Villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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三話「憎悪せよ、謳歌せよ」

 

 

 ソロモンの瞳にかつてない「輝き」を見た大和は、暫くすると面白げに笑った。

 

「何がおかしい?」

「気にすんな」

 

 ソロモンは怪訝な表情をするも、前を向いて歩き始める。

 彼は不意に告げた。

 

「どうだった、隊員達から向けられる羨望の眼差しは」

「仕込みやがったな」

「ああそうとも。「道具」にいらない感情を向けられるのは不快極まりないからな。……くくく、丁度良いスターだったよ。お前は」

「神経質な野郎だ。潔癖症もここまで来ると最早病気だな」

 

 皮肉の応酬、しかし両者笑ったままだ。

 今度は大和が問う。

 

「お前の奥さん、エヴァだったか? ちゃんと構ってやれよ」

「あんなもの、ただの飾りだ。幾らでも替えがきく」

「勿体ねぇ。音楽にしろ容姿にしろ、いい線いってんのに」

「なんならくれてやろうか? アイツから向けられる感情は、正直不快極まりないんだ」

「テメェを本気で愛してんだぜ、アレは」

「それが余計なんだよ。アレはただの広告塔、それ以外の価値などない。アレよりも良いモノがあれば、さっさと交換するさ」

「捨てる時は俺に言ってくれ。可愛がってやるから」

 

 大和の発言に、ソロモンはやれやれと肩を竦めた。

 

「相変わらずだなお前は、まるで獣だ」

「どうとでも呼べや」

「……くくく、そうか」

 

 ソロモンは自室へやって来ると窓を開け、ベランダに出る。

 そして手摺に寄りかかり、艶然と笑った。

 

「今宵はクリスマス、だったか? さぁ……存分に語り合おう、暗黒のメシアよ」

 

 

 ◆◆

 

 

「私は欲しいと思ったものは何が何でも手に入れる……いいや、今まで「何かを欲しい」と思った事が無いから、歯止めが効かないだけなのかもしれない。しかし今となっては些事だ。何故なら、欲しいものが目の前にあるから」

 

 妖艶に笑うソロモン。

 それは大隊長達すら見たことの無い、暴君の欲望の発露だった。

 

「お前は特別だ、大和。私はお前が唯一無二の存在だと気付いた。神代の時代から生きる闇の英雄王? 暴虐非道なる魔人? 武神? あってはいる。だがお前の本質を捉えていない、有象無象はお前の真価に気付いていない!」

 

 ソロモンは笑顔で両手を広げる。

 

 

「お前だけなんだよ! 先天的な超越者でありながら後天的な超越者に至ったのは! 歴史上、お前ただ一人なんだ!」

 

 

 そのまま、熱に浮かされた様に語り始める。

 

 

「お前は第一終末論『ハルマゲドン』にて人類最終試練、『アダムとイブ』のアダムとして生まれた。旧人類を滅ぼす新人類、欠点の無い完成された存在として。しかしお前はソレを否定した! 骨肉が変形するほどの過酷な鍛練と不倒不屈の精神力を以てして! 創造主である唯一神を打破し、世界を救ってみせた!」

 

 ソロモンは心底不思議そうに問う。

 

「何故「権利」を捨てた? 貴様ならなれただろう、新人類の王に。だからこそ大王朝「出雲」の皇子として生まれた。お前は人類の頂点になるべくして生まれた男だ。何故……」

「俺が俺であるために」

「……わかってはいる。だが理解できない。貴様は我を通したい、ただそれだけのために捨てたのか? 新人類の王の地位を、最強無敵になれる才能を」

「全て与えられたもんだ、何の価値もねぇ」

「なっ……」

 

 絶句するソロモンに、大和は笑いかける。

 

「俺の人生は紙芝居じゃねぇ。俺は、神様の人形じゃねぇ」

「しかし……!」

「エリザベスは……まぁアイツ生真面目だから、わざと成長遅らせてるけど。そうでもしねぇと人類滅びるし、かと言って世界を護らなきゃなんねぇし。ネメアに関しては、言わなくてもわかるだろう? 他の奴等も、概ね「先天的な超越者」としての使命を全うしてる。お前にしろ……な」

「……」

 

 黙るソロモンに、大和は穏やかな声音で語りかける。

 

「いいじゃねぇか、好きにしろよ。お前は人類が憎い、世界が憎い。だから滅ぼす。勝手にしろよ、お前の自由だ」

「……論点をすり替えるな、私は」

「俺は人類最終試練の「俺」が気に入らなかった、だから滅ぼした」

「……」

「お前が世界を滅ぼしたい様に、俺は己自身を滅ぼしたかった。だからした。……要は対象の違いであり、事前か事後かの違いだろう?」

 

 大和は懐からラッキーストライクを取り出し、口に咥える。

 

