villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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二話「箱庭」

 

 

 三日前、魔術通信にて。

 

「はぁ? 俺に学生をして欲しい? マジで言ってんのか努ちゃん」

『暇であれば是非とも。報酬はしっかりと払うよ。どうだろう? 話を聞いてくれないかな?』

「……いいぜ。誰でもねぇ、努ちゃんからの依頼だ。一応聞こうじゃねぇの」

『ありがとう。……陽炎学園という進学校がある。後々の特務機関のエージェントを育成するために私が設けた場所でね。世界各地から優秀な人材を集めているんだ』

「へぇ……場所は?」

『東京都の渋谷区だよ。創立してもう半年になるかな……内部は中々面白いことになっていてね』

「大雑把に集めた生徒達が独自に勢力を築きあげ、更に各国の退魔勢力のスパイが紛れ込んでいる、とか?」

『……あれ? 大和くんにこの話したっけ?』

「努ちゃんの大雑把具合から想定しただけだ」

『ハッハッハ、参ったな』

「で、それが本当だとして、努ちゃんは俺に何をして欲しいんだ。スパイ共の暗殺か?」

『いいや、最初に言った通り、君には生徒をして貰いたいんだよ』

「……読めねぇなぁ、何でそんな面倒臭いことをする」

『その面倒事を、私は望んでいる』

「……成る程」

『君が学園に滞在するだけで、混乱が生じるだろう。生徒同士の勢力図は瓦解し、各国のスパイ達も動揺する』

「賭け事だな、結果は俺にも予想できねぇ」

『それでいい。混沌の中でこそ輝きは生じる。その輝きを見定めるために、君には「混沌」そのものになってほしいんだ』

「対価は?」

『学園の女子生徒達を好きにしてもいい』

「さっすが努ちゃん、話がわかるぅ♪ 最高の暇潰しじゃねぇの」

『勿論、正規の報酬も支払わせて貰うよ。あと、君の知り合いの魔忍二名も滞在している。学園の詳細は彼女達から聞いてくれ』

「オーケーオーケー、百合と牡丹だな。期日は?」

『三日後から一週間、学園長推薦の留学生として入って貰う予定だ』

「……好きに暴れてもいいんだよな?」

『まぁ、ほどほどにね。でも心配はしていないんだ。君は話がわかる男だから……。女子生徒はいくら食べても構わない』

「おっしゃ、契約成立だな」

『報酬は前払いで全額振り込んでおくから、あとで確認しておいてね』

「おうさ」

 

 

 ◆◆

 

 

「……っ」

 

 放課後、屋上に続く扉の前で。

 大和から話を聞いた百合は、あまりの内容に目眩を覚えていた。

 

 由々しき事態である。

 百合は上司のそのまた上司──総理大臣、大黒谷努に恨み言を囁きかけた。

 しかしグッと堪える。

 

 隣にいた牡丹が大和に率直な疑問を投げかけた。

 

「大和様、容姿的な年齢は30代ほどですよね? その姿は一体……」

「ああ、これか?」

 

 大和は若くなった己の身体を見下ろす。

 

「闘気術と経絡秘孔の応用だ。流石に性別までは変えられねぇが、若返るくらいは簡単にできる」

「ほええ……っ」

「何時もは全盛期の30代で固定してるんだが……10代も悪くねぇ。筋力は少し落ちるんだが……どうだ?」

 

「どうだって……それは、ねぇ百合ちゃん?」

「わ、私に聞くな。馬鹿者がっ」

 

 正直、二人とも好みドストライクだった。

 元の容姿もいいが、こちらにもまた違った魅力がある。

 百合と牡丹は顔が真っ赤になるのを抑えられなかった。

 

 その反応を見て大和はニヤニヤと笑う。

 

「良かった。お前らの反応を見る限り、現代でもこの容姿は通じるみてぇだな」

 

 大和は鼻歌交じりに顎を擦る。

 

「幸い、この学園の女子はレベルが高ぇ。楽しめそうだ」

 

 大和は踵を返して手を挙げる。

 

「明日、学園の案内を頼むぜ。俺はてきとーに遊んで回る。何か用があればスマホに……」

 

