ルドラサウム大陸に転生したが、双子の妹がヤバイ件について 作:ローカルランス
シャングリラと呼ばれる都市がある。
大陸の東半分に住まう人間たちの勢力圏の中心部にあるキナニ砂漠の更に中心。
かつて幻の都市と呼ばれていたそこは、聖女モンスターの力によって人間界の4つの国と結ばれた結果、世界最大の貿易都市となった。
リーザス、ゼス、西ヘルマン、自由都市帯の4つの地域からシャングリラへ向かって伸びるアウトバーンは今や昼夜問わず商人の行き来する、経済にとって無くてはならない存在だ。
そんな場所だからこそ、儲けを狙って盗賊が現れるのも必然と言える。
「ヒャッハァ!エモノだぁ!」
「おら、そこのテメエ!さっさと停まりやがれ!」
夕暮れ時。
自由都市帯からシャングリラへ向かって走る一台のうし車を追う盗賊は8人。
その一団は多くの人から見れば奇妙な乗り物に乗っていた。
ゴムを履かせたタイヤを二つ前後に並べてフレームに繋ぎ、その上に座席とハンドルを載せたような、自立しそうもないデザイン。
それが爆音と共にタイヤを高速回転させて、アウトバーンをうし車の倍近い速さで疾走しているのだ。
見る人が見ればそれを『バイク』と呼んだだろう。
現在、アウトバーンの安全はシャングリラの警備隊によって管理されている。
とは言え、一本でも数10キロに及ぶ道路が4本。その全体に常に目を光らせることなど不可能だ。純粋に範囲が広すぎる。警備隊も定期的に巡回はしているが、当然のようにそれを掻い潜って強盗をする者もいる。
各国も経済の流れを止めたくはないので軍を派遣して警備を強化しようと打診しているのだが、シャングリラの都市長が頑なに首を縦に振らないために増員は望めないのが現状だ。
つまるところアウトバーンは、モンスターが出現する街道を行くよりは安全とは言え身一つで移動するには些か危険な場所だ。
むしろモンスターが居ない分、盗賊が活動しやすいとも言える。
この道路を『モンスターが居ない街道』としか認識せずに護衛を雇えない商人が多いため、そういった部分も盗賊にとって美味い話なのだ。
そんなアウトバーンに出現する盗賊団のなかでも厄介なのがこの一団。
バイクの速度にものを言わせて犯行を繰り返し、警備隊が到着する頃には比喩では無く地平線まで逃げる事ができるため、尻尾を掴むことが出来ない。
バイク自体、近年やっと流通が始まったばかりであり、更には庶民では手が出せないほどに高価なのだが、何故それを盗賊団ごときが用意できるのか、判明してはいない。
確かなのは、バイクという移動手段をこの一団が手に入れたためにアウトバーンにおける商人たちの被害は、ここ暫くで右肩上がりということだ。
「ツイてない……まさかこんな時に……」
バイクの盗賊団に追われる商人。彼も件の盗賊については聞いていた。
とは言え、何故シャングリラが世界一の交易都市になったかといえば、そこまでのアウトバーンにモンスターが現れないからという一点が大きい。
モンスター対策の護衛を雇う費用が浮く分、商人も活発になるという寸法だ。
盗賊などそうそう出ないだろうとタカを括って、今回の護衛も子どものような冒険者2人相場より安値でを雇っただけである。
そんな商人をあざ笑うかのように、盗賊団の中で最も血気逸る一人の男は、何時ものようにエンジンの爆音と下品な笑い声で威嚇しながらうし車に並走する。そのまま御者台の商人に止まるように命令をした所で。
「悪い、幌は弁償する」
荷台の幌を突き破って振るわれたメイスに顔面を強打され、そのまま転落、地面に叩きつけられた。
「あぁ!?」
「二つ」
続けて一振り。不用意にうし車に寄せていた一人を、荷台で立ち上がった少年がメイスで吹き飛ばす。
それだけにとどまらず、走行中に転倒したバイクは後ろに続いていた2台を巻き込み、それに乗っていた2人はまとめてアウトバーンの外へ放り出される事となった。
「くそっ、逃げるぞ!」
集団の頭はそれなりに判断力があるのか、いつもどおり護衛の居ないカモと思っていた相手に、一瞬にして4人がやられた時点で撤退を決めた。
このまま深追いすれば被害が増えるどころか、警備隊が到着してしまえば全滅もあり得る。そう計算した上での撤退だ。
リーダーを含めた4台は即座にターンを決めると、あっさりと背中を向けて走り去ろうとする。
「炎の矢」
その背中に向かって容赦のない追撃の魔法。
まとめて3つ放たれた炎の矢のは、盗賊に直撃、あるいは地面に着弾した爆発の余波でバイクを転倒させ、さらに2人を行動不能に。
「……逃したか」
そして残る2人は仲間に目もくれず、全速力で走り去った。流石に今からでは追いつくことも難しいだろう。
