絢爛にして悪辣。
この世に存在するあらゆる欲望を叶えてくれる魔界都市デスシティ。
ワイバーンの群れが暗黒色の曇天を飛び回り、飛行車の行列がクラクションを鳴らしながら住民たちの頭上を通りすぎる。
住民たちは無名の人斬りに強化サイボーグ、アンドロイドに妖怪、妖精など。
麻薬の甘い香りが裏路地から漂う腐乱臭を和らげ、人外の女たちが生来の美貌で男たちをたぶらかそうとしている。
大通りに並ぶ出店には独自に調合された魔薬や魔改造の施された重火器が並んでいた。
丁度、すぐそばで縄張り争いしているマフィアたちが品を買いしめている最中だった。
魔薬を飲んだ一人がみるみる内に怪物へと変貌し、重火器で武装した構成員達が後に続く。
しかしプログラミングされた中級の焔魔術によって怪物ごと消し炭にされた。
ゲラゲラと笑い声が響き渡る。
街頭娼婦のサキュバスも、傭兵のオークも、腹を抱えて笑っていた。
命をまるで玩具の様に弄び、貶める。
それが当たり前。故に魔界都市。
七色に輝くドギツイネオンは、無惨に死んでいった者達の命を糧に輝いていた。
◆◆
真紅のマントは彼以外に着用を許されていなかった。
コレは暗黙の了解であり、破ればデスシティの殺し屋や賞金稼ぎに命を狙われる羽目になる。
何故なら、はた迷惑だから。
真紅のマントは暗黒のメシアを一目で判断できる材料。故に許されない。
彼──大和以外の着用は。
「大和ぉ……さっさとホテルいこぉ、ホテルぅ♡」
「あっ♡ 胸を、揉むなぁ♡ まだ、早い……っ♡」
金髪碧眼のエルフと銀髪灼眼のダークエルフを両腕に抱きながら、大和は中央区の大通りを歩いていた。
道行く者達は畏怖と羨望の眼差しを向ける。
女たちは侍るエルフたちに嫉妬の念を向け、男たちはそそくさと道を逸れる。
この都市で彼がどれだけ影響力を持っているか、簡単にわかってしまう。
大和はダークエルフの張りのある、しかし豊満な乳房を揉みしだきながら聞いた。
「なんだ? 嫌なのか?」
「そんな、ことは……っ♡ 時と場所を……うあんっ♡」
「ククク」
適当にダークエルフを苛めながら隣で拗ねているエルフの唇にキスを被せる。
エルフは表情を蕩けさせ、舌を絡めた。
ふらふらと歩く三名、その横を影の薄い侍が通りすぎた。
刹那、銀閃が煌めき、鍔鳴りの音が響き渡る。
侍は暗い顔を喜悦で歪めた。
しかし次の瞬間、ボトリと両腕が落ちる。
「……へ?」
侍は宙でそれを眺めていた。
自分の両腕と首が斬り飛ばされたと気付くまで、三秒もかかった。
理解すると同時に絶命する。
背後で血飛沫が上がる中、大和はやれやれと脇差しを納刀した。
「……? 大和、どうした?」
「何でもねぇよ」
ダークエルフも、エルフも、気付いていない。
今の刹那の攻防を──
大和は怪訝な表情をしているダークエルフの額にキスをする。
彼女はくすぐったそうに身を捩らせた。
ふと、三白眼を細める。
そしてエルフの豊満な乳房を支えるボタンを一つ取った。
「あぁん、大和のエッチ♡ ホテルはまだ先よ?」
「お前の胸に直接手を入れたくてな」
そう言いながら、先程取ったボタンを背後に弾き跳ばす。
おおよそ七キロ先の高層ビルで狙いを定めていたスナイパー、そのスコープごと脳天を貫く。
大和はエルフの服の中に手を入れる。
嬉しそうに悲鳴を上げる彼女を抱き寄せながら告げた。
「オラ、もうホテルだ。立てなくなるまで可愛がってやる」
「「……っ♡♡」」
雌の顔をした二人を大和は連れていく。
そして静かにほくそ笑んだ。
(いいねぇ……殺意と本能が俺を昂らせる。もっとだ、もっと楽しませろ)
その灰色の三白眼を輝かせるのは、果てない欲望と憎悪だった。
退屈な世界を蔑み、調子に乗ってる輩を嘲笑い、その全てを犯し尽くす。
善? 悪? そんなもの関係ない。
自分が楽しければそれでいい。
それで悪と謗られても、知ったことではない。
天上天下唯我独尊。
最強にして最悪の益荒男の物語が、再び始まる。
この世界は、彼を楽しませる箱庭でしかないのだ。