villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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二話「内閣総理大臣」

 

 

 北区はギャンブラーの楽園だ。

 大小様々なカジノが看板を掲げている。

 ネオンサイトの輝きは中心地より強く、大通りを闊歩する者達は活き活きとしていた。

 世界中のゲーム、賭博を楽しめるこの場所は、デスシティの住民からも愛されている。

 

 一日で動く金額の総量は中心地より上。

 理由は客人達の多くが表世界から来た大富豪だからだ。

 

 デスシティに「法律」という概念は存在しない。

 民間警察もいない。

 故に、何も気にせず娯楽に耽る事ができる。

 富豪達は表世界で溜まった鬱憤を此処で晴らしていた。

 

 カジノ以外の商いも富豪達のニーズに答えている。

 中でもカジノの次に人気なのが、奴隷市場だった。

 

 日夜、世界中から美女美少女が入荷される。

 彼女達は強固な魔術拘束を施され、人権も剥奪されている。

 競り落とした者は彼女等を苛め殺すも良し、犯して調教するも良し、部下達の慰め物にするも良し。

 

 富豪達にとって、彼女達は便利な道具であり良質な玩具だった。

 

 男性の奴隷も存在する。

 容姿種族まで、多種多様な奴隷達が日々市場に並べられる。

 

 デスシティ北区──

 ここは貧富の差が最も顕著に出る場所だった。

 

 とあるカジノにて。

 店内から褐色肌の美丈夫が出てきた。

 真紅のマントをはためかせ、灰色の三白眼を輝かせている。

 

 店の前に居たバニーガール達は一様に彼に見惚れた。

 

「あァ……ッ」

「大和様……ッ」

 

 恍惚とするバニーガール達。

 客引きの仕事も忘れている彼女達に対し美丈夫──大和はウィンクをし、去って行く。

 

 彼は歩きながら、凝り固まった首をグルグル回した。

 

「ふぅ、面白かったぜ。……金も稼げたし、やっぱり賭博は最高だな」

 

 酒、煙草、セッ〇ス、賭博──

 この男の趣味にまともなモノはない。

「人間の屑」「褐色肌の糞野郎」の二つ名は、この低俗な人間性から付いたものだった。

 

 大和のスマホが鳴る。

 彼は画面で名前を確認すると、迷う事なく応答した。

 

「もしもし」

『久しぶりだね。大和君』

「久々だな、努くん」

 

 大和は親しみを込めてその名を呼ぶ。

 電話の相手は大黒谷努(だいこくだに・つとむ)

 日本の首相──内閣総理大臣である。

 

 内閣府の代表その人だ。

 とんでもない権力者である。

 彼は野太い声でガラガラ笑った。

 

『君くらいだよ。私をくん付けで呼んでくれるのは』

「一緒に女漁りした仲じゃねぇの」

『嫌いじゃないよ。君のそういうフレンドリーなところは』

 

 電話越しに分厚い唇を歪める努。

 少し丸いが彫の深い顔立ち。太い眉に短い鼻。

 腹は出ているが、鍛えられた胸筋と腕筋は中々のもの。

 まるで歴戦の相撲取りだ。

 

 大和は彼に用件を聞く。

 

「で、何の用だ? まさか世間話をするために電話してきたんじゃあねぇだろう?」

『察しが良いね』

「依頼か? 誰を殺して欲しい」

『早まらないでくれ。今回は依頼じゃあ無い。伝えたい事があるんだ』

「何だ?」

『私の管轄下の人間が不穏な動きをしている。なんでも、君の命を狙っているらしい』

「表世界の殺し屋だったら楽なんだけどな。この都市に入った瞬間死んでくれる」

 

 クツクツと喉を鳴らす大和。

 努は忠告する。

 

『油断は禁物だよ。デスシティの殺し屋を雇う可能性だってある』

「何?」

『確証は無い。今部下に探らせているところだ。しかし、用心に越した事は無いだろう?』

「わざわざサンキューな」

『君は良きビジネスパートナーだ。当然だよ』

 

 努はそう言いながら、ベッドの上で腰を揺する。

 眼下で喘ぐ美女。

 尻を鷲掴まれ、いやらしい嬌声を一層高めた。

 大和は色々察し、肩を竦める。

 

「でもよォ努くん。こんな回りくどい真似せずに俺に頼んだらどうだ? 馬鹿な部下を殺してくれって。こちとら無法者だ、政治家だろうが殺せるぜ?」

『私達の問題だ、私達で解決するよ。この程度の問題を一々君に任せていてはキリが無いからね』

「おーけーおーけー」

 

 努の言い分もわかるので、鷹揚に頷く大和。

 そんな彼の視界に、とびきりの美女が映った。

 

 獣人族の女。

 頭の上から狼耳がひょっこり生えている。

 童顔ながらも可憐な顔立ち。

 ショートに整えられた黒髪はよく手入れされている。

 服装はTシャツにホットパンツというラフなスタイル。

 ボーイッシュな容姿だが、豊満な肉付きをしていた。

 

