白のエルフさん   作:あじぽんぽん

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話の都合で一部改稿します


食べ放題

 シロウ達が来ているのはバイキングレストランだった。

 病院からの帰り、朝からまともにご飯を食べていなかったシロウは、カナメが運転する大型車の中で盛大にお腹を鳴らしてしまう。

 耳まで真っ赤にしてうつむくエルフの少女と呆気にとられる鬼の青年。

 やがてカナメは、くくくっと笑いだすとシロウの頭をポンポンと撫でた。

 そして、目に付いたショッピングモール内のお店に連れて行ってもらう事になったのだ。

 

 お昼はすぎており夕飯には早すぎるという微妙な時間である。

 広くクリーンな店内は比較的すいていた。

 テーブルから肉と野菜の焼ける香ばしい香りが漂ってくる。

 ジッという油のはねる音が、シロウの空腹の胃袋をいやがうえでも刺激した。

 

 店員は逞しい鬼と美しいエルフの凸凹希少種コンビに驚きの顔を見せる。

 しかし、アルバイトとはいえ接客マニュアルが徹底されている日本の外食産業である、よけいな詮索などはせずに速やかにテーブルに案内してくれた。

 

「シロ、どちらがいい?」

「うー、うー……」

 

 バイキングは焼き肉としゃぶしゃぶ、二種類から選ぶシステムであった。

 カナメに聞かれたシロウはメニューを眺めて、うんうんと悩み中である。

 コンビニの利用すらためらうような極貧な生活をしていた。

 そんなシロウにとって、このようなお店は次に来れるのはいつになるかは分からない、慎重に選ぶ必要があるのだ。

 興奮にエルフ耳がぴょこぴょこと上下に動く。

 それをおかしそうに見ているカナメは、すでに注文は決めたらしくコップで水を飲んでいた。

 シロウを焦らすような雰囲気はなく、カナメの姿は下の兄弟をみる兄のようだ。

 

「う、うーん」

「ゆっくり選べばいい、他のメニューはこっちで注文しておくから」

 

 真剣な表情でメニューを見つめたまま頷くシロウ。

 カナメは先にサイドメニューを注文しておくことにした。

 それから十分後、テーブルに頼んだ料理が届いてから、シロウは悩みに悩み抜いてようやく焼き肉を選んだ。

 

「シロ、この肉もいい感じに焼けているから食べなさい」

 

 カナメは焼けた肉をシロウの皿に移し、新しい肉と野菜を鉄板の上に乗せる。

 シロウはカナメの言葉にコクコクと首を上下させる。

 その目は皿の上に乗った焼けた食材しか見てなかった。 

 肉と油が焼ける何ともたまらない匂い、水分と煙が派手にあがるがコンロの換気装置に吸い込まれていく。

 むぐぅむぐぅ、とシロウは口の中一杯に肉を頬張って食べる事に一生懸命であった。

 口内一杯の食べ物……美人ですら変顔になるはずだがシロウは美しいままである。

 

 どうやら、エルフ種族のもつ真の美の前では適用されないようだ。

 

 人間種の時より小さいエルフの体、そして女であるが、食欲は尽きる事なくいくらでも胃袋の中に入っていった。

 むしろ普段よりも食欲が増しており、異常と言えるほどの餓えを感じていたのだ。

 カナメが焼いてくれる肉をシロウは必死に食べ続ける。

 

 焼く食材はカナメが全て持って来てくれた。

 最初はフードバーへ食材を一緒に取りにいった。

 カナメが手早く肉と野菜を確保して先にテーブルに戻り焼き始めても、シロウは戻ってこなかった。

 心配しカナメがフードバーに戻ってみれば、空の皿を胸に抱えたエルフの少女がぼんやりとたたずんでいたのだ。

 そのシロウの様子は、あれを取ろうか、これもいいな、ああ、でもそれもいいな……そんな心ここにあらず、であった。

 

 シロウは対人が致命的に苦手だ。

 しかし、それ以外は年よりもしっかりしている事をカナメは知っている。

 醒めすぎていて若者特融のギラギラとしたものがなく、老成していると言ってもいい。

 なので、年相応な……むしろ年よりも子供じみたその姿には微笑んでしまう。

 

