魔界都市の天使達
ある日、大衆酒場ゲートで大和と右之助が酒盛りをしていた。寄ってくる女達を適当にあしらいながら二人で寛いでいる。時折ネメアも会話に混じり、男同士ゆるい時間を楽しんでいた。
そんな時である。大和の頭に幽香を筆頭とした子供幽霊達が引っ付いたのは。
「よぉ大和! 久々! この前は死体沢山ありがとうなー! おかげで儲かったぜ!」
「兄貴のおかげー!! さすがー!!」
「大和さん……♪」
「大和兄ちゃん! 遊んで遊んで!」
一気に賑やかになった。しかし大和は嫌そうな顔をしている。
「テメェ等、邪魔だ。あっち行け」
「嫌だ!! 大和!! なんか奢ってくれよ!! 俺達パフェ食べたい!!」
「パフェ!! パフェ!!」
「あぅぅ、お願いしますぅ……っ」
「兄ちゃんも一緒に食おうぜー!!」
「ア~っ」
頭を抱える大和。隣では右之助が必死に笑いを堪えていた。ネメアも苦笑している。
大和は溜息を吐きながら言った。
「テメェ等、横の席に並べ。おいネメア、パフェ。餓鬼の人数分だ」
「はいよ」
大和の言葉に幽香達は目をキラキラと輝かせた。
「わーい!! 大和大好きだぜー!! ほっぺにちゅー♪」
「兄貴さいこー!!」
「わ、私もちゅうします!」
「兄ちゃんやさしー!!」
「オラ、いいから横に並んで座れ」
子供幽霊達は行儀良く並んで座る。
右之助が堪えきれず噴き出した。
「エラい人気だな大和お兄ちゃん……ッッ」
「殺されてぇのか右之助?」
「冗談冗談! そう怒んなって!」
バシバシと肩を叩かれ、大和は舌打ちした。
ネメアは微笑を浮かべながら厨房へと向かう。
暫くすると人数分のパフェがカウンターに並んだ。子供幽霊達は心底嬉しそうにしながらも、きっちり両手を合わせる。
「「「「「「いただきます!!!!」」」」」」
生クリームたっぷりのスイーツを頬張り、満面の笑みを浮かべている子供幽霊達。
大和はその様子を眺めながら、ほんの少し口角を緩めていた。
そんな彼に対し、口の端に生クリームを付けた幽香が問う。
「なぁなぁ、大和! 俺気になってる事があったんだよ!」
「何だよ、てか少しジッとしてろ。口の端に生クリーム付いてる」
テッシュで拭ってやると、幽香は嬉しそうに目を細めた。そして問いを重ねる。
「あのな! あのな! 俺ずっと気になってる事があったんだよ!!」
「何だよ」
「大和ってさ! スゲェ金持ちじゃん! 俺達にも平気で奢ってくれるし! 高い服とか装飾品とかポンポン買うし!」
「そりゃ、まぁ……稼いでるからな」
「いやいや! 俺、思うんだよ! 大和、他にも仕事してるだろ!? いくら世界最強の殺し屋っていっても、限度があると思うんだ!! なぁなぁどうやってそんな大金を稼いでるんだよ!? 教えてくれよ~!!」
幽香だけではなく、他の子供達も懇願する様な眼差しを大和に向ける。
「…………」
大和は苦い顔をしていた。大和だけではない。右之助もネメアもである。
理由は単純。大和の所持金、その三割は女性から貢いでもらったものだからだ。
彼は異常にモテる。そして、あらゆる女性を魅了する床上手でもある。
大富豪の夫人やお嬢様。同業者のエルフやダークエルフ、妖怪の娼婦。更には魔王の娘、異邦の女神。果てには邪神まで──
皆、彼に莫大な金銀財宝を貢いでその心身を求めるのだ。
そんな事、魔界都市では周知の事実の筈。しかし幽香達にはわからない。
彼女達は大和を異性として見ていないのだ。精神年齢が幼すぎる。
大和は返答に困っていた。
ネメアも唸っている。酒場の客人達を見渡すと、死織を含めた闇バス・闇タクシーの運転手。エルフやダークエルフ、獣人や蟲人、妖怪の女達が揃って顔を背けた。
皆、心当たりがあるのだ。
と、ここで右之助が人差し指を立てる。
「あのなぁテメェ等、大和はカジノで儲けてるんだよ。コイツはギャンブルもメッチャ強い。そりゃもう、毎回ボロ勝ちしてお小遣いを稼いでるんだ。だから、お前らが思ってる以上にコイツは金持ちなんだよ」
右之助の回答に、幽香達は納得した様に頷いた。
「おおおー!! 成程なー!! そういう事か!! わかった!! 謎が解けた!! ありがとうな右之助!!」
「「「「「「ありがとー!!!!」」」」」」
お礼を言った後、幽香はほにゃりと笑う。
「その、もしも大和が無理して奢ってくれてるなら俺達も今度から奢ろうと思ってな……な! お前ら!」
「あい! 兄貴には何時もお世話になってるから!」
「そんな理由が無くても、その、奢りたいです!」
「いっぱいお金貯めて、何時か恩返ししたい!」
「そんなワケで大和! お金に困ったら何時でも言えよ! 俺達、ちゃんと貯金してるから!」
「…………」
大和は目を丸めた。
そして笑みをこぼす。極めて稀な優しい笑みを……
「ったく、餓鬼共が。俺に気ぃ使うなんざ百万年早いぜ」
しかし、その声には喜色が滲んでいた。
「テメェ等、腹空いた時は遠慮なく言えよ。パフェくらいなら何時でも奢ってやる」
「マジでか!? 大和男前!! 格好良すぎるぜ!!」
「「「「「「兄貴ーっっ!!!!」」」」」」
嬉々として抱き付いてくる子供幽霊達を、大和は呆れ混じりに受け止めていた。
そんな彼等の様子を右之助は穏やかな笑みで眺めている。ふと、ネメアに肩を叩かれた。
「久々に良い酒を準備してやる」
「マジでか」
「俺と大和からの奢りだ」
大和に振り返ると、ウィンクされた。右之助は嬉しそうに笑う。
「いいねぇ……今夜は気持ちよく寝れそうだ」
そう言って、右之助は余っていた酒を飲み干した。
《完》