Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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三話「超神話大戦」

 

 

 

 インド神話は邪神群の次に強大な力を持つ神話勢力である。

 理由は世界観の広さと神々の規格外さ。

 特に創造と維持、破壊を司る最高神らは神々の中でも別格の存在。

 その権能、全知全能は三千大千世界──世界そのものにまで及び、森羅万象を掌握するに至る。

 

 星、銀河、宇宙、多次元宇宙、超多次元宇宙、三千世界、そして三千大山世界。

 

 これらを創造し維持させ、最後には破壊する。

 一連のサイクルとして機能させている彼らは森羅万象を「管理する存在」 であり、概念や法則性の外にある。

 

 世界最強の武神集団「八天衆」を保有し、密教道教、神道系との関わりも深い。

 まさしく世界を代表する神話であり、世界という概念そのものだ。

 

 ここに喧嘩を売るということは即ち、世界に喧嘩を売るということである。

 本来であれば勝ち負けの概念など存在せず、敵対者は世界の癌細胞として即刻排除される。

 

 しかし、今回は敵対者の格が違った。

 彼等は世界の理を越えた超越者……

 

 ここに、近年類を見ない最大級の神話大戦が勃発する。

 

 

 ◆◆

 

 

 三千大千世界を無量大数用いて造られた特殊な戦場が展開されていた。

 見渡す限りの広野──しかし抉り飛ばされた地面から覗くのは無限大の宇宙。

 

 この空間でも、気を抜けはアッサリと崩壊してしまう。

 それほどまでに苛烈で、規格外な戦争が繰り広げられていた。

 

 億を越える羅刹族と戦神達の激闘。

 天地を揺るがす咆哮、当たり前の様に繰り出される神域の武。そして砕け散る数百の三千大千世界。

 

 戦士達の戦闘力は平均してSSSランク。

 世界最強の剣士、天下五剣や黄金祭壇の魔導師と同ランクである。

 それらが数十億という単位で闘争を繰り広げているのだ。

 最早次元が違う。

 

 もしもこの場に地球があったのなら、砂利の一粒にもならないだろう。

 地球を内包する三千大千世界で漸くその大きさになるくらいか──

 それでも、戦士達の放つ熱波で一瞬にして融解してしまう。

 

 これぞ神話の闘争──神格同士の戦争である。

 天地神明──創造、破壊の絶え間ないサイクル。

 

 それらを一気に加速させる埒外の存在を忘れてはいけない。

 彼等こそ超越者──理外に到達せし絶対強者である。

 

「神魔必滅・アブソリュート・ゼロ」

「真名解放・聖雷金剛杵(ヴァジュラ・オリジン)

 

 絶対氷結の概念、その全力解放。

 対するは世界最強の武神の神格武装の真名解放。

 

 戦場のど真ん中で発現したそれらは鬩ぎ合い、三千大千世界を数億個破壊できる破滅の光を生み出した。

 数百万の戦士がまるで紙屑の如く吹き飛ばされていく。

 SSSランクの強者達も、彼等の前では形無しだった。

 

 吹き荒ぶ暴風の中で絶対零度の美女──神滅狼フェンリルは高らかに嗤う。

 

「フハハハハ!! いいなぁ全力を出せると言うのは!! 久方ぶりに滾るぞ!!」

 

 青みがかかった銀色の長髪を靡かせ、その背に巨大過ぎるサイクロンを発生させた。

 冷氷と稲妻を孕むソレは存在するだけで特殊構造製の戦場を崩壊させ、次元と空間の境い目を狂わせる。

 

 犬歯を剥き出し、フェンリルは哄笑を上げた。

 

「喜べ!! 貴様らのためにわざわざ魔導を開発してやったぞ!! このサイクロンは神性の宿る総てを凍てつかせ、封殺する!! クハハハ!! 有象無象ごと一掃されてくれるなよ!! 八天衆!!」

 

 荒れ狂う暴風は羅刹族の戦士をも呑み込み、天へと巻き上げる。

 そうして凍てつかせ、その存在を定義する概念ごと封殺した。

 

零式封殺領域(フリードリヒ・イェッケルン)!!」

 

 北欧の古式魔導に精通し、氷結系の概念を掌握しているフェンリルだからこそ編み出せた対神仏確殺魔導領域。

 

 最高神らの加護を賜った戦神達が成す術なく封殺(凍結)されていく。

 大半が生来の神仏であるインド勢力にとって、フェンリルの存在は驚異的だった。

 

 しかし無力化できない。

 帝釈天は天下五剣代表、「剣神」正宗から猛攻を受けている。

 フェンリルを止めるどころか、距離を離されていた。

 

 帝釈天は思わず怒声を上げる。

 

「正宗!! お前ほどの剣豪が……何故だ!! 何故テロリストなんぞに加担する!!」

「ハン、戦場に出てきて何をほざく。世界最強の武神の名が泣くぞ」

「お前なら武の真の意味を理解している筈だ!! 武は暴力じゃねぇ!!」

「二度は言わん、口を閉じろ」

 

