villain 〜その男、極悪につき〜   作:桒田レオ

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三話「動と静」

 

 

 異質な存在。

 大和という男の存在感は埒外の剣客である少女の眼にも新鮮に映っていた。

 しかし動揺はせず……

 彼と同等、またはそれ以上の存在感を持つ者は冥界にはザラにいる。

 

 自分が計られている事を悟った大和は、灰色の三白眼をうっすらと細める。

 片手で抱いている白陽を背後に下がらせた。

 

「姉ちゃんを連れて逃げろ。なるべく遠くへ」

「あのっ、私達も……!」

「俺は大丈夫だ」

「……っ」

 

 言外に「足手まといだ」と告げられていた。

 白陽は悔しさのあまり唇を噛み締める。

 

 その会話を聞いていた少女は笑いながら言った。

 

「三人同時でも構わないのだぞ、某は」

「ほざけよ、冥界の馬鹿ども相手にして調子乗ってるみてぇだが……」

 

 大和はあからさまな嘲笑を浮かべる。

 

「所詮負け犬の群れだろう? 切磋琢磨してる暇があったらさっさと成仏しろよ、このマヌケ共」

「……死して学べる事は沢山あった。悔いはない」

「ならなんで現世に出てきた? 未練タラタラじゃねぇか」

「それはな……」

 

 少女は不気味な笑みを浮かべる。

 

「敗北を恐れて生き長らえている老害共が世界最強を名乗っている……そう聞いて、いてもたってもいられなくなったのだよ」

「生きるってのは最も重要なことだぜ?」

「一度死んでみてはいかがか? 地獄は極楽浄土だぞ」

「……アー、話が通じねぇなぁオイ」

「奇遇だな、某も思っていた。……貴殿と我々は根本的に違う」

「俺は武術家じゃねぇ、殺し屋だ」

 

 その言葉を皮切りに、両者は消える。

 同時に凄絶な打ち合いがはじまった。

 巻き起こる突風、吹き荒ぶ斬閃の嵐。

 金属同士が潰れあう破砕音は既に遠い過去のものだった。

 

 呆然と立ち尽くしている白陽。

 彼女の傍に駆け寄った黒陽は無理矢理その手を引く。

 

「行くわよ白陽! あたし達じゃどうにもならない!」

「……ええ、その通りです。今すぐ距離をとって裏京都全体に結界を張りましょう。姉さん、黄金祭壇の本部に連絡をとってくれませんか? その間に私は地脈を操作し、結界の準備を整えます」

 

 白陽の冷静な反応に黒陽は真顔になる。

 白陽は次に悔しげに呻いた。

 

「戦う者としての階梯が違う……私達は所詮魔導師なのだと、痛感しました」

「……」

「姉さん、今私達にできる事をしましょう」

「うん……わかった!」

 

 辻斬りの意識は今、完全に大和に向いている。

 大和もまた、彼女の猛攻を完璧にいなしきっている。

 

 白陽は一度振り返ると、奥歯をギリリと噛み締めた。

 

(本当に次元が違う……武術の深奥の一端である「無我の境地」を両者共、完璧に極めている。尚且つ脱力による緩急差でフェイントを織り混ぜている……)

 

 真の達人同士の凌ぎ合いを見て、白陽は恐怖と戦慄を覚えていた。

 

 何時か自分もその境地に達したい……

 その想いを今は胸にしまい、駆ける。

 自分が今できる最善を尽くす。

 

 彼女は、最愛の人の勝利を信じていた。

 

 

 

 ◆◆

 

 

 無我の境地……唯我独尊流でいう『無念無想』は、意識を介さず迎撃体勢をとる、謂わば「反射神経と武の統合」だ。

 

 生物は不意打ちを受けると目をつむる、もしくは体を硬直させる。

 それらは戦闘を生業とする者たちにとって唾棄すべき反応であり、まずはその起因である恐怖を飼い慣らし、次に反撃するための技術を徐々に体に染み込ませていく。

 

 そうして一流と呼べる領域へと至った時……一挙一動から無駄が消える。

 最善、最速、最高率。

 意識という無駄を省いた事、何より恐怖を克服した事により、速度の概念を無視した思考力、行動力が常に備わる様になる。

 

 これこそ無我の境地。

 数多の武術家が目指している奥義、その一端である。

 しかし、世界最強クラスになるとここから更に派生していく。

 

