Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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四話「師弟」

 

 

 大衆酒場ゲートにて。大和はゆっくりと寛いでいた。

 彼は何時ものカウンター席では無く、団体用のテーブル席に座っている。

 理由は両脇に侍る女達だ。

 

「大和ぉ……はやくホテルいかない?」

 

 猫なで声を上げて、金髪碧眼のエルフが大和にしなだれかかる。

 薄いシャツから豊満な乳房が零れそうだった。

 ウェーブのかかった金髪は生来のものであり煌びやか。

 陶磁器の如き白い肌は興奮で桃色に染まっている。

 

「むぅ、本当は私が大和と楽しむ予定だったんだ。図々しいぞ」

 

 反対方向で、銀髪赤目のダークエルフが頬を膨らませていた。

 エルフと同じく私服姿で、長いポニーテイルを揺らしている。

 豊満な乳房を窮屈そうに揺らしながら、女性特有の甘ったるい香りをふり撒いていた。

 

 剣呑な様子の彼女達に、大和は妖艶に笑いかける。

 

「喧嘩すんなよ。後でまとめて可愛がってやるから──」

 

 抱き寄せられ、低い声で囁かれる。

 それだけで女達は表情を蕩かせた。

 

 そんな三名の前に、ウェイトレスの美女がやって来た。

 金髪碧眼のカウガール。以前、大和が口説いた女性だ。

 彼女は一瞬複雑そうな表情をしたが、次には明るい笑顔を作る。

 

「いらっしゃいませー! ご注文伺いますよ~♪」

「ん? じゃあ──おすすめのラムを三本。後はドライフルーツの盛り合わせ」

「かしこまりました! 少々お待ちくださいねーっ」

 

 踵を返すウェイトレス。

 その背に大和は声をかげた。

 

「おい。追加の注文、いいか?」

「はい! 何でしょう?」

 

 ウェイトレスは振り返る。

 大和は懐から小紙を取り出し、ウェイトレスに差し出した。

 ウェイトレスは半信半疑で受け取る。

 

 小紙には──電話番号が記載されていた。

 大和の携帯番号だ。

 

「その気があったら何時でもかけてきな」

「あっ……えっと、そのっ」

 

 突然の申し出に戸惑うウェイトレス。

 驚き半分、嬉しさ半分と言ったところだろう。

 大和は甘い声音でささやいた。

 

「可愛がってやるからよぅ」

「……~っ♡」

 

 ウェイトレスは顔を真っ赤にする。

 彼女は両手で小紙を包み込み、嬉しそうに去って行った。

 その背に大和は柔らかい笑みを向けていたが──両脇の女達は唇を尖らせている。

 

「大和のばかっ」

「全く、節操が無いのは相変わらずだな」

「そう怒んなって……今夜はたっぷり相手してやる」

「……満足させてくれなきゃ、許さないからねっ」

「期待しているぞ」

 

 二名は大和に体重を預ける。

 そんな彼女達の頭を、大和はくしゃりと撫で上げた。

 

 

 ◆◆

 

 

 一方、カウンター席では純白のスーツを着た大男──右之助が、大和の様子を見ながらニヤニヤ笑っていた。

 彼は紫煙をくゆらせながら、店主に問いかける。

 

「へいへい店主さん、雇ってるウェイトレスが例の女っ垂らしに口説かれてますよ。注意しなくていいんですかぃ?」

 

 茶目っ気たっぷりの質問に、店主である金髪の偉丈夫──ネメアは眉を顰めた。

 彼は広げた新聞から視線を外さず、ぶっきら棒に返す。

 

「知らん。警告はしてる。アイツに関わるとロクな事にならんぞ──と。それでも関わるんなら、後は自己責任だ」

「カッカッカ、厳しいねぇ!」

 

 ネメアは大笑いする右之助にジト目を向けた。

 

「右之助、お前もアイツの事は言えないぞ。お前には四人駄目にされた」

「ありゃ? 俺を棚上げする? よせやい。寄ってきたのは女のほうだ」

「変わらんだろう。アイツと」

 

