一話「第三帝国の影」
第三帝国ネオナチスが動き始めた。
最近デスシティで噂になっている。裏側の世界に身を置く者ならば、無視できない内容だ。
何せ第三帝国の首領は最強最悪の王でありEX+クラスの特異点、ソロモン。
現存している不滅の第五終末論『ムースピリ』の代行者である。
そして、彼を支えている別格の超越者達。
世界最強の槍術家「三本槍」筆頭、『魔槍』ヴォルケンハイン。
嘗て唯一神に抗った旧人類が創造した『対神仏用終極兵器』ゴグ・マゴク。
ヒュドラと双璧を成す最強クラスのドラゴン、『魔龍王』ニーズヘッグ。
世界から無尽蔵に湧き出る負のエネルギーを吸収し最強の祟り神となった『崇徳上皇』。
西洋最強の妖魔、吸血鬼の始祖であり原点、『神祖』ヴラド・ドラキュリーナ。
以上五名は五師団の大隊長を務めており、個人のランクはEX。
配下にも多数超越者が存在する。
彼等の恐ろしい点は『世界滅亡』という確固たる野望を掲げているところだ。
雅貴ら七魔将と違い、世界に対して明確な憎悪を抱いている。
各々思惑はあれど意思は統一されており、厄介極まりない。
世界政府を始めカトリック、プロテスタントの二大宗教。
日本の呪術協会に西洋の魔術結社。
更には世界各地の神話勢力が、ネオナチスの動きに目を光らせていた。
そんな中、超犯罪都市デスシティは平常運行。
都市の営みに支障は無く、所々で噂が広まる程度。
五大犯罪シンジケートも警戒こそすれ、注意はしていない。
何故なら、この都市には最強最悪の英雄が在住しているからだ。
数億年前から、世界を破滅の危機から救い続けている二名の英雄がいる。
天使と悪魔による終末論の引き金『ハルマゲドン』
外宇宙からの頂点捕食者ドラゴンの襲来『カリユガ』
全神話体系による大戦争『ラグナロク』
クトゥルフ系列の邪神群との最終決戦『デモンベイン』
以上の四大終末論を踏破し、全人類の守護者にして英雄の冠位資格を誇る両雄。
片や、正義と礼儀を重んじ、民と平和を愛した万夫不当の勇者王。
片や、欲望の限りを尽くすも圧倒的な暴力で全てを捻じ伏せた生来の怪物。
勇士と化物。光の闇。陽と陰。
生粋の英雄である両者は、しかし対極を成す存在だった。
『悪鬼羅刹』『暴力の化身』『意思を持つ天災』『神秘殺し』『虐殺者』
闇を司る英雄は、太古の昔から畏怖され嫌悪されてきた。
曰く「最強」。曰く「無敵」。曰く「無敗」。曰く「必勝」。曰く「頂点」。
存在そのものが人類の特異点であり極致。
生まれながら最強で在る事を約束された、人類の可能性が生み出した正真正銘の化物。
殺戮と破壊に特化した総合武術「唯我独尊流」の創始者にして、「武神」と謳われた古今無双の兵法家。
世界最強の武術家にして殺し屋──。
彼の存在はデスシティの秩序そのものだった。
もう片方の『勇者王』も眠れる獅子としてこの都市に滞在している。
両雄の存在は第三帝国を以てしても驚異だろう。
故にデスシティの安寧は約束されていた。
しかし時代が乱れ変わりつつある今──遂にこの安寧も破られようとしていた。
◆◆
デスシティに雪が積もった。
季節は冬──。
天候が不安定なこの都市にも、一応四季と呼ばれる概念は存在する。
しかしそこは魔界都市。
降り注ぐ雪には有害物質が多く含まれており、直に浴びれば皮膚が壊死する。
そのため住民は必ず傘を差し、簡易魔術の施された服を着込む。
何気ない日常の中にも死の危険が潜んでいる。
ここは魔界都市なのだ。
大衆酒場ゲートは、相も変わらず憩いの場と化していた。
種族の枠を越えて皆暖を取っている。
妖精詩人の奏でる温かな音楽に包まれる中、カウンター席で豪快に酒を呷っている褐色肌の美丈夫がいた。
度数の強い酒だが、彼からすれば湯水と変わらないのだろう。
美丈夫──大和は笑う。
「いやぁ、快適快適。あったけぇし、イイ酒とつまみはあるし……雪の日はここに籠るに限るぜ」
その言葉に店主、ネメアは肩を竦める。
「ほぼ毎日お前の顔を見ている気がするが?」
「お前も嬉しいだろう? 親友の顔を毎日見れて」
「酔いが回ったか?」
「そっちこそ、照れ隠しか?」
「外に放り出されたくなかったら黙って飲んでろ」
「へいへい」
互いに笑っていられるのは深い絆があってこそ。
大和とネメア──彼等こそデスシティの誇る最強の超越者。
幾度となく世界を救っている光と闇の英雄王である。
彼等の存在がゲートの安全を磐石なものとしていた。
故に皆、気を抜いていた。
しかしとんでもない来訪者が現れる。
彼等を見て皆即座に臨戦態勢に入ったほどだ。
ウェスタンドアを開けて現れたのは二名の軍人。
見事な金細工の施された漆黒の軍服とコート。
髑髏のエンブレムが付いた軍帽。
そして……
第三帝国ネオナチスの軍人である。
ウェイトレスをしていた野ばらと黒兎が殺気を滲ませるも、ネメアが手で制した。
軍人達は大和達の元に来ると、軍帽を取った。
どちらも獣人。女は虎の、男は狼の亜人である。
獣色が濃く、人形の肉食動物と言ったほうが正しいだろう。
虎の亜人が、大和に無邪気な笑みを向けた。
「旦那、久々だな」
「……ブルーム。お前、ネオナチに入ったのか」
「まぁな。おおっと勘違いしないでくれよ? 別に騒動を起こそうってワケじゃねぇんだ。少し話を聞いて欲しい。なぁ、頼むよ旦那」
「「……」」
大和はネメアと視線を合わせる。
ネメアは渋々頷いた。
店主から了承を得た大和は、二名に向かって笑いかける。
「そんで、何の用だよ」