 無我の境地に至っているのは当然であり、最善、最速、最高率の行動などわかりきっている。

 だから、敢えて『無駄』を極めていく。

 山頂へと辿り着いた後、崖から転がり落ちていくイメージだ。

 

 無駄……急激な脱力から成る緩急差、そこから昇華していく繊細なフェイント。

 さながら将棋の如く、理想の結果へと至る布石として「無駄」を積んでいく。

 

 武術界隈では「無我の境地崩し」と呼ばれている。

 世界最強クラスの強者たちはこの駆け引きを意識、無意識問わず行っていた。

 武術家ともなればその内容は一層濃いものになる。

 

「……一手、指すか」

 

 辻斬りの美少女は囁く。

 綺麗な青色の闘気が迸った瞬間、大和の眼前に8つの斬閃が現れ螺旋を描いた。

 

 絶技・八刀一閃(やとういっせん)

 

 一度の抜刀で八つの斬撃を放つシンプルな技だが、問題は八つの斬撃が放たれるタイミング。

 ほぼ同時ではなく、全くの同時。

 技が発動した瞬間、その場に8つの斬閃が現れる。

 

 過程を捻じ曲げ、結果だけを残しているのだ。

 神域の武すらも超越した、理外の魔剣である。

 

 彼女が繰り出す斬撃は基本的に絶対切断の概念を帯びており、一太刀でも魔導師が編み上げた超高密度多重障壁を切断する。

 神々の加護や不老不死の概念すら意味をなさない。

 それが八本、同時に放たれる。

 

 となると回避するしかないのだが、それも罠……

 

 この技、次元屈折現象を起こす際に距離という概念をあらかじめ抉っている。

 更に螺旋を描く事で強力な吸引効果を生み出しており、対象を攻撃範囲内へと無理矢理引き寄せる。

 

 防御も回避も不可能……

 放てば必ず対象を殺す、まさしく必殺の魔剣だった。

 

「面倒くせぇなぁオイ」

 

 そう言って、大和は躊躇いなく渦中へ飛び込む。

 そして大太刀を螺旋状に振り回した。

 八つの斬閃を強引に叩き伏せてみせる。

 

 ゴリ押し……古今東西あらゆる超越者の中でも最強の身体能力を誇っている彼は、こういった無茶苦茶な攻略方法もできる。

 

 同時に八つの斬撃が来たのなら、同時に八回叩き落とせばいい……と、言葉にするのは簡単だが、実現するのは至難を極める筈。

 

 大和は片手で脇差しを抜くと、渾身の刺突を放った。

 地面が割れるが、それは途中で踏みとどまったから。

 辻斬りの美少女の前で急停止した大和は、まるで野獣の様な唸り声を上げる。

 

 彼には見えていた。

 絶対に入ってはいけない、彼女の絶対領域が……

 

 目の前で犬歯を剥き出している男に対し、辻斬りの美少女は苦笑を向ける。

 

「凄まじいな……まるで野獣だ」

「調子乗ってんじゃねぇぞ、糞餓鬼ィ……」

 

 至近距離で、両者は睨み合った。

 

 

 ◆◆

 

 

(なんという『野生』……超越者の中でも最高クラスの身体能力と戦闘センスだ。これで更に武芸百般というのだから、堪らぬなぁ)

 

 薙ぎ払われた大太刀を躱しつつ、辻斬りの美少女は思う。

 

(間違いなく感覚派だ。それも、極めて特異なタイプの……)

 

 ありとあらゆる戦いに於いて、各々の性質というのは極端に表れる。

 それらを大きく分けると、二種類挙げられた。

 

 感覚派と理論派。

 武術界隈では「動」と「静」と呼称されている。

 

 感覚派は特定の型に嵌まらず、本能と直感で動く。

 常に変化を止めず、その場に応じて最適な行動を『勘』で導き出す。

 理屈が通じない、所謂「天才肌」タイプだ。

 相手にすると何を仕出かすかわからず、かと言って基礎能力や戦闘センスが高い傾向にあるためシンプルな戦闘には滅法強い。

 また調子が良い場合の勢いが凄まじく、時には格上の存在をも食らってしまう。

 

 しかし理論派に比べると細かい技術を軽視する傾向がある。

 所々で粗が目立ち、またその時の調子に左右されやすい。

 絶好調の時は凄まじいものの、絶不調の時は格下にさえ遅れを取る事がある。

 

 この様に長所と短所がハッキリとしているのが「感覚派」だ。

 