 正宗は一旦二刀を納め、抜刀の構えを取る。

 己が両断されるイメージを浮かべた帝釈天は、苦渋に満ちた表情で半身を反らした。

 

「第七秘剣・雲耀(うんよう)

 

 それは無限速すら越えた、文字通り「最速」の抜刀。

 世界最強の武神である帝釈天すら認識できず、最初から避ける動作をしなければ間に合わない世界最速の斬撃。

 

 一拍置いて特大の斬月破が戦場を両断する。

 割れた地盤から覗く無量大数の三千大千世界──

 

 帝釈天は盛大に舌打ちしながらも、笑ってみせた。

 

「この耄碌爺が……おかげで時間は稼げたぜ」

「!!」

 

 正宗は振り返る。

 同時にフェンリルの「零式封殺領域(フリードリヒ・イェッケルン)」が霧散した。

 

 驚くフェンリルに伸びる二つの閃光。

 その正体は斉天大聖、孫悟空と世界最強の女武神、毘沙門天だった。

 

 零式封殺領域の術式を解体した毘沙門天はそのまま両手を合わせて別の方術を発動する。

 その隙をカバーするように孫悟空がフェンリルに突貫した。

 如意金箍棒を両手で受け止めたフェンリルは同時に不覚を悟る。

 

 両サイド、そして背後から三名の武神が姿を現したからだ。

 

 スカンダ。哪吒太子。顕聖二郎真君。

 

 八天衆の豪傑達である。

 毘沙門が転移させてきたのだ。

 フェンリルは思わず笑う。してやられたと──

 

 3方向からの同時攻撃。両手は如意金箍棒で塞がれている。

 外そうとすれば悟空に致命的な隙を与えることになる。

 しかし三名の武神が繰り出す神域を越えた武技を超高密度多重障壁「程度」では防げない。

 

 詰み。

 しかしフェンリルは笑みを絶やさなかった。

 

「であるなら、私も同じ手を使おう」

 

 フェンリルは瞬時に視線で魔方陣を描き出す。

 悟空は不覚を悟り渾身の突きを繰り出すも、大きすぎる手によって止められた。

 

 掴まれた如意金箍棒がびくともしない。

 

 悟空は思わず苦笑し、迫り来る剛拳を両腕でガードした。

 それでも痺れる両腕──ここまでの剛力を誇る猛者は大和とネメア以外で一人しかいない。

 

 怪異の王の中でも特別な存在。

 真の意味での怪異王、剛力無双の魔豪傑。

 

「少し腕が落ちたか、悟空。……己の得物を離してどうする」

「安心しろよ兄妹、俺は素手のほうが強ぇ。知ってんだろう?」

「フフフ……まぁな」

 

 穏やかに笑って黒髪の美丈夫──牛魔王は如意金箍棒を放り投げた。

 

 他の武神達は別の七魔将が対応している。

 

 天空神、ゼウス。

 魔戦姫、バロール。

 剣神、正宗。

 

 双方、一旦距離を空ける。

 帝釈天はチラリと辺りを確認した。

 戦闘の余波だけで戦場が崩壊しつつある。

 無量大数の三千大千世界で形成された戦場が、だ。

 

 苦渋に満ちた表情をする。

 相手は全く手加減していない。

 正真正銘、全力で来ている。

 

 故に生半可な力では止められない。自分達も全力を出さなければならない。

 しかし、それでは戦場を維持しているヴィシュヌらがもたない。

 

「帝釈天──総力戦だ。深く考えずに全力を出せ」

「俺達は理を護る武神──やることは一つだろ?」

 

 毘沙門天と孫悟空に窘められ、帝釈天はゆっくりと頷く。

 そして総身から黄金の神雷を迸らせた。

 

「すまねぇヴィシュヌ……もう少しだけ保たせてくれ」

 

 短期決戦、それしかない。

 八天衆は全力を以て突貫した。

 

 七魔将もそれぞれの得物を携える。

 そうして、お互い相対すべき相手と矛を交えた。

 

 

 ◆◆

 

 

 所変わって羅刹族の陣営にて。

 戦場を一望できる丘の上に、真紅の髪を靡かせる戦士達が集っていた。

 

 彼等は最上位の羅刹。

 百戦練磨の豪傑達である。

 

 羅刹族は戦闘力が高い者ほど髪が赤い。

 真紅の髪は最上位の証である。

 

 彼らは不満そうにしていた。

 王である金眼の美男も、玉座で暇そうに足を組んでいる。

 

 横に控えていた邪仙──雅貴は苦笑をこぼした。

 

「退屈そうに見える……いいや、実際に退屈なのだろう。誠に申し訳ない、ラーヴァナ殿。我等だけが楽しんでしまって」

 

 その言葉に羅刹達は殺気を迸らせるが、王が手を上げることで静まる。

 

 黄金の装飾が施された戦闘装束。

 戦士として完成した長身痩躯の肉体に美神もたじろぐ美貌。

 戦士の風格と王の威風を同時に纏った美魔神は、やれやれと溜め息を吐いた。

 

「貴様の言う通りだよ、邪なる仙人よ。盟約とは言え、我々の生き甲斐を奪うとは……全く度しがたい」

 