「無事か?」
「あ、ああ……助かったよ」
護衛に雇った少年、ビール・モフスの問いかけに、戸惑いながらも商人は答える。
今しがた襲いかかってきた盗賊団を一蹴したにもかかわらず、汗一つかかないどころか、表情すら変えていない。
雇った時は「たかが子ども」と侮っていたが、これを見た後では見る目が変わらざるを得ない。
結局、その場から動けなくなった盗賊6名は捕縛した後その場に放置、狼煙で警備隊に場所だけを教えて商人はシャングリラへ移動した。
本来は途中で野営をして次の日の昼前に到着する予定だったが、流石に一度盗賊に襲われた後に野営をする気にもならず、少し無理をして夜中はシャングリラに入った。
※
「思ったより儲かったな」
シャングリラの宿の一室。
朝食を取りながら、俺は財布の確認をしていた。
商人の護衛依頼でシャングリラ入りしたのが日付の変わる直前。そのまま軽い食事だけを済ませた後、朝まで熟睡していた所だ。
昨日はあまり食べていなかったし、朝食もこれだけじゃ足りない感じだ。懐に余裕があるし、このあと屋台で何か食べるのもいいだろう。
家を出て早数ヶ月。俺は既に冒険者としてギルドに在籍し、10件以上の依頼をこなしていた。一番多いのは昨日のような商人の護衛だが、ダンジョンアタックも何度か成功させている。
ちなみに所属はキースギルド。コパ帝国のCITYに本部を置くギルドで、原作に置いて主人公ランスが所属していたギルドだ。ちょっとしたミーハーみたいな行動だが、数あるギルドの中でもかなり大きな所なので悪い選択肢ではない。
ちなみに連日多くの依頼が舞い込むキースギルドであるが、現在は最盛期に比べて勢いが落ちたらしい。
というのも、魔王ランスが在籍していたギルドとして一部で噂になってしまったため、移籍していく冒険者も増え、依頼も減っているとか。
それでも傍目に見て大きなギルドであることは間違いないし、経営状態も黒字続きとのことなので、経営陣はかなりの敏腕のようだ。
現在の俺は、とにかく先立つものが必要と言う事で休む間もなく依頼を受けては貯金を増やしている。宿暮らしも身軽で悪くはないが、何れは拠点となる場所が欲しい所だ。
とは言えそれほど急ぐ事でもなし。シャングリラに来るのは初めてだし、一日くらいは観光に当てても良いだろう。
さて、そうなればこの後は自由行動だ。美味いものでも食べて英気を養うとしよう。
「あら、それなら私の買い物に付き合ってくれないかしら?」
楽しみな気分を一言で台無しにしてくれたのは、何故か対面の席でティーカップを傾けていた幼馴染(笑)ことアム・イスエル。
ちなみにここは俺が取った一人部屋なのだが、何時入ったのかとか突っ込むのは無駄だと既に悟っている。
そう、村を出た日について来やがったこの女。
あの後、宿を取るためによったとある街で、目的地も教えずに置き去りにすることに成功したのだ。その時は大人しく村に帰るものだと思っていたが、正直認識が甘かった。
次にコイツに会ったのはその一ヶ月後。
ギルドの依頼の途中、導く者(シュメルツ・カイゼリン)なる組織とやり合うハメになり最終的に組織ごと叩き潰したのだが、その拠点の最奥で優雅にお茶してやがったのがこの幼馴染(笑)だ。正直組織の名前の時点で嫌な予感はしていた。
その後。結局コイツを連れて冒険を続ける事になった。一緒にギルドに登録してからは常に一緒に依頼を受けているせいか、周囲からは俺の相棒だと思われているフシがある。
正直放り出したいのは山々なのだが、迂闊に目を離すと何を仕出かすか分からないというのを身をもって味わったために監視を続けているのが現状だ。
「一応聞くが、何を買うんだよ」
「あら、私だって女の子だもの。都会まで来たんだし、ウィンドウショッピングくらいしてみたいと思うわよ?折角だし新しい服も買おうかしら……」
「お前常にその真っ黒ドレスだろうが……」
食後の茶を飲みながら、半目でボヤく。
「つーか、前から聞きたかったんだけどお前そんなに金持ってるの?あの組織の資金だってどこから出てたのかわからんし」
「ああ、それなら私の不動産収入よ」
どこに持ってるんだよ不動産。羨ましいなオイ。
そんな話をしていると扉がノックされた。
「失礼します」
出てみれば居たのは宿の受付嬢。何事かとも思ったが、俺に手紙を渡してすぐにそそくさと戻っていった。
「あら?ひょっとしてラブレターかしら。お姉ちゃん、ちょっと嫉妬しちゃうわ……」
「黙ってろ年齢詐称」
悪態を突きながら封を開くと、そこにはシャングリラの警備隊の署名と、出頭命令が書かれていた。
オリキャラ出る所まで進めたかった……