 次に理論派。

 戦闘技術と空間把握能力、場の掌握能力に長けている。

 揺るがぬ精神性が最たる武器であり、常に最大限の実力を発揮できる。

 感覚派と違い隙を殆どみせず、苦境にやたら強い。

 何より自分の勝ちパターン……必殺の型を一つは必ず持っている。

 

 基礎能力と爆発力は感覚派に劣るものの、安定性と型に嵌まった時の勝率はこちらが優れている。

 

 どちらにも優劣は付けられない。

 最終的には根本的な相性と経験値、格の違いが勝敗を決める。

 

 が、何よりも重要な点は相手がどのタイプなのか、早々に見極める事だ。

 性質というのは自分で選択できず、生まれ持った才能や性格で自ずと定まる。

 

 ……先に気取るか、気取られる前に倒すか。

 

 特に理論派の武術家は観察眼が優れており、対峙した際は早期決着が理想とされている。

 

 辻斬りの美少女はガッチガチの理論派だった。

 故にある結論をつける。

 

(慢心していない感覚派か……感覚派特有の弱点を悉く潰している。余念のない鍛練と確固たる信念がなければこうはならないだろう……厄介だな。しかし性質は嘘をつかぬ。この男、武術を『暴力の効率的な運用方法』程度にしか思っておらん……これならば)

 

 勝機は幾らでもある。

 辻斬りの美少女は薄ら笑みを浮かべた。

 

 しかし次の瞬間硬直してしまう。

 大和の表情を見てしまったからだ。

 先程までの憤怒の相が嘘の様に消えていた。

 

 彼は唐突に囁く。

 

「剣術のベースは鹿島神流・裏の型、『迦具土(かぐつち)』。だが他の流派を取り入れて独自の抜刀術にしているな。タイ捨流に柳生新陰流……あとは中条流か。武術家でありながら魔力で肉体強化を行っているところも見過ごせねぇ。五感も鋭敏、何より場の掌握能力に長けている。周囲に薄い魔力の膜を張って、その中で絶対的な力を発揮するタイプだ。魔力の属性は風と雷。風で陣地作成、雷で速度と五感強化。ベースになっている流派の特性上、方術や退魔剣にも心得がある……と」

「……ッッ」

 

 鳥肌が立った。

 全身に耐え難い悪寒が突き抜ける。

 

 何百年もの間眠っていた本能が、呼び覚まされた気がした。

 

「身長153センチ、体重40キロ。リーチは刀剣含めて213センチ。性別は女、利き手は右。生年は……おそらく永禄。師匠は……いねぇな。強いて言えば、技を盗み見た相手か?」

「…………」

「剣聖、塚原卜伝(つかはら・ぼくでん)の直接的な死因を作った童姿の剣鬼。……名前は咲夜(さくや)だったか? ククク、容姿にあった可愛い名前じゃねぇの」

「……貴殿は、一体何を見ている?」

 

 辻斬り美少女……咲夜の問いに、大和は嗤いながら答えた。

 

「そうさな……お前と同じ様でいて、全く別のものを見てるぜ」

 

 

 ◆◆

 

 

(恐怖を覚えたのは何時以来か……)

 

 咲夜は冷静さを取り戻した。

 理論派が感情を乱されるなど論外である。

 

(裏で先程の魔導師たちが情報伝達をしている? これは某を揺さぶるための一手? だとすれば理に叶っているが……)

 

 都合が良すぎる。

 そう思い、咲夜は「もしも」の選択肢を切り捨てた。

 現実を直視する。

 

(この男がそれだけの観察眼を誇る、そう考えたほうがいいだろう。何せ数億年間無敗を貫き、数多の神魔霊獣を殺してきた化物だ。理論派の武術家に比肩する観察眼を持っていてもおかしくない)

 

「戦闘中にうだうだ考えるのはテメェら生真面目系の悪い癖だ。なのに隙を見せないところが、まぁ忌々しい」

「…………」

「来ないならこっちから行くぜ」

 

 大和は大太刀と脇差しを携え突撃する。

 咲夜は迎撃態勢をとった。

 

 静謐の相・山紫水明(さんしすいめい)

 

 理論派の極みに達している彼女は「静」の武術家としての在り方を決して忘れない。

 更に……

 

 魔導外装・纏・疾風迅雷(しっぷうじんらい)

 陣地形成・覆・花鳥風月(かちょうふうげつ)

 