 ネメアは溜息を吐く。

 右之助は肩を竦めた。

 

「アレと一緒にすんなっての。見ろよ、女共がまるで花に寄ってたかる蝶みてぇだ」

「蝶とは、また随分綺麗な例えだな。砂糖に群がる蟻みたいなものだろう」

「うっは、心痛。……ネメア、お前女が嫌いなのか?」

 

 苦笑する右之助に、ネメアは鼻を鳴らす。

 

「好きではないな。特にこの世界の女は……誰にでも股を開く」

「その単純さがいいんじゃねぇか」

「……」

「ふむ……」

 

 ネメアの不機嫌そうな横顔を拝んだ右之助は、一つ質問する。

 

「なぁネメア」

「何だ」

「お前もしかして……ゲイか?」

「ぶっ殺すぞ」

「ありゃ、違った?」

「出禁にするぞ」

「すんません」

 

 鋭い眼光を伴った碧眼に射貫かれ、謝る右之助。

 平謝りだったが、ネメアはそれ以上追求しなかった。

 面倒臭いのだ。

 

「……ところで、右之助」

「あん?」

 

 ネメアは新聞を畳み、頬杖をつく。

 彼の雰囲気が変わったので、右之助は首を傾げた。

 

「最近、大和に殺し屋が雇われたらしい。……誰か心当たりはないか?」

「いやぁ、全然」

 

 素知らぬフリをする右之助。

 実は知っているのだが、彼もプロである。

 仕事に関わる情報は容易に出さない。

 

 対して、ネメアは残念そうに肩を竦めた。

 

「そうか、残念だ。最近、東区のみで製造されている幻の芋焼酎を手に入れたんだが……他の奴に振る舞うか」

「オイオイそりゃ無いぜ。ちょいタンマ。話し合おう」

「やっぱり知ってるんだな」

 

 右之助の狼狽ぶりを見て、ニヤリと笑みを浮かべるネメア。

 

「お前はそんじょそこらの情報屋より顔が広いからな」

「褒めてるつもりか? アア?」

「で、返事は?」

 

 しばしの沈黙の後、右之助はくぐもった声で言った。

 

「……ほんの一部の情報しか流せねぇ、こっちも商売だからな」

「十分だ」

「……後、その芋焼酎は全部俺が飲む。完全に予約したからな、誰にも渡すなよ。特に大和には!」

「はいはい」

 

 急に子供っぽくなった右之助にネメアは苦笑する。

 右之助は大きな溜息を吐くと、小声で喋り始めた。

 

「本当に、極一部の情報しか渡せねぇからな」

「構わん。俺としては、その殺し屋に理性があるか、無いか、それだけが知りたいんだ」

「……ハァ? 何でそんな事」

「店で殺し合いをされたら困る。理性の無い奴なら、暫く大和を出禁にする」

「成程」

 

 右之助は顎を擦った後、苦笑した。

 

「出禁にしたほうがいいかもな」

「ありがとう。助かった」

「芋焼酎は後でいいぜ。先に話付けてきな」

「ああ」

 

 ネメアは立ち上がり、大和の元へ向かう。

 しかし──少し遅かった。

 

 例の殺し屋は、既に店内に入って来ていた。

 

 紺色の浴衣が揺れる。

 細身ながらも鍛え抜かれた肉体。

 垂れ流された黒髪の合間から見えるのは、紺碧の双眸。

 

 鎌鼬の疾風(はやて)

 

 彼は大和の席の前で立ち止まる。

 周囲の客人達は何事かと振り返った。

 

 大和は侍る女達を立ち退かせる。

 そして、その灰色の三白眼を嫌悪によって細めた。

 

 疾風は丁寧に告げる。

 

「お久しぶりです。貴方を殺しに来ました──師匠」

「政治家に雇われた殺し屋、まさかテメェとはな……剣技を叩き込んだ恩義を忘れたか、クソ弟子」

 

 両者は睨み合う。

 膨れ上がる殺気は、酒場にいる客人達を心底恐れさせた。

 

 

 師弟同士の殺し合いが、始まろうとしている。

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