 大和が言い終える前に、百合がその袖を掴んだ。

 牡丹も同じ様な行動に出ようとしたが、百合の方が早かった。

 

 視線を下げ、頬を朱に染めながら、百合は囁く。

 

「何処へ行く……久方ぶりに会えたというのに、あまりに素っ気ないではないか……」

 

 振り返った大和は、彼女の予想外の反応に眉を上げた。

 百合はすかさず大和に抱きつき、強い語気で告げる。

 

「他の女に会いに行くと言うのなら……許さん。まずは私を愛せ。……私を女にした責任をとれっ♡」

 

 百合のストレートな告白に、当事者でもない牡丹が顔を真っ赤にしていた。

 

(は、はわわ~っ、百合ちゃん大胆……! そんな事言えるんだ……っ)

 

 対して大和はバツが悪そうに頬をかくと、百合を抱き締める。

 

「……お前がそこまで俺の事を想ってるなんて予想外だった」

「馬鹿、馬鹿者……っ、私はお前を本気で愛しているのだぞ、大和……っ♡」

 

 百合は大和のネクタイを引き、顔を引き寄せる。

 そして情熱的なキスを交わした。

 互いに舌を絡ませあい、唾液を飲ませあう。

 

 安産型の尻を揉みしだかれ、百合は腰砕けになった。

 彼女を抱き寄せながら、大和は告げる。

 

「牡丹、お前ら寮生活だろ? 同室か?」

「は、はい……」

「なら案内しろ。……朝までまで可愛がってやる」

「……っ♡」

 

 牡丹は呆然と頷く。

 顔を真っ赤にした百合は、熱に浮かされるように大和に体を預けていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 学園では早くも噂が飛び交っていた。

 二年生のアイドル、百合と牡丹が留学生の愛人であると。

 昨夜は彼を部屋に連れ込み、喘ぎ声を絶やさなかったと……。

 

 彼女達を密かに想っていた男子達は断じて認めなかった。

 が、朝の登校時に嫌でも思い知ることとなる。

 

 大和を挟んで歩く百合と牡丹。

 時折甘い言葉を囁き、かまって欲しいとねだる。

 頬にキスされれば、本当に幸せそうに表情をふやけさせていた。

 

 そして、大和の首筋に浮かぶ赤い痣の数々……

 

 もう間違いない。

 

 女子達は黄色い悲鳴を上げ、男子達はどす黒いオーラと共に悔し涙を流していた。

 

 数多の激情が渦巻く通学路……大和は更に、各国の退魔組織のスパイ達の畏怖のこもった視線を感じとる。

 

 彼は静かに口の端を歪めた。

 

「さぁ……一週間楽しませてくれよ、子羊共」

 

 

 ◆◆

 

 

 一時間目の授業内容は体育──それも実戦訓練だった。

 専用の体育館に集まり、各々ウォーミングアップを始めている生徒達。

 その中に混じりながら、大和は楽しげに笑っていた。

 

(餓鬼共のバトルごっこには興味ねぇんだか……まぁ暇潰しにはなるか。それにしても女子のレベル高ぇな。クラスメイトほぼ全員食えるぜ。他のクラスや別学年にもイイ女がいたし、マジで退屈せずに済みそうだな)

 

 不気味に舌なめずりする。

 彼が怪物だとしたら、この学園は兎小屋だ。

 

 大和は努から貰ったこの美肉達を、丹念に味わい尽くすつもりでいた。

 

 

 ◆◆

 

 

 大和が言った様に女子生徒のレベルは総じて高い。

 しかも全員が学園指定の際どいブルマを履いているので、思春期真っ盛りな男子達にとって目に毒だった。

 

 男子達は女子達をなるべく見ないように努めているが、やはり視線が泳いでしまう。

 

 彼らの大半はクラスのアイドル──百合と牡丹を見つめていた。

 

 百合は男子に対してキツい印象があるが、それでも好意を寄せている者が多い。

 凛々しい横顔もそうだか、その年不相応な身体をどうしても意識してしまう。

 

 90を優に越える豊満なバスト、それを強調する括れた腰。そして安産型の臀部。

 

 グラビアアイドルも驚愕するような体型で、戦闘時には凄まじい動きを魅せるのだ。

 多くの男子達が彼女に羨望にも似た恋心を抱いていた。

 