 彼女は満面の笑みで大和に駆け寄ると、その腕に抱きつく。

 ホットパンツから出ている尻尾がブンブン振られていた。

 

 大和は三白眼を丸めた後、スマホを離して彼女に聞く。

 

「え? お前誰?」

 

 美女は固まった。

 その後、頬をハムスターの様に膨らませ、大和の足を踏みつける。

 次に声を出そうとしたその唇に、大和は指を当てた。

 そして電話を指す。

 

 電話中だ。後にしろ。

 

 言外にそう告げていた。

 美女はもう一度頬を膨らませると、大和のすねを蹴る。

 大和は鬱陶しいとばかりに視線を逸らした。

 

「ああ、悪ぃな努くん。ちょっと絡まれてよぉ」

『君がかい? 珍しい事もあるものだ』

「まぁな」

 

 大和は狼女の頭を乱雑に撫でる。

 耳ごとモフモフされるも、彼女はまんざらでもない様子だった。

 その証拠に口元がニヤけている。

 

『話を戻そう。私達の問題は私達で解決する。もしも君にとばっちりが来た場合、悪いが君のほうで解決してくれないか?』

「本来なら慰謝料でも請求したいところだが……努くんは大事な顧客だ。いいぜ」

『ありがとう』

 

 大和は懸念している事を努に聞く。

 

「だが大丈夫か? 問題の発端はデスシティに関わってる可能性があるんだろう? 他にもデスシティの住民が絡んでる可能性が高いぜ」

『大丈夫さ。私も数十名ほど雇っている』

「さっすが」

『だが、やはりその都市で起こっている問題には関与できないんだ。何せ総理大臣だからね』

 

 努の言い草に、大和は吹き出す様に嘲笑した。

 

「それでも週一でここに遊びに来てるんだろう? ええ?」

『ハッハッハ。プライベートと仕事は別さ』

「いい建前だな」

『建前は重要だ。そして、こんな馬鹿みたいな建前を平気で呟ける今の環境を、私は何よりも愛している。だからこそだ。私は邪魔者に一切容赦しない。例え小さな芽であろうと、雑草であればすぐに摘む』

「金、女、権力。全て思いのままだもんな」

『んー、もう少しオブラートに包んで欲しいな』

 

 互いに笑い合う。

 不意に、大和は腹部に違和感を感じた。

 見下ろすと、狼女が己の衣服をはだけさせていた。

 

 彼女は舌なめずりしながら作業に没頭している。

 害は無さそうなので、大和は無視した。

 

 狼女の手は止まらない。

 大和の浴衣をどんどん崩してゆく。

 

 浴衣が緩み、大和の腹部が露わになった。

 狼女は表情を蕩けさせ、熱い熱い溜息を吐く。

 

 見事な腹筋だった。

 無駄な肉は筋肉すらも削ぎ落され、実用性のある肉のみが残っている。

 くっきり八つに割れた筋。体格の割に細いウエスト。

 

 機能美を極限まで追求した、筋肉のあるべき姿。

 あまりの美しさに、狼女は思わず涎を垂らした。

 

 そんな彼女を見て、大和は思わず苦笑する。

 

(アー思い出した。コイツ、筋肉フェチの傭兵狼女だ)

 

 過去に何度かセッ○スした仲だった。

 

『大和君?』

「ああ悪い、他の所に目がいっちまってよ」

『では、もうそろそろ通話を終えようか』

「おう。そっちは真っ最中なんだろう?」

『ああ、やっぱりわかるかい?』

「そりゃぁ、女の声がな」

『ハッハッハ』

 

 大和は笑いながら、再度下を覗く。

 狼女は脇腹にある刀傷に釘付けになっていた。

 

 大和の肉体には大小様々な傷跡が奔っている

 中でも脇腹の刀傷はクッキリと残っていた。

 

 狼女はソレを指でなぞる。

 耳がツンと立った。

 

 次にゆっくりと舌を這わせる。

 唾液のヌメリとした感覚に、大和は背筋を震わせた。

 

「……じゃあ努くん。また今度電話するわ」

『わかった。そうだ、今度一緒に女漁りをしないか? 今の愛人には飽きてしまってね』

「その内な」

『君も、その都市も、僕は大好きだよ。総理大臣としてでは無く個人的に、ね。では──』

 

 通話が切れる。

 大和は、刀傷にむしゃぶりつく狼女の頭を撫でた。

 狼女は驚くが、すぐに表情をだらしなくする。

 

「やけに積極的だな……発情期か?」

 

 間を置いて、コクリと頷く狼女。

 彼女は情欲に濡れた瞳で大和を見上げていた。

 大和は唇を歪める。

 

「……筋肉フェチの馬鹿女が。近くのホテルにいくぞ」

「!!」

「イイ声で喘がせてやる」

「~ッッ♡♡」

 

 狼女は嬉しさの余りジャンプして大和に抱きつく。

 大和は彼女をお姫様抱っこすると、近くのホテルへ足を向けた。

 

 

 


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