villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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第三十六章「刺客伝」
一話「堕淫」


 

 

 肉を食いちぎるための鋭い歯が開けられ、漏れたのは甘い嬌声だった。

 濃紺色の肌は汗で濡れており、六を越える多腕は跨がっている益荒男の腰を誘うように撫でる。

 

 腰がリズミカルに揺れれば腹の奥を削られ、全身に快感が駆け巡る。

 90を越える豊満な乳房が「ぶるん」と激しく自己主張した。

 

 殺戮と狂乱の戦女神──カーリー。

 彼女は何時もの凶悪な笑みを浮かべていない。

 蕩けきった顔で、甲高い喘ぎ声を上げていた。

 

 

 ◆◆

 

 

 数時間後。

 満足したカーリーは甘ったるい余韻に浸りながら、男の厚い胸板を長い舌で舐めていた。

 彼女は上擦った声で告げる。

 

「我をまるで生娘の様に鳴かせるとは……コッチの方も世界最強だな。神魔霊獣、あらゆる女が魅了されるワケよ……あの堅物が雌犬に堕ちるのも頷ける」

 

 その言葉に益荒男、大和は笑った。

 

「世界最悪の女神も、ベッドの上じゃあ可愛いもんだ」

 

 漆黒の艶髪を撫でられ、カーリーはまるで子猫の様に目を細める。

 大和は聞いた。

 

「で──楽しかったか? 今回の殺戮は」

「フフフ、応ともさ。救いようのない哀れな餓鬼の物語……最高だった。アレが実の甥っ子なのだから堪らぬな。それに、我自身も強化されたぞ。帝釈天の血肉に神格武装、強力な異能力を持つ餓鬼共の魂……いやはや、大満足だ。特に帝釈天と毘沙門天の娘の血肉は最高に美味かった……!」

 

 らしい笑みを浮かべたかと思えば一変、雌の顔つきになる。

 カーリーは瞳を潤ませ、熱い溜め息を吐いた。

 

「ハァァ……貴様も罪な男よ。この逞しく凶悪なモノ、コレで何人の女を堕としてきた? 全く……我もハマってしまったわ。貴様以外の男ではもう満足できぬ」

 

 何本もの手で大和の剛直を撫でる。

 未だ鋼鉄の如き硬さを維持しているソレに、カーリーは思わず生唾を飲みこんだ。

 

「……まだ、いけるよな?」

 

 上目遣いされ、大和は妖艶に笑う。

 

「気が済むまで相手してやるよ」

「ああ……本気で惚れてしまいそうだぞ、大和♡」

 

 

 ◆◆

 

 

 戦女神の昂りを慰められる男など、そうはいない。

 以前までそう考えていたカーリーだが、認識を改めざるをえなかった。

 

 戦女神も所詮女であり、強き雄に抱かれると多幸感に満たされてしまうということを──

 

 神魔霊獣、ありとあらゆる女が『彼』に魅了される理由がわかった。

 

 野性的でありながら妖艶。世界最強を誇る逞しい肉体。そして誰にも屈しない孤高の魂。

 更に精力絶倫、百戦錬磨の床上手ともなれば……最早敵う雄など存在しない。

 

 カーリーは純粋に大和という男に惹かれていた。

 だからこそわかる…………

 

「そう、お前に魅了されている女は全面的にお前を肯定してしまう。善悪の区別すらできないほどに、お前の虜となってしまう。……フフフ、まるで麻薬だな」

「……」

「傾国の美女とは良く聞く話だが、男で……それも世界中の女を惑わす存在など、お前しかおらんよ」

 

 蛇のような長い舌で大和の剛腕を舐めるカーリー。

 余程彼の事を気に入ったのだろう、全身から愛のオーラが溢れている。

 

 大和は鼻で笑う。

 

「俺が麻薬だとして……扱い方はそれぞれだ。溺れて駄目になるのか、程々に愉しむのか……お前はどっちだ? カーリー」

「ううむ、このままでは溺れてしまうかもしれん……我も悟空や他の奴等の事を言えんなぁ」

 

 唸るカーリーに、大和は気になっている事を聞く。

 

「そもそもお前、大丈夫なのかよ。八天衆のリーダーを殺したんだろう? 帝釈天はまがりなりにもインド神話の元・頂点だ。いくらお前が現最高神の嫁だとしても、無理があるだろう」

「フフフ、安心しろ。良い後ろ楯を見つけた。インド神話の平和ボケにはいい加減ウンザリしていたからな……丁度いい」

「つー事は、録な組織じゃねぇな。何処だ? 七魔将か、それともネオナチか?」

「内緒だ♪ 近いうちにわかるだろう……まぁ、惚れた弱みというやつだ。お前が我の男になるというのであれば、教えてやらんでもない」

「ほざけ、淫乱女神が」

「ああんっ♡」

 

 尻を揉まれ、カーリーは喘ぎ声を上げる。

 大和はやれやれと肩を竦めた。

 

「そんな余裕があるって事は、中々にデカい組織だって事だな。ふん……八天衆が無くなった影響は中々にデカいぜ。アイツらはまがりなりにも世界の守護神だったんだ。これから色々な問題が出てくるだろう。気の早い奴等は、もう動きはじめてるんじゃねぇか?」

 

 すると、大和の傍らに置いてあったスマホが鳴り響く。

 内容を見た大和はクツクツと喉を鳴らした。

 

「ほぅら、噂をすればだ」

「依頼か?」

「ああ、五大犯罪シンジケートからだ。今一番忙しい奴等なんじゃねぇの? 団体からの依頼は久々だな……依頼料は期待できそうだ」

「むぅ……」

 

 カーリーはむくれっ面で大和の腕に抱きつく。

 その乙女っぽい意思表示に大和は苦笑した。

 

「そんな顔すんなよ、生娘かお前は。……ったく」

 

 呆れながらもカーリーの頬にキスを被せる。

 

「仕事が終わればまた相手してやる。……最も、お前がその気ならの話だが」

「待っておるよ、だからはよう帰ってこい。……あと3日はお前が欲しい」

「ククク、チョロい女。……でもいいぜ、他の女共よりはマシだ」

 

 大和は立ち上り、デスシティで流通している簡易魔術札を二枚掴む。便利なアイテムだ。

 一枚目は身体の洗浄。歯に至るまで清潔になる。

 二枚目は着衣。何時もの一張羅を一瞬で纏える。

 

 

 大和は財布とスマホを懐にしまい、ぼやいた。

 

「シャワーくらい浴びたかったんだが……緊急の用件らしい。とっとと終わらせてくる。あと」

 

 大和は財布……札束入れから3つの百万円札を取り出し、カーリーの足元に投げる。

 同時に名刺も投げた。

 

「暇ならデスシティの観光でもしとけ。その金額なら半日は持つだろう。容姿を変化させるのを忘れるなよ? そんでもって、その名刺は俺が贔屓にしてる観光屋の連絡先だ。俺の名前を出せば多少言うことを聞いてくれる。ウォンって名前の胡散臭い男だ。中々腐った奴だから、テメェとの相性は良い筈だぜ」

「うむ……そうだな、少しばかりこの都市を堪能するのもありかもしれん。しかし『半日』と言ったな? 言質はとったぞ」

「ククク……女神はチョロいのに我が儘なところは一緒だな」

 

 らしい笑みを浮かべ、去っていく大和。

 真紅のマントを靡かせるその後ろ姿を、カーリーは蕩けた顔で見送った。

 

 


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