Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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プロローグ
魔界都市のジョーカー


 

 魔界都市こと、超犯罪都市デスシティは常に情勢を変化させていく。科学と怪異が同居しているこの場所では「未知」がまるで鶏の卵の如く量産されるのだ。そして、ソレに対応できない者から死んでいく。この都市では強さも確かに重要だが、周囲の流れに適応していく事もまた重要なのだ。

 

 中央区の街道沿いにて。デスシティ全体で比較すれば安全地帯と言えるこの場所は、しかし表世界の常識に当て嵌めると地獄の底の様な有り様だった。一切油断できない。油断すれば命は無い。何せ、素知らぬ顔で歩いている住民達は全員凶悪な犯罪者なのだから──

 

 彼等は表世界で言うところの一般人だが、その戦闘力、凶悪性は表世界の犯罪者の比では無い。他者を貶め、殺す事に一切の躊躇いが無く、むしろ笑顔で愉しむほど精神性が歪んでいる。道徳、倫理観から徹底的に外れている彼等の戦闘力が低い筈は無く、下手をすれば単身で一個師団を蹴散らしてしまえる者もいる。

 

 サイボーグ強化手術は簡易的なものから全身に至るものまで存在し、昨今は強化繊維での直接強化が主流だが、ナノマシンを血液に投入する事で永続的な強化を果たしている者もいる。リスクこそあるが、デスシティ産の劇薬で肉体の再生能力と五感の異常発達を促している輩も数多。

 更に簡易式の身体強化魔術と防御障壁。魔改造された重火器が揃えば一人前のデスシティ一般人である。

 

 弱肉強食が絶対的な原則として横たわっているこの都市では組織や徒党というものが重要になってくる。個の力にも限界があり、数を重ねて暴力の格を上げていくのだ。

 犯罪組織、暴力団などは星の数ほど存在する。何せここは犯罪都市なのだから。その頂点に立っているのが五大犯罪シンジケート。表世界の財政界に絶対的な影響力を持つ犯罪者達の王族である。

 

 しかし、そんな彼等もデスシティに居着く「真の強者達」を恐れている。

 

 デスシティが人間のみの都市であれば、ここまで肥大化しなかっただろう。魔族や妖精族、獣人などの「人類にとって都合の悪い存在」が押し込められている事で超犯罪都市は魔界都市へと変貌している。あらゆる種族と価値観、技術がゴチャゴチャに混ざり合い、しかし「弱肉強食」というシンプルな法則の元で成り立っている。

 

 まさしく現世の魔界。実在するソドムとゴモラ。

 

 今宵もまた、狂気による副産物が生まれていた。野望を拗らせたのか、麻薬を摂取し過ぎたのか、マッドサイエンティストが己では制御できない規格外の生物を造り出してしまったのだ。精神感応金属ミスリル銀と強靭な合成獣(キメラ)を合体させた怪物──ソレが中央区の大通りで暴れている。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 怪物に意思など無い。防衛本能と破壊衝動だけで活動している。亜光速で迫る特殊魔弾らをミスリル銀のカーテンで防げば、瞬時に形状を刃に変形させて賞金稼ぎ達を葬っていく。腕が飛び、生首が舞い、鮮血が迸った。しかし住民達は嗤っている。まるで路上の喧嘩を観戦しているかの様な盛り上がり方だった。

 

 理性を容易に溶かしてしまう、地獄の亡者達の宴。その只中を歩いていく大男が一人。

 真紅のマントが豪快に靡く。二メートルを超える褐色肌の肉体、ソレを支える下駄が高らかに音を鳴らしていた。灰色の三白眼は眠気で細まっており、ギザ歯と共に特大の欠伸が漏れ出す。

 

 住民達は一瞬で停止した。次には滝の様に冷や汗を流す。

 狂気が醒めたのだ。いいや、醒まされたと言ったほうが正しいだろう。

 

 彼こそ暗黒のメシア──あの五大犯罪シンジケートすら恐れる最強最悪の魔人。人間の皮を被った怪物。暴力の天才。「黒鬼」。

 

 たった一人で魔界都市に一勢力として君臨している、理不尽の権化である。

 

 彼はあろう事か、賞金稼ぎ達が苦戦している強化合成獣の前を通り過ぎた。無論、強化合成獣は凶刃を向ける。しかし、強化合成獣は彼我の実力差を理解できていなかった。理性が無いのが命取りとなった。

 

「うるせェなぁ……」

 

 顔面を無造作に平手で叩かれる、たったそれだけで強化合成獣は高層ビルを何棟も薙ぎ倒して魔界都市の空に消えていった。遅れて発生した特大の衝撃波が住民達の冷や汗を吹き飛ばす。

 

 総じて苦笑する事しかできなかった。魔界都市に強者は数多くおれど、彼は別格である。人間でありながら人間ではない、邪神すらもその力を恐れ戦いている。

 

 だから住民達は媚びるのだ。特に女達はその強さと美貌の虜になって群がっていく。

 褐色肌の美丈夫──大和は再度欠伸を漏らしながら彼女達をあしらった。

 

「今は眠ぃんだよ、また今度な」

 

 常に情勢を変化させている魔界都市でも唯一無二、不変の存在がいる。大和を含めたソレ等の存在によって、デスシティは仮初の治安を保てているのだ。

 

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