Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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第二十九章「学園伝」
一話「魔学生」


 

 

 

 東京都渋谷区に最近、進学校が建設された。

 東京ドーム三つ分の敷地面積を誇る大規模な私立高校である。

 早くも区内で話題となっていた。

 

 しかし、この学園には総理大臣、大黒谷努(だいこくだに・つとむ)の思惑が絡んでいた。

 

 彼はお抱えの組織、特務機関の戦力増強のために全国から優秀な子供達を選出。

 彼等に効率的かつ実戦的な教育を施すために、この場を設けたのだ。

 

 名を、私立陽炎学園。

 

 創設されて早半年、学園内で早くも勢力図が築かれつつあるこの時期に、嵐の種が舞い降りようとしていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 最新鋭の設備が搭載された学園内は並の大学よりも広く居心地が良い。

 

 専用の制服に身を包んだ生徒達が廊下を行き交う中、男子達の視線を集める少女達がいた。

 

 一名は紺色の長髪をポニーテールに結った美少女。

 抜き身の刃の様な碧眼が印象的だ。

 制服の上からでもわかる豊満な肢体は瑞々しさを残しつつ、大人に負けない色香を放っている。

 

 対してもう一名は天真爛漫な美少女。

 ツインテールにされた黒髪、くりりと愛らしい双眸。

 童顔ながら制服を盛り上げている肢体は成熟している。

 

 彼女達は百合(ゆり)牡丹(ぼたん)

 二年生でありながら文武ともに随一の成績を修めている才女達である。

 

 男子生徒達の羨望の的であり、女子生徒達からも慕われている。

 学園最強の生徒達で構成されている生徒会からも勧誘が来ているほどだ。

 

 しかし、それらは彼女達の素性を知れば当然とも言える。

 

 彼女達は魔忍──特務機関、魔忍部隊に所属する下忍である。

 表世界では歴戦の猛者であり、戦闘と暗殺のプロフェッショナルだ。

 

 学園の生徒達など、彼女達からすればアマチュア──取るに足らない存在である。

 

 では何故、彼女達は生徒として学園に滞在しているのか──

 それは二名の口から直接語られる事となる。

 

 屋上に続く扉の前で。

 人気の少ないこの場を敢えて選んだ百合と牡丹は、秘密の会話を交えていた。

 

 百合がまず辟易のため息を吐く。

 

「男子共の視線が鬱陶しい……どうにかならないものか」

 

 その言葉に、牡丹がクスクスと微笑んだ。

 

「仕方ないじゃーん、私も百合ちゃんも強くて可愛くて頭良いし♪ 当然だよーっ」

「……あまり目立ちたくないんだがな」

「えー? いいじゃーん。私は心地良いよ♪」

 

 上機嫌な牡丹を、百合は諌める様に睨み付けた。

 

「……私達に課された任務、よもや忘れていたりしないよな?」

「当然っ! でも任務を楽しむのは私の勝手でしょ? 百合ちゃんも肩肘張らずに楽しんでいこうよー!」

「……はぁぁ」

 

 お気楽な相方に、百合は重いため息を吐かずにはいられなかった。

 

 

 ◆◆

 

 

 百合と牡丹は上司である最上忍、(すみれ)から特務を授かっていた。

 内容は陽炎学園の現状報告と、内部に潜む他勢力のスパイの監視。

 

 世界でも例を見ない陽炎学園の取り組みに各国の勢力が目を光らせている。

 百合と牡丹が把握しているだけでも、スパイの人数は10名を越えていた。

 

 由々しき事態である。

 スパイ達の動向を監視し、有事の際には迅速な対応をする。

 それが、百合と牡丹の特務内容であった。

 

 しかし牡丹はのほほーんと笑う。

 

「と言っても、スパイ達が動く気配は無し。あっちが目立つ動きをしない限りこっちが動く必要は無いとのお達しだし……暇だね百合ちゃん!」

「…………」

 

 百合は無言で相方の頬をつねった。

 

「いふぁいふぁい! 頬を引っ張らにゃいで~っ!」

「……はぁ、しかしお前が言うこともまた事実だ。菫様も「学園生活を楽しんでこい」などとご冗談を言う始末だし……」

「それはね百合ちゃん! 菫様も私と同じようなことを言ってるんだよ! もうちょっと肩の力を抜けって!」

 

