマイッツ!!」

「「噛んだ! 噛んだ! 可愛いっ!?」」

 

「う、うぅぅぅぅぅ――!!」

「お、お姉さんがんばって!」

 

 シロウは幼児を相手にして、ぷるぷると涙を流した。

 

 容赦ない幼女二人に何度も駄目出しをされた。

 何度も幼女二人に応援を受けた。

 何度もタクちゃんに慰められて、エルフ少女の細い体は、何度も何度もクルクルとまわる。

 

 しかし体を動かし声を出していると不思議なもので、感じていた羞恥心が消えていった。

 やがては熱心に練習をしていた頃の情熱が思い出され、動きと掛け声が洗練されたものへと変化していく。

 

「ハートフル! セクシー! ダイナマイッツ!!」

「がんばれ! エローフプリンセス!!」

 

 切れのある、キレキレな動きであった。

 シロウは確かな手ごたえを感じていた。

 イケる……今なら、この体なら(・・・)イケる! あの時は再現できなかったエローフプリンセスの必殺技『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』をっ!!

 

 シロウの穏やかな顔が、眉をキュと寄せた真剣な表情へと変わった。

 幼児達の見ている前で、エルフ少女の体が、一流の体操選手のように美しく動きだす。

 

 ――くすくす、あははっ

 

 笑い声が聞こえた気がしたが気にはならない。

 

 クルリクルリとバレリーナのような華麗な片足での回転運動。

 そのままの勢いを殺さず、飛びあがって、エビぞりジャンプをしゃらんと決めた。

 

 ――あはっ、あはははっ

 

 声達がエルフ少女の元に集まってきた。

 羽毛のような滞空時間。

 手を大きく広げて宙を舞うように回転しながら、重さをまったく感じさせない軽やかな着地。

 エルフ少女の豊かな胸だけがたゆんと揺れた。

 流れるように指でハートマークを作り、パチンっとウィンクを決めて、幼児達に向かって渾身の必殺技を放つ。

 

「ハートフルセクシーダイナマイッツ!!」

 

 瞬間、シロウの細い腕から、華奢な体から燐光がふわっりと舞いあがった。

 

 ――あはははっ、あははははははっ

 

 踊る、精霊達は笑いながら軽やかに踊って、高らかに舞う。

 

 彼らはエルフ少女の周辺で、輪舞のようなリングを形成して輝きながら踊ると、やがて朝の空気に溶けるこむように天に昇って、緩やかに消えていく。

 

 その残滓の中で、静かに佇むのは、美しき白金色の妖精。

 

 あまりにも神秘的で、あまりにも幻想的で、幼児達は驚きで惚け顔である。

 

 件のシロウは。

 やった……やったよ!

 僕は長年夢見た『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』を決めることができたんだ!!

 状況を把握せず、ひどく興奮をしていた。

 それも仕方がなかった、シロウは集中しすぎて半ば巫女じみたトランス状態にあった。

 そう、意図せずに『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』の前振りアクションが、まるで神舞の踊りのように()の神に呼びかけて、精霊を招いてしまったのだ。

 

 シロウには分からない、ただ微笑んで、達成感にぷるぷると震えていた。

 

『エローフプリンセスー!!』

 

 何人もの声が同時に上がり、途端にドッという歓声と拍手が鳴った。

 

 えっ……?

 

 シロウの達成感は霧散する。

 紫水晶の瞳は声の上がった公園の入り口に向いた。

 ファンシーなイラストが描かれた幼稚園の送迎バスが止まっていた。

 その窓に張りつくように、園児達がシロウを見つめて、きゃーきゃーとお猿さんのように歓声をあげていた。

 

 パシャパシャ、という音が無数に聞こえた。

 

 シロウは笑顔を浮かべ、体をかためたまま、ギギギ……と顔を向けた。

 園児のお母さん達だろうか。

 若い女性達が微笑ましいものを見る顔でシロウのことを眺めている。

 通りすがりらしい若者達が、興奮した様子で拍手や歓声をあげ、スマホでパシャパシャしていた。

 

 シロウはしっかりと撮影されていたのだ。

 

 流石は国民的アニメ『魔法少女タフ&クール、二人はナイスガイッ!!』である。

 ファッショナブルでリア充そうな若者達にも大人気の模様だった。

 シロウは、エローフプリンセスの必殺技『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』を放つのに夢中になって、人が集まっている事にまったく気づかなかったのである。

 

「ああ、なるほど。この公園は幼稚園バスをまつための、乗り合い所でもあるのか」

 

 シロウは納得した。

 

「凄い、エローフプリンセス! 可愛い! 凄い!!」

「エローフプリンセス、綺麗! 凄く綺麗だった!!」

「こっち向いてエローフプリンセス! 写真撮らせてー!!」

「エローフプリンセス!! エローフプリンセス!! エローフプリンセス!!」

 

 歓声が全然止まない……。

 それどころか、この騒ぎを聞きつけた近所の人達が、小さい公園に集まってきているようだ。

 シロウは、ギギギ……と、再び三人の幼児達に視線を向ける。

 女の子二人は大興奮で怪音波をあげていた。

 男の子はシロウを同情するようなそんな顔だ。

 

 シロウは無言で決めポーズの指ハートを解いた。

 

 エローフプリンセスの必殺技『ハートフルセクシーダイナマイッツ!!』をドヤ顔で決める少年(自分)……黒歴史どころではない悪夢だ。

 

「い、いやあああああああ――――――――――――!!」

「あ、待ってよ、エローフプリンセスっ!!」

 

 エルフの少女はベンチに置いていたコンビニ袋をつかむと、甲高い悲鳴をあげて、その場から逃げ出した。

 追いかけてくる者を余裕で置いてきぼりにし、あっというまに消えたのだ。

 

 

 その日、某動画サイトに『二次元から本物のエローフプリンセス現れる!?』のタイトルで投稿された動画が、僅か数時間でミリオン再生数を達成した。

 

 この動画が投稿されてしばらく後。

 

『魔法少女タフ&クール』ファンの大きなお友達の間で、片田舎の街が巡礼地になるのだが、パソコンどころか、今どきスマホすら持っていないシロウには知る由もない事である。

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