 声すら美しいのだが、彼は闘争のみを生き甲斐とする戦闘種族、その王である。

 

 雅貴は深く頭を下げ、それでも嘯いてみせた。

 

「盟約を守っていただき、感謝の念に尽きるよ。同胞達も喜んでいる。久々に全力を出せている様でね」

「それはそうだろう。貴様の同胞──あれらは理外の存在だ。今の時代では超越者……だったか? 同情すら覚えるよ。退屈だったろうに……。あれらの気持ちがよくわかる。だからこそ、我々は堪えているのだ」

 

 この世界は、あまりに狭すぎる。

 そう羅刹王は漏らした。

 

「神々が雑種共に世界の尺を合わせたせいで、我々は永久の退屈に苛まれる事となった。……理を越えた存在にとって、この世界は酷く退屈だ」

「それは、貴殿らが闘争にしか生き甲斐を感じられないからではないかな?」

「……フフフ」

 

 周囲の羅刹達が激昂する前に、ラーヴァナの苦笑が響き渡った。

 

「確かに我らには闘争しかない。──であれば、貴様らには何か別の愉悦があるとでも?」

「ああ、あるとも。闘争、殺戮。それらは愉悦のほんの一部でしかない」

「ほぅ、詳しく聞かせよ」

 

 ラーヴァナが耳を傾けたその時、堕天使の長の可憐な声が響き渡る。

 

『雅貴、一発大きいの放つけど、いいよね?』

「ああ……構わんともウリエル殿。存分に発散するといい」

『ならお言葉に甘えて』

 

 羅刹族の陣営とは反対側で、極大の焔と純エーテルが解放された。

 彼女こそ元、四大熾天使にして天使の超越者。

 七魔将随一の火力を誇る破滅の堕天使──ウリエルである。

 

「さぁて……一発、スッキリするのいくよ♪」

 

 お茶目に笑いながら展開したのは長大なビームライフル。

 彼女が誇る超次元兵装の一つ「シャイニング・スフィア」。

 

 ものの三秒でチャージを終わらせ、放つのは終幕の劫火。

 銃口の奥で輝く橙色の煌めきは無量大数の三千世界を圧縮することで生まれた極大の破滅エネルギーだ。

 

 ウリエルは照準を天界のど真ん中に定めると、超高密度多重障壁「天使の羽衣(エンジェル・ベール)」を展開し反動抑制に用いる。

 同時に三対六翼の機械式ブースターを起動、更に安定性を高める。

 

 そうして放たれる滅却光線。

 射線上にある全てを融解させ、天界へと一直線に伸びていく。

 

 しかし神々側もしっかりと迎撃する。

 破壊神シヴァの神格武装「トリシューラ」が発現。同熱量とはいかないまでも三本の極太光線がウリエルの一撃を相殺した。

 

 戦場全体に暴風が吹き抜けるものの、ウリエルはクスクスと笑っている。

 

「そんなものかい破壊神さん? 僕はまだまだいけるよ。隠れてないで出ておいでよ」

 

 この挑発に、シヴァは乗らない。

 己が役割を理解しているからだ。

 ウリエルはやれやれと肩を竦める。

 

 違う場所では、邪龍王ヒュドラと狂乱の戦女神カーリーが壮絶な殺し合いを展開していた。

 互いに一歩も引かず、高笑いしながら引き裂きあっている。

 頭のネジが外れた者同士、心底楽しんでいる様に見えた。

 

 それらに羨望の眼差しを向けながら、羅刹王は雅貴に問い直す。

 

「先程の問いの続きだ。貴様は闘争以外に愉悦を見出だせると言ったな。それは何だ?」

「いや、戦闘民族である貴殿らには不粋な投げかけだった。許されよ」

「ほお」

「しかし、そういう輩がいるということを貴殿らは誰よりも理解している筈だ。…… 貴殿らを封印した英雄は、闘争に酔っていたかな?」

「……なるほど」

 

 ラーヴァナは笑う。周囲の羅刹達もだ。

 彼らは永遠の好敵手を思い出したのだ。

 

「わかるぞ……貴様は語りかけるのが巧いな。しかし、やきもきとさせてくれる……思い出してしまっては、恋しくなるだろうが」

 

 人類の極致たる闇の英雄王に思い馳せる彼らに、雅貴は満面の笑みを向ける。

 

「安心なされよ。貴殿らの好敵手は必ず来る。必ずだ」

「……根拠は?」

「彼は今でも救い続けているのだよ、世界を。己のエゴを貫くその過程で。──故に必ず引き寄せられる。我々にとってどうでもいい理由でも、暗黒のメシアは必ず世界の危機に参上する」

 

 雅貴が宣言した直後である。

 極大の生命力を持った何かが天界陣営の前に降り立ったのは。

 

 彼こそ武術家の元祖にして極致。無敵にして最強の殺し屋。

 

 羅刹王は歓喜のあまり立ち上がる。

 そして歓迎する様に両手を広げた。

 

 

「待っていたよ、我等が好敵手──暗黒のメシア」

 

 

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