一話「新たな弟子」
大和は大衆酒場ゲートで昼食をとっていた。
天ぷらうどんと野菜ジュースのセットはお決まりのメニューである。
厨房にいるネメアは思わず聞いた。
「何時も同じメニューで飽きないか?」
「全然、うめぇし」
「嬉しいが、他のメニューもおすすめだぞ。最近また料理の腕が上がったんだ」
「マジか、じゃあ今度はおすすめ頼むわ」
「任せろ」
気軽な、友人同士の会話。
締めに野菜ジュースをがぶ飲みした大和は行儀よく両手を重ねると、席を立つ。
「さぁて、腹ごなしも済んだし……今日はカジノにでも行くかなぁ」
爪楊枝を咥えながら店を出ようとする大和の前で、小さな騒動が起こっていた。
二人組の女。片方は厳つい美女だ。
鮮血色の長髪をポニーテイルに結い、金色の瞳を鋭く輝かせている。
服装は紺色の袴を極太のしめ縄で締め、上半身はサラシ。
桜吹雪の舞った羽織を肩から羽織っている。
ボンキュボンのナイスバディだが筋肉質であり、腹筋はバキバキに割れていた。肩の筋肉も凄まじい。
それでも凄絶な色香を醸しているのは、彼女が人外であるからだろう。
現に、その額には二本の角が生えていた。
彼女は大和に用件があるのだろう、気軽に手を上げる。
「おう大和、よかったぜ。鬼狩りのチンチクリンがいない時にいやがった」
「
朱天。本名を酒呑童子。
平安時代に京都で大暴れした東洋を代表する鬼神。
現在は強力な妖魔で構成されている暴力集団「朱天組」の組長を務めており、その異常な喧嘩の強さから世界最強の拳法家達「四大魔拳」の一角に数えられている。
鬼という種族の超越者。
EXクラスの戦闘力を誇るデスシティの真の強者の一人だ。
大和と然程身長が変わらない彼女は、彼の肩を気軽に叩く。
「お前に頼みてぇ事があってよ。今暇か?」
「まぁ、暇だぜ。どうした」
「コイツを一人前に育てて欲しいんだよ」
「……はぁ?」
頓狂な声を上げた大和は朱天の隣にいる少女を見下ろす。
可憐な美少女だった。
濡羽色のミディアムヘアに深緑色の双眸。
デスシティの美女達の中でも上位に入るであろう顔立ち。
服装は白の着物に紺の袴、肩から白銀の羽織を羽織っている。
その額には角が一本、腰には妖気を纏った刀が帯びられていた。
小柄な彼女は大和を見上げると、深くお辞儀をする。
朱天は彼女を指差した。
「コイツ、鬼なんだけど生来力が弱くてな。俺じゃあどうしても教えられない部分がある。だからお前に期間限定で師匠をして貰いたいと思ってな」
「……」
「報酬はきっちり払うぜ。コイツ、他の奴らから貧弱だって馬鹿にされはじめてな。コイツはコイツで才能あると思うんだが……どうだ?」
そう言われ、大和は鬼娘の頭頂から爪先まで観察する。
鬼娘は硬直した。
大和の返答は意外なものだった。
「コイツ、天才だぜ。武術の素質がズバ抜けてる。ここまでの逸材は中々いねぇぞ」
「……!!」
鬼娘は思わず顔を上げる。
その瞳には期待と猜疑心、どちらも混ざっていた。
大和は苦笑しながら彼女を抱き寄せる。
「いいぜ、コイツは俺が預かる。暫く暇だったからな。コイツを馬鹿にした脳筋共を見返せるくらい強くしてやるよ」
大和の発言に、鬼娘は思わず声を上げた。
「あの……本当に見返せるでしょうか。私を馬鹿にした奴らを」
「任せとけ。だが俺の修行はキツイぞ。耐えられるか?」
鬼娘は迷わず頷く。
「はい……! 是非ご教授ください! 師匠!」
そのエメラルドの眼に滾る決意をくみ取り、大和は笑った。
「よし、お前はこれから俺の弟子だ。頑張れよ」
「はい!」
礼儀正しく頷く彼女の頭を、大和は優しく撫であげた。