 対して牡丹は男女区別なく接するので勘違いをしてしまう男子が続出している。

 百合ほどではないが成熟した体付きは、童顔と合わさり危険な魅力を生んでいた。

 

 しかしながら、彼等の夢想は儚く崩れ去る。

 

 百合がチラチラと視線を送る。

 その先には学園指定のジャージを着てストレッチをしている魔青年がいた。

 

 牡丹は天真爛漫な笑顔で彼に手を振る。

 

「大和様ー!!」

 

 まさかの様付けに驚愕しつつも、男子達は牡丹と百合の反応に目を丸めた。

 

 まるで恋に浮かれる乙女達だ。

 大和に手を振られた牡丹は表情をだらしなく弛め、百合も頬を染めている。

 

 今朝の登校時といい、噂の内容といい、男子達は大和に敵意以上の殺意を向けていた。

 

 彼らは視線を合わせ、一様に頷く。

 想いは一緒だった。

 

 昨日来たばかりの留学生。

 調子に乗ってるこの糞野郎を、こてんぱんに叩きのめす──

 

 男子達は並々ならぬ集中力でウォーミングアップをはじめた。

 

 その様子を見て、大和は小さく嘲笑を浮かべていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 体育教員が生徒達の様子を確認し、号令をかける。

 

「よし、お前達。二人一組を作れ。これより模擬戦闘を開始する。同性、かつ実力の見合った者同士で組むんだ」

 

 教員の指示を聞き、女子達は各々ペアを組み始める。

 百合と牡丹は言わずもがな、ペアを組んでいた。

 

 しかし男子は──

 

「おい」

「……ん?」

 

 一人の男子が大和に声をかける。

 その敵意に満ちた視線を大和は敢えて無視した。

 男子は歯ぎしりしながら告げる。

 

「俺とペアを組め。調子に乗りやがって……お前が百合さんに相応しい筈がないだろ」

「…………ハァ?」

 

 大和が視線を戻すと、そこは既に大混戦となっていた。

 男子達が我先にと大和に喧嘩を売ろうとしているのだ。

 互いに引っ張りあっている。

 

「横取りすんじゃねぇ! 俺が叩きのめすんだ!!」

「ふざけんな!! 俺がボコボコにするんだよ!!」

「百合さんの目は俺が覚ます!! 引っ込んでろ!!」

「牡丹ちゃんはこの手で取り返す!!」

 

「…………」

 

 大和は辟易し、無視しようとするも、百合と牡丹の表情を見て考えを改めた。

 

 本当に気持ち悪そうな顔をしていた。

 百合に至ってはゴミ虫を見るような目付きをしている。

 

 大和は男子達を置いて百合達の元へ向かった。

 彼等が気付いた時には既に遅い。

 大和は百合と牡丹を両腕で抱き寄せていた。

 

「テメェら、ようはあれだろう? コイツらをぽっと出の俺に取られて悔しいんだろう?」

 

 大和は百合の胸を鷲掴み、牡丹の尻を揉む。

 

「やぁっ♡」

「あぁん♡」

 

 漏れた嬌声。

 大和は惚ける彼女達を抱きながら告げた。

 

「残念だったな。コイツらは俺の女だ。悔しかったらかかってきな。束になってきてもいいぜ?」

 

「「「「…………~~~~っ!!!!」」」」

 

 男子達は顔を真っ赤にして各々武器を取り出す。

 そうして血走った眼で突撃した。

 

 大和は百合と牡丹を背後に下げると、無造作に片足を振り上げる。

 

 それは指向性を持った爆風だった。

 男子達の命を刈り取らないギリギリの威力を保った風は体育館の半分を消し飛ばし、男子達を遥か彼方へ吹き飛ばす。

 遠くの木々や屋上フェンスに引っ掛かった男子達は何が起こったかわからず、目を回していた。

 

 大和は腰に手を当てて鼻を鳴らす。

 

「ったく……ジャリ共が」

 

 教師は唖然とし、女子生徒達は目を丸めていた。

 

 しかし百合と牡丹は当たり前のように大和の腕に抱きつき、蕩けた笑みを浮かべていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 放課後、大和は夕焼け染みる屋上で黄昏ていた。