 とはいえ、らちがあかなそうだと判断して、鬼の青年は声をかけようとした。

 するとエルフの少女がようやく取るものを決めたらしく動きを見せたのだ。

 おっ? ……とカナメは静かに見守る事にした。

 シロウの柔和な顔がキュとした真剣な表情に変わる。

 トングを手にすると、恐る恐るとフードバーの容器から食材をちょこんとつかみ、慎重に皿の上に乗せた。

 ふぅ~と、エルフの少女は爆弾処理でもしたかのように額をぬぐい、本当に満足そうな深いため息をついたのだ。

 

 ちんまり取りだしたそれはカレー用のトッピングであった。

 

「悩んだ結果が、福神漬けかっ!?」

 

 カナメは素で突っ込んでしまった。

 怒っているわけではないが、思わず大声になってしまった。

 鬼の青年のデフォルトの鬼の形相に、シロウは悲鳴をあげた。

 シロウに任せておくときりがなさそうなので、カナメが食材を取ってくる事に決めたのだ。

 

 

「シロ、追加の肉はいるか?」

「あ、も、もう大丈夫です」

 

 鉄板にはまだ肉が残っていた。

 お腹をさするシロウ、空腹はすっかりと消えていた。

 信じられないほどの量を食べたのだ。

 考えると何故あれほどの飢餓感があったのか、シロウ自身が不思議であった。

 疑問を浮かべるシロウの様子に気づいたのか、カナメが理由を話してくれる。

 

「取り換えっ子病になった者は、大抵最初はそうなる」

「え、えっと……お腹が空くってことですか?」

「ああ、人間種から別の種族に肉体そのものが変化したんだ、かなりエネルギーを消費するのだろう、下手したら餓死する危険性もあるとか?」

「が、餓死…………!?」

 

 驚きに目を見開くシロウ。

 エルフの少女の前で、カナメは鉄板に残った焼け焦げた肉を指でつまみ、口の中に放り込んで、ごりごりゴクン。

 彼の口内には牙のように尖った八重歯が生えていた。

 

「まあ、あくまで噂だ。実際にはそうならない状態の時に発病するらしく、餓死した人間はいないという話だ」

「そ、そうなんですか」

「うん、どっちにしろ今生きているわけだし、私達には関係のないことだな」

 

 確かにそうですねと、深く考えもせずに頷くシロウ。

 

「さてこれから先のことだが……」

「は、はい……!?」

「色々あるが取りあえずは、服を何とかしたほうがいい、しばらくはエルフの……女の体のままだろうからな」

 

 カナメはTシャツとスウェット、そしてサンダル姿のシロウを見た。

 野暮ったい格好だがエルフの美しさに曇りはない。

 そういうファッションですと言っても普通に通じそうである。

 これがエルフの美形補正というものだろうか?

 

「ふ、服ですか?」

「ああ、服は私の手持ちの物がいくつかあるので、アパートに帰ったらそれを渡そう」

「手持ち……ですか?」

「え、ああ……その、妹の服だ。たぶんサイズは合うと思う」

 

 へぇーカナメさんには妹さんがいるんだ?

 そう、またしても深く考えないシロウ。

 鬼の青年は咳払いをしてメガネのブリッジを指でつまんだ。

 

「問題は下着だな……こればかりは使用済みは嫌だろう。サイズもあるし買いに行く必要があるな……この後、いいか?」

「え、はい、分かりました」

「……本当に大丈夫かシロ?」

「え、ええ、下着を買いに行くだけですよね?」

「ふむ……まあ、いいか」

 

 カナメの煮え切らない態度を不思議に思うシロウ。

 

 鬼の青年はエルフ少女の頭をポンポンと撫でた。

 彼は前々からシロウの頭を撫でることが多い。

 それを不快に感じないのは青年が頼れる大人で、自分が未熟な子供だからだろうか?

 

 今のシロウには答えを出せそうになかった。

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