 疾風迅雷は身体能力と五感の超強化。

 特にスピードに振っており、世界最強クラスでも反応できない場合がある。

 更に相手の電子信号を読み取れるようになるため、先見の相に磨きがかかる。

 

 花鳥風月は周囲一帯を自身の魔力で覆い、自分に有利な戦況を造り出す展開型魔導。

 魔導剣士である彼女は、こうした補助技能も修得している。

 

「踊ろうぜ、お嬢ちゃん。楽しい楽しい剣の舞だ!」

「ッ」

 

 跳んだ。

 予測できていても一瞬疑ってしまう。

 それほど、剣術の理から逸脱した動きだった。

 

 大和は回転しながら大太刀を薙ぐ。

 咲夜は迷わず回避を選択した。

 

 カウンターの機会は幾らでもあった。

 しかし大和という男をまだ測りきれていない……

 

 大和は片手で着地すると、足腰を捻り蹴りを放つ。

 その爪先……足指にはなんと、脇差しが握られていた。

 

「そぉら!」

 

 彼は持っていた大太刀を放ると、両手を地面に付き回転する。

 大太刀を膝裏に抱えて、まるでブレイクダンスでも踊るかの様に暴れまわる。

 

 咲夜は思わず吹き出した。

 

「このっ、巫山戯おって! 真面目に戦わぬか!」

「本気も本気だっての!」

 

 大和は下半身だけで刀剣を扱っている。

 飛び跳ねて大太刀を地面に突き立てて、その上に器用に立った。

 かと思えば今度はでんぐり返し……腕力だけで身体を持ち上げ足先で刺突を放つ。

 

 普通に避けられたので、大和は文句を言った。

 

「避けんじゃねぇ!」

「避けるわ普通に!」

 

 ツッコミがてらに抜刀術を放つ咲夜。

 チンと、鍔鳴りの音が鳴れば既に斬撃は放たれている。

 大和の目でも正確には捉えきれない抜刀速度だ。

 

 大和は素早く立ち上がると、片膝を上げて剣戟を受け止める。

 その膝裏には脇差しが握られていた。

 

 咲夜は唸り声を上げる。

 

「曲芸師としては一流かもしれんが、剣士としては二流だぞ……!」

「いいんだよ、俺は剣士じゃねぇ。俺なりの戦い方がある」

 

 大和は膝裏から脇差しを落とすと、足の爪先に移して連続蹴りを放つ。

 咲夜は全て鞘で受け流したが、大和がまたしても奇天烈な行動に出た。

 

 なんと、大太刀を口に咥えたのだ。

 長大な乱れ刃が咲夜を襲う。

 斬撃の威力、精度、共に並の剣士より遥かに高い。

 常軌を逸した咬筋力があるからこそできる芸当だ。

 

 まるで肉食獣の如く、牙に見立てた大太刀を振り回してくる大和。

 それに対し、咲夜は激情のあまり可憐な美顔を歪めた。

 

 豹変して、桃色の唇を開く。

 

「調子に乗ってんじゃねぇぞ、糞ジジイぃ……!!」

 

 大和は驚く事なく大太刀を手元に戻して、大爆笑した。

 

「ハーッハッハッハ! ようやく化けの皮が剥がれたな! このチンチクリン!」

「うるせぇ!! こちとら淑女気取ってんのにおちょくりやがって……もう我慢の限界だ!! 叩っ斬ってやる!!」

「やれるもんならやってみろってんだ!!」

 

 交わる剣閃。

 大和は二刀流で応戦するも、すぐに下がる。

 舞い散る桜の花びらを上手く利用しながら距離をとり、最終的には桜の木の裏に隠れた。

 

 咲夜は怒声を上げる。

 

「真面目に戦え、ボケ!!」

「うるせぇ! こちとら剣士じゃなくて武術家なんだよ! 天下五剣のテメェに剣術で勝てるわけねぇだろうが!」

「だったら槍でも弓でも使えよ!! そのデカイ図体は見せかけか!? この筋肉達磨!!」

「殺し合いにルールなんてありませーん! 俺の好きにやらせてもらいまーす!」

「こんにゃろう……!」

 

 こめかみをひくつかせる咲夜。

 大和はひょっこり顔を出して、更におちょくった。

 

「ていうかお前、さっき淑女を気取ってるって言ったよな? アホ抜かせ、お前処女だろ」

「しょ!? しょ、処女ちゃうわ!!」

「ワッハッハ! その反応は処女確定だね! プークスクス! 容姿と精神年齢は比例してますなぁ!」

 