 唯我独尊、天衣無縫。

 彼は既に「完結」している。

 

 ソロモンは未知の感情を覚えた。

 長い時の中で感じた事のない思い……衝動に駆られるがままに告げる。

 

「大和、私のものとなれ。いいや、私の隣に立て。副総統待遇だ、私と同等の権利を与えよう。金銭面、その他あらゆる要望を叶えてみせる。だから……」

 

 私と共にいろ。

 妻のエヴァにすら言った事のない告白だった。

 しかし大和はニヒルに笑う。

 

「NO、俺は俺だけのもんだ。誰にも譲らねぇ」

「どうすれば譲る、明確な条件を提示しろ」

 

 殺意すら滲ませるソロモンに、大和は飄々と答えた。

 

「屈伏させろ。力で捩じ伏せ、無理矢理言うことを聞かせるんだ。野生の獣を家畜にするが如く……平伏させてみせろ」

「…………」

「得意分野だろう? ソロモン」

 

 クツクツと喉を鳴らしながら大和は踵を返す。

 

「じゃあな、ぼちぼち頑張れよ。ああ、あと……」

 

 大和は背後に名刺を投げる。

 ソロモンは指で挟み受け取った。

 

「殺し屋としての依頼なら受け付けるぜ、何時でも言いな」

 

 大和は脇差しで次元を切り裂き、消えていった。

 彼の背を見送ったソロモンは、容姿相応の儚さを顔に滲ませる。

 

「違うんだよ、大和……私はお前を隷属させたいワケじゃない。……隣に居てほしいだけなんだ」

 

 初めて共感し合えた存在を、ソロモンは心より欲していた。

 その感情は、恋に近しいものだった。

 

 

 ◆◆

 

 

 祝祭会場に直接繋がっている別のベランダにて。

 五師団の大隊長はソロモンたちの会話を盗み聞きしていた。

 盗み聞き、というよりも五名の超感覚を以てすれば聞こえるものを聞いただけなのだが……。

 

 歩兵師団長、ヴォルケンハインはやれやれと肩を竦める。

 

「フラれちまったか……」

「そういう話題だったか?」

「スカウトに失敗したんだ、結果的にはそうだろ」

「……そうなのか」

 

 ふむと顎を擦ったのはストレートの金髪を腰まで流した美男。

 空挺師団大隊長にして最強クラスのドラゴン、「魔龍王」ニーズヘッグ。

 

 彼は鼻で笑った。

 

「どうでもいい。俺が、俺達ドラゴンが望むのは終わりなき闘争と蹂躙だ。それさえ叶えられれば、後はどうでもいい」

「珍しく意見が合うじゃねぇか、ニーズヘッグ。俺もだぜ。戦争ができればいい。血を血で拭う暴力の広場があれば、それでいい」

 

 虐殺者と戦争中毒者。

 空挺師団と歩兵師団の大隊長は、内容に些か違いがあるものの求めているものは一緒だった。

 

 戦争、闘争、そして蹂躙──

 世界の破滅を目論むソロモンは、二名にとって利害の一致する存在だった。

 最も、忠誠心は欠片もない。上辺だけのものである。

 それは他の隊員達にも言える事だが……

 

「…………」

 

 何も語らず、機工師団長ゴグ・マゴグはこの場を後にする。

 ヴォルケンハインは苦笑した。

 

「愛想のねぇやつ」

「アレは兵器だ、愛想など無いに決まっているだろう」

 

 そう言ったのは艶やかな黒髪を靡かせる美男、山岳師団長「崇徳上皇」だった。

 

「しかしソロモンめ……人間臭くなったな。だがこれからだぞ。人間という生き物が如何に業深き存在なのか……知るいい機会だ」

 

 彼はある意味、最も人間の本質を理解している存在だった。

 それでいながらソロモンに手を貸している、特異な存在でもあった。

 

 彼は隣に居る吸血鬼の女王に問う。

 

「お前は何が目的だ、神祖。裏で色々しているようだが?」

 

 派遣師団長、ヴラド・ドラキュリーナは鼻で笑い返す。

 

「アンタに教える義理があるの?」

「無いな」

「でしょう。ならせめてあのお坊ちゃんの行く末を見守ってなさい。私は私で目的があるから」

 

 傲慢不遜に去っていくドラキュリーナ。

 ハイヒールの足音が冷たく響く中、崇徳上皇は小さく囁いた。

 

「世界の混沌化……最早無視できないところまで来ているな」

 

 しかしそれもまた良しと、彼は世界そのものを嘲笑う。

 そうして宴会の間へと戻っていった。

 

 世界の混沌化は激的な速度で進んでいる。

 表と裏の拮抗が崩れる時は、そう遠くないのかもしれない。

 

 それでも、大和という男は「大和」であり続ける。

 物語はより一層濃く深くなっていくのだ。

 

 

《完》

 

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