 頬を引っ張られたままの牡丹を見て、百合は首を傾げた。

 

「……そうなのか?」

「そうだよ! 本来私達ってこれくらい華のある学園生活を送ってもいいと思うの!」

「興味ない。……兎にも角にも男子共が鬱陶しい。大嫌いだ」

 

 フンと鼻を鳴らす百合に対し、牡丹はいやらしい笑みを向ける。

 

「でもでも~、百合ちゃん大和様には夢中じゃーん♪ 前の一件からおめかしするようになったし、携帯の着信履歴をチラチラ見るようになったし」

「っっ」

「でもそうだよね~、大和様最っ高にイイ男だもんね~っ。普段堅物な百合ちゃんも大和様の前じゃ甘えん坊に……」

 

「ぼ~た~ん~ッ??」

 

「いひゃいいひゃい!! 百合ちゃんいひゃい!! 頬っぺたとれちゃぅぅぅう!!!!」

 

 顔を真っ赤にした百合に本気で頬をつねられ、牡丹は情けない悲鳴を上げていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 昼休みが終わり、教室に戻った牡丹は赤く腫れた頬を撫でていた。

 

「ううう~っ、百合ちゃん酷い。本気でつねった……っ」

「当たり前だ、馬鹿者が」

 

 隣席でフンと鼻を鳴らす百合。

 彼女は顔を背けながら囁く。

 

「あの男……大和を他の男と比べるな。不快だ」

 

 自分にしか聞こえない小声だったので、牡丹は口元がニヤニヤするのを抑えられなかった。

 しかしすぐに鋭い眼光を向けられ、よそよそしく口笛を吹く。

 

 白々しい相方の頬をもう一度つねってやろうかと思った百合だが、激情を飲み込み別の話題を振る。

 

「今日は留学生が来るらしいな、何か聞いているか?」

「ううん、全然。どんな人が来るんだろうねー?」

「……面倒な手合いでなければいいんだがな」

 

 そうこうしている内に担当教師が入ってくる。

 彼は騒がしい生徒達を静まらせると、早速話をした。

 

「昨日説明した通り、緊急で留学生が来ることとなった。学園長直々の推薦であり、一週間この学園に滞在する。とても優秀な子だそうだ。皆、参考にするように」

 

 その言葉に、教室に不穏な──一種の殺気のようなものが充満する。

 皆、己の才能に絶対の自信を持つ麒麟児達だ。

 部外者に習う事など無いと、雰囲気で訴えていた。

 

 それらを百合は内心鼻で笑う。

 

(プライドだけは高いな、ここの生徒達は……。滑稽に過ぎる)

 

 百合は魔界都市で地獄を見た。

 同時に暗黒のメシアに救われた。

 

 失笑を隠すように、百合は水筒の水を口に含んだ。

 

「それでは自己紹介して貰おう。入ってきなさい」

 

 教室の扉が開かれる。

 入ってきたのは──褐色肌の美青年だった。

 

 オールバックにされた黒髪に灰色の三白眼。

 端正過ぎる顔立ちは女子達を一瞬で虜にする。

 着崩された制服にネクタイ、細身ながらも鍛え抜かれた肉体。

 

 ギザ歯を覗かせると共に溢れ出たオーラは暴力的でありながら妖艶──

 

 まさしく魔性の美青年であった。

 

「ブッ!!」

 

 思わず水を吹き出す百合。

 牡丹も唖然としていた。

 

 何故なら、「彼」はこんな場所に来る筈がない。

 そもそも、そんなに容姿が若くない筈だからだ。

 

 しかし彼は──間違いなく「彼」である。

 

 魔性の美青年は手を挙げて自己紹介をした。

 

「大和だ。一週間この学園に滞在する事になった。趣味は女……いや、まぁ、汗を流すことだ。よろしく頼むぜ」

 

「な、ななななななっ……!!」

「!? !!?」

 

 百合と牡丹は思わず立ち上がる。

 青年、大和は彼女達に向かって悪戯っぽくウィンクした。

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