 

「ブッタ斬る……!!!!」

 

 

 怒髪天になりながらも、明鏡止水の境地に入ったまま……。

 咲夜は大きく後退すると、全身の力を抜く。

 

 青色の柄巻に手が触れた時には、既に大和は駆け出していた。

 

 今放たれようとしているのは、抜刀術の極致。

 絶対切断の概念……その答えの一つ。

 

 

 鹿島神流・我流奥義・一ノ太刀《零楽白夜(れいらくびゃくや)

 

 

 この技は発動した時点で既に対象を斬っている。

 だから『斬った』という事実を抜刀する事で更に強力な概念へと昇華させる。

 

『斬るため』ではなく、『斬ったという事実を拡張するため』に刀を抜く。

 

 鹿島神流が奥義、一ノ太刀。

 それを咲夜が独自に解釈し、完成させた唯一無二の魔剣。

 抜刀術を極めた彼女にしか扱えない、究極の絶技である。

 

「その技はヤベェな、出すんじゃねぇ」

 

 大和は真正面から止めた。

 咲夜の懐へと入り、柄尻を押さえこむ。

 そうする事で抜刀できなくしているのだ。

 

 睨み上げてくる咲夜に対して、大和は屈託ない笑みを向ける。

 

「恐らく発動キーは『抜刀』……だから刀を抜かせなければいい、違うか?」

「っ」

「おー怖い怖い、そう睨むなって」

 

 大和は魔性の色気を醸しながら咲夜の唇を撫でる。

 

「可愛い顔立ちしてんだから、もちっと楽しそうに笑えや。さっきみたいによ」

「うるせぇ!! ナチュラルに口説くんじゃねぇよ変態野郎がッ!!」

 

 咲夜は後退する。

 そして真っ赤になった顔を自覚して苛立ちげに髪をかきむしった。

 すぐに大きく深呼吸をすると…………真顔で大和に問う。

 

「二つ、問いがある。答えろ」

「いいぜ」

「まずテメェ、「動」と「静」の両属性を極めてやがるな?」

「当たりだ」

「聞いた事がねぇぞ、両属性を極めた奴なんて」

「意外と簡単だぜ? 内なる野生を御するだけの精神力があればいい。あとは……才能と努力か?」

「そんな簡単にできるかよ、馬鹿が」

 

 動と静……感覚派と理論派の両属性を極めた者など冥界にも存在しない。

 おそらく古今東西、大和ただ一人だろう。

 

 極めて優れた判断力と戦場掌握能力。

 型に嵌まらない、しかし確かな理がある戦闘技術。

 その精神状態は決して揺るがず、きわめつけは異常な精度の観察眼。

 

 ここまで来れば、もう理論派である。

 しかし彼は最強クラスの感覚派でもあった。

 

 咲夜は最後の問いを投げかける。

 

「二つ目……テメェ、俺が『超絶スーパープリティーギャラクティカデンジャラスウルトラ美少女』だからって……手加減してねぇよな?」

「ぶふゥっ!!」

「笑ってんじゃねぇよ!! 真面目に答えろ!! てかマジで笑ってんじゃねぇだろうな!!? 」

 

 マジギレしている咲夜に、大和は何とか答える。

 

「おうともさ。俺は女子供だからって……っ、手加減しねぇ……ッ、邪魔する奴は誰だろうが、殺……ッ、ダーッヒャヒャヒャ!!!! あーダメだ!! 耐えきれねぇ!!」

「~~~~ッッッッ!!!!」

「ツボッた!! こんなん格好付けらんねぇよ!! 超絶スーパープリティーギャラクティカデンジャラスウルトラ美少女って……ギャーッハッハッハ!!!! ヒーッッ!! 笑い死ぬ!! ダーッハッハッハ!!!!」

 

 

「ならさっさと死ねやぁ!!!!」

 

 

 耳まで真っ赤にした咲夜が渾身の抜刀術を放つ。

 大和は大爆笑しながらもなんとか避けてみせた。

 

「ちょタンマッ!! 反則だって!! ……クーックックック! あーッ……フーッ、……ブホォッ!! ダメだ!! マジでツボった!! ハハハハハハハッッ!!!!」

「この筋肉達磨がァ!! 絶対ぇ殺す! 挽き肉にしてやるウウウウウウゥゥゥッッ!!!!!!」

「ダーッハッハッハハッハッハ!!!!」

 

 

 

 


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