 校則違反であるタバコを咥えている。

 彼は百合と牡丹から聞いた情報を脳内で纏めていた。

 

(陽炎学園か……こんな学園が設立されるなんざ、世も末だな)

 

 苦笑しながら紫煙を吹かす。

 屋上フェンスに寄りかかりながら一服するその様子は神秘的でもあった。

 

(学園全体のレベルは低い。最強の生徒でもCランクくらいだろう……例外がいるとすれば、退魔勢力のスパイ共。何人かBクラスがいるな。ただそれだけだ)

 

 Aランクがいない時点でお察しである。

 大和は首だけ振り返り、部活動に励む生徒達を見下ろした。

 

 ふと囁く。

 

「バカな餓鬼共……大人しく表世界で平和に過ごしてればよかったのに。……ほんとバカ」

 

 フゥと紫煙を風に巻かせ、携帯灰皿に吸殻を押し込める。

 そして屋上フェンスに股がった。

 

「さぁて……曲がりなりにも「裏」に関わろうとしてるんだ。それがどういう事なのか……その身を以て教えてやる」

 

 と言っても、する事は何時もと変わらない。

 片っ端から美少女を食らい、邪魔する存在は蹴散らすだけだ。

 

 しかし、それだけで学園の色はガラリと変わる。

 それこそ、努が望んでいる展開だった。

 

(俺が動くことで……さぁどうなる? 努ちゃんは期待してるみたいだぜ)

 

 あくまで他人事。

 大和は屋上から飛び降りた。

 なんの苦もなく地面に着地すると、その端正な顎を擦る。

 

「部活動の帰り際を狙って口説くか……やっぱり健康体の女が一番美味い。百合と牡丹は昼休みでへばっちまったしな」

 

 そう、百合と牡丹は昼休みに食われて寮室で気絶していた。

 大和は未だ治まらない欲望の捌け口を探すため、一歩踏み出す。

 

「ねぇ待ってよ、噂の留学生くん♪」

 

 かけられた可憐な声に、大和はゆっくりと振り返った。

 そこには見目麗しい美少女達が佇んでいた。

 

 どちらも体育系。

 一名はこんがり焼けた日焼け跡に天真爛漫な笑み。小さく結われた赤茶色のポニーテイルが特徴的だ。

 

 もう一名は眠たげな眼に透き通った白い肌。塩素の匂いと少女特有の香りが鼻孔をくすぐる。群青色のセミロングヘアから漂ってきていた。

 

 どちらもスタイル抜群。牡丹にも劣らない。

 しかも制服を大きく着崩しているので、大和の視線は自然とその豊満な胸達にいった。

 

 それをわかっていて尚、褐色肌の美少女は笑ってみせる。

 

「私は三年生、陸部杏奈(おかべ・あんな)。生徒会会計兼、陸上部部長」

「同じく、水上流衣(みかみ・るい)。……生徒会書記兼、水泳部部長」

「こりゃまた……学園最強の生徒会が俺に何のようで?」

 

 大和はおどけながらも、内心ほくそ笑んでいた。

 極上の獲物があちらからやってきたからだ。

 

 流衣は眠たげながらも鋭い眼で大和を射抜く。

 

「体育館の半分を消し飛ばしたの……貴方でしょう?」

「それがどうした?」

「あの体育館は特殊な構造をしてる……生徒の攻撃では決して壊れない」

「そうなのか?」

 

 とぼける大和に、今度は杏奈が笑みを浮かべたまま告げる。

 

「後輩くん、私達と勝負してよ? 決闘の申請書ならもう先生に提出してるからさ♪」

「見逃せない……その強さ。百合や牡丹との関係も、気になる」

 

 両者は戦意を迸らせる。

 しかし、大和からすればそよ風みたいものだった。

 

 そんなことよりも、彼は別の事に興味があった。

 

「なら相手するぜ、先輩方。……たっぷりと、な」

 

 大和は口角を歪め、拳を握る。

 速攻で終わらすつもりだった。

 

 ──その夜、三年生の寮室から甲高い喘ぎ声が二名分聞こえたという。

 

 真相は後日明らかとなった。

 


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